インド神話の神々のルーツとなった三つ目の妖魔「三只眼吽迦羅(さんじやんうんから)の生き残りのパイと、彼女の扱う秘術「不死の法」によって不死人「无(ウ―)」となった高校生・藤井八雲が、ともに人間になるための冒険を描いた作品。 連載開始は1987年のヤングマガジン増刊誌からですが、人気が高かったたため、第2部以降は本誌に連載されました。
主人公・藤井八雲は、ある日、三つ目の妖怪・パイと出会います。彼の父をきっかけにして出会った彼女と、ひょんなことから一緒に旅に出ることになるのです。
それは、人間になるための旅でした。
ここからは、彼らの物語のそれぞれのパートごとのあらすじを簡単に紹介していきます。
- 著者
- 高田 裕三
- 出版日
第一部 聖魔妖撃編(1巻〜2巻)
東京新宿区で一人暮らしをしている高校生・藤井八雲は、ある日東京をさまよっている少女・パイを助けます。偶然にも彼女は、行方不明になっていた彼の父、民俗学者の藤井一の遺言を持っていました。
それによると、一はチベットで遭難したとき彼女に助けられました際に、彼女が「三只眼吽迦羅」という妖魔の生き残りであることを知ったとのこと。彼女は人間になることを願っていましたが、その願いを叶えてあげる前に、彼はこの世を去るとこに……。そして、その願いを息子の八雲に託そうとして、彼女に八雲宛ての遺言を託したのでした。
その時、パイの使い魔であるタクヒが暴走し、八雲が殺されかけます。その際に彼女が不老不死の法を使って、彼の魂を自分と同化させて、彼の肉体を不死身の无(ウー)にしてしまいました。最初はまったく信じなかった彼ですが、真実を目の当たりにし、彼女とともに人間に戻るための方法を探しに香港へ向かうのです。
聖魔妖撃編では、パイが人間になれるかもしれない手がかりとなる「ニンゲンの像」が登場。一体これはどういったものなのでしょうか。そして彼らは、無事に人間になる(戻る)ことができるのでしょうか。
第二部 聖魔伝説編(3巻〜5巻)
ベナレスとの戦いで記憶を失い行方不明となったパイは、綾小路家に引き取られ「綾小路ぱい」という名の普通の女子高生として暮らしていました。しかしある日、自分の力を狙う妖怪たちに襲われたときに眠っていた力を開放してしまいます。その際八雲によって介抱され、彼女は自分が人間でないことを知りまるのです。
菱形のあざに仕掛けられた術のために、未だに記憶が戻らない彼女。そんな彼女のために2人は中国へ渡り、三只眼吽迦羅の故郷「聖地」へと向かいます。
しかし、聖地は鬼眼王との戦いで荒れ果ててしまい、三只眼吽迦羅は全滅してしまっていたのです。 ここで起こったこととは……。
第三部 聖魔世紀編(6巻〜11巻)
再会した2人は、再び冒険に出ることになります。しかし彼らは、三只眼の不死の力を狙う憑魔一族に狙われてしまうのです。
戦いの果てに憑魔一族と和解した彼らは、聖魔石のかけらを発見します。しかし鬼眼王シヴァの幻影によって、三只眼(パイ)は昏睡状態となってしまうのです。パイ救うため、そして三只眼の精神を解放するため、八雲は秘術商人のハーンと、彼女の精神世界へ入ります。
そこで八雲は、人間いあるための人化の法は、三只眼吽迦羅が3人必要であるということを知りるのです。彼らは人間になれないままなのでしょうか。しかも落胆する彼に、さらなる追い打ちが。なんと、心優しかったシヴァが、邪悪な鬼眼王へと変化してしまったのです……。
第四部 聖魔創世編(12巻〜40巻)
東京では、パイの額に打ち込まれていた化蛇である綾小路葉子が、失っていた化蛇としての記憶を取り戻しつつありました。一時的に暴走するものの八雲の尽力により元の記憶を取り戻し、仲間となります。彼女は、かつてベナレスを封印した魔導士マドゥライの存在を彼らに伝えたのでした。
マドゥライの末裔がイギリスにいると知った彼らは、マドゥライの末裔と、本人を見つけます。八雲とパイは彼に師事して力をつけていきますが、その最中に鬼眼王の力が弱まり、ベナレスが弱体化をしている事実を知るのです。
その後東京に現れたベナレスと対峙した八雲は、彼から3人目の三只眼吽迦羅がいるという情報を得ます。しかし、その人物は亜空間に存在しているとのこと。不本意ながら八雲はベナレスと休戦し、亜空間アンダカへ3人目の三只眼吽迦羅を捜索することになるのです。
アンダカに存在したのは、巨大な球体に変形した无アマラと、その内部に住む神民達。八雲はそこで、アマラの主ウシャスと、その複製体のラートリーと出会います。
一方ベナレスは、无アマラが変化した球城アマラを東京に召喚。ラートリーと三只眼を拉致して、ウシャスと八雲を聖地まで誘導させようとします。そこで鬼眼王の封印を解き、人化の法を執りったのです。
果たして彼らの運命は……。
ここからは本作のキャラクターについて、細かくご紹介していきます!
本作は、80年代後半から90年代にかけて人気を得た妖怪漫画のひとつ。連載開始は1987年で日本にバブルが到来した頃です。青年誌に連載されていましたが、内容は少年誌に連載されているバトル漫画寄りの物でした。
主人公の八雲と、ヒロインのパイと三只眼は、手塚治虫の漫画『三つ目がとおる』の写楽保助と和登千代子の性別を逆転させたような感じです。物語も『三つ目がとおる』のように古代文明の謎を解き明かすような内容が多いので、本作はこの作品をイメージして作られたのではないでしょうか。
同時期の妖怪漫画である『孔雀王』『幽遊白書』『うしおととら』『GS美神』などとは違い、中国やインドが舞台。妖怪漫画としては、比較的珍しい方に該当します。(密教系オカルト漫画である『孔雀王』にヒンドゥー教の神が出てくるくらい)
また90年代当時のアジアと日本の関係性も語られており、当時の日本が、アジア諸国にいかなる風に思われていたかも表現されています。
本作で使用される妖術や能力にはパソコンの概念が取り入れられており、終盤に出てくる破滅の法は電子機器を媒体としています、これは当時発達しつつあった、コンピューターをはじめとした情報通信機器の影響が強く見られる点です。
八雲が1度死んで特殊な能力を得るというのは、ウルトラマンのイメージからきているよう。獣魔術のモチーフはウルトラセブンのカプセル怪獣がモデルであり、本作の作者・高田裕三氏のウルトラマンへのリスペクトが所々に見られます。
そんなさまざまな作品をオマージュしていることが感じられる本作ですが、他のバトル漫画とは違い、主人公の八雲は当初不死身であるということ以外、これといった能力がありません。しかし徐々に成長して力をつけながら、仲間と力を合わせて強大な敵に立ち向かっていくというスタイルが、彼の、そして物語の最大の特徴です。そんな彼が最強の敵ベナレスに立ち向かえるほど強くなっていくのも、本作の醍醐味といえるでしょう。
弱者が強大な力を持つ敵と戦っていくタイプのバトル漫画が好みの方には、ぜひともおすすめしたい作品です。
また、アクション描写に目がいきがちですが、登場人物たちの優しく温かい人柄も見所の1つ。時に敵に同情して彼らを見逃してしまう八雲やパイ、彼らを信頼して最後まで支えぬく李さんや龍、幼少時から八雲を見守って妖魔になっても彼の理解者でいてくれたママ真行寺君江など、大人たちの温かい人柄も大きな魅力なのです。
彼らの人柄に、何人かのキャラクターの心は救われていきます。しかし、それは基本的には細やかといっていいほどの力です。それでも彼らの力は、時に敵を改心させ、時に味方を奮い立たせ、時に絶望的な戦局のなかでの命綱となったりします。作中でパイが人間に聖なる力があると言っているのは、まさにこのことなのです。
一方で、残忍で強大な力を持つ敵キャラクターベナレスや鬼眼王は、力だけで支配しているので最終局面においても裏切りを招いてしまいます。ここで力だけで支配する者と、心で繋がり結束する者の差が浮き彫りになってきます。
また八雲のライバルであるベナレスは、戦いを楽しむあまり好敵手が現れると完全に倒そうとはせず、詰めを誤ってしまう一面が終盤近くで露呈。理由は違いますが、敵に同情して逃してしまう八雲とどこか似ているような気がします。もしかしたらこの2人は、コインの裏表のような関係なのかもしれません。
復活した鬼眼王は配下である神獣ローカパーラを使い、世界中に人間を魔物に変えるウイルスをばら撒きはじめます。そしてパイのクローンであるカーリーを使って、人化の法を執りおこなおうとしました。
そんななか、この世界にいるすべての人間の魂を集める術サンハーラを発動。それは鬼眼王が、人間の魂に眠る光を集め、神の頂に到達するための術でした。
終盤近くになると、とうとう世界中の人々を巻き込むほどの戦いが起きてしまいます。本作では王道少年漫画らしい壮大な冒険活劇が描かれてきましたが、最終回は終末論的な危機感と、悲壮感が漂ってくるような内容となってくるのです。
鬼眼王も不完全とはいえ復活し、ベナレスも強大な力を取り戻したために、八雲達はさらなる危機に追い込まれていきます。さらに破滅の法でママ、李、龍など、今まで彼に力を貸してくれた人たちまで変わり果てた姿になってしまうのです。
彼らは鬼眼王に屈することなく、諦めずに戦おうとします。しかし三只眼は、彼らを守るために人化の法によって鬼眼王と一体となる道を選びます。そしてとうとう人間に戻った八雲は、不死ですらなくなってしまうのです。
3×3 EYES(40)
バトル漫画の最終回の醍醐味とは、敵勢力の強大な力による絶望的な状況と、それに打ち勝つ主人公達の活躍だといえます。本作もまた他の作品同様、主人公たちは諦めずに、残った人々と最後まで力を合わせて戦うのです。
しかし上でも述べたとおり、八雲はそれほど強い力を持った主人公ではありません、そんな彼が大好きなパイを守るために成長し、力を身につけていくことこそが、本作の醍醐味なのです。
そしてもう1つの見所は、弱い力しか持たない彼が、仲間と力を合わせることで強大な敵と戦っていくという点。最終回は、まさにその部分が強調されていきます。
そして終盤近くで仲間の1人アマラは、彼にこう言います。
「誰も一人では何もできぬものだ。
だが誰しも無力というわけではない。
何かしらの力を持っているのだ。」
(『3×3EYES(サザンアイズ)』39巻より引用)
強大な力を持つ鬼眼王やベナレスに対し、主人公たちは細やかな力しか持っていません。それでもその力を補い合うことで、とてつもない奇跡を起こすことができる。それがパールバティやシヴァが憧れた、人間の力なのです。
その一方、醜く利己的で恐ろしい闇の一面もあります。サンハーラにより全ての魂と一体となった鬼眼王と、八雲とパイ、そして三只眼は、人間と三只眼吽迦羅の魂の闇の一面を目の当たりにします。それを拒絶する鬼眼王ですが、八雲はそれさえも受け入れました。
たとえ闇でも、人の魂であることに代わりはありません。人の闇すら受け入れられる彼の温かく優しい心こそ、鬼眼王に打ち勝つ唯一の力だったのでしょう。
- 著者
- 高田 裕三
- 出版日
- 2015-06-27
八雲達がサンハーラから世界を救って、12年。八雲とパイは夫婦になり、ハズラットも綾小路葉子と結婚してセツという娘が生まれました。
妖撃社は李を社長としてローマ法王と繋がりを持ち、世界中に散らばった獣魔卵の処理をする仕事をしています。八雲はNASAの依頼で、宇宙空間で獣魔の卵を除去する仕事をおこなっていました。
作業が終わったときに、ロシアのスペースシャトルが何者かに襲われていると連絡を受け、彼は防御型の獣魔を使ってシャトルに近づきます。その時、巨大な魔獣を目撃するのです。
女性の顔に、蛇の体、そして鳥の羽をつけたその怪物の正体は、獣魔の卵を産む女王(クイーン)獣魔エキドナ。
獣魔を生み出す彼女に獣魔術は通用しません。八雲は地上に落下してしまいます。
一方日本では、ノルマンテという青年と、甲子美智瑠、工藤千夏、渡部唯華、有村沙雪の4人の少女たちが彼を捕獲するためにパリへ向かっているところでした。
パリで獣魔の卵が4つも発見されたという情報が入ったため、八雲を含めた一同はそこに向かいます。しかしそんななか、パイとハズラットの娘セツ妖魔にさらわれてしまうのです。妖魔はノルマンテの仲間でした。
ここからは続編の登場人物たちをご紹介していきます!
本編の最終回から12年後を舞台とした物語。八雲とパイ、ハズラットと葉子は結婚してハズラット夫妻にはセツという娘が生まれています。
妖撃社は再建され世界を救ったという功績から、世界各国の重要機関から妖怪退治の依頼が来ていますが、大半は世界各国にちらばった獣魔卵の回収が主な仕事です。
八雲は最終回の戦いの後、三只眼と無事合流。しかし完全な状態で復活したわけではなく、力や感情を無くしてしまったようで、虚無的な性格になっています。そのため不死という肉体を最大限に生かし、宇宙空間や原発など危険な場所での任務を率先しておこなっているようでした。
また12年という歳月のためか、かつてはがむしゃらに戦っていましたが、本作では冷静に状況を見据えて戦うように変化。
パイは相変わらず元気いっぱいで、セツとも仲良しですが、性格は少し大人っぽくなったようです。(妖怪食っちゃ寝は健在)
今回は舞台がパリに移り、世界観も西洋風。エキドナ、グリフィン、ギガンテスなど妖魔の名前も西洋風です。
また、前作のラストが人間の心の光と闇について語られていたように、本作では甲子美智瑠や、彼女を保護するノルマンテの心の闇と葛藤がテーマになっています。これは本編が世界レベルの壮大な冒険活劇であったのに対して、本作は人間ドラマが重視されているからではないでしょうか。
『3×3 EYES』の最終回で語られるのは、人の心とは、光も闇も否定しては成り立たないということ。そして、どちらも見つめて受け入れなければならないということです。本作は、人の心を巡る物語でもあるのです。