ある日から、無人島で暮らすことになってしまった少年たち。その生活は、平穏無事というわけにはいきませんでした。集団生活のなかで、やがて彼らは獣のような狂気をまとうようになり……。 この記事では、そんな本作のあらすじから結末まで、詳しく解説。ぜひ最後までご覧ください。
本作は、飛行機事故をきっかけに無人島で過ごすことになった、イギリスの少年たちの物語です。太平洋の真ん中にある無人島で見つかる可能性は非常に低く、なんとかその島で生き延びていかなければならない状況になってしまいました。
そんなストーリーの本作。タイトルでもある「蠅の王」は、旧約聖書に登場する悪魔・ベルゼブブからとっています。
唯一の大人である機長は墜落事故で怪我をしてしまい、寝たきりで看病が必要です。少年たちはみんなで協力しながら、無人島で生きていこうとします。
最年長はラーフとジャックであり、この2人がリーダーになっていくのは必然でした。ラーフには知恵があり、ジャックには力があります。ただ、ラーフの人気の方が高かったため、彼がリーダーを担うこととなりました。
彼らはリーダーを中心に、食料をとったり、救難信号を送るために火を焚いたり、寝床を作ったりします。さらに集団生活には一定のルールが必要だというラーフの考えの元、少年たちにルールを設けようとするのです。
一見順調かのように見えた、無人島生活。しかし、彼らは徐々に狂気を帯びていくのです……。
- 著者
- ウィリアム・ゴールディング
- 出版日
- 1978-01-01
本作では、表向きはサバイバルをする少年の姿が描かれています。しかし、その裏には、人のさまざまな感情の変化や集団生活の難しさ、さらに政治の世界など、人間関係が深く深く描かれているのです。まだ心が純粋な少年たちは、無人島の生活をとおして、どう変わっていくのでしょうか。
そんな本作は『十五少年漂流記』と似たような設定と思われるかもしれませんが、内容はまったく異なります。
なぜなら『十五少年漂流記』と違い、人間の見たくない部分がたくさん描かれているからです。仲間同士で協力し合う場面より、傷つけあったりするような残酷な場面が多く見られます。しかし、その人間の闇を描き切っていることこそが、本作の魅力であるともいえるでしょう。
人間ならではの集団生活、そして、それが時として凶暴なものへ変化していく恐怖について、あらためて考えさせられる作品かもしれません。
本作は、1963年と1990年に映画化もしています。興味がある方は、ぜひこちらもご覧になってください。
本作に登場する人物を、簡単にご紹介します。
- 著者
- ウィリアム・ゴールディング
- 出版日
ウィリアム・ゴールディングは、イギリスの小説家です。オックスフォード大学という名門を卒業し、第二次世界大戦にも従軍しました。彼はなんと、ノルマンディー上陸作戦にも参加していたのです。そこでの経験が本作にも影響していることは想像に難くないですね。
また、1979年にはジェイムズ・テイト・ブラック記念賞、1983年にはノーベル文学書を受賞するなど、数々の受賞歴があります。本作の他の主な作品は、『後継者たち』、『ピンチャー・マーティン』など。
1993年に、その生涯を閉じました。
ラーフは集会を開くために、ほら貝を吹きます。集会では、ほら貝を持っていれば、誰でも自分の意見を発言することができるのです。これはまさに、民主主義の国会に似ているのではないでしょうか。権力や年齢、地位に関係なく、それさえ持っていれば意見を言えるのです。
そしてラーフは、みんなの賛成があってリーダーとなります。これは現代の選挙と同じ。みんなが決めたリーダーのもとで、みんなが発言でき、生活を送っていくのです。幼い少年たちにも、民主主義の考えが身についていると感じさせる一場面です。
そして、ここで野党にあたるのは、ジャック。彼はラーフの考えに賛同しませんでした。彼は集会でのラーフやピギーの意見が気に食わず、ピギーのメガネを割ってしまいます。
それだけならまだ良かったのですが、彼は平和だった民主主義から離れ、独裁者のように変貌していくのです。独裁者による支配が強くなれば、いくら民主主義を投げかけても、力でねじ伏せられてしまいます。
民主主義でそれぞれの意見をくんでコミュニティを律しようとした少年たちが、力によって秩序を見出していくさまは、人間の本性を描いているかのような冷ややかさを感じさせる内容です。
徐々に狂気を帯びていくストーリーのなかで、サイモンはジャックたちに殺されてしまいます。
島にいる怪物の正体を突き止めた彼は、皆に知らせようと、夜の暗闇を走っていました。ちょうどそのとき、ジャック達は殺した豚で宴会をしていた最中だったのです。
狩猟リーダーであるジャックのもとには、ほとんどの子供たちが集まっていました。彼の仲間になると、豚の肉という見返りがあったからでしょう。結局は餌を理由に、彼の力に吸収されてしまったのでした。
そんな彼は、走ってくるサイモンを見て「怪物だ!」「怪物は殺せ!」と叫びます。独裁政権の元に集まっている彼らにとって、独裁者の命令は絶対です。彼らは、怪物と言われたその人物がサイモンだと気づくことなく、集団で襲いかかり、あっというまに殺してしまったのです。
ジャックは自分の命令に従う彼らを見て、承認欲求が満たされたと同時に、これが引き金となり、さらに暴走していきます。自分の力を誇示したくてたまらなかったのでしょう。相手はもはや、誰でも良かったのかもしれません。
これは、現代のいじめにも共通している構図だと考えられるのではないでしょうか。自らの承認欲求を満たそうとするあまり、他人を標的にして、力を誇示しようと過激な命令をします。そして命令に背く者は、次の標的になってしまうのです。
無人島という閉鎖的な空間では力関係がはっきりしてしまい、どうしても承認欲求が抑えられなくなってしまうのでしょう。この事件をきっかけに、ジャックをはじめ、彼らはどんどん過激になっていきます……。
- 著者
- ウィリアム・ゴールディング
- 出版日
- 1978-01-01
かつてのリーダーであったラーフに味方してくれる子供は、ついにピギーだけとなってしまいました。しかしそのピギーも、ジャックの相棒的存在であるロジャーに岩を落とされてしまったことにより、殺されてしまいます。そしてとうとう、ラーフは1人ぼっちになってしまいました。
それでもジャックの暴走は止まらず、完全に敵と認識されたラーフを殺そうとします。ラーフの居場所をなくそうとし、島に火を放ち、彼をどんどんと追い詰めていったのです。
果たしてラーフは生き残ることができるのでしょうか。
その結末は、ある者にとっては、幸せで、ある者にとっては足枷となるもの。
本作のストーリー、結末からは、他人から見ると邪悪な欲求であったとしても、当人からしてみれば純粋なものなのかもしれないという、人間の本性の捉え方の難しさが感じられます。
彼らの最後が気になる方は、ぜひ本編をご覧ください。