詩的で美しくも骨太の世界観を描き続ける丸山健二。胸に沁みる独特の物語が多いのが特徴です。そんな、丸山健二の作品のおすすめを6作ご紹介します。
丸山健二は日本の小説家です。1943年、長野県飯山市に生まれ、国立仙台電波高等学校(現・仙台高等専門学校広瀬キャンパス)を卒業後、東京の商社に勤務しました。
1966年『夏の流れ』で文学界新人賞を受賞してデビュー。この作品は芥川賞受賞作でもありますが、受賞年齢23歳は当時の最年少です。
1968年、長野県に移住し、作庭作業に情熱を傾けているそうで、庭造りや花造りに関するエッセイには『安曇野の白い庭』『新・作庭記』『ブナの実はそれでも虹を夢見る』、写真集には『荒野の庭』『小説家の庭』『草情花伝』などがあります。
2013年に「丸山健二文学賞」を創設し。2015年には「丸山健二塾」をスタートしています。
死刑執行日に到るまでの担当刑務官と死刑囚の心の動きを、平凡な家庭を持つ刑務官の日常と、死を目前に控えた死刑囚の非日常を対比させながら描いている作品です。
- 著者
- 丸山 健二
- 出版日
- 2005-02-11
23歳という若さで芥川賞受賞することになった作品ですが、選考の際、選者のひとりであった三島由紀夫は「男性的ないい文章であり、作品である」と評価しつつも、「あんまりに落ち着き過ぎ、節度があり過ぎ、若々しい過剰なイヤらしいものが少な過ぎるのが気になる」「悪い意味でのしてやったりという若気も出ている」と、のちの丸山作品に繋がる部分を指摘してもいます。
抑制のきいたリアリズムは既にうかがえますが、後々の作品に多く描かれる生臭いハードボイルド色は薄く、死や暴力を扱っているものの、なぜか不思議なさわやかさまで感じられるのです。川や湖が多く登場するせいもあるのでしょうか。
弱冠23歳にして、これだけの文章を書く丸山健二に驚いてしまうと思いますが、読んで損はありません。ぜひどうぞ!
2年間の療養所生活後、ただ部屋の二階から双眼鏡で団地内を覗くだけの無為の自宅療養をつづける青年が、生気にあふれた大男「ドラゴン」と巨大な犬「キバ」を見つけます。また、隣家では、青年が「はと」と名付けた女性が家族からの脱出を目論んでいました……
谷崎潤一郎賞候補作にあがりながらも、辞退しました。
- 著者
- 丸山 健二
- 出版日
純文学と呼ぶべきなのでしょうか。少々、いや、かなり歪んだ青春小説です。ずっとひきこもり続ける青年が身勝手な妄想を重ねていくばかりの物語。ねじ曲がった想像ばかりなのでどこまでが現実なのだろうと判別がしにくくなるのですが、その中には膨れ上がった不安のようなものも始終みなぎっていて、圧倒させられます。
現実感が不確かで、まるでメルヘンのような印象です。小説と散文をまぜ合わせた独特の文体と構成が相まって、そんな効果を上げているのかもしれません。
好き嫌いが分れる作品ではありますが、読まず嫌いは損をしますので、まずは一度読んでみてください。
都会での暮らしに敗れて郷里へ引き返した青年は、ひとと接するのが苦手なこともあり、自宅で出来る仕事を探すような軽いひきこもりになっていました。そんな彼がとった自己回復の手段は「強姦殺人」という行為でした……。
- 著者
- 丸山 健二
- 出版日
詩的で絵画的な文章でつづられた作品でありながら、無駄な表現がなく、どことなくどっしりしていて、落ち着いて読むことができます。登場人物の葛藤や呻きの深さに、胸が突かれるように痛くなるかもしれません。
日本人にとって、日本文学にとっての「故郷」の意味、「帰郷者」としての青年の鬱屈を的確に描いて、純文学とハードボイルドという相反したジャンルが共存している作品なのではないでしょうか。終章が少しばかり性急なのですが、全体的にはずしりと響く完成度だと思います。
気持ちが強いときに読まないと負けるかもしれませんが、ぜひ読んでみていただきたい1作です。
リンゴの花の下で、青年の欲情を受け入れて去って行った女が帰ってきました……。
小説というより詩に近い形で書かれた物語です。四季の屏風に描かれた法師の絵があり、それを10歳・20歳・30歳・40歳のときそれぞれに眺める主人公の姿を淡々と追うという表現方法が取られています。
- 著者
- 丸山 健二
- 出版日
とにかく文章が巧く、読み出すと止められません。なにしろ、目の前に鮮やかに光景が浮かび上がるという印象なのです。その巧さ故なのか、描かれている不幸で救いようのない女性のことが余計に苦しく感じられてしまいました。主人公には次の道が開かれているようだけれど、この女の人は救われないのかもしれないなぁと思ったり。
川端康成文学賞候補作ですが、やはり、辞退しているようです。
ですが、そこにあるあざやかな「生の点描」は、とても胸に響きます。長い作品ではありませんが、後々まで記憶の底にひっかかる作品。ぜひとも読んでみてくださいね。
仕事を辞め、妻と離婚し、自暴自棄な生活を送っていた「私」は、なんらかの組織に属しているという昔の知人から、ある青年の身の回りの世話と別荘の管理を依頼されました。必要最小限の会話だけをし、酒も煙草せずに黙々とトレーニングに励むばかりの「彼」との生活がはじまり……
- 著者
- 丸山 健二
- 出版日
世話を依頼された「彼」との生活、政治家暗殺に成功するはずだった「彼」が謎の死を遂げるまでを「私」の視点から緻密かつ刹那的に描いた作品です。与えられた仕事を的確にこなしたのに会社に裏切られた「私」と、仁義に自分をささげた「彼」の対比が素晴らしく、盛りの時期が過ぎた信州の避暑地の描写が実に見事でした。
森田正光監督が沢田研二主演で映画化していますが、雰囲気がかなり異なるので、小説のせつなさのほうが魅力的に思えます。
結末には少々暗い気分になりますが、生きるとはこういうことなのかもしれません。淡々としつつも、ハードボイルドの空気感を持つこの作品。ほんとうにおすすめです!!
主人公は「海ノ口町」に住む40代の公務員の男。彼は故郷愛が強く、町の外に出ていくことはほとんどありません。そんな生活をしている中、うさんくさいよそ者が町に住みついて彼の故郷に対する葛藤が始まるという話です。
彼の葛藤は常に故郷愛に根づいたものなのですが、少しずつ不穏な雰囲気を帯びていきます。
- 著者
- 丸山 健二
- 出版日
セリフはあまりなく主人公の考えがつらつらと書かれているのですが、彼の心の葛藤がどんどん歪んだものになり、その歪みを他人に指摘され苦悩していく様子に引き込まれます。
また、主人公の苦悩、不穏さがセリフだけでなく彼が見る風景を通して感じることができます。風景はどこにでもある田舎なのですが、彼を通して見る風景が少しずつ、でも確実に奇妙になっていく様に丸山健二の筆力を感じるでしょう。
この作品を読んで考えずにいられないのは故郷とはなにかです。故郷を持つ人、持たない人いると思いますが、故郷を持たず気にしないのがいいことなのか、それとも故郷を大事にして他のことが見えなくなるほどがいいことなのか、読み終わった後に思わず考えてしまうでしょう。
純文学とハードボイルドという相反したジャンルを巧みに重ね合わせて、世界を構築していく丸山健二。その文章の美しさをぜひ味わっていただきたいです。