5分でわかる『舞姫』!豊太郎のクズっぷりがすごすぎる!?

更新:2018.7.15 作成:2018.7.15

明治時代に軍医として従事しながら、自身の小説執筆はもちろん、医学・文学の評論やドイツ留学の経験を生かして小説・戯曲などの翻訳まで手がけ、知識人として活躍した森鴎外。そんな彼の代表作といえる、本作のあらすじを紹介! 原文が難しくて読めないという方も、ぜひどうぞ。

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『舞姫』の簡単なあらすじを紹介!

本作は1890年に、森鴎外によって執筆された小説です。ロマンチックな内容となっており、彼の初期の代表作となっています。明治時代の文体そのままですので、現代の我々にとっては少々読みにくいかもしれません。

本作の一説は、教科書にも採用されています。中学や高校の教科書で初めてこの作品に出会った人も多いのではないでしょうか。

また、1989年には映画化もされています。主演はなんと郷ひろみさんで、ドイツと合作で制作。DVDで見てみるのも理解が深まるかもしれませんね。あらためて、物語の全体のあらすじを追っていきましょう。 

著者
森 鴎外
出版日

 

物語の主人公・豊太郎は小さい頃から学問に励み、大学を19歳で卒業。医学を学ぶため、政府から選ばれてドイツへ留学します。政府という権威から認められた彼は、国のため、親のために一生懸命医学を学びますが、やがてヨーロッパの自由な空気に感化されていくのです。 

目にするもの、体験するもの全てが新しく、すばらしい経験をしていくうちに、自分自身が政府や役所の思い通りになることに疑問を感じるようになります。そんな疑問を抱いているときに出会ったのが、美しくも不幸な踊り子・エリスでした。 

貧しくて父の葬儀も出せない彼女を不憫に思った彼は、彼女を少しばかり援助します。それをきっかけに2人の仲は接近していくのでした。この踊り子・エリスこそが「舞姫」なのです。 

彼女と恋仲になった彼でしたが、当時の日本は外国人と恋愛・結婚するなど考えられない時代。国のために留学した彼が、現地の女と関係を持っている。優秀な豊太郎を妬んだ同僚にそう告げ口され、彼は公務員をクビになってしまいます。 

ここで彼はその出来事を「我が一身の大事」と表現します。そのとおり、彼は地位も名誉も無くし、また公費での留学であったために、生活費などの金銭面でも多いに困窮してしまうのです。お金もないまま放り出された彼を助けたのは、やはりエリスでした。 

ドイツ留学の身分を剥奪され生活に困ってしまい、彼女の家に身を置いていた彼でしたが、友人の相沢謙吉のおかげで、なんとか仕事を得ることに。その仕事を紹介してくれる天方という伯爵に、エリスをあきらめて学問に集中し出世コースに戻れ、と説得されます。 

1度はわかったと納得した豊太郎ですが、エリスには言い出せずに月日が経ち、やがて彼女は妊娠。彼は大変苦悩します。学問、そして国を選ぶのか。それともヨーロッパの自由な空気と、エリスを選ぶのか……。これが、本作のあらすじです。 

『舞姫』というタイトルの意味は、先ほども行ったように踊り子・エリスです。この舞姫に翻弄され、豊太郎の選んだ道は、いったいどちらだったのでしょうか。 

 

クズすぎる!?主人公・豊太郎とは?

 

彼はよく、本作を読んだ人々に「クズすぎ!」などと揶揄されますが、いったいどんな人物だったのでしょうか。経歴を見ていきましょう。

彼は父を早くに亡くし、母の想いを一身に受けて育った一人っ子でした。母の教育方針のおかげで秀才ともてはやされ、大学の法学部を19歳にして主席で卒業します。某省に入省し、官長にも気に入られ、国のためにベルリン留学を命じられるのです。 

そのベルリンで、当時の日本にはないヨーロッパの自由な空気に触れ、しだいに感化されていきます。しかし、自分は日本の公務員。今のまま地位と名誉を守り、国のために働くのが、自分にとっても家にとってもよいのではないか。そう考える、まじめな性格でした。 

自分というものを押し殺す。それが普通だった時代背景から考えると、ヨーロッパに行かなければ、こういった「近代的自我の目覚め」はなかったかもしれませんね。 

そのなかでエリスに出会い、失脚し、また復帰のきっかけを与えられたことで再び、「日本の考え方」と「ヨーロッパの考え方」のどちらを優先したらいいか迷ってしまいます。さらに、彼女の妊娠が発覚。近年の考え方からすると、体裁を気にして彼女を守ると言えない彼を「クズだ」と思うのは当然かもしれません。 

 

登場人物にはモデルがいた!?

 

エリスにはモデルがいたといわれています。それは森鴎外自身がベルリンに留学中恋に落ちた、エリーゼという女性です。本作は2人の話を、ほぼそのままなぞった実体験であるという説が濃厚なのです。

2人は物語と同じように恋に落ち、国際結婚しようと試みます。一緒に日本へ帰るために、別々の船でやっとの思いで帰国をするのです。しかし、やっとの思いで来日した2人は、鴎外の母に反対をされてしまいます。母以外の人々にも反対された彼は別れを決意。彼女を祖国へ帰してしまうのでした。 

日本へ連れ帰るという流れは異なりますが、ベルリンへの留学、現地の女性との恋愛、国際結婚を反対される……こういったことは、やはり自分とエリーゼの恋をなぞったものであるといえるでしょう。祖国へ帰したものの、彼はその後も彼女と手紙を交わしたといわれています。

またエリーゼのミドルネームである「マリー」を、自身の子どもに名づけました。当時としては珍しい名前だっただけに、何らかの思いがあったと想像せずにはいられません。 

一方、豊太郎の人物設定にもモデルがいたといわれています。さすがに自分自身をそのまま描くことは抵抗があったのでしょうか。それは秩父出身の、武島務という軍医だといわれています。彼と鴎外は同じベルリンへの留学生であり、現地で交友を深めたようです。そんな彼は、現地で27歳という短い生涯を終えています。 

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『舞姫』の時代背景とは?

 

さて、鴎外がこの作品を描いた当時は、どのような時代だったのでしょうか。

明治時代初期。当時は徳川幕府が終わり、鎖国も解かれ、欧米諸国の文化がどんどん入ってくる時代でした。富国強兵といったスローガンが流布され、欧米諸国に肩を並べようと、日本が必死になっていた時代です。お国のために、豊かな日本を作る!といった考えが一般的だったのです。 

また、江戸から続く「家系」も重要視されていました。つまり、当時は自覚がなかったものの、「自分の自由」などとは無縁で、「国や家のために」という生き方を強いられた時代だったのです。もちろん、豊太郎も鴎外も、その風潮に染まっていた1人だったのでしょう。 

しかし、いざ海外へ出てみれば、すでに個人主義が確立。そんな彼らの文化に、だんだんと感化されていきます。日本のように自分を監視するような目もなく、自由な空気のなかで過ごすことは新鮮だったことでしょう。そうして、「近代的自我」に目覚めていくのです。

日本ではもちろん「公(おおやけ)」の自分であることが当たり前とされていたので、このような世界に身をおいた豊太郎は、どちらの道をとるべきか、さぞ苦悩したのでしょう。 

またエリスとの交際を告げ口された際には、同時期に2通の手紙を受け取ります。1通は、免職になったことを知った母からの怒りの手紙。そしてもう1通は、その母の死を伝える親族からの手紙です。

免職になり、家に恥をかかせた。その手紙は、かなり厳しい内容であったようです。さらに、母はその怒りから、情けない息子を改心させるために自殺したのではないかという説もあります。そんなようなことが想像できるような、とても厳しい時代だったといえるのです。 

 

なぜ書いたのか?作者・森鴎外の真意

 

彼はなぜ、このように自身の恋愛話を暴露するような話を、小説として発表したのでしょうか?

それはひとえに、エリーゼをずっと愛していたからではないかといわれています。家族の反対を受け、また日本という国の風潮、時代に負け、彼女を祖国に帰したものの、やはり彼女への愛は消えなかったのです。 

しかし、その噂を絶やそうとした家族ら周りの人々は、赤松登志子と縁談を勧めて結婚させます。この結婚に反抗して書いたのが、本作だといわれています。 

ドイツのように自由に生きようとしたのに、結局家や国家から逃れられなかった彼の反抗。彼はこの作品を発表し、家族の前で朗読までしました。世間からは非難が続出し、日本の恥だとまで言われたそうです。 

しかし、彼自身はその非難1つも反論することなく、沈黙を守ったままでした。作品の中で、エリスを捨てさせた相沢謙吉への恨みが消えることはなかったと、豊太郎が語っていますが、作者自身の気持ちも、そのようなものだったかもしれません。 

 

『舞姫』の内容、結末をネタバレ解説!

 

さて、本作の結末はどのようなものだったでしょうか。

 

著者
森 鴎外
出版日

 

エリスが妊娠していることを知り、豊太郎は大変苦悩します。彼女と別れ、自身の仕事と名誉を取るべきか、自由と愛をとるべきか。仕事を紹介してくれた相沢には、とっくに彼女と別れたと告げていました。しかし、別れられない自分……。

親友からの説得、彼女への思い、仕事、国、家……さまざまな要因が彼を取り巻き、彼の心情はどんどん変化していきます。彼は悩みすぎ、とうとう精神を喪失。そして、彼女の目の前で倒れてしまうのです。そのまま数週間も意識が戻らないままでした。 

意識が戻った彼の前には、なんと発狂したエリスがいました。彼が倒れている間、相沢が彼のもとへと訪れました。とっくにエリスと別れていたと思っていたのですが、彼はまだ彼女と、彼女の母親と一緒に住んだまま。さらに彼女のお腹には、彼との赤ん坊が宿っていると聞きました。 

相沢は彼女に、彼は別れると言っている、と伝えます。職を得て、日本へ帰ることが決まっているのだと。自分より仕事、そして国家を選んだ豊太郎の裏切りを知り、彼女は発狂してしまっていたのです。 

結局、豊太郎は自分の弱さを自覚しつつも……。 詳細な結末は作品でご覧ください。時代と個人の拮抗、豊太郎の葛藤に何とも言えない気持ちになるラストです。

これが鴎外の物語であったのではないか、というのは先ほども解説しました。

豊太郎が、エリスと別れる原因となった相沢への恨みを吐いて終わったように、鴎外も自分とエリーゼを別れさせた周囲に対しての恨みが消えなかったのではないでしょうか。

この物語は近代自我への目覚め、それによる苦悩と、作者自身の罪滅ぼしだったのではないかといわれています。

 

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いかがだったでしょうか?クズだといわれる豊太郎も、時代背景を考えれば、もしかしたら仕方のない決断だったのかもしれませんね。鴎外自身の生涯と照らし合わせて読んでみると、またいっそう物語が深く感じられるかもしれません。ぜひ原作を読んでみてください!