38歳のギタリストと、40歳のジャーナリストの恋模様を描いた大人のラブストーリーです。2人はどんな運命を迎えるのでしょうか。山あり谷ありの作品で、どんどん物語に引き込まれてしまいます。 この記事では、本作のあらすじから結末までを詳しく解説。ぜひ最後までご覧ください。
本作は毎日新聞と投稿サービス・noteで掲載されていた、大人のラブストーリーを題材にした作品。ラブストーリーではありますが、性的描写がほとんどないのが大きな特徴でもあります。発売1週間で重版がかかるほど、発行部数と売り上げを伸ばしました。
主人公である蒔野聡史は、有名な天才クラシックギタリスト。彼の父もギタリストであったため、父の夢を背負う形で幼い頃からギターに触れて育ってきたのです。この彼のギターの音色の大ファンであったのが、小峰洋子です。彼女は彼のギターを聞いた瞬間に鳥肌がたち、一瞬のうちに大ファンになってしまいます。
この2人の恋物語を描いている『マチネの終わりに』。大人の恋愛だけあって、すんなりとハッピーエンドとはなりません。
- 著者
- 平野 啓一郎
- 出版日
- 2016-04-09
この物語の魅力は、なんとももどかしい点にあります。読み進めていくと、なんでこの場でそんなことを言うのかとか、なんでそこでそういう行動に出るんだなどと思う場面が多々あります。しかしそんな2人を見ていると、どんどん物語に引き込まれてしまうのです。
それぐらい本作は、時間を忘れて物語の世界の一部になれるような作品となっています。2人の恋はどこに向かっていくのでしょうか。
本作は主演・福山雅治、石田ゆり子で映画化が決まっています。福山雅治はギタリストである聡史を演じ、石田ゆり子は洋子を演じます。本はもちろんですが、ぜひ映画もチェクしてみてください。
- 著者
- 平野 啓一郎
- 出版日
平野啓一郎は、愛知県出身の小説家。京都大学出身で、高校時代に処女長編作品を執筆しています。23歳のときには当時最年少で『日蝕』という作品で芥川賞を受賞しています。デビュー当時はその文才から三島由紀夫の再来と言われ、華々しくデビューしました。
その他にも、三島由紀夫賞の選考委員に最年少で就任したり、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞するなど、一流の小説家として華々しく活動されています。
ここでは、それぞれの登場人物について少しご紹介します。
ヒロインの洋子を描く際に参考にしたモデルの方がいたようなのですが、具体的な人物は明らかになっていません。そんな彼女はとても聡明でもあったのですが、複雑な家庭で育ったという生い立ちもありました。
母が戦争の被爆者であり、父はクロアチア人。ヨーロッパ難民同士の結婚はそんなに珍しいことではなく、平野さんはそういったことも物語に含めたかったようです。そのため、洋子はイラクに行き、戦争を体験しています。
彼女はイラクで、あと少しのところで爆死していたかもしれない命の危機にさらされました。このストーリーの背景には、東日本大震災のこともあったようです。
もちろんメインテーマは大人のラブストーリーではありますが、人間の奧ゆかさや命の尊さ、そして戦争が人にもたらす危険といった隠されたテーマも多くあるように考察することができます。
作品のタイトルである「マチネ」とは、フランス語で昼公演という意味のようです。ちなみに夜公演は、ソワレといいます。
聡史と洋子の恋物語は、ようやく昼公演が終わったと解釈することができます。つまり、夜公演があるということです。作品中に、それらしき場面は描かれていません。ソワレは読者の想像にお任せするといった感じでしょうか。
夜公演の第二幕は、読み終わった人にだけ開演します。ぜひご自身だけの『ソワレの終わりに』を、頭の中で作ってみるのはいかがでしょうか。
作中には、有名は曲が多く出てきます。ジュリアン・ブルームと、ジョン・ウィリアムスの編曲によるドビュッシーの『月の光』や、ブローウェルの『トリプティコ』、ピアソラの『タンゴ組曲』など、ギターファンに馴染みのある曲が多く登場。
他にもトッド・ラングレンの『ア・ドリーム・ゴウズ・オン・フォーエバー』のようなポップスまで、登場する曲は実に幅広いです。音楽ファンにはたまらないのではないでしょうか。
また本作に登場する曲目を、世界的ギタリストである福田進一さんが演奏したCDも発売されています。選曲には著者である平野さんも関わっているのだとか。
このCDのボーナストラックには、『幸福の硬貨』という曲が入っています。これは、洋子に捧げる曲となっているよう。なんとも愛が感じられる一曲です。
本作に登場する名言を、簡単にご紹介します。
「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでる。
だけど、実際は、未来は常に過去を変えてるんです。
変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。
過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃないんですか?」
(『マチネの終わりに』より引用)
この作品では、大人になって歳を重ねた分、過去を持っており、それに後ろ髪を惹かれる2人を描いています。本作は「過去」がキーワードとも言えるのです。
過去は本当に変えられるのでしょうか。結論として、実際に過去に起きた事実は変えることができません。しかし、起きた事実に対する捉え方は変えることができると言っているのです。
たとえば、Aという事実が起こったとき、それを悪いことだと捉えていたとします。時がたち、Aという事実とあらためて向き合った時に、別の見方を発見できて良いことだと感じることができたというような体験は、誰にもあるのではないでしょうか。
良くも悪くも、過去の結果が現在です。そして人は忘れる生き物であり、見たいものしか見られていないのが現実です。この忘れるという仕組みをうまく利用することができれば、過去は全て良きものに変わる可能性があるのかもしれませんね。
- 著者
- 平野 啓一郎
- 出版日
- 2016-04-09
この作品を読み始めた当初は、誰もが2人は結婚して万事うまくいくハッピーエンドを想像すると思うかもしれません。しかし、実際は違います。2人は結局別々の人と結婚をし、やがて子どもを授かるのです。
2人はそれでいい、その人生でいいと自分自身に言い聞かせます。そのように自分に言い聞かせ、嘘をついて生きていました。そして2人は再会することもなく、そのまま時はどんどん過ぎていくのです。
しかし、お互いがお互いに対する気持ちを消すことは結局できませんでした。
果たして2人は再会することができるのでしょうか。2人の運命はどうなってしまうのでしょうか。気になる方は、ぜひ本編でお確かめください。
その結末は、まさに「美しい大人の恋愛」。切なく、苦しくなりながらも読了後は何か満たされたものを感じることでしょう。