「作家を辞める」ような発言で話題を呼びました。橋本紡の作品は、模試や都立高校入試に出題されるような良作もあるので、本気なら残念です。 新作が出るいつかにそなえて、読んでおきたいおすすめ小説を5作ご紹介します。
橋本紡は1967年に三重県伊勢市で生まれ、三重県立伊勢高等学校を卒業後、東京の大学に進学しますが、授業に出ないまま中退したそうです。以降は、友達の家などに居候しつつフリーター生活をしている中で作家を志し、1997年に『猫目狩り』で電撃ゲーム小説大賞金賞を受賞してデビューしました。
「最大のファンタジーとは日常にある」と語っており、橋本紡の作中には大好きな猫がよく登場します。また、世界各国の名作小説が作中登場することでも知られています。
活字離れが叫ばれる中で「本を読む、作ることの楽しさを伝えたい」という橋本自身の希望で日本各地の学校図書館の図書便りなどに『図書館が、ここに。』を連載しています。この活動はすべてボランティア=学校側に原稿料などはかからない形だそうです。全国の中学校・高等学校の約200校が参加しています。
2008年からは、コバルト・ノベル大賞、ロマン大賞の選考委員をつとめています。
新しい人種・猫目は、南米の科学者たちに作り出され、優れた特殊能力を持ちつつも生殖能力はなく、恐れられて、遺伝子戦争という世界規模の戦いの引き金となりました。
その戦争の爪痕が残る世界、仲間たちとともにストリートで気ままに生きているリョウ。ある日、マリアという女性が現れて、圧倒的な力をもって彼を連れ去ってしまい……。
- 著者
- 橋本 紡 (著), 鈴木 雅久 (イラスト)
- 出版日
上下巻になっていて、上巻はRPGでいうところの仲間集めと敵の登場で終わり、謎は解明されません。下巻になると一気に展開して、リョウの存在意義や襲われた理由などが解き明かされていきます。まるでアニメや漫画の定番のような展開です。
設定にとっぴな部分があまりないので、ライトノベルに慣れていなくても読みやすいのではないかなと思います。それに、のちの橋本作品に共通する胸がきゅんとするような部分もしっかりとありますから、その点も充分楽しめます。
橋本紡のスタート作、ぜひ手にとってみてください!
肝炎を患っての入院生活が退屈で、夜中に病院を抜け出してばかりの戎崎裕一は、看護師・谷崎亜希子と、抜け出すことを黙認する代わりに、同じ入院患者・秋庭里香の話し相手になる契約を結びました。
親しくなっていく中で、里香は誰にも見せることのなかった笑顔を裕一に見せるようになりますが、彼女には「死ぬ運命」が迫っていました。
ふたりで病院を抜け出して、里香の思い出の地である砲台山を訪れ、裕一は里香が生きる希望を失っていることを知ります。同時に里香は裕一が自分を想ってくれていると知るのでした。
- 著者
- 橋本 紡
- 出版日
- 2013-07-10
不治の病で命の期限を切られた女性との恋愛物語です。橋本紡自身の入院生活から生まれた作品で、出身地である三重県伊勢市を舞台としています。伊勢の町並みはほぼ忠実に描かれていますが、実際の風景とは多少違っていて、地名も一部変えてあり、橋本紡の想い出の中にある「伊勢」で物語が進行していきます。
ちなみに、ふたりにとっても特別な場所として登場する「砲台山」のモデルは虎尾山だそうです。
伊勢が重要なポイントですから、いわゆる聖地巡礼も盛んなようです。
『愛と死を見つめて』や『世界の中心で、愛をさけぶ』などと比較されることもあるのですが、この作品には「死そのもの」は描かれていないのです。近未来に訪れてしまうであろう「死」までをひたむきに生きる姿がテーマとなっています。
17歳のふたりのピュアなまっすぐさが沁みる名作で、ライトノベル版とリメイクされた完全版が存在します。その違いを読み比べてみるのも楽しいかもしれませんね。
星を5つつけたいほどおすすめの橋本紡の作品です。
父の転勤にともない、佐賀県へ引っ越してしまった一軒家でひとり暮らしをする本山奈緒子のもとへ、当の父が家出をしてきて、奇妙な親子生活がはじまりました。
奈緒子が想うかつての恋人と、今の恋人である川嶋巧が想う亡き親友は同一人物で、加地という人物です。彼の存在と遺した言葉が奈緒子と巧に大きく影響していきます。日常をしっとりと描きつつ、大切な存在を失った悲しみを越えて繋がっていく恋愛小説です。
- 著者
- 橋本 紡
- 出版日
- 2008-06-30
『半分の月がのぼる空』とはまた異なるせつなさとピュアさが満ち溢れていて、読み進めるうちにしんわりと沁みます。
2007年2月には、ベネッセの高2進研プロシードテスト模試の問題文に使用されています。
橋本紡作品の特色である名作文学作品の登場もあり、月、星座、流星群、野球、サッカー、ボクシングなどが描かれています。とても美しい作品ですので、優しい気持ちになりたいときにぜひ読んでみてください。
「いつかのきみへ、いつかのぼくへ」というサブタイトルがついており、短編集ですが、6本ともすべて橋を渡ってはじまるエピソードになっています。
権威的な父親に反発して飛び出したOLがしばらく帰っていなかった家に立ち寄るか否かを迷う『豊洲橋』。銀座で長くバーテンダーを務め、下町で小さなバーを開いている男が主人公なのが『亥之堀橋』。進学校でのトップ争いに疲れ、ライバルにも事故死された高校生と不良になったかつての幼なじみと再会する『大富橋』。英会話教室の生徒との逢瀬をどうしてもやめられないバツイチ女性を描く『八幡橋』。新居探しに奔走するカップルを描く『まつぼっくり橋』。自分の進学について言い争う両親に怯えて祖父の家で暮らすことになった少女が出てくる『永代橋』。
でてくる短編作品は、深川や清澄あたりを舞台にしています。
- 著者
- 橋本 紡
- 出版日
情景の描写、人々の心理、希望を感じるエンディングなど、どれをとっても巧みです。まるで読みながら自分も橋を渡っているような感覚に心が和らいでいきますし、明日も「よし!頑張ろう!」なんて思えてしまうのです。
日々を積み重ねる大切さを噛み締めながら、読んでいただきたい秀作です。
ちなみに、発売翌年の2009年、この作品が私立中学や高校入試にこぞって出題され、東京都立高校入試では『永代橋』が出題されています。
やる気のない中学校教師・高野楓は、なんとなく独り身できたものの、この頃は年下の彼氏を居候させています。彼はセンスがよくて料理上手。ふたりの暮らしはとても楽しいのに、なぜか、彼はちょくちょく姿をくらませてしまうのでした……。
恋愛不能、発達障害といった問題を内包しつつも、しなやかな大人のファンタジーとなっている傑作です。
- 著者
- 橋本 紡
- 出版日
同居の彼氏は楓より若いはずなのに、知識も経験も豊富で、だけど消えてしまって、突然帰ってくるのですが、その消えている時間がながくなるにつれて、自分のいろいろな気持ちにも気づきます。
近くにいると気づかないけど、失くしてみると大切な存在だとわかる――誰でも経験がある、そんな感覚を実に巧みに描かれています。ちょっと切なくて、ふんわりと優しくて、なんとなく不思議な物語です。おすすめですよ。
死を通して「生きる」ことをピュアに描く橋本紡。彼の作品を通して、大切な誰かといる優しさと切なさをじっくりと味わってみて欲しいと思います。