クリスマスの時期が近くなると、本屋さんでは絵本や小説など、クリスマスを題材にしたものが並びますね。そのなかでもっとも有名なのが本作です。何度も映画化され、クリスマスの定番ともいえるこの物語は、そのロマンチックな響きの題名からは想像しにくい意地悪でケチなおじいさんが主役。「スクルージ」という彼の名前を世界的に有名にした本作の魅力を解明してみましょう。
教訓的な内容ともいえそうな、本作のあらすじをたどってみましょう。
ロンドンの下町で商売をしているスクルージは、強欲で、エゴイストで、ケチで、思いやりのカケラもない人物として嫌われていました。慈善的な寄付なんていうのはもっての他、7年前に亡くなった共同経営者のマーレイの葬式から、副葬品であるお金を持ち去るほどの強欲ぶりでした。
そのマーレイの幽霊が、クリスマスの前日の夜スクルージの前に現れます。そして、なぜか鎖でがんじがらめになった姿で「金銭欲にまみれた人間にどんな悲惨な運命が待っているか」ということを教えるのです。そしてスクルージの生き方を変えるため、3人の幽霊が今から姿を現すということを言い残していきます。
3人の幽霊は、それぞれ「過去」「現在」「未来」の精霊としてスクルージの前に順番に姿を現しました。そして彼に関係するさまざまな光景を見せるのです。それは彼が忘れていたこと、思い出したくないこと、見たくもないことばかりでした。
目の前に現れる光景に心を揺さぶられ、疲れ切った彼は、未来の精霊が見せた最後の場面に衝撃を受けるのです。
- 著者
- ディケンズ
- 出版日
- 2011-12-02
本作はとてもシンプルで、分かりやすいストーリーなので、子供たちにも理解しやすい物語でしょう。『クリスマス・キャロル』とは、元々クリスマス・イヴに歌われる歌のこと。キリストの生誕を祝うストーリーが入れ込められており、宗教的な意味合いが濃い賛美歌を指していました。
しかし古くは、キャロルとはお祝いの歌として一般民衆が歌ったものだったとか。今ではジングルベルなど、クリスマスにちなんだ歌全般を呼ぶ言葉になっているようです。
この物語の冒頭は、スクルージがクリスマス・キャロルを歌いにきた少年たちの寄付を渋るところから始まります。本作、そして彼という人物の象徴的な場面ともいえますね。
そんな『クリスマス・キャロル』は何度も映画化されています。1970年には、ミュージカル映画としても上映。また1984年にはクライブ・ドナー監督によって、豪華キャストでの映画化が実現しました。
ディズニーもアニメ映画を手がけています。後にドナルド・ダックの叔父としてキャラクターが定着するスクルージおじさんは、この映画から登場したキャラクターです。ドナルドは甥として登場し、ミッキーたちディズニーキャラクターたちも、それぞれの役をもらって出演しています。
2009年にはCGを駆使して、再びディズニーが映画化に試みました。監督は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のロバート・ゼメキス監督です。
1800年代の、ヴィクトリア時代のイギリスを代表する作家。元は新聞記者で、弱者の立場から社会を風刺する小説を多く書いています。イギリスでは国民的作家であり、紙幣の柄にもなっていました。
そんな彼の名を世界に知らしめたのは、やはり『クリスマス・キャロル』でした。
彼は58歳で死去しますが、その墓碑には「故人は貧しき者、苦しめる者、そして虐げられた者の共感者であった。その死により、世界から英国の最も偉大な作家の1人が失われた」と記されています。
ここでは、それぞれの登場人物の性格などを紹介していきます。
過去、現在、未来の幽霊たちはそれぞれ何を見せて、何を伝えにやってきたのでしょうか。
過去の幽霊は、スクルージが忘れていた昔の記憶を甦らせます。嬉しいことだけではなく、悲しい記憶も含めてです。
現在の幽霊は、今この時に起きているさまざまなクリスマスの光景を見せに連れ出します。
そして未来の幽霊によって見せられたものは……。
幽霊たちは「ああしろ」「こうしろ」とは一言も言っていません。ただ彼に自分の人生を振り返らせ、現実を見せ、そして人生の末路を認識させたのです。どうすればいいかは自分で考えろ、そして未来は変えることができる、ということを教えたかったのでしょう。
彼のなかに残る、そのわずかな思いやりの心にかけたのかもしれません。
本作が世に出た時代のイギリスは、産業革命の急速な発展により、それによって生み出された失業などによる貧困や、さまざまな問題を抱えていました。人々の心はすさみ、クリスマスといえども、それを喜んだり祝ったりという気持ちは起こらなかったのです。
クリスマスツリーを飾る家もほとんどなく、ご馳走を食べる経済的な余裕もなく、人を思いやる心の余裕も、もはやありませんでした。
そんな時出版されたのが『クリスマス・キャロル』。当時の人々の心の奥底にある気持ちを揺り動かした本作は、爆発的なヒットとなりました。
スクルージは、まさに富んでいるイギリスという社会と、裕福な人の象徴でした。この本をきっかけに自らをスクルージととらえ、人々のなかに思いやりが芽生え始めたのです。クリスマスを祝うという心の余裕と、幸せを見つけ始めたといえます。
現在のクリスマスの華やかさは本作のおかげという部分もあるのかもしれません。
それぞれの幽霊によって、さまざまな場面を見せられるスクルージ。最後に未来の幽霊が見せてきた光景は、自分のいない未来でした。そこには自分だと思われる男の死体があるだけ。そして、その死体から衣服などを剥ぎ取り、売りに行く男女の様子が見えたのです。
この光景に、スクルージはショックを受けます。そして同時に、まだこの未来を変えることができると気づくのです。
果たして彼は、この悲惨な未来を変えることができるのでしょうか。彼の気持ちの変化にも注目です。
- 著者
- チャールズ・ディケンズ
- 出版日
- 2015-12-04
ほとんどハッピーエンドしか書かなかったといわれるディケンズですから、おのずと、この物語の結末もうかがいしれると思います。
幽霊たちに出会ったその後のスクルージは、どうなったのでしょうか。その結末を知るために、『クリスマス・キャロル』の素敵な名言をいくつか挙げておきましょう。
「 世の中には、幸せを感じること、喜びを与えられることがいくらでもありますよ」
(『クリスマス・キャロル』より引用)
「 世の中はうまくなっているもので、病気や悲しみは伝染するが、
その一方で笑いや喜びもとても移りやすいものなのだから
道理にかなっているということだ。」
(『クリスマス・キャロル』より引用)
産業が発達し、経済も成長してくると、世の中に生じるひずみ。そのせいで人々は「心」を失っていくものなのでしょうか。いつの時代でもその法則が変わらないのだとしたら、今こそ『クリスマス・キャロル』が必要なのかもしれません。今度のクリスマスにはスクルージのように、過去・現在・未来と、自分自身を見つめ返すような、そんな過ごし方をしてみてはいかがでしょうか。