古谷田奈月のおすすめ本4選!『リリース』で三島賞受賞、芥川賞の候補にも

更新:2018.7.12

2018年に『風下の朱』が芥川賞にノミネートされたことで、一躍有名になった古谷田奈月。その独特の感性と世界観から、2013年にデビューして以降着実にファンを増やしています。この記事では『風下の朱』以外のおすすめ作品をご紹介していきます。

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古谷田奈月(こやたなつき)とは

 

1981年生まれ、千葉県出身の小説家です。二松学舎大学の文学部を卒業しました。

2013年に『今年の贈り物』で「日本ファンタジーノベル大賞」を受賞しデビュー。それ以来、発表する作品すべてで異なる世界観、舞台設定を用い、意欲的に活動を続けています。

2017年に『リリース』が「織田作之助賞」を受賞し、翌2018年には「早稲田文学」に掲載された中編『無限の玄』で「三島由紀夫賞」を受賞、さらに同じく「早稲田文学」に掲載された『風下の朱』が芥川龍之介賞の候補となり話題を呼んでいます。

古谷田奈月のデビュー作『星の民のクリスマス』

 

「日本ファンタジーノベル大賞」を受賞した『今年の贈り物』を改題した作品。小谷田奈月のデビュー作です。

小説家の父とその娘は、2人で暮らしています。娘が4歳の時のクリスマス、彼女は「自分のための物語を書いてほしい」とサンタクロースにお願いしました。それを受けて父は、クリスマスをテーマにサンタクロースが登場する物語を贈ります。

それから6年。10歳になった娘は、辛いことが重なって耐えきれなくなり、家出を決行。ずっと大切にしてきた物語の世界の中へと行くのです。

著者
古谷田 奈月
出版日
2013-11-22

 

娘を探しに父も物語の世界の中へ飛び込んでいきますが、自分の書いた物語とはどこか違っています。そこには、サンタクロースが見当たらないだけでなく、サンタクロースという概念そのものが消えていました。

その謎を探るなかで、物語を読むということはどういうことなのか、ファンタジーとはどういうものなのかを模索していきます。「異世界モノ」というと魔法や異能力などで解決しがちですが、本作では論理的に見せてくれ、読者に対してもファンタジーのもつ力の強さを感じさせてくれるのです。

父が書いてくれた物語の世界こそが自分が本来いる場所だと信じて疑わない娘と、そんな彼女を現実世界に連れ戻したい父のハートフルな物語です。

障害なのか個性なのか、音を愛する少年の物語『ジュンのための6つの小曲』

 

「アホジュン」と呼ばれ、周りから見下されている中学生のジュン。友達はひとりもいません。さまざまなモノやコトから「音」を感じてしまう感性の持ち主です。

物事に「音」をつけどこでも歌を歌ってしまい、興味があることに没頭すると他のことが手につかなくなり、他者とのコミュニケーションはうまくとれません。

そんな彼が、同級生で作曲家を目指しているトクと出会い、繋がっていく青春小説です。

著者
古谷田 奈月
出版日
2017-09-28

ジュンはなんにでも音を感じてしまう独特の感性をもっているがゆえに、ずっと孤独でした。しかし作曲ををして楽譜を書き、音にして表せるトクと出会うことで自分は「楽器」なのだと気づき、他者とコミュニケーションをとることができるようになっていくのです。

作中ではっきりと明記はされていませんが、ジュンはいわゆるいわゆる広汎性発達障害の類いであることが容易に読みとれます。その感性は理解されづらく、けっしてすべてが丸く収まる友情の物語ではありません。これは障害なのか、個性なのか、読者も考えさせられます。
 

ジュンが音に込めた想いは、周囲と共鳴できるのか。冒頭の一文から最後まで、優しくも力強い文章で惹きこまれる作品です。
 

完全男女同権社会を描いた古谷田奈月の代表作『リリース』

 

舞台となっているのは、ジェンダーフリーが確立した近未来の全体主義国家。首相は女性です。同性婚や性適合手術は当たり前で、精子バンクも国営化。性の呪縛にとらわれず誰でも自由に子どもをもつことができます。

そんななか、いまや少数派になった異性愛者がテロを企てたところから、物語は大きく動いていきます。

「織田作之助賞」を受賞したほか、「三島由紀夫賞」にもノミネートされた作品です。

著者
古谷田 奈月
出版日
2016-10-18

 

完全な男女同権を実現するために、生殖管理が国家事業となったジェンダーフリーの世界。男性は精子バンクに精子を提供し、出産も代理母がおこないます。生殖行為と性行為は別物となり、「出産」から解放されたことで首都圏では同性愛がマジョリティとなっています。

そんななかで、トランスジェンダーのビイや、異性愛者であることを隠して生きているエンダとボナなど登場人物の思想が対立し、ジェンダーフリーが行き過ぎたがゆえにかえって多様化を失くしてしまった社会が鋭い視点で描かれているのです。

男らしさや女らしさという考え方そのものが悪とされ、平等をつきつめていくからこそ、そこからはじき出されてしまう人が出てくる……社会の在り方やダイバーシティを問いかける一冊です。

古谷田奈月が描く少女の成長物語『望むのは』

 

小春は15歳の少女。自分は何者でもないと感じ、歳をとるのが怖いと思っています。

そんな彼女の周りの人間関係は複雑です。隣に引越してきた歩のお母さんはゴリラだし、高校の美術教師はハクビシン。

変わってるよねえと言いながら、「ちょっと変」を日常のこととして受け入れていく少女の青春小説になっています。

著者
古谷田 奈月
出版日
2017-08-22

 

小春は「色」に対して独特の感性をもっていて、色彩あふれる描写と、高校生の少女のピュアな感覚にまぶしくなる作品です。

印象深いのは、転校してきた歩が「僕はバレエダンサーです」と自己紹介をするシーン。小春は歩の母親がゴリラであることから、いじめられてしまうのではないかと心配していましたが、彼の最大の関心ごとはバレエダンサーであることを周りが受け入れてくれるかどうか。母親がゴリラであることはたいしたことではなかったのです。

自分が他者に感じる「その人らしさ」と当人が感じている「自分らしさ」が違うように、自分が思う「自分らしさ」と他者が自分に抱いている「その人らしさ」が違うのは当たり前。ちょっと変わった世界のなかで、認識のズレを知ることで成長していく少女の物語です。