帝政ロシアの文豪であるトルストイが書いた本作は、現在も世界中で読みつがれている名作です。世界一の小説と言われることもありますが、長編小説であるため、なかなかそのすべてを読んだことがあるという人はいないでしょう。 しかし、トルストイが書いた実際は、そのプロットも非常にわかりやすく、長編であるにも関わらずグイグイ読み進めていける小説です。この記事では、そんな本作の見所をご紹介。名作の世界観を楽しんでみてください。
本作は、帝政ロシアの作家であるレフ・トルストイが書いた長編小説です。
1873年から執筆が開始され、1975年に「ロシア報知」という雑誌に連載され、1877年に単行本が刊行されました。
- 著者
- トルストイ
- 出版日
- 1989-11-16
主な舞台は1870年代のロシア。政府の高官をしていたカレーニンの妻であるアンナは、モスクワで若い貴族の将校ヴロンスキーと運命的な出会いをはたし、互いに惹かれ合います。
当時、兄のオブロンスキーに呼ばれてモスクワにやってきたアンナは、浮気がバレて険悪な関係となってしまった兄嫁のドリィを説得して仲直りさせた後、舞踏会でヴロンスキーと再会します。
彼女は、彼とドリィの妹であるキティが交際していることを知り、結婚の後押しをしようとしますが、なんと彼が自分のことが好きであることを知って動揺してしまうのです。
夫と子供がありながら若いヴロンスキーに心を奪われてしまったことに罪の意識を感じて、すぐにペテルブルクに帰ろうとしますが、彼は彼女を追いかけて同じ汽車に乗り込んできてしまいます。アンナは彼を拒絶しようとしますが、その言葉とは裏腹に、心が浮き立つような気持ちを、どうすることもできなくなってしまうのでした。
そのまま、彼女は許されぬ愛へと溺れていくのです。
ここでは、登場人物たちについて簡単にご紹介します。
彼は伯爵家に生まれ、幼くして両親を失くしています。
1828年に生まれ、1910年に逝去。ルソーを耽読し、大学を中退した後、しばらくの期間放蕩します。従軍をきっかけに、処女作である『幼年時代』を発表後、『少年時代』、『青春』を発表して、賞賛を受けました。これらの作品によって、彼は新進作家としての地位を確立したのです。
- 著者
- トルストイ
- 出版日
- 2006-01-17
軍隊を離れた後に、『戦闘と平和』『アンナ・カレーニナ』を次々に完成させます。代表作である『戦争と平和』では、さまざまな登場人物たちがからみ合い、歴史を動かしていく様子を描きました。これは世界文学の金字塔として、現在も読み継がれる作品となっています。
彼は文学だけではなく、政治や社会にも影響を与えた人物としてよく知られています。しかし、その晩年は夫人との不和に悩まされるなど、波乱に満ちていました。
最後は、悪寒を感じてアスターポヴォの駅で下車し、その1週間後に駅長室にて、肺炎で死去しました。
本作はアンナの物語であるにも関わらず、リョーヴィンが物語が半分を占めています。
本作の主人公は、もちろんアンナです。彼女は人妻でありながら若い青年将校であるヴロンスキーと恋に落ちます。
その一方で、この物語のなかでは、リョーヴィンも重要な役割を担っています。彼は貴族であり、農場の地主です。農業をどのように改革していけばよいかについて常に考えています。
本作は、このアンナとリョーヴィンが中心となって描かれていますが、この2人が関わることはほとんどありません。実際2人が話をする場面というのは、ほとんど出てこないのです。しかしこの2人は、ある1つのテーマでつながっています。
それは、「愛に対する考え方」です。アンナは不倫の愛。リョーヴィンは純愛。
アンナは、「愛されること」こそが愛であることを、物語のなかで見出します。彼女は不倫関係にあるヴロンスキーにひたすら尽くすことによって、彼から愛を得ようとしました。彼女にとって愛とは、自分の外側に存在するものであり、誰かから与えられるものであったのです。
しかしヴロンスキーは、最後まで彼女に愛を与え続けることはできませんでした。彼女の愛が叶うことはなかったのです。
一方でリョーヴィンは、愛が自分の外側にあるのではなく、信じるという自らの行為のなかに存在することを見出します。彼は、愛とは自分の内側に存在するものであり、したがって誰かから与えられるものではないという考えだったのです。
本作では、主人公であるはずのアンナが、なかなか登場しません。普通の文庫本であれば終わりであると考えられるようなところで、ようやく登場します。
序盤はオブロンスキー家の出来事やキティばかりが描かれており、主人公はキティなのではないかと勘違いしてしまうほどです。
しかし、アンナが一旦登場すれば物語は激変します。青年将校であったヴロンスキーの焼き付くような恋慕とともに、彼女の狂おしいまでの嫉妬と愛が描かれていくのです。
本作は世界中で高い評価を得ましたが、同業者である作家達からも高い評価を得ました。
たとえばドストエフスキーは、本作を「芸術として完全である」と言いました。まさにトルストイの芸術的・思想的頂点を極めた大作として評価されているのです。
さらに、少女に対する性愛を描いた小説である『ロリータ』を書いたことで世界的に有名な作家ナボコフは、トルストイをロシア最大の散文小説家であると評しており、彼が書いた講義録では、トルストイについて書いたページは、なんと200ページにもおよびます。そのなかで、本作については180ページも費やして絶賛しているのです。
また、トルストイと同時代に活躍したロシアの小説家・劇作家であるチェーホフも、本作を高く評価。
作中で何も問題は解決されていないにも関わらず、問題のすべてが正確に物語のなかで描かれていることから、読者を完全に満足させることができていると言っています。彼は本作を、読者に解釈を完全に委ねることによって、物語のなかに完璧に没頭することができる小説であるとしています。
本作のなかで、トルストイが描いた主要なテーマは「愛」です。
アンナはヴロンスキーと恋に落ち、夫と離婚して子どもたちを捨てて、彼のところへと行こうとします。そうまでして彼女は、彼に愛されたいと願うのです。しかしヴロンスキーは、彼女の高邁な態度に嫌気が指し、しだいに彼女を遠ざけるようになります。そして、彼女は絶望するのです。
絶望した彼女は、その後どうなってしまうのでしょうか。
一方、隠れた主人公であるリョーヴィンは、キティとの純愛を貫きます。彼は最終的にキティと結ばれることになりますが、物語のなかで、愛とは徹底して不合理なものでであるから、自分の外側から与えられるものではなく、自分で見つけるものなのだということに気づくのです。
この2人の主人公を通して、トルストイは愛とは何かということについて、読者に語りかけるのです。
- 著者
- トルストイ
- 出版日
- 1989-11-16
本作のなかで最も有名な名言は、次の冒頭の一文といえます。
幸せな家族はいずれも似通っている。
だが、不幸な家族にはそれぞれの不幸な形がある
(『アンナ・カレーニナ』より引用)
この一文を書くために、トルストイは17回も書き直したといわれています。幸せな家庭というのは、どんな家庭にも共通点があるが、不幸せな家庭には共通点はなく、さまざまなかたちがあるといっているのです。
さらにトルストイは、アンナを通して次のように訴えかけています。
もし頭の数だけ人の考えも違うというんでしたら、
人の心の数だけ、愛情の種類も違うのじゃないかしら
(『アンナ・カレーニナ』より引用)
人の数だけ考え方というものがあり、愛情もまたさまざまであるということを読者に訴えかけているようです。
さらに、アンナの兄であるオブロンスキーも、次のような名言を残しています。
研究の楽しみは真理の発見にあるのじゃなくて、その探求にある
(『アンナ・カレーニナ』より引用)
真理というものは発見するものではなく、探求するものであり、それを探求することこそが真の研究の楽しみであるといっているのです。
愛をテーマとして描かれた『アンナ・カレーニナ』は、トルストイの作品のなかでも非常に読みやすく、長編ではあるものの、その面白さから先へ先へと誘われるように読み進めていくことができる作品です。世界的にも有名な作品であり、扱っているテーマも愛を描いていることから親しみを持って読むことができるでしょう。