幼い頃から積み上げた圧倒的な読書量と思考力で文化人として活躍した渡部昇一。特に1976年に発表された『知的生活の方法』は実に118万部を売り上げ、講談社現代新書史上最大のベストセラー記録を保持しています。今回はそんな彼の残した膨大な著作のなかから、特におすすめの本を5作ご紹介しましょう。
1930年、山形県に生まれました。英語学者、評論家、上智大学名誉教授、哲学博士、公益財団法人日本財団評議員など、さまざまな分野で活躍し、多くの著作を残しています。
1976年に『腐敗の時代』で「日本エッセイスト・クラブ賞」を受賞、同年に発表した『知的生活の方法』は100万部を超えるベストセラーとなり、現在も読み継がれています。
評論家としては過激な発言で議論をくり広げることも多く、特に教育関連や南京事件関連では強い持論を突きつけていました。
また渡部昇一は、個人書庫として世界一といわれる巨大書庫を保有していたことでも知られています。その館には、世界中の本が15万冊以上も収められていたそうで、なかには時価数千万円の希少な古書もあったとか。
晩年まで精力的に活動を続けていましたが、2017年に心不全で亡くなりました。86歳でした。
1976年に発行された『知的生活の方法』は、講談社現代新書史上最大のベストセラーという偉業を成し遂げた作品です。 渡部昇一の代表作といって間違いないでしょう。
書かれてから40年以上の時が流れていますが、現代に生きる人にとっても参考になるヒントが詰まっています。
- 著者
- 渡部 昇一
- 出版日
- 1976-04-23
本書は「自分をごまかさない精神」「古典をつくる」「本を買う意味」「知的空間と情報整理」「知的生活の形而下学」の5章から成っています。
知的生活を送るための方法論、時間の使い方、生活方法などが具体的に記されています。
「われわれは高い知的生活を求めつつも、それをいつも維持できるとは限らないのである。知の向上への努力は、しばしば休息、あるいは心理学でいう『退行現象』につながることを見逃してはいけない」(『知的生活の方法』より引用)
特に読書に関する項からは、同じ作品をくり返し読むことの大切さを述べています。1度読んだだけでは本当に「わかった」ことにはならず、「わからない」ことを突き詰めて何度も何度も読んでいくことで自分の身になるのだそう。渡部の読書観を感じることができるでしょう。
彼がどのように物事を考え、どのように生きていたのかがわかるので、渡部昇一のことを知りたいと思ったら避けては通れない一冊です。
日本という国ができた時から現代にいたるまで、日本人のメンタリティがどのように形成されていったのかを民俗学的な視点で述べつつ、歴史上の出来事を振り返る日本の通史です。
- 著者
- 渡部 昇一
- 出版日
- 2014-08-02
「日本には言霊信仰があって、言葉に霊力があると信じられていた。それゆえ日本語というものに対して特別の尊敬心があった。それをうまく使える人間は、人の心を動かすことができる。ゆえに、和歌ができる人は天皇と同じ本に名前を入れる価値があるという発想があったと思われる」(『決定版・日本史』より引用)
天皇から乞食まで、さまざまな人物の和歌が載せられている「万葉集」についてはこんなふうに記されています。古代日本では和歌の前に人は平等で、うまい歌を読める人は誰であろうが尊敬に値するという価値観が共有されていました。
紹介されている歴史上の出来事自体は聞いたことがあるものでも、その背景にある当時の日本人の思想を知ると、また別の見方ができるようになるのではないでしょうか。
なぜ現代人が歴史を学ぶ必要があるのかを教えてくれる一冊です。
コラムニストの高山正之と渡部昇一の対談を一冊にまとめたものです。高山は産経新聞社の記者や海外支局長などを経て、イラン革命やイラン・イラク戦争の取材などをおこなった人物。コラムニストとしても活躍し、テレビ番組にも出演しています。
本書で2人は、朝日新聞の報道に異を唱える立場をとっています。この主張は渡部が生前から常々おこなっていたことで、彼が亡くなってから1年をきっかけに本書が発表されることとなりました。
- 著者
- ["渡部昇一", "髙山正之"]
- 出版日
- 2018-04-18
対談で2人は、戦後から現代の日本の歴史を振り返り、政府やマスメディアが植え付けたとされる歪んだナショナリズムにひとつひとつ反論しています。
たとえば戦後アメリカに占領された日本のメディアは、自国の戦争責任や戦後責任を強調していましたが、彼らはこの報道を、日本を都合のよい国に仕立てあげようとするアメリカの思惑によるものだと主張。さらに、その流れのなかで中国や韓国など他の国々がどのような動きをしていたのかも解説しています。
戦後の世界史を新しい角度から考察できる一冊です。
幼いころから本に関する制限はされたことがないそうで、膨大な量の読書をしてきた渡部昇一。本書は、そんな彼の読書論をまとめた作品です。
本を読むことの醍醐味を教えてくれる内容になっています。
- 著者
- 渡部 昇一
- 出版日
- 2016-08-25
「読書とは『精神の食べ物』である。本や辞書は紙であるからこその味がある。ネットは『サプリ』。必要な栄養は取れるが味気ない」(『知的読書の技術』より引用)
幼少期から読書に親しみ、自分で納得するまで思考をくり返す力を養った渡部だからこそ言える、納得の読書論が満載です。
本は衣食住に直結するものではなく、読まなくても人間は生きていけます。しかし本を読むことでしか養えない力もあり、それがきっと正解の無い問いに行き詰った時などに役立つのでしょう。新たな読書の世界が広がるはずです。
巻末には「無人島へ持っていく10冊」も掲載。大の読書家である渡部昇一がどんな作品を選ぶのか、参考にしてみてください。
月刊誌「WiLL」にて2011年から2014年まで連載していた渡部昇一のコラムをまとめ、加筆した一冊です。
コラム名は「書物ある人生」。彼の幼少期からの読書遍歴を知ることができます。
- 著者
- 渡部昇一
- 出版日
- 2018-04-11
夏目漱石よりも芥川龍之介よりも夢中になって読みふけった一冊、戦前の配給で配られた漢和辞典など、時代の流れを感じながら、時代を超えて読み継がれていくべき本が紹介されています。
渡部昇一はいったいどのような本を読み、何が彼を形成していったのか、その片鱗を知ることができるでしょう。また難解すぎて読み終えることができなかった本についても言及されているのが、興味深いところです。
渡部の集大成ともいえる圧巻の個人書庫の様子もカラー写真で見ることができ、細部まで楽しめる一冊です。