『アイネクライネナハトムジーク』を全編ネタバレ解説!伊坂幸太郎の名作小説

更新:2018.8.6

2014年に発売された、伊坂幸太郎のベストセラー。2015年に本屋大賞にノミネートされ、2019年9月には三浦春馬主演で映画が公開されることも決定してます。 実はこの作品、あるアーティストとの出会いがきっかけで生まれたことをご存知でしたか?そのエピソード、そして各章のあらすじを解説していきます!

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

『アイネクライネナハトムジーク』の作者・伊坂幸太郎について紹介!斉藤和義との交流がきっかけで生まれた小説?

まずは、著者について紹介をしていきましょう。伊坂幸太郎は1971年、千葉県生まれ。東北大学法学部を卒業後の2000年に『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞して、デビューします。

代表作は本屋大賞を受賞し、ベストセラーでもある『ゴールデンスランバー』でしょう。映画化もされたミステリーで、読んだことのある人も多いはず。彼はその他にも多くの賞を取り、独特の言葉選びや、作中でリンクしていく人間関係などが魅力の小説家です。

著者
伊坂 幸太郎
出版日
2014-09-26

ところで、本作はどうやって執筆されたかご存知でしょうか?

実はこの作品は、シンガーソングライターである斉藤和義が、伊坂に「作詞をしてもらえないか」と頼んだことがきっかけで執筆されたのです。依頼された伊坂は「作詞はできませんが、小説を書くことなら」と、1つのストーリーを書き上げました。

それが、本作の冒頭にある短編「アイネクライネ」です。

そして斉藤がその短編を読んで作った歌が、『ベリーベリーストロング~アイネクライネ~』なのです。読んでから聞くと、ああ、あのシーンか!と情景が浮かんできます。「出会い」をテーマにしている本作ですが、この曲もそのテーマが強く印象付けられる1曲です。

2019年9月に公開される映画『アイネクライネナハトムジーク』の主演は三浦春馬が務めます。また、キャストも続々と発表されており、ヒロインは多部未華子が演じます。その他にも、豪華俳優陣が名を連ねており、期待が高まります。

「アイネクライネ」のあらすじ、登場人物、魅力をネタバレ解説!出会いは誰にだって、どこでだって訪れる

 

6章からなる短編の、始まりの章です。

とある街頭アンケート。主人公の青年・佐藤くんは道行く人に声をかけて、アンケートシートに記入してくれる人を探していました。

アンケート調査なんて今時webで済むものですが、この調査には理由がありました。彼の先輩である藤間さんが、調査したデータを飛ばしてしまったのです。

藤間さんはいつもは冷静沈着で、堅実な仕事ぶりの先輩。しかし、ある日突然奥さんと子どもが家を出て行ってしまったため、うろたえ、あせった彼は大事なデータが入ったパソコンを蹴飛ばしてしまいました。幸運にもバックアップで9割方復旧したものの、見かけ上の責任を取るため、後輩である佐藤くんが街頭に立たされていたのです。

断られることが多いなか、とある女性が快くアンケートを記入してくれました。その女性の手の甲には「シャンプー」の文字。彼は、何気なく「シャンプー」とつぶやいてしまいます。

「今日、安いんですよ。忘れないように」と笑う彼女のカバンには、何かキャラクターもののストラップがついていました。少しの世間話をしたあと立ち去りますが、その後、街頭ビジョンに映るボクシングの試合に夢中になる彼女を再び見かけます。そして日本人が勝ったのを見届けた後、彼女も帰途につきました。

場面は変わって、大学の同期である織田夫妻のところを尋ねます。他愛のない話をしていると、ふと街頭アンケートの彼女がぶらさげていたキャラクターの人形があるのに気づきました。織田夫妻に彼女の話をすると「それって出会いじゃないの」と聞かれます。

佐藤くんは、もう会わないけどと言いつつ、そのキャラクターが出るDVDを借りて帰るのでした。

別の日。藤間さんが奥さんと連絡が取れたと、照れくさそうに話してくれました。佐藤くんはふと気になって、藤間さんと奥さんの出会いはなんだったのかと訪ねます。それは驚くほど偶然で、運命的なような出会いだったのです。

これが「アイネクライネ」のあらすじです。佐藤くんの「出会い」はどうなるのか、また、藤間さんはこれからどうなるのか。この短編集はそれぞれの出会いがテーマの物語ですが、ここで出てきた登場人物たちはこれ以降の章でもゆるやかにつながっていきます。

出会いは誰にでも、どこにでも、それが運命的でもそうでなくても現れるもの。この短編集の大きなひとつのテーマを、この章で感じさせてくれます。

「アイネクライネ」のなかに印象的な言葉があります。

自分の仕事が一番大変だ、と考えるような人間は好きではなかった
(『アイネクライネナハトムジーク』より引用)

 

 

アンケートを書いた彼女が「立ってる仕事って大変ですよね」とつぶやいたあと、佐藤くんは「もちろん、座りっぱなしもきっと大変だと思うけど」と言いながらこう考えました。

このフレーズは、斉藤和義さんの曲にも出てくるものです。日々、大変だと思うことはたくさんあれど、それが自分だけだなんて思うのは違う気がする。そんな彼の思いが伝わる一文ですね。

 

「ライトヘビー」のあらすじ、登場人物、魅力をネタバレ解説!電話だけの、不思議な物語

 

本章は、美奈子と香澄の会話から始まります。

美奈子は美容師、板橋香澄は2年ほど前から通うお客でした。会話は、店内に貼ってあるボクシングのポスターをきっかけに、格闘技はあまり好きでない、とか、ヘビー級とかライトヘビー級とか、ややこしいよね、というような他愛も無い内容。

スタイリングも終わりお会計になったとき、香澄は美奈子に提案をします。「彼氏がいないなら、うちの弟と電話してやってほしい」という、紹介のような提案でした。もちろん、乗り気でない美奈子は遠慮したいと話しますが、ある日の夜に、彼女の弟である学から電話がかかってきたのです。

どうやら、彼は彼で「美奈子が話があると言ってる」とだまされて電話をかけたよう。2人とも、香澄にうまくだまされたと思いながらも、電話で徐々に打ち解けていくのでした。

美奈子は、よく飲みに行く日高亮一と山田寛子に、学のことを報告していました。ただただ電話をするだけの関係に少しあきれながらも話を聞いてくれます。1回100円で占いのように、いろいろな曲のワンフレーズを流してくれる「斉藤さん」のところへ行ったりと、いつものように飲み終わって家路につくのでした。

その後も電話だけの関係は続きます。香澄がある日美容院へ訪れ、どうやら学が美奈子に告白するみたいだと伝えます。以前会話のきっかけにもなったポスターのボクシング選手は、次は世界チャンピオンに挑戦するようでした。そしてどうやら、その選手が勝ったら告白するらしいというのです。

そんな他力本願な……。美奈子は、告白されるのが嬉しいような複雑なような気持ちでした。そういうのはあまり気分はよくないと伝えましたが、結局試合当日は香澄の家で一緒に見届けることになったのです。

「ライトヘビー」は、美奈子の視点で話が進みます。もちろん、読んでいる側もその目線で話が進むので、途中で彼女と同じように、どこかで混乱するかもしれません。「あれ?どういうこと?」という不思議を彼女と一緒に感じながら結末を見届けてくださいね。

さて、「アイネクライネ」でアンケートの彼女が街頭でボクシングの試合を見ていました。実は、この話の試合が、そのTVで流れていたものだったんですね。こうして、物語が進むにつれてゆるやかに、あのシーンか!とつながりが見えてくるのが、本作の楽しみでもあります。

 

「ドクメンタ」のあらすじ、登場人物、魅力をネタバレ解説!鋏を片付ける。案外そういうことって大事

 

「ドクメンタ」は、ドイツで開催される、5年に1度の現代美術の展覧会。おそらく、「ドキュメント」という単語からきているのでしょう。記録とか、文書などという意味です。

この章は、そんな内容のふとした話から始まります。

この章の主人公は、「アイネクライネ」で奥さんと娘が出て行ってしまった藤間さん。奥さんとは運命的な、だけど恣意的な出会いをした彼でしたが、長い結婚生活で奥さんのほうが擦り切れてしまったのでした。

彼は、会社では細かいことに気のつく人でしたが、家ではとても大雑把。それに愛想を尽かし、奥さんは「ハサミを藤間さんがしまわなかった」という些細なことをきっかけに出て行ったのです。

そんな最中、彼は5年に1度の免許更新に出かけます。そこでふと、免許更新のたびに出会う女性のことを思い出したのです。彼女とは、10年前に免許センターで一緒になりました。誕生日が1日違いで、どうやら働いているためになかなか更新に来れず、その結果行くタイミングが重なるようでした。

10年前、彼女は子どもが生まれたばかり。更新期間最後の日曜だというのに、視力が落ちていてメガネが無く、半ば強引に藤間さんのメガネを借りて視力検査に挑みました。そこで少しだけお互いの話をし、別れたのです。

ところが5年前、再び同じ免許更新期間の最後の日曜日、彼女と再開します。彼女は夫と別居していました。原因は、彼女の大雑把でいい加減な性格に愛想をつかした、とのこと。このときは、藤間さんは「他人事と思えない」とは言いつつも、ここではまだ文字通り他人事でした。

彼の場合は「ハサミを片付けない」でしたが、彼女は「通帳の記帳をしない」ということがきっかけのようです。そんな話をしながら、その日も別れました。もうすぐ、また免許の更新の期限です。今年も会うかなあ、と思っていると娘から電話がかかってきます。

ちゃんとやっているかどうか、あれこれ生活について聞かれたあと、娘はこう言います。「記帳とかもちゃんとやってる?」それを聞いて、藤間さんは件の免許センターの彼女のことを思い出したのです。

さて、今年の免許更新。やはりまた彼女と会って、彼はその後どうなったのか彼女に確認します。彼女は離婚してしまったのでしょうか。それとも、きちんと復縁したのでしょうか。

夫婦の話ですが、恋人同士でも、小さないさかいの積み重ねはあるのではないでしょうか。5年に1度という定期的な間隔で、まさに定量的な記録のように「ドクメンタ」な出会いをする彼女から、藤間さんは大切なヒントをもらいます。

恋愛小説なのに、ちょっとしたミステリーのような、「はっ」と気づくような、そんな体験をさせてくれるストーリーです。大雑把な自分のせいでケンカをしがちな人は、読んでみると気づけることもあるかもしれませんよ。

免許更新を「ドクメンタ」になぞらえ、その出会いが自分たち夫婦の関係性を見直すきっかけになる。単純なロマンスの「出会い」でなく、こういう「出会い」も魅力的ですね。

 

「ルックスライク」のあらすじ、登場人物、魅力をネタバレ解説!2組の男女の関係性は?

 

本章はこれまでと違い、高校生と若い男女のストーリーが、交互に配置されていきます。

高校生は久留米和人と、織田美緒。そして、担任の深堀先生を中心に話が進みます。「looks like」と「just like」の違いを教える授業のシーン。和人は、父親に顔がそっくりだといわれ続けていたため、その例文を見るにつけうんざりしてしまいます。

「looks like」は見た目がそっくりである。「just like」は性格が似ている。そんな違いを解説し、次は若い男女のストーリーへと続きます。

若い男女は、笹塚朱美のファミレスのバイトの話から始まります。彼女は冒頭、年老いた客にクレームをつけられていました。何を言おうとも、延々と怒られてしまうループに入ってしまったのです。どうしよう、そう思ったときある若者が割って入りました。

「このお嬢さんが誰か知っているんですか?」「あの方のお嬢さんに、よくそんなに強くいえますね」といった内容です。

彼は、とっさに機転を利かし、彼女のお父さんが「危険な人」のような演技をして彼女を助けたのでした。そして朱美は、彼のおかげで助かりました。それがきっかけで2人は付き合うことになります。

一方、高校生の2人は、仙台駅の地下駐輪場の話をしていました。美緒がある日、ルールを守って停めていたのに違法駐輪のシールを貼られていることに気づきます。どうやら、違反金を払いたくない誰かが、罪をなすりつけているようなのです。

よく停めているのを見るから、という理由で犯人を一緒に捕まえてほしいと誘われる和人。それは実は、そっくりだといわれる彼の父親なのですが、結局彼女に付き合って犯人探しを手伝うことになるのです。
 

ひとつの章に、2組の男女の視点が交互に語られる形の「ルックスライク」。この高校生と若い男女の関係とは、なんなんでしょうか。またタイトルの「ルックスライク」は、いったい誰と誰が似ているのでしょうか。

最後の最後で、いろいろな関係や時系列がひとつにまとまる構成はさすがです。これも、「出会い」の偶然やつながりが楽しく読めますね。

ちなみに、織田という苗字に見覚えはないでしょうか?彼らと美緒がどういう関係かも、想像しながら読んでみてくださいね。

 

「メイクアップ」のあらすじ、登場人物、魅力をネタバレ解説!かつてのいじっめ子と遭遇!

 

化粧品会社で働く窪田結衣は、今は結婚もしている普通の主婦ですが、実はかつてはいじめられっ子でした。同僚の佳織とそんな思い出話をしているところから、本章は始まります。

1番ショックだったのは、学校行事の発表会。クラスで踊りを披露するのに、自分だけ変更になった曲と振り付けを教えられないまま本番を迎えたことでした。いじめっ子に意図的に仕組まれていたことだったため確認もできず、泣き寝入りをしたことを思い出すのです。

場面は変わり、彼女は上司の山田と打合せに入ります。そこでプレゼンにきていた広告会社の営業担当者の女性と名刺交換をするときに、彼女は息が止まりそうになりました。

そこにいたのは、かつてのいじめっ子だった小久保亜季。しかし当時と違って痩せてメイクもし、苗字まで変わっていた結衣のことに気づくそぶりはありません。彼女は気づきながらも、何も声をかけないまま初対面として話を進めます。

佳織にそのことを話すと「これは復讐のチャンスだ!」と楽しそうです。しかし、結衣はあまり乗り気でない様子。そんなとき、街中でたまたま亜季に再会し、合コンに誘われます。主人がいるからと断ろうとしますが、1人足りないからと半ば強引に参加させられてしまうのです。

その合コンで、亜季はお気に入りの男性を自分のものにしようと、結衣に偽情報を流します。旦那がいる彼女にとってはその合コンでどうなることもありませんでしたが、亜季は思惑通り男性といい感じになり――。

さて、これが「メイクアップ」のあらすじです。打って変わって、恋愛とは少し離れた「出会い」の話。いじめっ子だった同級生に思わぬ形で出会ったら、あなただったらどういう反応をするでしょうか。

「復讐だ!」と面白がる佳織とは違い、ぴんときていない結衣。こういうところに、もしかしたら旦那さんも惹かれたのかもしれませんね。亜季は結衣に気づくのでしょうか?また、その男性とはどうなるのでしょう。結衣の性格がよく現れるストーリーです。

 

「ナハトムジーク」のあらすじ、登場人物、魅力をネタバレ解説!

さて、ついに最後の章です。今までの総まとめといった感じでしょうか。

著者
伊坂 幸太郎
出版日
2014-09-26

 

この章は、全ての章を最後まで読んでからのほうが楽しく読めるでしょう。なので、あらすじは少しだけ。「現在」「19年前」「その10年後(つまり現在から9年前)」「9年前」という時間が設定されています。

美奈子の話、織田由美の話、佐藤くんの話、織田美緒の話、藤間さんの話、学の話、藤間さんの娘の話……。全てのストーリーが時系列上にゆるやかにつながっていくさまは、思わず鳥肌が立つほど素敵です。

あの人たちはどうなったのか?あのストーリーは一体いつの話だったのか?それが、美奈子と学の話を中心に語られていきます。全ての章を読み進めてから、ぜひこの章ですっきりした読後を味わってほしいですね。

では最後に、「ナハトムジーク」での名言を紹介していきましょう。

昔のものが全部悪いってわけじゃない。いいものもあれば悪いものもある。
現代の流行や常識にだって、いいものと悪いものがある。
(『アイネクライネナハトムジーク』より引用)

藤間さんの言葉です。もちろん、言葉通りにもとらえることができますが、「昔のもの」は、関係性や出会いもそうですよね。たとえば「メイクアップ」の結衣と亜季の出会いも、もしかしたら「悪いもの」ではなかったのかもしれません。

親になるのに資格試験がない、というのが恐ろしい
(『アイネクライネナハトムジーク』より引用)

織田美緒の台詞です。資格試験があったら、世の中立派な人だらけになるんですけどね。どれだけの悪人やだらしの無い人も親になれてしまいます。もしかしたら藤間さんや免許センターで出会った女性も、愛想を付かされて出ていかれることもなかったのかもしれません。

 

いかがだったでしょうか?本文で書いた以外にも、作中に「このシーンは、ここなのでは?」「これは、あの章に出てきた人では?」という伏線がたくさん張られています。伊坂さんの作品は、それらを探しながら読むのも楽しみのひとつです。ぜひ、手にとってみてくださいね。