ひょんなことから体が入れ替わってしまたった小学生の結依と佑太。いつ戻るかもわからず、異性という立場で戸惑いや障害があるなか、さまざまなことを乗り越え、そしてもとの心のまま、恋もしていきます。そんな『思春期ビターチェンジ』の見所を全巻紹介していきます。 小学生から高校生と数年にもおよぶ長期入れ替わりはどうなってしまうのでしょうか?
男女の中身と体が入れ替わる物語というのは、昔から人気のあるジャンルではありますが、だいたいが一時的なものや、短い期間のものを描いています。しかし本作は、小学4年生から中学・高校と7年以上もの期間を使っているのが特徴的。
入れ替わり方法としてはベタで、高いところから落ちてぶつかるというものですが、その後ずっと戻れないというのは珍しいですよね。小学校時代の話はすぐに終わり、1巻で中学校にあがるのですが、物語の本番はさらに上。高校にあがってからです。
主人公の結依・佑太からすると、ほぼ絶望ともとれる年数。高校にあがり環境がガラッと変わることで、一気に2人の関係は波乱に満ちたものになっていきます。
高校生になってからの入れ替わりであれば、それぞれもう少し違った対応ができたかもしれません。しかし、なんせ小学校からの入れ替わりなので、多少の慣れや隙が生まれてきてしまっていたのです。
長期戦の入れ替えの楽しいところは、年数が経てば経つほど、気が緩んできてしまうところではないでしょうか。もとに戻る方法もわからず、もはやもともとそういう性格だったのではと思わせるほど、互いの姿に馴染んでしまった2人の様子が見所です。
- 著者
- 将良
- 出版日
- 2018-03-13
本作のテーマのひとつは「恋愛」です。思春期ともなれば、好きな子の1人や2人できてしまいますよね。主人公たちだけでなく、周りの人間だってそうです。
結依は、女として似た性格をした女子に優しくするものの、体が男なため友情にはならず……。佑太も、男同士の友情を育もうとするものの、体が女なため相手が友情で終わらせてくれないのです。
これに関しては難しいところですよね。中身がどういうつもりでも、やはり外見というものは非常に重要になってきます。性別が男だから、女だから、というのは、思春期ほど意識してしまいますよね。
また、小学生のころに入れ替わったということもあり、2人はそれぞれ「性」の違いが明確に現れる前に中身が変わったことになります。それゆえ、それぞれ必要な知識も少なかったのです。
『思春期ビターチェンジ』では、そういう男女間での違いなどもきちんと描かれていて、入れ替わることでの苦労や戸惑いがリアルなのも特徴的。男女を意識し始める中学・高校は、特にその大変さが伝わってきます。
だいたい苦労するのは、中身は男で現状女の子な佑太なのですが、その性格と見た目のギャップがリアルに思えます。その人物になりきって暮らさなければいけないというのは、家族や友人の目もあり、とても大変なことでしょう。
そういった人間関係をファンタジーで終わらせないところが、本作の面白いところです。
小学生のころ木に登って落ちた佑太と、その下敷きになった結依。このことがきっかけで2人の中身は入れ替わってしまいます。
突然のことに戸惑いつつも、元に戻ろうと登っては落ち、登っては落ち、をくり返す2人ですが、一向にもとに戻る気配はありません。
特に親しくもない異性の同級生と突然入れ替わってしまったら、どうしていいかわからなくなりますよね。
- 著者
- 将良
- 出版日
- 2013-10-15
この作品で注目したいのは、入れ替わってしまった2人ではありあますが、その他にも、中身が佑太でないことに気づいた彼の弟・春樹や、佑太の親友で結依とも面識のあった和馬なども気にしたいところ。
もともと入れ替わりのことは誰にも言わない予定でしたが、春樹には入れ替わったその日に、中身が違うとバレてしまいました。こういうとき、接する機会の多い兄弟というのは察しがいいよう。子どものほうがそういったことに敏感だったりしますしね。
春樹と佑太たちの間で気にしたいワードは「ゲームに勝つ」。佑太になった結依に、ゲームに勝ったら佑太が帰ってくると言われた春樹が、今後何度か口にする言葉です。詳しいことは聞かず、幼いながら兄の帰りを一心に待つ姿はとてもかわいいですよ。
また和馬については、最初は嘘をついて騙していると思っていたようですが、佑太が自分を信じてくれている、ということと、2人の様子から入れ替わりの話を信じます。ここからの和馬の献身ぷりは、なかなかすごいもの。何かと衝突ばかりの2人の仲をとりもつ大事なキャラクターです。
そして、中学生になっても戻らない2人を支えるのも和馬です。彼の行動によって、2人の今後も決まっていきそうですね。
中学生になった2人は、和馬に支えられながら、そして互いに体が成長していることを受け入れながら、それでも平穏な日々を過ごしていました。しかし思春期まっただ中の彼らに、平穏な日々などすぐになくなってしまうのです。
本巻では、一気に恋愛色が強くなるのが特徴ではないでしょうか。もともとこの作品は、入れ替わり、思春期、恋愛の3つを絡めた作品なので、その片鱗が見え始めます。
- 著者
- 将良
- 出版日
- 2018-03-13
きっかけは、結依と同じクラスになった木下という女子生徒。結依は彼女を見て、過去の自分を思い出しました。今は佑太の体なため彼の友人が話しかけてくれますが、結依はもともと人付き合いが苦手で、友だちのいなかった子。
周りの人間から嫌厭され、何かと堅物な木下に、彼女はついつい自分を重ね、手を差し伸べてしまったのです。彼女としては同じ境遇にあった似た者同士として仲良く、支えてあげたいと思っていたのですが、いかんせん今の彼女は、男の体。
ひとり張りつめているところに優しい男子が現れたら、コロッといってしまいますよね。女心をわかる男子ほど、やはりモテるものです。木下は抱いた好意を隠すことなく、全力でアピールしていきます。
そんななか、とばっちりを食らったのは佑太。体が入れ替わっている以上、2人は何かと一緒にいることも多いのですが、そのせいで付き合っていると誤解を受けることも多かったのです。案の定、木下から宣戦布告を受けることに。果たしてこの恋は、どういう結末を迎えるのでしょうか。
また、そういった友人関係以外にも変わったことが。それは結依の本当の家族です。彼女の家は今まで、両親の仲も悪く喧嘩ばかりでした。しかし佑太のとある行動がきっかけで、ギスギスとした家庭が変わっていったのです。
結依からすれば自分ができなかったことということで複雑なことではありますが、他人と向き合おうとする彼のコミュニケーション能力の高さや素直さは、本当にすごいですよね。
入れ替わりがもとに戻る気配を見せることもないまま、2人は高校生になりました。和馬と3人、同じ高校です。大事な青春時代を入れ替わったまま過ごすのは、なかなかきついですよね。
そんな状況にもめげず、きちんとそれぞれの今を生きようとする2人はすごいもの。ただこの辺りから、2人の違いが目立ってくるようになってきます。もちろん、最初から息は合っていませんし、違うところばかりですが、考え方に大きな違いが出てくるようになるのです。
- 著者
- 将良
- 出版日
- 2018-03-13
そもそも佑太はあまり、自分の体が女であること、今は結依であることをあまり意識していなかったのですが、とはいえ多少は女としての意識を持っていました。
一方結依は、自分が佑太の体になっていることを自覚しつつも、中身は完全に結依のまま。そこに男子としての自覚や振る舞いは、あまり入っていませんでした。
彼女は何かと佑太に対し、結依であることを要求していましたが、彼は結依に対してそのようなことを望んだことはないのです。この違いというのはけっこう大きなものなのではないでしょうか。
それぞれが互いの振る舞いを受け入れているか、受け入れていないか、行動に口出しするか、しないかは重要な要素のように思います。
結依としての暮らしを受け入れつつ、結依として友だちを作り、クラスに馴染んでいた佑太。そんな彼に、この体になって初めて男子の友人ができようとしていました。中学時代の木下と結依を思い出しますね。この男子生徒がどう絡んでいくのか、気になるところです。
また佑太だけでなく、結依や和馬にも恋の予兆が……。入れ替わったままの2人。そこに巻き込まれる周囲。今までとはまったく違った環境で、それぞれはどんな成長をするのでしょうか。
高校では、初めて結依に友だちと呼べるような友人ができます。中学時代にも彼女に友だちはいましたが、それは小学生時代の佑太の友人。彼女が一から関係を築いたわけではありませんでした。
友人・ひかるは、元気で明るく、女子にモテたい願望の強い普通の男子高校生で、とても察しのいい人物。2人の入れ替わりには気づいていませんが、彼女の和馬に対する気持ちや、その言動のちぐはぐさに気づく鋭さがあります。
- 著者
- 将良
- 出版日
- 2018-03-13
このひかるというのは、彼女にとってなかなか大事なキャラクターだといえるのではないでしょうか。今までは彼女の中に入った佑太の話ばかり目立ってきましたが、彼の登場によって、彼女も人間的に成長しようとしていました。また彼女が、和馬や佑太以外に普通に話せる、数少ない貴重な人物なのです。
結依もひかるも、佑太ほど素直になんでも言うタイプではないので、お互いぎこちなさはあります。しかしそれでも、長い付き合いの2人以外に、彼女にきちんと友人ができたのは、とてもいいことですね。
彼女が自分の心を自覚し、ひかると友情を育むなか、佑太もクラスの不良・橘と友情を育み始めます。ただ、結依としては仲良くしようとしているのがクラスの男子と聞いて、中学時代の記憶が頭をよぎるのでした。
中学時代、彼女は木下にとあることをされていたため、余計警戒している様子。ただ、彼は自分が女であり、結依であることを自覚しつつ、どんどん橘に深入りしていきます。
彼のコミュニケーション能力は凄まじいですが、時と場合によりますよね。彼自身は友人として橘に遠慮なく接していくのですが、風邪気味の橘を送り届けに家に上がった彼に対する橘の反応は……。思春期の難しい男女関係がグッときますよ。
橘の家に上がったことを結依に咎められた佑太は、彼女のある一言に反発して喧嘩をしてしまいます。2人が喧嘩するのはいつものことですが、彼が冷静に怒るのはとても珍しいですね。
ただこの2人、喧嘩慣れしているというか、喧嘩がデフォルトのようなところもあり、特にどちらが謝ることもなく、自然に仲直りをしてみせます。佑太はわがままなイメージが強いですが、なんだかんだ人を受け入れる懐の広さがありますよね。
- 著者
- 将良
- 出版日
- 2018-03-13
「女なんだから気をつけろ」という結依・和馬の言葉を受けた佑太は、考えたすえ橘に直接アタックすることに。
「お前もしかして私にホレてる?」
(『思春期ビターチェンジ』5巻より引用)
一生言う機会もなさそうな言葉ですね。もともと直球勝負の正直人間で、相手は同性だからということを差し引いても、よくそういう聞き方ができるなと感心せざるをえません。
あっていたらいいですが、万が一勘違いだった場合、相当恥ずかしいセリフ。突然のことに動揺を見せた橘は、果たして何と答えるのでしょうか。
彼とのことが終わり、友人に連れられ合コンに行くことになった佑太。彼はそこで、小学校時代のクラスメイトと再会します。この合コンでの出来事をきっかけに、彼は自分の今の姿をあらためて実感するのです。
今までも分かったつもりでいただけで、本当はあまりよくわかっていなかったのかもしれませんね。自分が女であること、入れ替わっていなかったら結依がどうなっていたか。彼は自分のなかで、ある感情が芽生え始めたことに気付き始めていました。
また、5巻では新たに転入生の女子生徒・小泉が話に加わってきます。彼女がどう話に絡んでくるのか楽しみですね。
ちょっとした不注意から、小泉に入れ替わりのことがバレてしまった佑太。彼女はぐいぐいと彼に迫りますが、そこに助け舟を出し、彼女を止めたのは和馬でした。結依のなかにいる佑太と和馬が入れ替わっていると誤解したのです。
彼女はそもそもオカルト的なことに興味があるらしく、そういった関連の本を読むのが好きなようでした。そこで彼女は、とある本を佑太や和馬に渡そうとしたのですが、和馬はその本を見た瞬間に、強い口調で彼女を追い返します。
- 著者
- 将良
- 出版日
- 2018-03-13
その本というのは、まだ入れ替わりをもとに戻す方法について一生懸命探していたころ、和馬が見つけてあえて言わなかった本だったのです。その本に何が書いてあったのかはわかりませんが、彼がそれを2人に見せたくないことだけはわかります。
そういった問題が起きているころ、結依も自身の恋心を持て余しているようでした。高校生ぐらいの思春期のときは、どうしても好きな人のことばかり気にしてしまいますよね。
小泉が佑太たちに絡んできた狙いが判明して友情を築き始めたころ、結依はどんどん和馬ばかり気にするように。そしてついに佑太は、自身の抱えていたモヤモヤした想いに気づくことになったのです。
今まで恋愛なんて無関係だというスタイルを築いてきていた彼の想いの自覚シーンは、非常にかわいらしく、見どころですよ。
2人それぞれの気持ちの方向がわかったところで気になるのが、和真の気持ちです。彼が結依を大切に思っている風に見えるシーンはたくさんあり、大事だと直接言葉にも出しもしますが、それが一体どういう気持ちからくるものなのかはいまいちわからないのです。
彼は佑太のなかの結依をきちんと女の子扱いしますし、何かと彼女の肩を持ちますが、その本心は一体……。6巻ラストで、彼の気持ちがほんの少しだけ判明しますよ。
今まで結依と佑太は数えきれないほどの喧嘩をしてきましたが、明確に道が分かれたのはこの巻が初めてです。小泉と佑太が友情を深め、橘は佑太にさまざまな気持ちを抱えるなか、佑太は和馬と結依の今後に思いを馳せ、結依は和馬のことばかり考えていました。
佑太はずっと、結依と和馬のことについて悩んでいるようでしたが、意外と気遣い屋で気にしいの彼は、結依に和馬のことを聞けずじまい。しかし、和馬のことを話すときの彼女の顔を見て、抱いていた疑問を確信します。
- 著者
- 将良
- 出版日
- 2017-06-14
結依が和馬のことを好きだとはっきり気づいた佑太は、今まで思っていたこととは違うことを考え始めるように。コミュニケーション能力が上限突破しているような彼でさえ、恋愛は怖いものなのですね。
彼はもとに戻って、結依との接点がなくなることを恐れていました。正直もとの形に戻ったところで、2人のつながりは簡単には消えないでしょう。また、今すでに結依は和馬のほうを向いてしまっているため、もとの姿に戻る戻らないはあまり関係ないようにも思えます。
しかし、佑太はもとに戻ることを考えるようになってしまったのです。こういうところは、彼はまだまだ子どもですね。しかしその一方で、和馬への想いを諦めきれない結依は、想いが強くなるのと同時に、もとの姿に戻りたい、佑太とは会いたくないと考えるようになっていきます。
彼女は、自分が和馬に恋心を抱いていることを引け目に感じているようでした。
それぞれが素直に気持ちを伝えられないせいで、2人はほぼ疎遠になってしまいました。ついに7年目、2年生になった2人の関係は、一体どう変わっていくのでしょうか。
橘とのことで和馬とすれ違ってしまった佑太。しかし彼にとって、和馬とのすれ違いや衝突はあまり気になることではなかった様子。彼は橘のことで落ち込んでいたのですが、逆に彼によって元気を取り戻しもしました。
しかし、また橘がらみで、今度は結依と喧嘩してしまうことに。橘自体はとてもいい子なのですが、巻き込まれた環境が悪かったですね。ひかるのようにただの友人枠であったり、小泉のように中身が違うことを知っていれば、こんなことにならなかったのだと思いますが、知らないことには仕方がありません。
- 著者
- 将良
- 出版日
- 2018-05-12
ただ今回のことに関しては、1番かわいそうなのは佑太。最終的に1番かわいそうな結果に陥ったのは橘ですが、気持ちの整理という点では、佑太がもっとも八方塞がりで、どうしようもないのです。
そもそもはいつも問題ばかり起こす彼自身が原因なのですが、その彼の気持ちを誰も気にかけようとしないのは、やはり辛いこと。ただ、これで落ち込んでばかりいないのが彼のいいところです。
ひとまず橘とのことを解決するため、きちんと話すことにしたのですが、そのときの橘とのやりとりを見る限り、彼はやはり自分勝手なところがありますし、彼も橘も辛い立場にあることがうかがえます。
ただ橘がきちんと気持ちに向き合ったことを受けて、彼もある決意を固めます。今まで散々逃げ回り、周りを引っ掻き回してきた彼が、やっと大人になった瞬間ですね。
そうして気持ちの終着点を決めている間に、和馬と結依にも動きがありました。佑太を気にする結依、そんな彼女に対し和馬がとった行動は……。それぞれの恋がついに動き始めました。
近いはずなのに、遠い距離。長い付き合いのはずなのにわかり合えない気持ちや、すれ違う想いや恋心……。長く入れ替わっているからこそ生まれる気持ちの変化や、それぞれの立場の違いが切ない『思春期ビターチェンジ』。ぜひお手に取ってみてはいかがでしょうか。
2人のすれ違いや、周りの人間たちとの関係、心境の変化が見所の『思春期ビターチェンジ』。大人になりきれない主人公たち、言葉足らずな友情と恋愛が微妙なバランスで保たれているのが、本作の魅力でもありますね。