市川拓司のおすすめ文庫小説ランキングベスト6!幻想的な純愛を切なく描く

更新:2021.12.16

デビュー作から映像化されて、注目され続ける市川拓司。カジュアルな華やかさをイメージするかもしれませんが、筆致は繊細で純粋です。そんな市川拓司のおすすめ小説を6作ご紹介します。

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ネット小説からはじまった市川拓司

市川拓司は1962年東京都生まれの作家です。小学校までを府中市で過ごし、中学生のときに埼玉県へ移住し、以降、県内で暮らしました。埼玉県立与野高等学校、獨協大学経済学部経済学科を卒業。出版社に就職しましたが、3ヶ月で退職し、バイクで日本一周の旅に出ました。

2年間のフリーター生活の後、税理士事務所に14年にわたって勤務していた頃に、市川拓司は奥さんのために小説を書きはじめ、1997年からインターネットで多数の作品を発表していました。ミステリー作家を目指していたこともあり、サントリーミステリー大賞、鮎川哲也賞、創元推理短編賞に応募した経験があるそうです。

市川拓司はジョン・アーヴィング、イアン・マキューアンなどの影響を受け、作品はほぼ「愛」がベースになっていますが、「死」ももうひとつのテーマとしています。

作風は、ホラーやサスペンス色もありますが、SF・ファンタジー的な要素をもっとも好んでいるようです。

また、市川拓司自身が発達障害(自閉症スペクトラム)であることを公表しており、著作には『ぼくが発達障害だからできたこと』もあります。

6位:覚えていてね、忘れないでね

「白い家」「スワンボートのシンドバッド」「ぼくらは夜にしか会わなかった(赤道儀室の幽霊改題)」「花の呟き」「夜の燕」「いまひとたび、あの微笑みに」の6本が収録された美しく静かな純愛小説集です。その中から表題作をご紹介します。

天文台の赤道儀室で幽霊を見たと言う早川美沙子と、ぼくらは夜の雑木林へ出かけますが、幽霊は現れませんでした。美沙子は目立ちたがり屋の嘘つきと呼ばれ、学校で浮いてしまうようになります。怯えて、ぎこちなく微笑む彼女に、ぼくは心から笑ってほしくて、ある嘘をついて……。

切なくなるようなはじめての恋を描いた秀作です。

著者
市川 拓司
出版日
2014-07-24

市川拓司は長編も短編もファンタジーな色彩を強くもっていますが、やはり土台にあるのは「愛」なのだなとしみじみ感じました。

ちなみに、この短編集の出版社公式サイトではそれぞれの短編のプロモーションビデオや朗読がアップされています。特にプロモーションビデオの音楽は市川拓司本人によるものなので必聴ですよ。小説を読んでから、または読みながら聴くと、より世界観にはまれます。是非両方を楽しんでほしいと思います。

5位:デビュー作にして映像化!

同級生だった悟と裕子は、親の反対を押し切って結婚。幸せに暮らしていたのですが、裕子の身体に異変が現れはじめ、次第に背丈が小さくなっていってしまいます。原因がわからないまま、奇妙な若返り現象は進行し、ふたりは徐々に孤立していきます。

寄り添うように生きるふたりは、待ち受ける悲しい結末へと向かっていくことになり……。

著者
市川 拓司
出版日

逆らえない「時の逆転現象」の中で、ふたりだけの閉ざされた世界での純愛の形が切なく、かつファンタジックに描かれています。事件が起こるわけでもなく、淡々と過ぎていく日々。メリハリのある作品ではありませんが、だからこそふたりの愛情の切なさが沁み込むのかもしれません。

静かに感動したいときに、そっと読んでみていただきたい市川拓司の作品です。

4位:水の向こうに13歳の記憶

小さなアクアプランツ店「トラッシュ」を経営している遠山智史のもとへ、ある夜、森川鈴音と名乗る美しい女性が現れ、店先に貼ってあった「アルバイト募集、年齢性別不問。水辺の生き物を愛する方ならどなたでも」というチラシを手に、行くあてがないからアルバイトとして雇って店に住まわせてくれるように頼みます。智史は怪しく思いつつも、彼女に懐かしさのようなものを感じて断りませんでした。

一方、智史は結婚紹介所で知り合った女性ともデートを重ねており、そのたびに13歳のときに知り合った、はじめての友達の出会いから別れまでについて話すのでした。女性が苦手なはずの智史が話すそのときばかりは、13歳に戻ったかのように活き活きとしていました。

そんな中、智史は鈴音が13歳のときに出会った友達・滝川花梨だと気づき……。

著者
市川 拓司
出版日
2007-04-06

市川拓司が愛する映画『ノッティングヒルの恋人』のオマージュではじまるファンタジックな青春ラブ・ストーリーです。水とアクアプランツの美しさと、初恋の女性との切ない交流が胸に響きます。涙が止まらないというより、今を大切にしなきゃいけないと実感させられます。それは、市川拓司が本当に描きたかった、伝えたかった思いだったのかもしれません。

大切で、失くしたくない人が近くにいる方。市川拓司の作品の中でも、絶対に読んでほしい1冊です。

3位:市川拓司の描く風変わりな恋

『ねえ、委員長』は表題作含む3編の物語が収録されています。

「Your song」の主役は、歌うことが好きな変わり者の転校生祐希と走ることが得意な”わたし”です。祐希に走り方を教えることになったわたしでしたがどんどん祐希に惹かれていき……。

「泥棒の娘」の主人公は風変わりな女の子に恋をした“僕”。周りの人間から仲間はずれにされている彼女。そこで僕は「君は1人じゃない」という手紙を彼女の席に忍ばせます。

「ねえ、委員長」は成績優秀な私と落ちこぼれの鹿山の物語。私のすすめで鹿山は小説を書くことになります。周りの人たちに反対される2人の恋の行方はどうなるのでしょうか。

どの作品も少女漫画並みにときめく恋物語です。学生たちの話ですが、甘酸っぱく切なく、そしてこんな純粋な恋がしたい、と思わせてくれるような話ばかり。

著者
市川 拓司
出版日
2014-04-10

3編とも主人公が恋をするのは周りから変わり者扱いされている人たちです。歌が好きで自由な転校生だったり、絵が上手でいつもラッパを持っている女の子だったり、家庭環境が複雑な落ちこぼれだったり。ですが、それらは見る人が見ればその人の才能や魅力であるということを気づかせてくれます。

とてもピュアな物語たちです。切なさもあり、読んだあとは心が温かくなるものばかりです。ぜひご一読ください。

2位:涙なしではページをめくれない

最愛の妻・澪が亡くなって一年。身体にさまざまな不具合を抱えた秋穂巧は、町の小さな司法書士事務所に勤め、6歳になるひとり息子の佑司とひっそりと暮らしていました。生前の澪が残した「一年たったら、雨の季節にまた戻って来るから」という言葉を気にしていたふたりは、再びめぐってきた雨の季節、その週末に、散歩に出かけた町はずれの森で死んだはずの澪に再会しました。

ですが、その時再開した澪は、すべての記憶をなくしていて……。

著者
市川 拓司
出版日
2007-11-06

悲しい未来につながるとわかっていても、もう一度会いたかった大切な人。そして、その人にむかって発せられる言葉――「愛してる」――そこには深く強く優しい決意が込められていました。切ないけれど、とても前向きになれる純愛と再生の物語です。

読んで、思いきり泣いたら、大切な人と話をしたくなります。過去もいまも未来も一緒にいられるように。

作品は、市川拓司自身の病気体験がもとになっていて、奥さんとの恋愛やバイク旅行など、彼の実際の生活で起こったエッセンスが散りばめられています。発売時、ベストセラー小説『世界の中心で愛をさけぶ』に折り込みチラシとして挿入されたことがきっかけで大ヒットしたのだそうです。

市川拓司の作品をお得に読む

1位:生涯ただ一度のキス、ただ一度の恋

カメラマン志望の大学生・瀬川誠人は、嘘つきで謎めいた女の子・里中静流と知り合い、奥手だったはずなのに、静流とは自然にうちとけることができました。そして、彼女は誠人に写真を習うようになります。

やがて、静流から想いを告げられますが、誠人にはずっと好きなひとがいて、受け取ることはできませんでした。

一年後、卒業を待たずに静流は姿を消してしまうのです。嘘つきでしょっちゅう誠人をからかっていた彼女は、最後の大きな嘘をついたままでした……。

著者
市川 拓司
出版日
2008-10-07

嘘つきな女の子の存在感がいとおしくて、切なくて、悲しくて、どうして幸せになれないんだろうと、読んでいるこちらが悔しくなってしまいます。それだけヒロイン静流が魅力的なのです。

純粋でひたむきな「愛」を描き続ける市川拓司。映像化作品が多いので、それぞれの違いを比べて楽しむのも素敵ですね。まだ読んだことがない作家の小説を探していたら、ぜひ市川拓司の作品を読んでみてください。

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