人間を工場で生産するようになった日本で、様々な理由により人間の製造を望む人と、その製造工場で働く人の姿を描いた『人間工場』。造られた人間と生身の人間の間に生まれる絆や、相手が本当の人間ではないから生まれる溝など、人間の業がよく見えるのが見所です。 この記事では、スマホアプリで無料で読める『人間工場』について魅力を紹介していきます。ネタバレが気になる方は、ぜひご自身でご覧になって見てください。
『人間工場』というタイトルの通り、本作では人間を造る工場がメインの舞台になります。人間を造る、というとロボットのようなものを想像してしまいますが、ここで造られるのはロボットでも人形でもなく、人間なのです。
人間を人間が造るというのはすごい技術ですし、普通に一緒に生活できるのであれば、あまり問題ないようにも感じられますが、工場で製造される人間には「寿命が短い」「年を取らない」「生殖能力がない」などの特徴があります。
もともとは少子高齢化にともなう人口減少を止めるための対策として始まったのですが、製造人間の特徴をみると、あまり意味のあるもののようには思えません。いたずらに命を生み出しては捨てているようですよね。
- 著者
- 西屋仁紀
- 出版日
- 2018-02-10
工場で造られる人間たちは、注文者に会う前に、あらかじめ必要な記憶をインプットされます。恋人や家族など、今まで一緒に過ごしたことがなくても、まるでずっと一緒にいたかのような記憶の埋め込みが可能なのです。
問題はこのあとです。先述の通り、製造人間は寿命が短いため、注文者である人間より早く亡くなることが決まっています。製造人間が亡くなったあと、注文者がどうするかは、各個人によると思いますが、また新たに代わりの製造人間を求める人も出てくるわけです。
命を使い捨ての道具のように扱うのがこの工場の最大の問題点であるとも言えます。等しく平等で尊いものであるはずの命を軽んじて、消耗品のように扱うからこそ、物語は「命の倫理を捨てた」という書き出しで始まるのです。
難しく重いテーマですよね。製造人間をどう扱うか、造り出された命をどう扱うか、それらに対してどういった感情を抱くかによって、製造人間に対する感じ方も本作を読んだときの感想も変わってきます。
命を題材にした作品ながら読む人によって様々な見解がもてるのが、本作の魅力ではないでしょうか。
人間を造るようになって数10年たった日本という設定がされていますが、数10年たった今でも製造人間に対しては様々な意見がある様子。
本作は短編連作風。メインで登場するのは工場の人間たちで、1話ごとに違う製造人間・注文者の話をしているのですが、工場側の人間であっても、注文者側の人間であっても、製造人間に対する感じ方は様々なよう。
工場長である大嶽(おおたけ)は、製造人間を完全なる「物」としか見ていないようで、お客が金を払って、ルールさえ守ってくれれば何でもいい様子。彼が工場で働くのは何か理由があるようなので、金儲けの道具と思っているというよりは、命があるものと考えていないと言ったほうが合っているかも知れません。
記憶を移すことも書き換えることもできますし、彼にとって、製造人間は取り替えのきく商品のようなものなのでしょう。
そんな彼と真逆の考えを持つのが、工場の従業員であるヒロ。ヒロは製造人間を、命あるものとして、替えのきかない人間と同じ生き物として接していて、何かと製造人間を物扱いする大嶽とは相容れない様子。
ただ、人間を造ることに関してとても否定的、ということはなく、製造人間を望む人がいるのならそれに応えたい、かと言って製造人間を物扱いもできない、という微妙な心境の狭間にいるみたいですね。
また、彼ら以外の注文者やモブキャラたちのなかでも、製造人間に対する感じ方はそれぞれで、人間と同じように扱ったり、所詮はまがい物だと虐げたり、人間以上の深い信頼をおく、また、製造人間を所有する人物を受け入れたり、拒否したりと、製造人間に関わる人々をよく思わない人もいるよう。
どっちが正しい、どっちが悪いというわけではなく、それぞれのキャラがそれぞれの感じ方で、製造人間やその関係者への対応を決めているのが、本作のいいところ。価値観によって接し方や向き合い方が変わるのが、まさに「人間」らしく見えるのではないでしょうか。
「命の倫理」を数10年前に捨てた日本で、最初に生まれ最大の規模を誇る第一人間工場「大嶽工場」。人口減少を食い止めるため政府が発令した「人間製造計画」のもと始まった、人間の製造は、人口増加が見込まれない現在、広く多くの人に知れ渡っていました。
1巻では、各話に登場する製造人間とその注文者の三者三様の関係に注目してほしいところでもありますが、やはり見どころとなるのは、話の大筋となる人間工場と工場長の謎が小出しにされ、ココという少女がやってくるところではないでしょうか。
- 著者
- 西屋仁紀
- 出版日
- 2018-02-10
物語は、大嶽が何者かから指示を受け、工場長として働こうとする場面から始まるのですが、相手の姿が見えないことや、彼に工場で働くよう指示した人間が他にいるような表現などから、大嶽工場や、大嶽自身に何らかの秘密があることがうかがえます。
まず大嶽について謎なのは、その見た目。本編最初の依頼者が大嶽を見て「子ども」だと思ったとおり、彼はとても若い青年のような姿をしています。若そうに見える大嶽ですが、彼は一体いつから工場長をやっているのでしょうか。
働きたいと工場にやってきた少女・ココの過去から逆算し、現在の彼女を18歳以上だと仮定した場合、大嶽は少なくとも10年は工場長をしていたのではないかと考えられます。
大嶽工場は人間工場の中で最も古いですし、人間が作れるようになってから数10年のときが経っているようなので、彼の勤務歴も長い可能性が考えられます。
また、彼の家族についても不思議なところが。本編2話では、家族が欲しいと客がやってくるのですが、家族と聞いた大嶽は1人の男性を想像するのです。その男性がどのような人物かはわかりませんが、大嶽にとって家族と言われて連想する間柄であることは間違いありません。
大嶽と工場の関係についても、何かと謎を匂わす表現がたくさん出てきます。1番わかりやすいところでいえば工場名ですよね。工場名が「大嶽工場」で、彼の名字が「大嶽」であることから、工場と深いつながりがあることがわかります。
他にも、作中で彼が放つ非人道的な発言を、工場の深い関係者という視点から見ると、工場に対する彼なりの執着のようにも感じられます。ココの話は今後、大嶽や工場に関する謎を解くキーとなると思いますので、出てくる人物や、働きにきた理由までしっかりと把握しておきたいですね。
また、大嶽の過去を想像するうえで外せないのが、読み切り版の『人間工場』。こちらは1巻の終わりに一緒に掲載されていますので、工場長や従業員ヒロのことを知りたい方は、読み切り版を先に読んでもよいかも知れません。
ただ読み切り版は、本編を読んで抱いた工場で働く人間についての疑問の答えにもなっていますので、考察することが好きな方は後に読んだほうがよいでしょう。読み切り版と本編は同じ世界観で、多少の設定の違いがあっても、それにはきちんとした理由があるので、同じものだと考えて問題ありませんよ。
命についてどう思うか、登場人物はもちろん、読者も考えさせられる『人間工場』。登場人物たちが多種多様な考えを持ち、それぞれが分かり合えないながらも、それもひとつの考えだと互いを否定し過ぎないのがよいところです。考えさせられて、共感もできる本作を、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。
世界設定のテーマは重いものの、ストーリーとして考察できる部分も多く、小出しにされるヒントから物語の全体図を想像するのが好きな人にはたまらない作品となっています。自分がどの考えに1番近いか、実際あったらどうするか考えても楽しそうですね。