昔話の「鶴の恩返し」に登場する鶴は、タンチョウがモデルだといわれています。美しい女性となって現れるほど魅力的な彼ら。この記事では、生態や生息地、頭が赤い理由、保護活動についてわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
ツル目ツル科に分類される鳥です。河川や湿原、湖などの水辺に生息していて、全長は100~150cmほど、翼を開くと240cmにもなります。全身の羽根は白く、くちばしの付け根から首にかけては黒いのが特徴です。
頭頂部の赤い部分は皮膚で、羽毛は生えていません。
食性は何でも食べる雑食です。昆虫類、エビやカニなどの甲殻類、貝類、魚類、カエル、さらには小型の鳥類や哺乳類なども捕食します。またセリやハコベなどの植物の葉や果実も食べるそうです。
昔話に登場したり、千円札に描かれたり、また折鶴としても日本では古くから親しまれてきました。「タンチョウ」ではなく「鶴」と呼ばれることが多いため、同義として扱われることも多いですが、タンチョウはあくまでもツル目に属する「鶴の一種」です。タンチョウを指して「鶴」というのは間違ってはいませんが、鶴を指して「タンチョウ」と呼ぶのは間違っている可能性があるので注意が必要です。
「鶴は千年」という言葉はあるものの、実際の寿命は平均で20~30年といわれています。
「渡り鳥」のイメージを抱いている人も多いかもしれませんが、日本で見られるのは基本的に北海道の東部のみで、1年中生息しているので留鳥として扱われています。
ロシアや中国、朝鮮半島など日本以外に生息している種は、冬の間は大陸の南の方に渡ることが確認されています。日本に生息する種と、国外に生息する種は区別されていて、オスとメスが向かい合って愛を確かめあう「鳴き交わし」の方法も異なるようです。
国外のタンチョウはロシアと中国の国境の一部になっているアムール川流域で繁殖しています。一方で日本では襟裳岬よりも東側で繁殖し、釧路の湿原や十勝平野などで越冬をするそうです。ちなみに国内で繁殖する鶴は、タンチョウのみだといわれています。
タンチョウの特徴といえば、なんといってもあの赤い頭ではないでしょうか。
名前も頭の赤さに由来していて、赤を意味する「丹」と、頭頂部の「頂」から「タンチョウ」となりました。
先述したとおり、赤い部分には羽は生えておらず、皮膚がむき出しの状態になっています。しかし、仮に他の部分の羽毛をむしり取ったとしても、真っ赤な体をしているわけではありません。
頭頂部は皮膚が赤いわけではなく、血流が見えるほどの細かいこぶが密集しているのです。繁殖期に興奮したり、天敵に威嚇したりする際は血流が激しくなり、こぶが膨張してより赤くなります。
タンチョウの頭頂部の赤さを見れば、その時の彼らの気持ちを推し量ることができるかもしれません。
江戸時代頃までは北海道に数多く生息し、関東地方でも目撃されていたタンチョウ。しかし明治時代に乱獲が起こり、絶滅したと思われていました。羽毛目的のほか、食用として肉が高値で売られていたというデータが残っています。
再発見されたのは、大正時代末期の1924年のことです。十数羽が北海道の釧路湿原で確認され、絶滅という認識は解かれることになりました。
その後1935年に国の天然記念物、1952年に特別天然記念物に指定され、国や自治体を挙げての保護活動がおこなわれるようになりました。1993年には国内希少野生動植物種にも指定され、さらに注目を集めています。
ただし、タンチョウは数が増えすぎると農作物を荒らしてしまう害鳥になってしまうという懸念もあります。彼らが冬を越すことができるよう湿原の資源を守りつつ、できるだけ人間の暮らしと分離させなければなりません。タンチョウを保護しつつ、豊かな自然環境の保護が同時に必要とされているのです。
- 著者
- 久保 敬親
- 出版日
- 2015-07-01
タンチョウは1度ペアとなる相手を見つけると、つがいとなり、一生を添い遂げる習性をもっています。繁殖行為を終えた後もずっと寄り添い、雛の世話も2羽でおこないます。どちらかが死ぬまで、ともに過ごすのです。
本書は、そんな彼らの絆がわかる写真絵本です。一時は絶滅の危機にあったタンチョウ。再び数を増やすことができたのは、人間の保護活動だけでなく、彼らの生命力の強さとつがいの絆があったからでしょう。
背景に写っている北海道の美しい大自然にも注目してください。どちらも失いたくないと心から思わせてくれる1冊です。
- 著者
- 正富 宏之
- 出版日
本書は、四季を通してタンチョウの姿を追い、その生態を多数の写真とともに紹介している作品です。
作者の正富宏之は、30年もの間厳しい自然と戦いながら調査を続けてきた、タンチョウ研究の第一人者です。個体数や分布、保護活動の実態や問題点などを分析し、解説しています。
専門用語をできるだけ省いてわかりやすい言葉で綴っているので、その分内容がストレートに入ってくるでしょう。知識を得るだけでなく、しっかりと考えさせられる1冊です。