『童話迷宮』を全巻ネタバレ紹介!おとぎの妖しい世界へ誘われる漫画【無料】

更新:2021.11.26

小川未明の童話をもとに作られた本作『童話迷宮』。小川未明独特の世界観を、現代風に現実とリンクする物語という形で、妖しく美しく表現しているのが見所の本作について、その魅力を紐解いていきます。 原作を知っている人も知らない人も楽しめる、新しく生まれ変わった名作童話たち。スマホで無料で読めますよ。

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『童話迷宮』の魅力:妖しくも美しい世界観

 

本にまつわる不思議な世界観が魅力の『くおんの森』の著者である釣巻和が描いた『童話迷宮』。本作の原案となったのは、日本児童文学の父と呼ばれる小川未明の童話たちです。小川未明という名に馴染みがなくとも、子どものころ国語の授業で彼の作品を目にしている方も多いかと思います。

小川未明作品の魅力といえば、少し不思議で美しく、どこか恐ろしい独特の世界観ですが、釣巻和はその世界観を見事に表現。情景を想像する小説と、情景が描かれている漫画では感じ方に多少の違いが生まれるものですが、本作は「想像させる」という部分が多く、読んでいて妖しい美しさを感じることができます。

著者
["釣巻 和", "小川 未明"]
出版日
2009-06-09

 

そんな本作では、小川君という少年が小学校からの帰り道、不思議な看板に導かれて「童話迷宮」という喫茶店のようなお店にやってくるところから始まります。未明作品の話だけでなく、こういったオリジナルの場面にもゾクッとするような雰囲気があるのが魅力です。

『童話迷宮』は、既存作品をただ絵として書き起こしたわけではなく、未明作品はあくまで話の土台。物語のなかに登場する「作品」の1つとして登場していて、それとは別に、作品全体通してのストーリーというのが存在します。小川君のいる現実世界での話がそうですね。

上巻では、小川君は物語の読者として未明作品を読んでいくのですが、下巻では別の立場から未明作品へと関わっていきます。ホラーというわけではないのですが、その関わり方というのがよくよく考えればゾッとするようなもの。そういった恐ろしさを全面に出さず、裏に潜ませているからこそ、より妖美さを感じるのかもしれませんね。

魅力:有名な童話を大胆アレンジ!

魅力:有名な童話を大胆アレンジ!
出典:『童話迷宮』上巻

本作は、未明作品をそのまま描いているわけではなく、現代風にアレンジしているのが魅力の1つでもあります。現代風にアレンジすることで、『童話迷宮』の大筋であり、オリジナル部分である小川君のお話と、未明作品との世界がリンクし、読者にも読みやすくなっているのが特徴。

原作の世界観には原作の世界観の良さがありますが、現代の人間に寄り添った形で描くことで、より深く物語を理解することができます。

現代風にアレンジと言いましたが、世界設定を現代にして物語をそのまま描いたわけではありません。世界設定が現代であることは間違いないですが、登場人物を変え、舞台を変え、より親しみやすい世界観と設定に変えているのです。

出てくる要素と物語の大まかな流れが一緒なだけで、ほぼ別作品とも思えるようなアレンジをしていますが、だからこそ、原作を知っていると、変更された部分や変更の仕方が良くわかり、物語を純粋に楽しむことも、変化を見て楽しむこともできます。

また、原作を知らない人や昔の文学作品を読むのが苦手な人は、現代ファンタジーとして読むこともでき、様々な人に読みやすい作品となっています。本作を読んだあとで、未明作品を読んでも楽しいかもしれませんよ。

釣巻和の描く独特な間と、未明作品の独特の世界観が見事にマッチしていて、アレンジ作品とは思えないほどの調和が感じられます。

『童話迷宮』上巻の見所をネタバレ紹介!

小学生の小川君は、学校の帰り不思議な看板に導かれて「童話迷宮」にやってきました。そこのメニューは珈琲のみ。選べるのは砂糖やミルク代わりに「ゆめ」か「うつつ」。両方を混えた珈琲ゆめうつつを頼んだ小川君の前に運ばれてきたのは、1杯の珈琲と1冊の本でした。

上巻では、彼氏にフラれたばかりのコンビニアルバイトと、物事をよく「視える」ようにする眼鏡売りの「月夜の眼鏡」や、不倫ばかり好む女性が本当に欲しかったものを手にする「金の輪」など、気持ちのいいオチに感動する話も多々ありますが、やはり小川君が登場する話が見所ではないでしょうか。

著者
["釣巻 和", "小川 未明"]
出版日
2009-06-09

「遠くで鳴る雷」では、上巻の冒頭で出てきた小川君の担任の遠野先生が主人公。雨が降り、雷が鳴る放課後、遠野先生は自分が小学生だったころのことを思い出します。雷が好きではないからか、雷が鳴る日は必ず物を失くすからか、思い出すものはあまりいい思い出ではありません。

この天気を嫌だと思いつつ、学校の見回りをしていると、階段の上にひとりの生徒が。小川君です。彼は遠野先生を見て1つ間をおくと、明るく「さようなら」と返します。

直前の無表情と落ち着いた返事からは想像もできない、軽快な足取りと言葉で帰る小川君。彼は階段に背を向けて、窓を打つ雨を眺めながら何を考えていたのでしょうか。

小川君を見送った先生は、ピアスを失くしてしまったことに気づきます。雷の日に物を失くすという先生のジンクスがまた当たったのです。しかし、それを嘆く暇もなく、どこからともなくリコーダーの音が聞こえてきます。

雨の降る仄暗い学校で奏でられるリコーダーの音……。字面だけでも何だか恐いですね。先生はまだ残っている生徒がいるのかと少しずつ音の方へと近づいて行きます。近づくにつれ、メロディーが聞こえてくるにつれ、先生は様子がおかしいことに気がつくのです。

音の鳴る教室までやってきた先生の前に用務員が現れます。彼は生徒から預かった落し物だと、いくつかのものを先生に渡しますが、その1つに見慣れたリコーダーが。教室には用務員以外いない状況、リコーダーを吹いていたのは誰だったのでしょうか。

「遠くで鳴る雷」にたどり着くまでの出来事は、下巻の冒頭に収録されているので、合わせて読むと、より楽しめますよ。

『童話迷宮』下巻の見所をネタバレ紹介!

1度現実世界に帰ってきた小川君は、再び物語の世界へと迷っていきます。上巻の冒頭とは違った様子の小川君にはぜひ注目したいですね。

下巻では、冴えない営業マンが訳ありの天使に出会う「飴チョコの天使」や、レンタル・中古買取販売店で乙女ゲームエリアを担当する女性の「千代紙の恋」、テスト時間残り3分に囚われた少年の「小さい針の音」など、ストーリー上ほっこりするのに、小川君がいることでホラーな雰囲気が感じられる話が多く、どれも魅力的。そのなかでより一層ホラー色が強いのが、「二度と通らない旅人」です。

著者
["釣巻 和", "小川 未明"]
出版日
2009-06-09

これも未明作品の1つですが、「二度と通らない旅人」は、他の作品と違い、小川君がメインで登場する話となっています。

小川君はすでに日が暮れかけていることに気づきました。もともと彼は学校帰りにこの「童話迷宮」に寄っていたため、まだ家に帰っていなかったのです。とっくに帰ってくる時間に帰ってきていなかったら親は心配しますよね。

そろそろ帰ろうと思った小川君の前に、お母さんが現れます。他の子どもも親が迎えにきて帰っていきますが、彼は一緒に帰ろうとするお母さんに驚きを隠せません。当然ですよね、まだお店から出てはいないのですから。

お母さん、お姉ちゃん、お父さんの姿を見ながら、小川君は「帰らなければ」と思いますが、お母さんは優しく優しく言葉をかけ、彼の心を支配していきます。帰るべき場所、帰る道はどこか、焦らず冷静に考える小川君。彼が出した答えは、最後の最後で微笑ましさを感じさせてくれますよ。

「二度と通らない旅人」はそのあとにあるオリジナルストーリーへと続く形のお話となっているので、合わせて楽しんでください。また、『童話迷宮』としての終わり方にもぜひ注目したいところ。

小川君が去った「童話迷宮」に次にやってくるであろう人物が手にしたものは……。想像させる余地を残した終わり方となっていますよ。

『童話迷宮』の不思議に引き込まれる世界に足を踏み入れてみては?【無料】

釣巻和の描く美しい描写と、小川未明の妖しい世界観が1つになった本作。現代風にアレンジされた未明作品はもちろん、本作の随所にあり、メインストーリーでもあるオリジナルの話も恐ろしく、切なく、面白くて、ほっとする展開となっています。妖しい雰囲気が好きな人にはオススメの作品ですね。

恐ろしいようで面白く、切ないようでほっこりする、そんな物語が魅力の本作。既存作品とオリジナルが見事融合した漫画となっています。小川未明に関係しない釣巻和の短編漫画も収録されていますので、釣巻和ファンも読んで楽しい作品ですよ。

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