『ビブリア』をはじめとして内気なヒロインが物語を彩る作品が多い三上延。読みやすく優しい展開が読者の胸にじんわりと沁みわたります。 そんな、三上延の作品のおすすめを5作ご紹介します。
三上延(みかみ えん)は1971年に神奈川県横浜市で生まれ、藤沢市で育ちました。武蔵大学人文学部社会学科を卒業。在学中は文芸部に所属していました。
中古レコード店、古書店勤務を経て、電撃小説大賞の3次選考を通過した『ダーク・バイオレッツ』で2002年にデビューしました。三上延の大人気作品となった『ビブリア古書堂の事件手帖』まではホラー風の作品が多くありました。
ちなみにデビュー当時勤務していた古書店は、3、4ヶ月に1冊出すという作家スケジュールと店舗改装の時期が重なり疲弊してしまったこともあり、デビュー後半年ほどで退職したそうです。
2012年に本屋大賞にノミネートされたほどの三上延の代表作です。2014年までに6巻刊行されており、まだ続刊する予定だそうです。
この作品は、北鎌倉駅のホーム隣の路地の向かいで営業するビブリア古書堂を舞台に、人見知りの美人店主・篠川栞子とアルバイト店員・五浦大輔が古書にまつわる謎を解いていく連作シリーズです。1巻~3巻は時系列純の1話完結形式の短編ですが、4巻は3巻までを受けての長編となっています。
栞子が実に魅力的で、登場する本も「読んでみたい!」と思えるように巧みな表現がされています。語り手の大輔が栞子に惹かれて、彼女のためになりたい、彼女とデートしたいと恋する男として当然の想いをいだくのに、恋愛オンチの栞子にうまく届かないというもどかしさもこのシリーズの魅力となっています。
栞子の推理とともに、互いにとても大切で必要なんだけど、互いの中でなにかがストッパーをかけているというバランスが、いつ良い意味で崩れるのかがとても気になるのです。
- 著者
- 三上 延
- 出版日
- 2011-03-25
越島ぱぐによるカバーイラストの横向きのヒロインの姿も話題になり、この作品のヒット以降はカバーに描かれるキャラクターたちが正面を向いていないというパターンが増えたのだそうです。メディアワークス文庫初のミリオンセラーであり、シリーズ累計600万部を越えた三上延の人気作です。
このシリーズに登場した本たちは実在のものばかりで、物語同様に話題になり、テレビドラマ化の影響もあって売り上げを伸ばしたそうです。ネット書店などでは売り切れ状態にもなったのだとか。絶版になっていた作品も復刊されるなど、出版界に及ぼした影響は並々ならぬものがあります。
このシリーズを読んだ後には、ぜひともモチーフ作品を読んで、栞子の推理に更にハマっていただきたいです。ほんとうに良作です!
江ノ島の路地の奥にある江ノ島西浦写真館は、館主の死により、100年に渡る歴史の幕を閉じました。館主であった祖母の遺品整理にやって来た桂木繭は、「未渡し写真」の詰まった缶に気づき、写真を引き取りにきた青年・真鳥とともにその謎を解くことに……。
テイストは「ビブリア」シリーズによく似ています。古書店から写真館に変わっても、切ないような優しい雰囲気は貫かれています。
しっかりしていて優しい青年と、過去に傷ついていて、おとなしくて喋ることが得意でない女性という組み合わせが、よりこの雰囲気を強くしているのかなと思います。
- 著者
- 三上 延
- 出版日
- 2015-12-16
「ビブリア」シリーズの登場人物がちらっと出たりしていますので、もしかしたらこのふたつの作品がいつか交ざり合うような物語が生まれるのかもしれません。舞台の場所も互いに近いです。
デジタルカメラが当たり前になってしまったからこそ、フィルムで撮られた写真の不自由さが懐かしく思える作品です。
幽霊を見る「紫の目」を持つ神野明良は、幽霊に触れる「紫の手」を持つ御厨柊美とともに、神岡町に現れる「常世の怪物」を倒していきますが、次第に柊美の体調が悪くなってってしまい……。
- 著者
- 三上 延
- 出版日
三上延のデビュー作です。完成度が高くて、読み終わった後に出来の良い映画を観終えた後のような感覚があります。
オッドアイやボーイミーツガールの巻き込まれ型など、王道設定が多く組み込まれているわりに、ライトノベルとしては派手ではありませんが、そこが三上延らしいとも思えます。登場人物の描き方もアクション場面の表現も既に巧みです。
デビューからこれだけの作品を書けていたんだと驚きつつ、読んでほしいなと思います。ただ、ホラーだけあってグロい描写があるので、そこだけは覚悟してください。
藤牧裕生が兄から都市伝説「カゲヌシ」の噂を耳にした頃、町では謎の連続焼死事件が発生していました。その現場で黒い虫の死骸を発見した裕生は、犯人らしき謎の人物より「ヒトリムシ」というメッセージを聞き、事件の真相に近づいて行く中で、幼なじみ・雛咲葉に不審な点が見えるようになり……。
- 著者
- 三上 延 (著), 純 珪一 (イラスト)
- 出版日
構成が上手く、特に恐怖の描写が素晴らしい作品です。ひとつひとつの細かな描写がさすが!と思えてしまいます。「カゲヌシ」同士の戦闘シーンが更にすごいのです。
4巻までにたくさんの伏線が配され、最終巻である5巻ですべての謎が明かされ、大団円となる見事さ。この幕引きには思わず拍手したくなるくらいです。
また、ヒロインの雛咲葉が悲しい運命に立ち向かっていく姿が実に健気で、この物語の魅力のひとつとなっています。三上延は内気な女性が好きなのかなぁとは思ってしまいますが。
全巻でひとつの物語として綺麗に完結していますので、ぜひ5巻とも読んでいただきたいです。
アバディーン王国王城は、王位を継承する式典が終了する寸前、機械でできた竜たちの襲撃を受けて、瞬く間に壊滅し、瓦礫の山と化しました。父と兄を失いつつも生き延びた王子のジャン・アバディーンは、機械の竜を用いた部隊を指揮する黒髪の女性――「黒の鉄姫」に復讐を誓います。
復讐のためにどうすべきか悩むジャンの前に、竜騎士養成学校の入学許可を伝える無表情の美少女が現れて、彼は亡き兄になりすまして偽造入学をするのですが……。
- 著者
- 三上 延
- 出版日
- 2009-08-10
王道ファンタジーですが、物語にどっぷりと浸れます。主人公は心ではしっかりと復讐を決めているのに、「復讐復讐」とむやみに主張しないところがいいのかもしれません。そして、登場人物が個性豊かで、それぞれに秘密があり一筋縄ではいかないところが更に良いのです。また、ファンタジーもの特有の固有名詞覚えが面倒ではないのも、読みやすさを助けています。
次の展開がどうなるのか気になり、手が止まらなくなるファンタジックの世界にはまってみてくださいね。
三上延というと「ビブリア」シリーズのイメージが先導してきますが、他の作品も読みやすくて心に沁みるものばかりですので、ぜひ読んでいただきたいです。