売れっ子だったけど今は落ち目のネガティブ漫画家と、そんな彼を献身的に支え続けるアシスタントがくり広げる、脱力系日常ラブコメディ!『宇津野先生はメランコリック』は、主人公に振り回されたり、時に振り回したりする周囲の魅力的でクセのあるキャラクター達が登場し、彼らの掛け合いが絶妙な笑いを生む作品です。 今回はそんな本作の魅力を、全巻ご紹介していきます。ネタバレ注意です!スマホの漫画アプリから無料で読むこともできるので、そちらもぜひご利用ください。
元売れっ子漫画家の宇津野史郎(うつのしろう)と、アシスタントの赤坂えみり(あかさかえみり)は、最近は主に2人で執筆作業を進めています。
そんななか、肝心の宇津野は事あるごとに自殺を図ろうとするほどに、情緒不安定な日々を送っていました。自分の名前でエゴサーチして童貞と罵られたり、SNSに写真を掲載しては失敗したりと、次々と鬱になる要因を自ら構築していくのです。
昔の栄光を知っている赤坂は、そんな彼になんとか立ち直ってほしいと、日々支え続けます。果たして2人は、かつての輝いていた日々を取り戻す事が出来るのでしょうか。
そして、彼らの男女としての関係は……?
- 著者
- 西渡槇
- 出版日
- 2017-10-25
本作を語るうえでは、もちろんタイトルにもなっている宇津野史郎の存在は欠かせません。
彼は、以前こそヒット作を週刊で連載していた経験がありましたが、現在は読者からのアンケートも取れないような状態が続いています。しかも、そんな現状を打開しようとする熱意があるわけでもなく、とにかく悲観に悲観を重ねては、見当違いの方向にばかりエネルギーを消費してしまうのです。
そんなネガティブ思考が祟り、〆切間近になると首を吊ろうとしたり、手首を切ろうとしたりと、自殺願望まで押し寄せてくる始末。売れない自分自身の力不足を嘆いて、さらに売れなくなってしまうという悪循環となってしまっているのでした。
しかも、彼は現在描いている作品が恋愛要素を含む作品であるにも関わらず、恋愛経験がまったくありません。それどころか、異性とそういった性的な関わりをすることに対し、こじらせすぎて抵抗が生まれている状態なのです。
当然、下ネタに対する抵抗が生じ、リアリティを追求するには経験不足であることは否めず、作中でもそこを何度も指摘され続けています。
そんな、とにかく何から何まで振るわない事だらけな彼なのですが、だからこそ、そのキャラクターの個性の強さが際立っているのです。そして、そんな彼のモチベーションをなんとか支え続けてくれているのが、アシスタントの赤坂えみりでした。
彼女についての詳細は後述しますが、そんな彼と彼女が徐々に絆を深めていく様子を見守るのが、本作の主要な楽しみ方の1つであるといえるでしょう。
続いて紹介するのは、コミックスの表紙も飾っている本作のヒロイン・赤坂えみりです。彼女はとにかく、宇津野にはもったいないくらいによくできた女性という他ありません。
頼りがいがなく、うだつの上がらない宇津野を、売れなくなってからも傍でずっと支え続けてきました。もちろん、宇津野のネガティブな方向への暴走には日々手を焼いているので、とにかく振り回され続けている現状に、疲労感は見えています。
それでも、かつて自分が尊敬し、漫画家として輝いていた頃の彼に戻ってほしいという想いから、未だ見捨てずにアシスタントとして残り続けているのです。
そんな彼女の素晴らしい人格はもちろんですが、女性としての可愛らしさも大事な魅力。実は彼女も、宇津野に負けず劣らずのピュアな恋愛遍歴の持ち主で、過去に男性との性的な絡みはありませんでした。そのため、性的な事については宇津野より少しマシといった程度の免疫しかなく、随所で赤面しながらの初心な反応が見受けられます。
さらに宇津野から処女のクセにと挑発を受けた際には、経験があると言ってしまうなど、まるで思春期の学生のような見栄を張ってしまったりするのです。
そんな恋についても奥手な者同士な2人だからこそ、関係の進展が読者にとって楽しみなものになっているのだといえるでしょう。
ここまで主役2人についてご紹介してきましたが、そんな彼らと他のキャラクター達が織り成すギャグ展開は、とても痛快な内容となっています。
そもそも日常のゆるいノリを描いた作品なので、シリアスなストーリー展開などはほとんど存在しません。ですが、当の宇津野は日々死ぬか生きるかの瀬戸際で必死にせめぎ合っているため、常に鬼気迫る表情とテンションだったりします。
担当編集者の来訪を恐れて飛び降りようとしたり、ネット上の批判を目にして原稿が描けなくなってしまったり……。ありとあらゆるリアクションがマイナスにオーバーであるため、他のキャラクター達にとっては気が気ではありません。
しかし、読者にとってはそんな彼と、それに振り回される周囲の姿がなんともスピード感溢れる展開で心地よく、思わず吹き出してしまいそうになります。
また中盤以降になると、徐々に他のキャラクター達もそれぞれの個性の強さを発揮し始め、いつしか宇津野以上のアクシデントを引き起こしたりするようになってくるのです。
そんな彼らの掛け合いのテンポがとにかく素晴らしく、読者にはネガティブどころか、常に笑いの波が押し寄せてくることになります。
ギャグとしてのレベルも実に見事なのが、本作の素晴らしい点だといえるでしょう。
ここからは、各単行本の内容と見所について触れていきます。
本巻では、掴みのエピソードともいうべき内容として、宇津野が自分の名前をネットでエゴサーチするところから始まります。ネットで「童貞先生」と呼ばれている事を知った彼は、締め切り前であるにも関わらず、赤坂に自分の首を絞めてほしいと頼むほどにふさぎ込んでしまいました。
そんな状態の彼は「童貞」という不名誉を払拭するために、赤坂の力を借りて、恋仲の女性とのツーショットっぽい写真を撮影し、アップロードします。
しかし、結果は撮影した写真が明らかに水商売の女性との写真っぽくなってしまい、「素人童貞先生」と呼ばれる事となってしまうのでした。
- 著者
- 西渡槇
- 出版日
- 2017-10-25
このエピソードのほかに、本巻では担当編集の来訪や、宇津野にやる気を起こさせるために、代理の編集者(思わせぶりな発言をくり返す変人)が来る話などが描かれています。基本は1話完結の作品であるため、主要人物さえ押さえておけば、どこからでも読むことが出来るでしょう。
そんななかでも見所は、宇津野が女性の下着を描くために、赤坂に女性ものの下着を要求するエピソード。本来、女性ものの下着を新品で購入すればよかった話なのですが、赤坂はこの依頼に対し、まさかの自分の下着を差し出すという驚きの行動に出ます。
その時の彼女の様子がなんとも可愛く、そしてまさか本人が脱いだ下着と思わない宇津野は、じっくりと下着を観察するのです。
その様子が実にコミカルで、本作の魅力がしっかり詰まったエピソードであるといえるでしょう。
最終巻です。本巻では、宇津野と赤坂のコンビに続いて登場した、新たな漫画家コンビが活躍します。
実年齢は30歳を超えているのに、見た目は12歳の子供にしか見えない日常ネムと、プロアシ志望で彼女に弄ばれている瀧聞祐一の2人。
彼ら2人が織り成す新たな恋愛(?)エピソードも実にインパクト抜群で、テンポのよい笑いを提供してくれます。また、宇津野と赤坂の関係についてもぐっと進展し、これまでとは変わったやり取りを読むことが出来る一冊です。
また、宇津野の従姉妹・エミのエピソードも収録されています。こちらも注目です。
- 著者
- 西渡槇
- 出版日
- 2018-03-24
そんな本巻は、やはり宇津野と赤坂の恋の行方が見所。恋愛に奥手な2人が、おっかなびっくりしながらも、これまでとは異なる関係に踏み出そうとします。
その様子がなんとも初々しく、思わずニヤニヤしてしまう必須です。果たして2人の関係は、どうなっていくのでしょうか。ぜひ結末まで、ご自身の目で見守って頂ければと思います。2巻完結なので、サクッと気軽に読めるところも魅力ですよ。