本作は、壮大なアクションシーンがある産業スパイを題材にした物語。世の中で1番価値があるのは情報です。本作では騙し騙されながら、世界を股にかける情報戦がくり広げられます。 この記事では、そんな本作が映像化不可能と言われた理由、あらすじや結末まで、詳しく解説。ぜひ最後までご覧ください。
鷹野を主人公とした、産業スパイの物語。鷹野は、情報を売ることを商売としています。所属組織はAN通信という会社です。
この会社の表向きな仕事は、インターネットでアジアの情報発信をすること。表向きは健全な企業なのですが、裏では諜報活動を主としているのでした。
ある日、鷹野は田口という部下と一緒に香港にいました。エネルギー産業を巡っての中国企業の出方を探っていたのです。日本は、太陽光発電で世界を一歩リードしようとしていた状況。国家プロジェクトとして、中国のCNOXという企業と組み、新しい太陽光エネルギーを手に入れようとしていたのです。
しかし、そう思っていたのは日本だけでした。日本は、中国にはめられていたのです。日本の蓄電池技術だけ盗めればいい。中国にはそんな思惑があり、日本に近づいてきたのでした。その裏切りの情報をつかんだ鷹野たちは、日本のMETという企業に、その情報を売ろうとします。
そこからCNOX対鷹野たちの、壮絶な情報戦が始まりました。果たして鷹野たち日本側は、中国に勝つことができるのでしょうか。お互いの命をかけた戦いの火蓋が切って落とされます。
- 著者
- 吉田 修一
- 出版日
- 2012-04-25
本作は壮絶なアクションシーンや、世界を股にかけた物語であることなどから、映像化は不可能とされてきました。しかし、2018年に羽住英一郎監督により映画化されることが発表。主演は藤原達也です。いったい、どんな映画になるのでしょうか。
また本作の作者は、吉田修一。1968年、長崎県生まれの小説家です。『パレード』『悪人』『怒り』など、今まで数々の映像化作品を生み出しました。『パーク・ライフ』の芥川賞や、『パレード』の山本周五郎賞などでも、多くの受賞歴があります。青春ものから事件もの、恋愛もの、また本作のようなアクションものまで、実に幅広い作風を持つ作家です。
この記事では、映画化が決定した『太陽は動かない』が映像化不可能と言われた理由について迫っていきます!
主人公・鷹野一彦は諜報員として、スパイ活動をしています。情報を仕入れ、それが必要であろう企業に、必要であろう状況を作って、とてつもなく高い値段で売りつけるのです。しかし、そのスパイ活動は過酷なもの。
ある時、彼は敵の情報を掴むためにヘリコプターで偵察していたのですが、なんとヘリコプターが墜落させられ、敵に捕まってしまいます。諜報員は敵に捕まると、情報を吐き出させるために徹底的に拷問されるもの。
鷹野も例外なく拷問されましたが、絶対に口を割ることはありませんでした。彼らAN通信の諜報員は、24時間常に上司と連絡が取れる状況にしておかなければなりません。24時間中に1回も連絡を取ることができない場合は、胸に埋め込まれている小型爆弾が爆発してしまい、命を落とすことになります。
それは裏切り者を出さずに、組織が組織として成り立っていけるように作られた鉄の掟。数時間の拷問のうちに彼自身のリミットも切れそうになってしまうのですが、なんとか間一髪のところで、かつての敵が味方になって助けてくれました。その人物の名前は、シャマル。ウイグル族の女性リーダーでした。
鷹野は007のジェームズボンドのように、危険の有無は関係なく必要な情報のために突っ込んでいきます。その様子は、まるでハリウッド映画を見ているようなスリリングさです。
彼らはいつも命の危険にさらされながら、そのなかでしか生きていけないことを自覚しています。さまざまな事情があり、普通の人のように平凡に生きていくことができません。だからこそ体に爆弾が埋め込まれていても、AN通信のために頑張ることができるのだと考察することができます。
また鷹野の活躍は本作だけでなく、『森は知っている』『ウォーターゲーム』でも描かれており、これらは「鷹野一彦シリーズ」として知られています。本作を面白いと思った方は、ぜひ他の作品もチェックしてみてください。
ここでは、それぞれに特徴的な登場人物たちを紹介します。
『太陽は沈まない』の魅力は、なんといっても壮絶なアクションシーンにあります。それらが映像を見ているかのような世界を作り上げているのです。そんな魅力的なアクションシーンをいくつかご紹介しましょう。
田岡は、天津スタジアムで殺されそうになったときに鷹野に助けられますが、最初、そのことに感謝はしていませんでした。逆に、なんで助けたんだと激怒します。いつも死と隣り合わせにいる環境であり、AN通信のいうとおりに動かなければならず、彼らに自由はありません。そんな生活が、ほとほと嫌になっていたのではないかと考察することができます。
そんな彼に鷹野が放った言葉が、「死にたきゃ勝手に死ね」です。この言葉は普通の小説に出てくる言葉であれば、そのままの言葉通りのように感じるのですが、本作では登場人物たちが背負っているものがまるで違います。
彼らはあらゆる武器を所持しており、殺すことに関しての知識は十分に備えているのです。だからこそ、死にたいときは、いくらでも簡単に死ぬことができてしまいます。
しかし、それを実行していない田岡は、やはり自分は生きていたいと思っているのだというふうに気づいたのではないでしょうか。そしてAN通信の諜報員としてでしか生きていけないことにも、同時に悟ったように感じます。
このほかにも、青木優の心理的な変化や、シャマルの変化、AYAKOの変化など、登場人物の心理的変化が数多くあります。そういった登場人物の細かい変化を見逃すことなく読むことで、本作がより一層面白くなっていくのです。これらをどう映像化に落とし込むかが、難しいところかもしれません。
- 著者
- 吉田 修一
- 出版日
- 2012-04-25
ここまで解説させていただいた本作ですが、いったいどんな結末を迎えるのでしょうか。物語のラストでは、鷹野の過去が記載されます。
彼は両親に水とほんの少しの食べ物だけを残され、弟と一緒にアパートに捨てられていた人物。生きるために、プラスチックや布などを食べていました。そんな時彼は、風間によって救い出され、育てられます。
つまり彼にとって風間は親代りであり、上司でもあるのです。読者としてはそこに本当の絆があるはずだと感じ取ることができます。しかしそれはあくまで想像。実際、いつも冷静沈着に見える風間は、常に危険と隣り合わせの鷹野をどのように見ているのでしょうか。そして鷹野と田岡は、無事に使命を果たすことができるのでしょうか。
彼らの今回の使命は、太陽光発電を日本の主導でおこなうこと。前半はずっと情報戦で負けてきましたが、鷹野は五十嵐を使って起死回生のチャンスをつかみます。そして、中国の悪政を暴こうとします。
そんななか最後のキーになるのが、広津の技術です。物語は最後の最後までわかりません。最後には、予想を裏切る結末が待っています。
続きが気になる方は、ぜひ本編でご覧ください。心が突き動かされ場面ばかりですので、ぜひ心の準備をお忘れなく。