戯曲『ファウスト』をわかりやすく解説!あらすじ、結末などをネタバレ紹介

更新:2021.11.15

ドイツを代表する文豪、ゲーテ。その彼が書いた戯曲『ファウスト』はご存知でしょうか?タイトルを聞いたことがあっても、読んだことはないという方も多いかもしれませんね。独特の書き方で書かれているこの作品、実際ちょっと読みづらいという声もあります。 そんな本作を、今回は徹底解説!読みづらかった人も、ぜひこちらを見てみてくださいね。

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戯曲『ファウスト』のあらすじの内容を紹介!

本作はヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテが書いた戯曲です。二部構成となっており、一部は1808年、二部は彼が死んだ翌年の1833年に発表されました。

戯曲とは、普通の小説のように表現されたものではなく、劇の台本のように書かれた表現方法です。また本文は韻文といって、一定の規則に則った、リズムのあるような文体で書かれています。

主人公は、15~16世紀に実在したとされる錬金術師、ドクトル・ファウストゥスをモデルにしているといわれています。彼は錬金術や黒魔術に長けており、最後は悪魔と契約。その結果、魂を取られて四散して亡くなったといわれています。

それが人形劇となって伝えられており、その話に影響され、ゲーテはこの作品を書くことになりました。

著者
ヨハーン・ヴォルフガング ゲーテ
出版日
2004-05-01

物語は、誘惑の悪魔メフィストフェレスが、神へ賭けをけしかけることから始まります。「人間たちはあなた(神)から与えられた理性をろくなことに使ってない。」と彼が神へ提言。それに対して神は、「常に向上するもの」の代表として、ファウストの名を挙げるのです。

それを面白がったメフィストフェレスは、ファウストを使った賭けを提案します。その内容とは、ファウストが悪の道へ堕ちるか否か――。かくして、メフィストフェレスは彼をたぶらかしに人間界へ降り立つのです。

一方ファウストは、長く学問に努めていましたが「結局、学問を究めても何もわからない」ということに気づき絶望していました。そんなときにメフィストフェレスから声をかけられ、まんまと契約。20代の青年へと若返ります。果たして悪魔と契約してしまった彼は、どうなるのか……。

これが、本作のあらすじです。

本作は映画やオペラとして再翻訳されています。シャルル・グノーが制作した歌劇『ファウスト』は、その劇中音楽が単独で演奏されることも多いなど非常に有名です。

また、日本語訳も多く出ており、国外作品を多く扱う岩波文庫や、講談社からも出版されています。ドイツ文学の翻訳を多く手がける手塚富雄も手がけ、読売文学賞を受賞しています。

『ファウスト』の登場人物を紹介!

さて、本作の主要登場人物を紹介していきましょう。

 

  • ファウスト
    主人公。老学者であり、前述のように人生に悲観して自殺しようと試みますが、復活祭の鐘の音を聞いて感動し、思いとどまります。
  • メフィストフェレス
    誘惑の悪魔。ファウストの魂を陥れようと画策します。彼の願いを叶える代わりに、死後の魂を自分の奴隷にするべく行動するのです。
  • グレートヒェン
    若返ったファウストが恋に落ちた女性。この物語のヒロインともいえる存在です。グレートヒェンというのは愛称で、本当の名前はマルガレーテ。クリスチャンであり、大変まじめな少女でした。しかし、ファウストに出会って恋をしてしまったがために、転落の一途をたどることになります。
  • ヘレネー(ヘレナ)
    第二部のヒロイン。ギリシア神話に登場する女性で、とても美しいとされています。ファウストが彼女の幻にほれ込み、ついには彼女の生きる時代まで飛び、メフィストフェレスの力を借りつつ彼女と結婚。しかし彼女も結局、幸せにはなれませんでした。

 

以上が主要な登場人物です。主人公のファウストと、悪魔メフィストフェレスを中心に話が進んでいきます。

作者・ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテとは?

作者のゲーテはどういった人物だったのでしょうか。名前だけは聞いたことがある、という人も多いかと思います。

彼はとある富裕層の市民の子として生まれます。父が教育熱心だったたため、多くの習いごとをしたようです。特に語学に秀で、少年時代には英語・フランス語など母国語以外も習得していました。

大学へ進み、そこでヘルダーという男に出会います。彼と出会ったことでホメロスやシェークスピアなどに触れて成長。ここで作家・詩人として活躍するうえでの、大きな影響があったといわれています。

法律を学ぶために入った大学でしたが、詩の創作など文学にも傾倒。また、さまざまな女性に出会い、恋をします。それらの恋は、彼のひとつの原動力であり、本作のヒロインも実在の人物をモデルにしているなど、彼の創作活動に多大なる影響を与えたといっても過言ではありません。

そのなかでも、ヴェツラーというところで、彼は熱烈な恋に落ちます。シャルロッテ・ブッフという名の女性に恋をし、その恋に思い悩み自殺を考えるほどでした。この体験を基にしているといわれるのが、25歳のときに発行された『若きウェルテルの悩み』です。

著者
ゲーテ
出版日

この作品によって、彼の名前はヨーロッパ中に知れ渡ることとなります。そのころ、彼はこの『ファウスト』という作品を書き始めたのです。第二部が彼の死後に発行されたことを考えると、この作品は彼のライフワークのようになっていたことがうかがい知れます。

またワイマール公国に頼られ、政治家として活躍したこともあります。後年には宮廷劇場の管理者や、科学の研究にも尽力。法律、政治、科学、そして文学。彼は実に、多才な人物だったのです。

そして何度も何度も、行く先々で熱烈な恋をし続けます。晩年には20年もの間一緒にいた内縁の妻と籍を入れましたが、70代のときには60歳も下の少女に恋をするなど、とても「正直に、人間的に」生きました。

一人息子に先立たれながらも、本作を書き続け、完成の翌年に「もっと光を!」という言葉を残し、その生涯を閉じます。

『ファウスト』には元ネタがあった!ファウスト博士とは?

前述しましたが、本作には元ネタがあります。ここではさらに詳しくモデルの人物について紹介しましょう。

15~16世紀に実在したヨハン・ファウスト博士。占星術や錬金術、黒魔術に精通しており、各地を放浪していたといいます。探究心が旺盛で、強い野心を持った人物といったことが伝えられており、最後は実験中の爆発によって、体が四散して亡くなったそうです。

錬金術といった怪しげな学問、野心的な性格、そして悲惨な最期。彼の一生を見て「悪魔と契約していた」とうわさが立つのは、もっともだったのかもしれません。そういった伝説がドイツでまことしやかに流れており、またその伝説を元に演劇や人形劇が公演され人気を博しました。

野心的で、強欲な者であれど、悪魔と契約するような倫理的に欠ける者は、悲惨な死を遂げる。当時はキリスト教が大きな力を持っており、その教えに逆らうものは戒めを受けるという意味でも、人々に伝えられていました。今でも野心家が力を得て、倫理的思考を失うことを「ファウスト的だ」とも表現します。

その人形劇で見たファウスト博士の物語に、並々ならぬ興味を抱いたのがゲーテでした。彼は若い頃からその伝説に影響を受け、積極的に調べ、取材し、コツコツとこの長大な戯曲を書き上げていったのでした。

『ファウスト』プロローグの内容とは?メフィスト登場!

 

プロローグは、ゲーテがこの作品を世に送るにあたり、心境を告白した「献辞」から始まります。ここも少し普通の小説とは違ったところですね。その後の「劇場の前戯」が終わればいよいよ本編、「天上の序曲」が始まります。
 

前述のように誘惑の悪魔メフィストフェレスは、神に賭けを持ちかけます。神から与えられた理性という能力を使いこなしている人間はいないとあざけるのです。そんな彼に神は「常に向上するもの」としてファウストの名を挙げます。

今はまだ混乱しているが、いずれは正しい道へと導くつもりだ、と神は言いますが、それを面白がったメフィストフェレスがこう提案します。

「では、そのファウストの魂を悪の道へ引きずりこめるかどうか、賭けませんか」と。神は「人間は努力するかぎり迷うものだ」とだけ答えてその賭けに乗ります。

こうしてメフィストフェレスは人間界へ降り立ち、ファウストをまんまと誘惑していくのです。

 

『ファウスト』第一部の内容を解説!

 

第一部では、メフィストフェレスとファウストが出会います。学問に傾倒してきたファウストでしたが、どんなに学んでも結局何もわからない、と悲観し自殺を思い立ちます。しかし復活祭の鐘の音を聞いて感動した彼は、自殺を思いとどまるのです。

そんなときに近づいてきたのが、メフィストフェレスでした。

死後、魂を悪魔に渡すことを条件に、全ての欲望を叶えるという提案にファウストは乗ります。死後の世界になどまったく興味はなかったからです。「時よ止まれ 汝は美しい」という台詞を言えば、ただちに魂を貰い受けるという契約でした。

若返り20代の青年になった彼は、町娘のグレートヒェンと恋に落ちます。メフィストフェレスの手伝いもあり、あの手この手を張り巡らせて彼女と恋仲になりますが、彼女は逢引するために母親に飲ませようとした睡眠薬の量を間違ってしまい、母親を死なせてしまうのです。

彼女の兄は、妹に近づいている男と、悪魔の存在に気づいて決闘を申し込みます。しかし、メフィストフェレスの手によって、彼は殺されてしまうのでした。

気晴らしにとメフィストフェレスに誘われ、魔女の祭典「ワルプルギスの夜」に現を抜かしていたファウストは、グレートヒェンに危機が迫っていることに気づきます。なんと、彼女は精神状態が悪化し、彼との間にできた子どもを自ら殺してしまっていました。そして、その罪で牢屋に入れられてしまったのです。

どうにか助けようと画策するファウストでしたが、結局、彼女は命を落としてしまうのでした。

真に愛した彼女を失い、絶望したファウスト。そんな彼をつれて、メフィストフェレスはどこかへ消えてしまいました。

メフィストフェレスは、グレートヒェンと幸せな日々を送らせることで人生に満足させ、「時よ止まれ」といわせたかったのですが、今回は失敗に終わってしまったのです。

 

『ファウスト』第二部の内容を解説!

 

絶望状態で眠っていたファウストは、アルプスの山中で生きる活力を取り戻します。

神聖ローマ皇帝に仕え、国家再建に精を出すのです。そのなかで、ギリシャ神話の美女、ヘレネーに心を奪われた彼は、なんと時空を超えてギリシャ神話時代に降り立ちます。なんとも都合のよい話です。

ギリシャ神話の世界で彼女をよみがえらせた彼は、彼女と結婚し、幸せに暮らします。今度は息子までもうけ、今度こそメフィストフェレスの思惑通りかと思われました。

しかし、自分に似て血気盛んだった息子は、若くして亡くなってしまいます。失望しながら現実世界へ帰りますが、ローマ皇帝に手を貸し、メフィストフェレスの魔力によって戦に勝利。その褒美に領地を譲り受けることになりました。

その土地を発展させようと干拓事業に乗り出すファウストでしたが、立ち退きを要求していた老夫婦を誤って殺害してしまうのです。その報いとして、「憂い」の霊に息を吹きかけられた彼は、なんと失明。死を目前にしてしまうのでした。

 

『ファウスト』の結末をネタバレ解説!最後はどうなる?

 

このままでも死ぬだろう、そう思ったメフィストフェレスは手下とともにファウストの墓を掘らせます。そのツルハシの音は、目が見えないファウストにも聞こえてきました。

しかし彼は、その音を人々が開拓工事をしている音だと思い、この美しい領地が多くの人を幸せすると感じます。そのことに、このうえない喜びを感じた彼は、あの台詞を言ってしまうのです――。

「時よ止まれ 汝は美しい」
(『ファウスト』より引用)

そして、彼は絶命。メフィストフェレスが魂を狙いにいきます。しかし、そんな彼の魂を待っていたのは別の結末だったのです。一体どんなラストを迎えるのか、ぜひご自身の目でお確かめください。

人間の幸せとはいったいなんなのでしょうか?彼を見ていると、欲望を叶え続けることが幸せといえたのかどうか、わかりません。

どんなに悪人でも、最後は救済されるということを感じられる『ファウスト』の結末。誰かを想うこと、他人を想うことが人生には必要である。そういったことも表現されているのかもしれませんね。

『ファウスト』の名言を紹介!

 

1番代表的で、作品のキーワードともいえるのが、先ほどもお伝えした、この名言。

「時よ止まれ 汝は美しい」
(『ファウスト』より引用)

ファウストと、メフィストフェレスとの間に、「メフィストフェレスと契約すれば、あらゆる欲望はかなえられる。全ての体験ができる。しかし、あの世であったときは(つまり死んだときは)ファウストがメフィストフェレスの奴隷のように従う」という契約が交わされます。

あの世というものにまったく興味がなかったファウストは、二つ返事で了承。そして、「時よ止まれ 汝は美しい」という言葉を口にすれば、魂はメフィストフェレスのものになる。そういう契約だったのです。

この言葉の意味とは、なんだったのでしょう?

時というのは常に過ぎ去っていくもの。その時に対して、「止まれ」ということは、「今が1番最良の時だ」ということを表しているのではないでしょうか。つまり、人生にこれ以上の悔いはない。そう思った時にファウストがこの台詞を口にするよう、メフィストフェレスは考えていたのかもしれません。

 

森鴎外が翻訳!

著者
森 鴎外
出版日
1996-02-22

 

さて、非常に美しい韻文で書かれた本作ですが、日本では森鴎外が初めて翻訳しています。彼の翻訳……というと難しい文語体での文章を思い浮かべがちですが、実際は、(この時代にしては)読みやすい言葉で翻訳されています。

意識してそうしたのではなく、ごくごく自然に翻訳すると、そのような文章になったのだそう。古めかしい言葉で格調が生まれる、とは思わなかったようですね。

ドイツにも長く住み、ゲーテと同じようにさまざまな学問に精通した彼は、この作品の素晴らしさをぜひ日本へ、と思い翻訳。その思いがこもった一冊は、現代でも読みやすい、翻訳版ファウストの代表作といえるでしょう。

 

手塚治虫が描いた漫画版もおすすめ!

漫画の神様、手塚治虫もファウストを描いています。小説がちょっと入りづらい、という人はこちらから見てみるといいかもしれません。

著者
手塚 治虫
出版日
1994-03-01

それぞれのキャラはかわいらしくデフォルメされており、メフィストフェレスは表紙にあるように、黒いプードルの姿をしています。

二部構成の原作を、1本のストーリーにまとめています。設定などは大きく変わっていますがストーリーがしっかりしており、その手法は見事といわざるを得ません。あくまでもゲーテが書いた原作を元に、子供でも読める漫画作品といったようなイメージに仕上がっているのです。

また、実は手塚治虫はこのあとも2回ほど本作を元に漫画を描いています。それが『百物語』と『ネオ・ファウスト』です。『百物語』は原作の物語を、舞台・人ともに戦国時代の日本に変えて描かれています。ギリシャ神話などが全て日本の妖怪などに置き換えられているので、日本人にはとっつきやすいかもしれません。

『ネオ・ファウスト』は現代(つまり手塚治虫が生きていた当時)を舞台に描かれています。主人公はメフィストフェレスと契約して、時をさかのぼり活躍します。しかし多くの名声を手に入れながら、胃がんになって命を落としてしまうのです。

これを描いている途中で、手塚治虫は胃がんで亡くなってしまいます。最後に書いていた作品の主人公が胃がんで亡くなり、作者自身も胃がんで命を落とす。なんだか恐ろしい偶然です。

そして『ネオ・ファウスト』は今でも未完のまま……。どういった結末が考えられていたのか、それを想像するのも楽しいかもしれません。

『ファウスト』のテーマとは?ゲーテが伝えたかったことを考察!

 

さて、ゲーテが本作で伝えたかったことはなんだったのでしょうか?

ひとつには、全ての者にも神の救いはあるというキリスト教的考え方を伝えたかった、という見解。悪魔と契約して、欲望を満たすために死後は魂を引き渡すという犠牲まで払い、若さを取り戻して恋愛したり、ギリシャ世界まで飛んでいったりと、ファウストはさまざまなことをします。

もちろん、そのように自らの欲望を満たすためだけの行動、ましてや悪魔と契約するなどということは、キリスト教の考えからしたら重大な違反であることは明らかです。好き放題する彼ですが、最後は自らの欲望ではなく人々の発展を喜び、命をとられていきます。

そんな彼を意外な結末が待っているのですが、そこには、どんな悪人にも愛の手、救いの手は差し伸べられて救われる。そんな思いがこめられているのかもしれません。
 

著者
ヨハーン・ヴォルフガング ゲーテ
出版日
2004-05-01

 

一方そういったことではなく、単純に人生の意味をテーマとしている、という考え方もあります。

欲望にかられ悪魔と契約し、欲を満たしていても、また新たな欲が湧いてくる。それを満たしても満たしても、虚無感が襲って、それどころか際立ってくる。人間の欲というのはそういうもので、自分の欲望を満たしていても満足いく人生にはならないと本作で表現しているのです。

しかし、ファウストが最後に「これで死んでもいい、満足だ」と思った瞬間はどんなタイミングだったかというと、建築工事をしている音が聞こえてきたとき(実際には違ったわけであるが)です。

自分の理想とする国が、皆が主導となって出来上がっていく。そんな喜びを感じたときに彼はやっと人生に満足がいったわけです。本当の幸せや人生の意味とは、自分自身を考えるだけでなく、周囲の人々を思いやったときに得られる。それが『ファウスト』が伝えたい意味だという説もあります。

また、単純に意味などなく、あれだけの文章が韻文として出来上がっているのが美しく、それを整えるための物語だったという解釈もあるようです。

ゲーテが本当に伝えたかった内容を今知る由もありませんが、実際に読んでみてどう思うか?あなた自身で考えてみても面白いかもしれませんよ。

いかがだったでしょうか?『ファウスト』は文章量も多く、なかなか難解ですが、読みごたえがあります。内容も人によって解釈が異なるので、読んだ人同士で意見交換してみるのも面白いかもしれません。ぜひ、ご一読ください。

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