数々のミステリーサスペンスホラー作品を手掛ける三部けいが描く、客船でのパニックホラー作品。船内を徘徊する謎の殺人鬼と、それに乗じた悪意ある生存者達から逃げ延びようとする探索者達がくり広げる、緊迫感ある展開が魅力です。今回はそんな本作を、全巻ご紹介。 本作は漫画アプリから無料で読むこともできるので、ぜひそちらもご利用ください。ネタバレ注意です。
物語は、ヒロインである真琴が同級生の千切れた腕を拾い上げるという衝撃的なシーンから始まります。半狂乱になった彼女は、クラスメイトの名前を叫んで助けを求めます。しかし、船内は突如発生した殺人鬼による凶行がくり返されており、すでに地獄絵図となっていました。
- 著者
- 三部 けい
- 出版日
- 2010-08-21
そんな真琴の前に現れたのは、クラスメイトの滝川と春日。いずれも頭が回り、事態を冷静に判断出来る頼もしい2人です。滝川は人間的に難がありそうですが……。3人で探索を続けていると、なんと殺人鬼に抵抗していたはずの教師が、なぜか今度は自分たちに襲い掛かってくるのです。
戸惑いながらも必死に逃げるなかで、教師は船体を襲った大きな揺れによって降ってきた落下物の激突により、動かなくなったのでした。しかし、まだ殺人鬼は船内に残っており、油断できない状況です。
果たして、生徒達は無事に生き残る事が出来るのでしょうか。
そんな本巻の見所は、襲い来る教師(殺人鬼)を撃退するシーンです。やはりパニックホラーの醍醐味は差し迫る危機からの、寸でのところでの回避シーンにもあるといえます。
そういった意味で、本作の次から次へと襲いくる危機の連続は、パニックホラーの王道をしっかり押さえた作りであるといえるでしょう。
教師の凶行から逃れた後、新たにクラスメイトの縞田とカナを発見し、5人で行動する事になりました。
しかし、道中で見つけた弥生という生徒が、明らかに常軌を逸した様子で襲い掛かってきます。それによりカナが傷つけられた事で、一行のなかに疑心が募る事になります。それは、殺人鬼は何かしらのウイルスによる症状で、接触感染により広まるのではないか、という推察があったためでした。
- 著者
- 三部 けい
- 出版日
- 2011-03-25
不安な状態を抱えつつも探索を続ける一行。しかし、殺人鬼に襲われてしまった事で、バラバラになってしまうのです。果たして彼らは、無事に船から脱出する事が出来るのでしょうか。
一方で、暴力と恐怖によって生存者達を取りまとめる高校生・芹沢が登場します。彼は彼で、別方面からこの事態に対する打開策を探っているようです。
しかし、やり方が、感染者を見分けるために焼き印を入れたり、疑わしい相手や邪魔な人物はさっさと始末したりと、真琴達のやり口とはまったく異なった非情な手段を取ります。この先、この2つの陣営がどのように関わり合っていくのかが気になるところです。
そんな本巻の見所は、殺人鬼が感染症ではないかという推察が起こるシーンです。
これまで単なる主人公たちの逃走劇だった内容が、一気に身内が敵となるかもしれないという緊張感と疑念に包まれるようになり、読み手にさらなる絶望感を与えてくれます。
スリリングな展開に拍車をかける事となる、良要素だといえるでしょう。
離れ離れになってしまった一行ですが、滝川は新たな探索者と合流する事が出来ます。
対して、真琴と行動をともにしていくカナは、徐々に自身が感染している可能性からくる狂気に侵されていくのです。真琴を感染者側に引きずり込もうとする彼女は、真琴の不意を突いて、なんと彼女に噛みつきます。
- 著者
- 三部 けい
- 出版日
- 2011-08-25
しかし真琴は、接触したからといって感染したとは限らない、と希望を捨てない意思表示をするのです。
そんな彼女の真っ直ぐさに反比例するように、カナは自分以外の無事な生存者全てに対する悪意を表面化させていくのでした。
また、縞田と行動をともにしていた春日も、徐々に序盤の紳士的な仮面を脱ぎ捨てていき、内に秘めた悪意を明らかにしていきます。各方面で混沌としていく生存者達ですが、果たして誰が生き残る事になるのでしょうか。
そんな本巻の見所は、狂気に満ちていくカナの様子です。
冷酷な計算のうえで他者を害しようとする生存者は他にもいますが、純粋な悪意から他者を傷つけようとする彼女の存在は、本作でも特に異質といえるでしょう。他作品を全て見渡しても珍しい程の下衆なキャラクターといえるので、希少な存在です。
いよいよ、純粋な殺人鬼となってきたカナによる凶行が加速。彼女はついに、傷を負っても何度でも回復する感染者として、生存者達に牙を剥くことになります。
しかし、そんな彼女が襲い掛かった春日もまた、自分以外の障害を排除しようとする、冷徹な異常者だったのです。
壮絶な戦いの末に、最期を遂げたカナ。そんな彼女は最後のひと噛みとばかりに、滝川に噛みついて退場する事になります。
- 著者
- 三部 けい
- 出版日
- 2012-01-25
一方で、悪意を隠す事の無くなった春日は、自身の生存に向けて手段を選ばず、暗躍しようと動き始めます。さらに、これまで危ういながらも恐怖による統治が続いていた芹沢グループの団結が、徐々にほころびを見せていくのです。
各陣営でそれぞれ変化しつつある状況が、物語の結末をどのように導いていくのでしょうか。
そんな本巻の見所は、やはりカナ対春日の対決でしょう。いずれも異常者ではありますが、さらなる悪意で相手を叩き潰そうとする構図は、なかなか見応えがあります。
いよいよ、本格的に動き出した春日の悪意が迫る本巻。
前巻で崩壊した芹沢グループの隙間に入り込むように、自らの陣営として手駒に加えるよう、春日が働きかけます。芹沢と春日という、いずれも自分の生存のために動く両者の構図が続いていきます。
しかし、ついには感染の魔の手に落ちてしまう芹沢は、生き残る事ではなく、自分を陥れた春日に復讐するために、感染者としての力を利用する事を考えたのでした。
また、カナからの攻撃で負った傷により、感染者となるまでのタイムリミットが迫る滝川は、それでも自分が守りたい人達のために、決死の覚悟を決めるのです。
- 著者
- 三部 けい
- 出版日
- 2012-06-25
そんななか、殺人鬼を量産する感染症の原因である軍事機密を隠蔽しようと試みる空軍による、船へのミサイル攻撃のリミットも、刻一刻と迫るのでした。
果たして生存者達の運命はどうなるのでしょうか。
そんな5巻の見所は、滝川が友人たちのために思考を巡らせるシーンです。それぞれの生存者がどんどん醜悪なエゴイズムに沈んでいくなか、彼は高潔な心根を失う事なく、最後まで人間として戦おうと奮闘します。
彼こそが、本作における良心といっても過言ではないでしょう。最後までその活躍から目が離せません。
いよいよ、すべてが決着となる最終巻。
殺人鬼と化した芹沢と春日に対し、みんなを守るために決死の覚悟で戦いを挑む事になる滝川。まさに、ラストバトルに相応しい内容です。
自分が人を殺したという事実を知っている者を、全て殺そうとしている春日。そんな狂人じみた相手に、打ち勝つことができるのでしょうか。
- 著者
- 三部 けい
- 出版日
- 2013-01-25
勝負の行方と生存者については、ぜひご自身の目で確かめて頂きたいと思いますが、とにかく滝川による活躍が心を打つ最終巻となっています。
特に見せ場である滝川と、生存者のうちの1人である少年・俊助の未来への約束を交わすシーンは、思わず涙腺が緩んでしまうのではないでしょうか。
とてもきれいにまとまった結末ですので、本作を読んで頂く際には、ぜひ最終巻までしっかりとご覧ください。
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