もしも大都市での地震に遭遇してしまったら……そんな誰もが一度は考えてしまう恐ろしい事態をリアルに描いた作品。首都東京を舞台に、大地震に見舞われた際の人々が何を考え、どう行動するのかを想定。実際の震災で起こった被害への対策などを交えながら描かれています。今回はそんな本作の魅力を全巻ネタバレ紹介していきましょう。 スマホアプリから無料で読めるので、ぜひそちらもご利用ください。
ここからは、各巻のあらすじと見所についてご紹介していきます。まずは首都直下型の大地震に見舞われ、東京が壊滅する第1巻です。
- 著者
- 古屋 兎丸
- 出版日
- 2006-09-09
物語は東京のお台場から始まります。主人公の大学生・三島ジンは就活のためにお台場を訪れていました。そこで偶然出会ったゴスロリファッションの同級生、本作のヒロイン・岡野なな子。彼女は自分が追っかけをしているバンドを、ライブ目的でお台場に来ていたのでした。
そんな2人は久々の再開に戸惑いながらも、お互いの現状を確認し合います。しかし、それぞれの価値観が食い違った事で、あえなく喧嘩別れとなるか……といったところで、なんと被災してしまう事になるのです。
そして本震が収まった時に2人が見たのは、すでに倒壊した建物や、液状化で歩くのもままならなくなってしまったお台場の姿でした。突然の出来事に呆然とする2人でしたが、いつまでも立ち尽くしているわけにもいかず、一歩ずつ震災に遭った街に踏み出していきます。
お台場では倒壊した建物の中には取り残された人々がおり、怪我人や死人で溢れかえっていました。そんな状況を見たジンはいてもたってもいられず、被災者の救助をおこなおうと倒壊した建物の中に踏み込んでいきます。
しかし、そこにあったのは彼が想像していた以上の凄惨な光景。まさに「地獄」を彷彿とさせるものでした。人々を助けようと必死にもがくなかで、彼は多くの人達の死を目の当たりにすることになります。
一方なな子は、そんな彼のように役立つことの出来ない自分に無力感を募らせていました。果たして彼らは無事に震災から生還する事が出来るのでしょうか。
そんな本巻の見所は、ジンが被災した人々を助けるために奮闘するシーンです。倒壊した建物の中にいる被災者たちの描写が凄惨で、読んでいるだけなのに緊迫感と絶望感に苛まれてしまいます。
そして、この時の様子をしっかりと覚えてしまったジンは、作中で何度もその光景がフラッシュバックすることになってしまうのです。彼をとおして、読者にも強烈なインパクトを与える場面なので、本作の雰囲気を掴むためには最良の魅せ方といえるのではないでしょうか。
1巻から引き続き、震災後のお台場から脱出を目指す第2巻です。
- 著者
- 古屋 兎丸
- 出版日
- 2006-12-09
お台場から脱出を試みようとするジンとなな子でしたが、その最中に1人の男性と出会います。カズオと名乗るその男性はなんと、なな子が追っかけをしていたバンドのギタリスト「カオス」だったのでした。
ギタリストとしての顔とは違い、気さくで訛りの酷い喋り方が特徴の彼でしたが、その歌声で被災した人々を勇気づけるなど、かなりのナイスガイ。
そんな明るい彼でしたが、内面では婚約者が死んだことを受け入れきれず、その亡骸を抱えたままお台場を脱出しようと考えていたのでした。しかし脱出する際に、事故によって転落した婚約者の亡骸を追って、自らもその身を投げてしまうのです。
悲しみに打ち震えるジンとなな子ですが、それでも歩みを止めず、お台場を脱出します。
そんななかで出会ったのが、ギャル系の見た目で押しの強い女性・澤田リカ(さわだりか)です。彼女もまた電車で帰宅途中に被災し、電車が脱線してしまった事から1人で途方に暮れていたのでした。
ジンに対しても物怖じせずに話しかける彼女に対し、なんだか心中が穏やかではないなな子。3人の道中はやや不穏な気配に包まれています。
そんな本巻の見所は、やはりカズオとの別れのシーンでしょう。とにかく前向きで頼もしかった存在である彼が、心の拠り所としていた婚約者が離れていってしまう事に耐えられず、絶叫しながら後を追ってしまいます。
これまでジンとなな子を含めた被災者達を精神的に支えていた彼の悲哀が感じられ、思わず涙しそうになってしまうことでしょう。ジン達の心にも間違いなく残った男の最期は必見です。
リカと出会い、3人で被災地からの脱出を目指す第3巻です。
- 著者
- 古屋 兎丸
- 出版日
- 2007-03-09
本巻ではリカが加わったことで、積極的に情報収集や食料調達に動くことが出来るようになりました。加えて、最初はぎこちなかったリカとなな子の関係も少しずつ改善していき、いつしか友人同士のような間柄へと変化していきます。
そんななか、舞台は六本木へ。リカは勝手知ったる六本木だと喜びました。しかし、そんな折にジンがこれまでの被災地の映像がフラッシュバックし、被災者達を救えなかった自責の念でPTSD(心的外傷後ストレス障害。震災や戦争などの強い体験が原因で日常生活に支障をきたすこと)のような症状を発症して倒れてしまいます。
そんな彼をなんとか手助けしようと、リカは単身で食料調達に出かけることにしました。しかし、その調達先で、彼女は食料を餌に複数の男達によって強姦されてしまうのです。
ひとまず体調が回復したジンと、看病していたなな子の前に戻ってきた彼女でしたが、気丈に振舞いきれずに泣き出してしまいます。それでも持ち前の心の強さによって前を向き、この震災から助かるために生きていく事を心に決めたのでした。
そんな本巻の見所は、リカが強姦されてからジン達とともに生き残ろうとあらためて決意するまでの、一連の場面です。震災で実際に起こった事象として、女性のレイプ被害などを取り上げつつ、その注意を喚起しています。
またリカの衝撃的な描写から、それでも前を向いて生き続けようとする強い意志を描くことで、生き抜くことの大切さを感じさせてくれる大事なシーンだといえるでしょう。
舞台が渋谷に移動する第4巻です。
- 著者
- 古屋 兎丸
- 出版日
- 2007-06-08
リカのレイプ被害もあって、どんどんボロボロになっていく主人公一行。しかし、それでも歩みは止めずに、いよいよ渋谷駅前にやってくることになります。そこで迷子の女の子・まりんと出会い、成り行きで彼女を保護することになりました。
そして渋谷では、駅前を根城にしていたチーマー達に襲撃され、ジンと他の一行が離れ離れになってしまう事に。
しかもそのあとジンは、これまでのトラウマから心が弱くなっていたところを、カルト宗教の勧誘に引っかかってしまうのでした。対する女性陣は、女性達が力を合わせて籠城を続けているマルキューに身を寄せ、災害用伝言版を使って、ジンに呼びかけを続ける事にします。
そんななかチーマー達が決起した事で、渋谷駅前で暴動が発生。果たして、ジンと女性陣は、無事に渋谷を抜け出すことが出来るのでしょうか。
そんな本巻の見所は、ジンがトラウマを振り切り、再び立ち上がるシーンです。災害用伝言版のなな子からのメッセージを読んで、本当に大事な人を守るという気持ちを思い出した彼は、暴動から女性陣を守るために走り出します。
倒れてからあまりいいところのなかった彼ですが、ここからは主人公として相応しい活躍を見せてくれるのです。男としてはこうありたい!と感じさせてくれる、情熱的なシーンではないでしょうか。
いよいよクライマックスの第5巻です。
- 著者
- 古屋 兎丸
- 出版日
- 2007-09-08
最終巻である本巻では、渋谷で起こった暴動から女性陣を救おうと、ジンが奮闘するシーンが中心となっています。
暴動が鎮圧するまでの一連が描かれているのですが、そこで重要となるのが、出産を控えた妊婦の存在です。
彼女とお腹の子供の存在が、渋谷での暴動に対して大きな影響を与える事になります。そして、渋谷での暴動が鎮圧されて一息ついたところで、リカの彼氏が彼女を心配して迎えに来るのです。これまで一緒に行動してきた彼女と別れたジンとなな子は、まりんを連れて新宿へと向かう事になります。
これまでの波乱から、さらに治安が悪いと予想される新宿に行く事に、不安を隠せないジン。そんな彼らが目にしたのは、暴力団による災害支援として催された、まるでお祭りのような出店の数々でした。
笑顔で出店の食べ物や、縁日遊びなどを楽しむ人々の姿と、お祭りを楽しむなな子とまりんを見て、ジンは人間が思ったより弱くないと立ち直る事が出来たのでした。そして最終回では、その5年後の世界で暮らすジン達の姿が描かれています。
そんな本巻の見所は、やはり最終回でのラストシーンに向けた描写でしょう。詳細はご自身の目で確かめて頂ければと思いますが、震災を乗り越えて生きていく人々の強さに触れる事で、毎日を生きていく気力をもらえるラストシーンとなっています。
日常の有難みを知る事も出来ますので、ぜひご一読ください。