どうも、橋本淳です。猛暑の日が続いていますが、皆さま熱中症対策はしてますでしょうか。水分補給を忘れずにこの夏を耐え凌ぎましょう。 最近は、冷房の効いた電車の中での読書が快適ですね。カフェや自宅より集中してしまうあの電車マジックは、何なのでしょうか。 最近、電車で3時間くらいの中距離移動があり読書に没頭していた時のことを少し。
車両の一番端にある3人掛けのシートの一番奥に腰掛け、その日も、本の世界に没頭しておりました。ちょうど芦沢央さんのミステリーを読んでいたので深度はいつもより深かったようで、気づけば早いもので目的地への移動の3分の1程の所を過ぎたあたりでした。時間にして1時間ほど過ぎたくらい。
都内から乗ったこの電車も乗客の数は減り、座っている人がポツポツといるくらい。目も疲れたので、周囲をふぅといった吐息と共に見渡すと、右隣に1人分空けた位置に、上品目なお婆さんが座っておりました。新聞を熟読している様子。
静かな車内で、またミステリーの世界に戻る。話も後半になってきたので読むスピードも上がっていく。この後はどうなるのか気になる展開、ゾワっとするホラーな流れに背中に汗が一筋ツーっと流れる。自分の周りの空気が、外気の暑さからは考えられないくらい涼しくなる、電車の冷房が効きすぎなんではないかと錯覚する。
ふと自分の右側から妙な気配が……。
そういう話をしていると寄ってくると、よく聞きますが、まさか……ね。と思いつつ恐る恐る右のほうへゆっくり顔を向けると、隣に座っていたお婆さんがこちらを、これまた上品な微笑みでこちらを見ていた。
少々戸惑いながら「?」的な顔をすると、「いいわねぇ」とお婆さん。今度は音で答える「え?」。「最近は、みんなパチパチ電話をいじってるでしょ?」「あ、そうですねぇ」「本を読んでるなんて、偉いわねぇ」「え、いえいえ」「頑張ってね」「あ、はい。ありがとうございます」という短い会話を交わすとお婆さん、いや貴婦人は駅のホームにスッと降りていった。
本を読んでいるだけなのに褒められるとは、なんとも得した気分。そういえば最近、こういうふうに見ず知らずの他人と会話が急に始まるということが減ったなぁと思います。子どもの頃は、おはようございます、といった近所の知らない人への挨拶や、道で他人となぜか会話に発展していたことが、もっとあった気がします。
だからなのでしょうか、貴婦人からの唐突な会話アプローチに反応できなかった。そんな自分を少々恨む。もっと会話できたはずなのに。
「暑いから気をつけてくださいね」とか「新聞も読まないとダメですよね」とか「近頃は携帯電話でも本を読むことができるんですよ、こんなふうに」「あら、そうなのね」「だから携帯いじってる人の中にも読書している方もいるかもしれませんね」「そうね、うふふ」「うふふ」なんて優雅なひと時も過ごせたかもしれない。
また同じ後悔をしないように、心をオープンに。
話しかけられることを期待しながら僕は今日も読書をしています。
そんな下心人間が選んだ3冊はこちらです。一気読みの3冊。
- 著者
- 芦沢 央
- 出版日
- 2018-06-22
モキュメンタリー形式で進むホラー小説。「小説新潮」からの依頼で、神楽坂怪談特集の依頼を受けた私。全6編で語られる、背筋がゾワっとする展開。全てバラバラの話であったはずなのに、ジワジワと明るみになる共通点。どこまでが、真実で、どこまでが、創作なのか、フィクションであるのか疑いたくなるような小説、最後まで疑ってしまう……。いや、“疑って”いいのか?
暑い日が、続くそんな日は、この背筋を冷やす一冊を。
・心に刺さった一節
私は口を開きかけて閉じた。
- 著者
- 芦沢 央
- 出版日
- 2015-04-25
どうしよう、お父さん、わたし、死んでしまう……高校生の安藤の娘、加奈が学校で転落死した。なぜ、娘は死んでしまったのか。娘が死んでしまった理由を知りたい安藤。クラスメートからの手紙、弔問にきた加奈の友達を名乗る少女。2人の出会いから悪魔の心が動き出す。
複数の人物の目線から語られるサスペンス小説。それぞれの思惑、視点、それが交わった時がたまらない。デビュー作にして傑作です。
・心に刺さった一節
適応、というのがどういう状態を指すのか、不惑と言われる四十歳が見えてきた今でも、よくわからない。
- 著者
- 恩田 陸
- 出版日
- 2010-11-10
ある一室でスーツケースを机がわりに酒を飲みつつ語らう男女2人。部屋には家具や荷物はなくガランとしている。明日引越しをし、別々に暮らし始める2人の最期の夜。2人には明らかにしなくてはならないことがあった。それはあの旅での、ある男の死。運命、記憶、明かされていく真実、夢想。全てが絡み合っていく。
一章ごと交互に男女の目線で語られていく。人は過去の記憶を改竄、美化していく。一晩の話なのに、記憶をさぐり過去を巡っていく幾重にも広がる層のストーリーに、のめり込みます。
・心に刺さった一節
恐怖と紙一重の、肌が粟立つような深い歓喜に。