イギリスのJ・R・R・トールキンによるファンタジー長編小説であり、『ホビットの冒険』の続編として書かれた物語。全世界に4000万人以上の愛読者を持ち、広く世界的に知られています。 ここでは物語の登場人物、あらすじや見所を紹介し、作中の名言などから、この作品の魅力をお伝えしていきます。
本作は、「中つ国」と呼ばれる架空世界でかつて起こった「指輪戦争」について書かれたお話です。本書はトールキンが、古い資料(西境の赤表紙本の写本)を原典として再話したものという体制で書かれており、歴史書・学術書と言ってもよいくらいの情報量知識量があります。
かつて悪の冥王サウロンが、全てを支配する「一つの指輪」を作り、中つ国を支配下に置こうとしました。しかし多くのものの抵抗により彼は失敗し、指輪と肉体を失います。ただ、その精神は滅びておらず、完全復活のため力の大部分を封じ込めた最大の武器を今も探し求めているのです。
失われた指輪は長い年月を経て、この物語の主人公であるホビット族のフロドのもとに渡りますが、彼はその事で同胞が危機に晒されていると知るのです。故郷の平和のため、彼は従者のサム、親類のメリー、ピピンとともに庄を後にするのでした。
やがて、エルフの殿エルロンドの召集した会議により、正式に指輪は破棄されるべきと決定され、その任にあたる仲間たちが選ばれます。人間、エルフ、ドワーフ、魔法使、ホビットからなるその9人は、冥王の国モルドールにある滅びの山を目指して旅に出るのです。
冥王の完全復活を防ぐ方法はただ1つ、「一つの指輪」を完全に破壊してしまうしかありません。しかしそれは、滅びの山の火口に投げ入れる事でしか成されないのでした。
旅の仲間はやがて、道半ばで離散。お互いの安否すら知れないなかで、それぞれの道を進み始めます。指輪の破壊は「愚か者の望み」だと賢者が言いますが、その困難な目的を、彼らは達成する事ができるのでしょうか。
- 著者
- J.R.R. トールキン
- 出版日
この物語は、2001〜2003年に公開された実写映画『ロード・オブ・ザ・リング』 (ピーター・ジャクソン監督作品)の原作としても有名です。映画の展開は要所要所で原作の物語を調整し、エンターテイメントとしての面白さ、アクション要素、スピード感を加えながら、原作の大筋を外さないように組み立て直されています。
もし、映画をご覧になってこの作品に興味を持たれた方は、一体どこが原作と違っているのか、読み比べてみるのも楽しいかもしれません。
次章からは、この物語に登場する種族や、主な登場人物たちを紹介していきたいと思います。
「ホビットの暮らし方ぐらい、一ヶ月もあれば知り尽くせる。
ところが、百年つき合ってみたっていざという場合のホビットたちには
驚かされるほかはないな。」
(『指輪物語』より引用)
この物語のなかで最も大きな役目を担うのは、人間たちから小さい人と呼ばれる種族、ホビットです。彼らの背丈は人間の子供ほどで、大きい人(つまり人間です)達に見つからぬよう素早く身を隠すことが得意。また陽気で食べる事や作る事が大層好きですが、機械はほぼ好まず、居心地のよい穴や平屋に住む素朴な性質を持っています。
そして抜粋の台詞のように、「種族特有の燃え立つのに時間がかかる勇気」を持ち合わせており、ひと度その勇気が発揮されたら、賢者ですら驚くべき行動に出るのでした。彼らは人前に出るのを好みませんが、いざとなったらためらわずに古巣を飛び出し、戦いに身を投じる事もあるのです。
以下では、この物語の主要なホビット達を紹介しましょう。
- 著者
- J.R.R. トールキン
- 出版日
- 2000-08-18
フロド・バギンズ
「つまりはだれかがそのものを放棄し、失わなければならないのだ。
ほかの者たちが持っておられるように。」
(『指輪物語』より引用)
旅の仲間の1人で、本書の主人公。彼は養父ビルボから家屋敷とともに「一つの指輪」を譲り受けたために、その所持者として指輪を破壊する厳しい旅へ出ることになりました。
ホビット特有の素朴さ強靭さに加え、エルフに見られるような性質を持つ、ガンダルフの知るなかで最も優れたホビットでもあります。 本書の登場人物の多くは、この戦いに勝利する事で望むものを得ました。
しかし彼は、始めから望み得る全てを持ち得ていたというのに、この旅がもとで、その全てを捨て去る事となる人物です。彼は指輪が力を増すごとに弱っていき、心身にかかるストレスは極限を超えても、まだ止みません。そんな彼は、最終手に指輪を破棄することができるのでしょうか。
サムワイズ・ギャムジー
「諦めるなんちゅうのは、どういうわけか、おららしくねえのです。
わかってくださるか。」
(『指輪物語』より引用)
ホビットの庭師で、フロドの友人であり忠実な従者。愛称はサム。彼は主人の旅に同行を願い、エルロンドの会議でホビット代表の1人として旅の仲間に加わりました。彼の「~ですだ」という口調は、シリアスな場面にあっても読者の気持ちを和ませてくれます。
彼の献身は、最も過酷な行程を辿るフロドの最大の助けとなるのでした。 彼はフロドの理解者として常に側にあり、悪意に蝕まれてゆくフロドから時には邪険にされ、報われず苦しみますが、最後まで側を離れず主人を支え続けました。
さらにはほんの一時、指輪所持者となります。その決意と機転により、指輪が敵の手に渡る事はなく、敵に捕らえられたフロドを救出し、彼らの目的達成へ一縷の望みを繋ぐのです。
メリアドク・ブランディバック(メリー)
「思うに、自分が愛するにふさわしいものをまず愛するのが最善じゃなかろうか。
どこかで始めなきゃならないのだし、どこかに根をおろさなきゃならないんだから。」
(『指輪物語』より引用)
旅の仲間の1人で、愛称はメリー。フロドの親戚で、年の離れた友人でもあります。明るく楽しいお調子者ですが、友人ピピンより年長のためか若干の落ち着きがあり、よりホビットらしい物言いで仲間たちを笑わせ、気持ちを明るくしてくれる存在です。
彼は、物語の途中エント達と交流し、彼らの心に一石を投じ、ピピンとともにアイゼンガルドの終焉に一役買います。また彼の担った最大の役目は、ローハンの騎士としてエオウィン姫とともに幽鬼ナズグルの首領を打ち倒したことです。
「生き身の人間の男には倒せない」とされていた恐ろしい敵は、ホビットである彼と、女性である姫に打ち倒されたのです。
ペレグリン・トゥック(ピピン)
「ぼくはホビットですよ。
それに人間でないのとご同様、勇敢でもありませんとも。
ひょっとして必要に迫られてそうならざるを得ない場合は別ですがね。」
(『指輪物語』より引用)
旅の仲間の1人で、愛称はピピン。フロドの親戚で、年の離れた友人でもあります。お調子者で好奇心が旺盛、軽率な行動から仲間のピンチを招くこともありますが、うっかり八兵衛的な愛嬌があり、メリー同様暗くなりがちな旅を明るくしてくれる存在です。
彼は好奇心からオルサンクのパランティアを覗いて、冥王の前に曝されるという危難に遭いました。しかし結果的にそれが敵の混乱を招き、旅の目的の漏洩を防いだのです。
また、彼はその後ゴンドールの都で兵士となり、狂気に囚われたデネソール候から、彼の次子ファラミアを救います。
ゴクリ
それは、自分自身の時代からも、友人や親族たちからも
また青春の日の野や水の流れからも遠くへだたったところに
自分自身を連れてきてしまった長い歳月にすっかりしなびてしまった、
哀れむべきかつえた老者の姿にすぎませんでした。
(『指輪物語』より引用)
喉を鳴らしてつばを飲み込むくせがあるため「ゴクリ」と呼ばれている存在。かつてはスメアゴルという名前でしたが、友人のデアゴルが偶然見つけた「一つの指輪」に魅せられ、デアゴルを殺害してこれを奪います。
一族を追放された彼は、長い間霧ふり山脈に潜んで、ビルボが偶然指輪を拾うまでそれを所持していました。彼の「いとしいしと」を奪ったビルボを憎み、奪還のため凄まじい執念で追い続けるのです。
映画では、彼は原文通り「Gollum(ゴラム)」と呼ばれます。 指輪戦争において彼は打算から、フロドとサムがモルドールに入る手助けをします。行動ををともにするなかで、2人の絆をかいま見て懐かしさに揺らぎ、葛藤を覚えますが、裏切りを思い止まる事は出来ませんでした。
しかし彼が最後にとる行動が、この戦争に大きな影響を与えるのです。
ガンダルフが指輪所持者として、フロドを選んだのはなぜだったのでしょうか。彼らの性質を見ながら考察してみましょう。
もともと彼らは種族的に頑強で善良で誠実、そして単純素朴です。ビルボの前に指輪を所持していたのはゴクリですが、彼は遠い昔ホビットに近い種族でした。この2人は、それぞれ長く指輪を所持していましたが、その主人になる事を望まずただ所持者であり続けました。
「一つの指輪」はいうなれば呪いのアイテムで、それ自体に意思があり、時に持ち主を裏切ります。また側にあるだけで、本人や周囲に悪影響をおよぼし、悪を引き寄せ堕落させます。しかしホビットの純朴さはサウロンの想像を遥かに超えていたのではないでしょうか。
食らいつくべき悪意がもとから少なく、また日々の喜びで常に満たされている彼らは不相応な欲をあまり持たず、足るを知っています(分別のあるホビットは、という注釈はつきますが)。悪の力も、そう簡単に芯からこの種族を支配してしまうことが出来かねていたのではないかと推察されます。
じゃんけんでグーはチョキには勝てるけれど、パーには勝てないように相性の悪い組み合わせだったのではないでしょうか。 そして悪の側からすれば厄介な特性に加え、フロドはホビットが普通持たない冒険心を持ち、またビルボ譲りのエルフ的な素養と教養も持ちあわせています。
およそガンダルフの考え得るなかで1番のホビットである彼ならば、過酷の上にも過酷を重ねるような道行きに、1番長く耐える事が出来るのではないかと思われたのです。 そして意思を持つ指輪の偶然から、それがビルボの手に渡ったという事にも、ガンダルフは意味を見出だしています。
ビルボが指輪を拾い、それがフロドへ受け継がれる事は定められていたのではないだろうかと考えたのです。何らかの大きな力が働き、我々にチャンスを与えてくれたのではなかろうか、と。
フロドが最も過酷な所持者として困難な任務を与えられたのはこのような事情が重なったからではないかと推察されるのです。
「そしてわたしの心の予感では、
まもなくこの朝は永遠に去ってしまうだろうという気がするのです。」
(『指輪物語』より引用)
姿は人間と似ていますが、彼らと人間の決定的な違いは寿命のあるなしです。彼らは不死を定められており、病や老いで死ぬことはありません。ただ、戦などで致命傷を負う、また、心が深い悲しみにとらわれると死を迎えることもあります。
美しい容姿と強靭な肉体を持ち、ほとんど疲れを知りませんし、多くが弓の名手であり、人よりはるかによく見える目を持っています。彼らの持つ技術には高度なものが多いのも特徴の1つ。ただ、彼らの中つ国での時は終わりに近づいており、西の彼方にある神々の国へ少しずつ去っていく定めにあるのでした。
アルウェン
裂け谷の主、エルロンドの娘で、夕星姫(ゆうづつひめ)と称される美しい姫。アラゴルンの恋人で、彼とともに中つ国に残る事を望んでいます。
しかし彼女が永遠に失われることへの父エルロンドの悲しみは大きく、彼女は、恋人と家族との愛情の間で苦悩します。
レゴラス
「でもわたしは君の勝ちをねたまない。
君がちゃんと二本足で立っているのが見られて、
こんなに嬉しいことはないもの!」
(『指輪物語』より引用)
闇の森のエルフ王の子、緑葉のレゴラスとも呼ばれます。エルフの代表、弓の名手として、エルロンドの会議にて旅の仲間に加わる事になります。
ドワーフのギムリとは、種族的な反発心から初めのうち衝突が絶えませんでした。しかし仲間として過ごしていくうちに、1番の親友となり、多くの場面でともに行動することになります。彼とギムリの掛け合いは、このお話のなかでも心楽しい部分です。
彼はアラゴルンと行動をともにし、彼のよく見える目は拐われたホビット達を追う際に彼を助け、また、死者の道を通る際は恐れを見せず、その姿にギムリは勇気を奮い立たせます。そして彼の弓はローハン、ゴンンドール、モルドールでの合戦において多くの仲間達の力にもなりました。
いつも飄々としている彼のマイペースさ、時折歌われる美しい歌は、仲間達に安心を与えてくれるのです。
ハルディア
ロスロリエンの森に住むエルフ。森の外に出て、敵の見張りや情報収集をおこなうこともあります。モリア坑道から脱出し、ロリエンに向かった旅の仲間を森の中で迎え、奥方のもとまで案内しました。
映画では、「二つの塔」馬鍬砦の戦いに、エルフの軍勢を率いてローハンの味方として参戦しますが、原作ではロスロリエンの森にて登場するのみです。
さて、エルフとドワーフが種族的に不仲、と書きましたが、それは一体なぜなのでしょう。
たとえばロスロリエンの森に入る際、ハルディアは旅の仲間のうち、ドワーフであるギムリが森に足を踏み入れる事は掟に反するとしていました。最終的に道中目隠しをして連れて行く事で、妥協します。
また、エルロンドの会議でゴクリの扱いについて聞いたグローインが、かつてエルフたちから受けた手酷い扱いを思い出して、怒りを露わにする場面がありました。
本書では、レゴラスとギムリの友情が多くの場面で描かれているため、明確に語られない不仲の謂れはわかりません。彼らの間にはどのような因縁があって互いを遠ざけているのか、『ホビットの冒険』で明かされる事情から、考えてみましょう。
この物語のなかで、遠い昔に闇の森のエルフ達と、あるドワーフ一族が宝を廻って戦争をおこなったと明かされています。この戦の原因はシルマリルという宝石で、これは第一の冥王モルゴスすら虜にするほど、美しく貴重なものでした。
エルフ王はドワーフ一族にこれの細工を依頼しましたが、宝は王のもとに戻りません。仕事が完了した報酬が支払われなかったとして、ドワーフ達は報酬代わりにこの宝を貰い受ける事にしたのです。彼らの主張は平行線を辿って、ついには戦争にまで発展し、双方に死者を出しました。
双方ともがシルマリルの美しさに魅了されており、互いに誠実さを欠いたやりとりがあったのではないかと思われます。なぜならシルマリルは、かつて奪われた際に呪われており、この後所有者が代わっても、等しく不幸な出来事が持ち主らを襲ったからです。
この時のわだかまりが未だに両種族の間に横たわっているため、どうやら彼らはお互いへの不信感を拭えずにいるようなのでした。
「人間の始めることはいつもこうなのだ。
春に春霜があったり、夏に虫害があったりすると、
かれらは前途の望みを失うのだ。」
「しかしかれらはその種を失うことはめったにない。」
(『指輪物語』より引用)
中つ国の人間達は、サウロンの脅威に晒されながらも抵抗を試み、しぶとくこの第3紀の終わりを生き抜こうとしている種族。エルフやドワーフ、ホビット達に比べ数が多く、他種族との交流はあまりありません。
多くの古きものたちが姿を消していくなかで、冥王が倒れれば、この先は人間の時代となっていく事となります。
アラゴルン
「わたしは、あなたがたがわたし自身のためにも
わたしを好きになってくれることを望んだのだ。
追われるものは時として不信の目に倦み疲れ、友情をせつに望むことがある。
しかしまあ、わたしは自分でも、
わたしのこの人相風体ではだめだろうと思うがね。」
(『指輪物語』より引用)
ブリー村の人々から馳夫(はせお)と呼ばれる野伏(レンジャー)で、かつてサウロンから指輪を奪った人間の王の子孫。ホビット庄を出たフロドを助けてエルロンドのいる裂け谷へ導き、会議にて人間の代表として旅の仲間となります。
彼はエルフの血を継ぐヌメノール人であり、普通の人間より長命。武骨な外見ながら会話は皮肉とユーモアに富み、判断力や行動力に優れたリーダーです。エルフのアルウェン姫の恋人でもあります。 一行の導き手であったガンダルフを失った後は、リーダーとして皆を導き、仲間の危機を幾度となく救います。
しかし彼は、いつでも自信満々な指導者ではないのです。難しい判断を任されて悩んだり、自分の選択の正否を気に病む事もあります。けれど、1度始めた戦いを投げ出すことはせず、最も重要な任務を敵の目から隠すために、矢面に立って戦い続ける道を選びました。
彼とフロドの戦いはそれぞれ表裏をなし、どちらが欠けても真の勝利はないのです。
イムラヒル
ゴンドール執政の縁者でもある、雄壮で聡明な大公。遠くエルフの血を引いており、彼と出会ったレゴラスは一目でそれを見抜きました。早い段階でアラゴルンを王となるべき人物と認め協力し、また執政を立てつつ、実直に意見を述べる事の出来る人物です。
エオウィン
ゴンドールの同盟国、「ローハンの盾持つ乙女」とたとえられる姫君。兄エオメルと、伯父であり君主でもあるセオデン王を心から愛しており、女性ながら武勇に優れ強い功名心を持っています。
騎士の心を持ち、自身に相応しい名誉を得ることを心の底では渇望していますが、女性であることが枷となり、望み通りに行動することが出来ずにいます。
しかし彼女は絶望と愛から行動を起こし、ペレンノール野の合戦で密かに騎士として戦うのでした。彼女とメリーがいなければ、ナズグルの首領は討ち果たせず、合戦はさらに厳しいものとなったでしょう。
戦いで傷を負った彼女は、アラゴルンの治療により一命をとりとめますが、彼女の絶望は癒されませんでした。しかし、その心を救う人物が現れます。その人物との物語は、ぜひ本書を読んで確かめて頂きたいです。映画版の大団円で、彼女の隣にいたのが誰だったか、なぜ彼がそこにいたのかが、きっとおわかり頂けるのではないでしょうか。
ボロミア
「あなたは打ち勝ったのだ。このような勝利を収めた者はほとんどおらぬ。
心を安んじられよ!ミナス・ティリスを陥落させはせぬ!」
(『指輪物語』より引用)
人間達の王国ゴンドールの執政である、デネソールの長子で、ファラミアの兄。弟の見る奇妙な夢の謎に答えを見いだすことを望んで、エルロンドの館を訪れます。そして会議にて、人間の代表として旅の仲間に加わるのです。
長身の立派な体格でやや尊大な所もありますが、優しく頼もしい部分もしっかり持ち合わせており、メリーとピピンは彼に懐いていました。
しかし彼には強い自尊心と、家族や国民への愛があり、そこを指輪につけこまれて、フロドから指輪を奪おうとしてしまったのです。彼の行動は1人でモルドールへ向かうことを決意したものの、恐怖に躊躇していたフロドの背を、図らずも後押しする事となりました。
誘惑に勝てなかった彼ですが、即座に悔いあらため、敵の襲撃からメリーとピピンを守ろうと奮戦。魂までは損なわれることなく、命を落としたのです。
中つ国にはさまざまな種族が暮らしていますが、多くの不思議な種族たちは姿を消し始めており、最終的には人間達が生き残っていきます。中つ国第4紀は人間の時代の始まりなのです。
エルフ、ドワーフ、ホビットに比べて人間が優れていた点は、一体どこにあったのでしょう。
彼らの強みは命に限りがある、という点ではないかと思われます。他種族に比べて短命な人間達は、環境の変化に強いという特性がありました。多くが容易く死んでいきますが、産まれてくるのも育つのも早く、変化に対応した人間達がどこかに生き残っていくのです。
長命な種族は急激な変化には弱いとされています。冥王が絶えた世界は確実に変化していくでしょう。そのなかにあって、生き抜くのに適しているのは、おそらく人間達なのです。
「まるでその目の後ろにはとてつもなく大きな井戸があってね、
そこには大昔からの記憶と悠長で不動の考えがいっぱいつまってるって、感じなんだ。
だけどその表面には現在がきらめいている。」
(『指輪物語』より引用)
主にファンゴルンの森に棲む木の牧人達。エント族、オノドリムとも呼ばれます。意思と思考と言葉を持った大変古い歩く巨木達で、闇の種族トロールは彼らを模して作られたのだとか。
古代エント語と呼ばれる独自の言語をもっていますが、会話に大変時間がかかる言語であるため、滅多に使用しません。エルフに匹敵するほど古いものたちで大変に気が長く、彼らからすると大抵の種族は「せっかち」にあたります。
彼らはさまざま種類の木の姿をしていますが、目だけは皆同じ輝きを秘めているのです。 そして「ファンゴルン」「木の髭」とも呼ばれるエントがピピン、メリーと出会い、指輪戦争においてアイゼンガルド破壊と、サルマンの失脚という大きな役割を果たす事となります。
凄まじく気の長い彼らの溜めに溜めてきた怒りが爆発するさまは、恐怖を感じるほどの壮観としか言いようがありません。
本作に登場するさまざまな種族を紹介してきましたが、まだまだ紹介しきれていない種族がたくさんいます。最後に闇の生き物達や珍しい種族、特筆されるべき魅力的な人物などを紹介していきましょう。
オーク
闇の生き物、サウロンの召し使い。残忍で狡猾、悪事を好みますが、小柄で日光には弱く日の当たる場所では長時間の活動ができません。かつてサウロンの前の冥王がエルフを堕落させ、その生命を歪めて造り出した生き物ともいわれており、エルフ達はことのほか彼らを嫌っています。
『ホビットの冒険』ではゴブリンとも呼ばれます。
ビヨルン
熊人とも呼ばれる一族。まれに熊に変身できる者が生まれる事があり、彼の活躍は『ホビットの冒険』に詳しく描かれています。指輪戦争時には直接の登場はなく、ドワーフのグローインが、彼らの功績を語ったくだりなどに登場するのみです。
シェロブ
モルドールへの抜け道、キリス・ウンゴルと呼ばれる山に棲む、大蜘蛛の婆さんです。性格が悪く、毒針によって生き物を仮死状態にした後、生きたまま獲物を食べる事を好みます。ゴクリの裏切りにより、彼女の縄張りに足を踏み入れたフロドは仮死にされ、オーク達に捕らえられてしまいます。
トロール
エントを参考に造られた闇の種族。すさまじい怪力と巨体を持ちますが、あまり頭はよくなく、また直射日光に当たるとと石化してしまうという弱点があります。
ルーシエン
ルシアン=ティヌヴィエルとも呼ばれ、エルフのなかでも最も美しいといわれる乙女。かつて人間であるベレンと恋をして、不死である事を捨て、中つ国で亡くなったとされています。彼女を永遠に失ったエルフ達は、その悲しみを歌にして歌い伝えています。
バーリン
ドワーフ小人。『ホビットの冒険』にてビルボとともに冒険したドワーフの1人で、やがてモリア坑道にドワーフの領土を求めて仲間達と旅立ちましたが、その後の消息がわからないままとなっていました。指輪戦争時にモリア坑道を通り抜けることを余儀なくされた指輪所持者一行は、彼の辿った運命を知ることとなります。
ギムリ
「ガンダルフの頭はもはや神聖で切るわけにはいかないのだから、
ちょん切るのにちょうどいい頭を見つけるとしよう!」
(『指輪物語』より引用)
旅の仲間の1人で、ドワーフ族、グローインの息子。若干短気な面もありますが、戦いとなると斧を使って、頼もしさを見せてくれます。ドワーフ族の常でエルフを嫌っており、レゴラスとは初めのうち反発しあっていましたが、最後には親友となりました。
彼はロスロリエンの森の奥方、ガラドリエルの美しさに心打たれるあまり敬愛を捧げ、その後は他方で彼女を悪く言う者があると、一言もの申さずにはいられないほどでした。彼の奥方を巡る論争には思わず頬が緩みます。
エルフの友として、反目も種族も超えた深い友情を示し、また戦いではアラゴルンを助けて活躍しました。
ドワーフ
ホビットよりも背が低く、ずんぐりした体格と豊かな鬚を持ち、頑強で力が強い種族。基本的に礼儀に厳しく実直。お酒と騒ぎが好きな気のいい性格をしていますが、他種族との交流に関しては消極的な一面があります。
エルフとは種族的に反発があるため関係は良好とはいえません。また鍛冶や石工に巧みで、その技はエルフを凌ぐ事も。また貴金属に見せる執着心は、並みではありません。
ウルク=ハイ
白の魔法使サルマンが、オークと人間を掛け合わせて造り出したオークの一種。ウルクとはオークの言葉で、「大きい」という意味を持ちます。オークに比べ体が大きく、また日光への耐性も獲得。サルマンの手下として白の手の紋章を付け、略奪や襲撃をおこないます。
トム・ボンバディル
ガンダルフから「苔むすほどの不動の石」と称される古い存在で、種族は不明。ホビット庄の近くの古森に住み、青い羽を飾った潰れた古帽子を被り、青い上着と大きな黄色い長靴を履いています。茶色く長い顎鬚を生やした陽気な老人で、よく笑い、よく歌う森と水と丘の主人です。
川の娘ゴールドベリを慈しみ、自分のしたいことの他には興味がなく、完璧に自分自身の主人として振る舞うことができる稀有な存在です。
ガンダルフ
「なんと鎮めがたいホビットよ!
魔法使たる者はことごとくホビットを一人か二人世話するべきじゃね
ーー魔法使に言葉の意味を教え、思い違いを正すためじゃ。」
(『指輪物語』より引用)
灰色のガンダルフと呼ばれる魔法使で、旅の仲間の導き手でもあります。大きな力を持つ賢者ですが、エルフから「魔法使には、おせっかいをやくな、変幻自在でよくおこる。」と称されるとおり、よく怒り、またよく笑う大変愉快な人物。
裸馬に乗って各地を駆け回り、魔法だけでなく剣を取って戦う行動派で、サウロンと常に敵対し続けてきた事から、中つ国第3紀は彼の時代とも称されています。
彼はモリア坑道にて互角の敵バルログと戦い、ともに奈落に落ちて死んでしまったかに思われました。しかしバルログに打ち勝ち、大いなる意思により送り返され、白のガンダルフとして再び戦場に戻ってくるのです。そして味方の劣勢を覆すべく奔走し、この戦いを勝利に導くために尽力するのでした。
また物語の最後に、かれはエルフの指輪所持者の1人であったことが明かされます。
ここまで本作の登場人物についてお話してきましたが、最後に彼らの旅の結末を少しだけご紹介しましょう。
この物語のクライマックスで、フロドはサムの献身によって滅びの山を登り、ゴクリの追撃を逃れ、滅びの火口を見出だします。ついに指輪の破壊をおこなうときがきたのです。
けれどフロドは、最もサウロンに近付いたその時、悪の誘惑と力の影響から逃れることが出来ず、とうとう自らがそれの主人となることを宣言してしまうのです。
サウロンにすべての企みが知られ、陽動のため戦闘をおこなっていたアラゴルンたちの望みは潰えたかに見えました。けれどこの最後の瞬間に、「ビルボの情け」とガンダルフが称した感情が、フロドとサムに思いもかけない結末をもたらすのでした。
フロドの旅は、一体どのように終焉を迎えるのでしょうか。その結末は、ぜひ本書をお読みになってお確かめください。
- 著者
- J.R.R. トールキン
- 出版日
- 1992-07-01
映画をご覧になった皆様は、この物語がどのような結末に向かうのかご存じかと思いますが、そこでは語られなかった部分を端的にご紹介します。
「まったく最後の一撃だった。だけども考えてごらん。
それがここに落とされるとはねえ、よりにもよって、袋小路屋敷の玄関に!
ずいぶんいろいろと望みをいだき、心配もしたが、これだけは予想もしなかったよ。」
(『指輪物語』より引用)
フロドの言葉を引用させてもらうと、このような事が起こります。最後の結末、指輪所持者たちの行き着く先は変わりませんが、そこへたどり着くまでにもう1つ、旅から故郷に帰りついた彼らに大仕事が待ち受けているのです。彼らは4人だけで、それを片付けなければなりません。
一体何が「袋小路屋敷の玄関に落とされる」というのでしょうか。この部分では、彼らの活躍と、ある人物たちの最後が描かれます。旅に出た当初のホビット達では、きっとこのような締め括りは出来なかったでしょう。彼らの成長と愛すべき一面が見られる一幕です。
ぜひ、トールキンの言葉で語られるホビット達の活躍をご一読頂けたらと思います。きっと、より一層、彼らに愛着が湧いてくるはずです。