その虫の音を聞いた女性は、理性を失った化け物と化してしまう。本作は、これまで普通に話していた隣の女性すら敵になるかも知れない、恐怖が背筋を凍らせるホラー作品です。周囲の全ての女性が化け物と化してしまうかも知れない世界で、勇敢な主人公が耳の聞こえない妹を助けて生き残ろうと戦い続けます。 今回は、そんな本作の見所をネタバレ紹介!
女性にしか聞こえない音を出す狂鳴虫により、音に感染した女性が狂暴化して人を襲うようになった存在「狂鳴人」。彼女達によって、日本は壊滅寸前の状態へと追い込まれていました。
そんななか、主人公のサトルは東京の病院へ入院している妹を救うため、友人のエリカとともに大阪から東京への遠征をおこなおうと考えます。
果たして、サトルの妹は無事なのでしょうか。そして彼は、無事に妹を助け出す事が出来るのでしょうか。
狂鳴街
パニックホラー作品としての魅力は、いろいろあると思います。
息をつかせぬ怒涛の展開、主要人物さえも含めたキャラクター達に降りかかる数々の哀しい出来事、そして絶望のなかから湧き出す一縷の希望の光など。
特に、人間が化け物に変わってしまうソンビ物であれば、そうした要素は必要不可欠といえるのではないでしょうか。本作は、そうしたゾンビ物パニックホラーとして必要なものをしっかりと取り揃えた作りとなっており、お好きな方には堪らない内容となっています。
たとえば、サトルとエリカが大阪から東京に向かう前には、もう1人一緒に行動をしていた、萌恵という少女が居ました。
ですが、彼女は狂鳴虫の音に感染してしまったことで、サトルを傷つける前に自ら命を絶ってしまうのです。このように主人公との親しい間柄や、活躍シーンが描かれていた人物であっても、非情にその命を奪われてしまいます。
こうした展開はどうする事も出来ない絶望感を演出し、読者へのショッキングなインパクトを与えるために有効だといえるでしょう。
また、サトルは東京の妹を探すまでの間に、何度も窮地に立たされることとなります。そして、いよいよもうダメかも知れないという状況の最中、彼自身の意思の強さや、仲間達の登場と活躍により、何とか生き残る事が出来るのです。
先述の絶望感を演出するのとは逆に、絶望的な状況のなかでも、諦めずに行動する事の大切さを感じる事が出来るのではないでしょうか。
こうした恐ろしい状況に対する緊張と緩和が、読者にとって堪らない刺激となり、作品自体の魅力となるのです。
こうしたパニックホラー作品では、周囲の心を動かすような、強い意志を持った人物が登場します。
本作では主人公のサトルがそうした役割を担っており、エリカをはじめとした仲間達の前向きな行動を後押しする事に繋がっているのです。
大事な妹や窮地に立たされている人を助けるために、多少の無茶を承知で危険に飛び込んでいく彼を見て、仲間達は奮い立たされることになります。彼は周囲の精神的な支柱として、随所で活躍することになるのです。
また精神面だけではなく、その体力と行動力も目を見張るものがあります。大量の狂鳴人を引き付けるために自慢の脚力で囮役を買って出たり、押し寄せる狂鳴人の群れから、跳躍で逃げ延びたりといった、曲芸のような回避の数々を披露します。
まさにヒーローらしい優れた身体能力を発揮してくれるので、読んでいて気持ちのよいキャラクターであるといえるでしょう。
本作は人が死んでいく描写や、女性が感染して狂ってしまう描写が数多く描かれています。そのため必然的にグロテスクな描写の割合が多く、なかなかに凄惨なシーンが随所で見受けられるのです。
また感染してしまった女性達は、もはや人間だった頃の理性をなくし、さらに体まで変形してしまっている事もあります。感染者に生きた人間が引き裂かれ、捕食されるというだけでもかなりショッキングですが、感染してしまった彼女達自身の見た目も相まって、さらに恐怖感を煽るのに一役買っているのです。
またホラー作品のお約束ともいえるかも知れませんが、本作は女性キャラクターのちょっとエッチな描写もあります。サトルと行動をともにするエリカは、密かに彼に想いを寄せており、心中では彼との情事などを妄想したりすることも……。
さらに妄想だけではなく、作中のような極限状態では男女感の性的な感情というのは高ぶりやすくなるためなのか、普段は大人しいはずのエリカも、時に大胆な行動を取ることがあります。
実に押さえるべきところはしっかりと押さえた作りになっている作品といえるのではないでしょうか。
ここからはサトルが妹を助けるために東京へと向かう事になる、第1巻の内容を紹介していきます。
彼は、耳が聞こえない妹であれば狂鳴人化せずに生き残っているのではないかと考え、彼女の救出に向かおうと考えていました。
しかし友人である萌恵に止められ続け、なかなか東京に出向けなかった彼は、半ば強引に1人で東京へと出向こうとするのです。
狂鳴街
そんななか、ついに大阪にも狂鳴人化の影響が押し寄せることになります。サトルは、萌恵とエリカとともに避難に向かうのですが、その最中に萌恵が狂鳴虫に感染してしまいます。そして2人に襲い掛かる前に、彼女は自殺を図ってしまうのでした。
そんな彼女の死を乗り越えて東京にやってきた彼らは、そこで多くの人々の死と、自らの身に降りかかる危機に直面する事になります。
次々と失われていく命がある一方、新たな出会いとして消防士の大雅といった頼れる仲間が加わり、徐々に心強くなっていくサトル。果たして無事に妹の元までたどり着くことが出来るのでしょうか。
そんな本巻の見所は、サトルが学校の体育館に取り残された生き残りの学生たちを救助に向かう場面です。自身も妹を助けるために必死であるにも関わらず、危険を顧みずに他者を助けようとする、彼の正義感が感じられる一幕といえるでしょう。
王道ヒーローとしての仕事をしっかり果たす彼の活躍に注目です。
パニックホラーとして期待を裏切らない怒涛の展開が魅力的な本作、いかがだったでしょうか。今後の展開もまだまだ予想がつかない衝撃的な内容とあって、読者にとっても先が気になって仕方のない作品だといえるでしょう。
ぜひこの機会に、1度チェックしてみてはいかがでしょうか。