着眼点の独特さが素晴らしい宮内悠介。SF要素が高いとは言えないのかもしれませんが、どんな要素を描いても土台にはSFがあるように思えます。そんな、宮内悠介の作品のおすすめを6作ご紹介します。
宮内悠介は日本の小説家です。1979年、東京都に生まれ、1992年までニューヨーク在住でした。早稲田大学第一文学部英文科卒業。在学中はミステリークラブに所属していました。
卒業後にはインドやアフガニスタンを放浪し、麻雀プロ試験に補欠合格しつつもプログラマになりました。一方でワセダミステリークラブOBで構成する創作同人誌「清龍」での執筆活動も続けていたそうです。
2010年、囲碁を題材にした『盤上の夜』で、創元SF短編賞で選考委員特別賞(山田正紀賞)を受賞して、2012年に連作短編集の形で単行本デビューを果たしました。
事故で四肢を失った灰原由宇が、囲碁盤を手足のように知覚できるというところから物語がはじまります。彼女が囲碁をはじめたきっかけは自由を得るためでしたが、介添人がいなければ囲碁を打つことはおろか、日々の生活も送れないのです。由宇にとって、碁盤は身体そのものであり、言葉であり、世界でした。
だからこそ、由宇は盤上の感覚を研ぎ澄ますために言語を学んだり、あらたな言語を創造したり努力を重ねていきます。対局を通した「対話」というテーマをつき詰めるために。
- 著者
- 宮内 悠介
- 出版日
- 2014-04-12
SF成分はあまり濃くないかもしれません。だからこそ、このジャンルに慣れていなくても手に取りやすく、読みやすい作品です。宮内が難しい問題を簡単明瞭に説明する技術が高いのでしょう。キャラクターも立っているし、もちろん囲碁がわからなくても楽しめます。
それでいてSF的小道具がなければ登場人物の行動の動機づけが難しいストーリー展開であり、立派なSF作品なのです。
この作品が収録された短編連作集は、この作品以外も扱っているテーマ、技法、展開、ボードゲームがモチーフとなっていて、全体的に完成度が高く飽きさせません。難しそう…などと思わず、ぜひ読んでみてください。
未来、人類がはじめに移住成功した太陽系外の星・通称「二番街」が舞台となります。その星にある新生金融の二番街支社に所属する債権回収担当者の「ぼく」は、大手が滅多に相手にしないアンドロイドをおもな顧客にしています。コンビを組む上司のユーセフは、部下を馬鹿呼ばわりして暴力を振るい、面倒なことは押しつける最低な男で……。
- 著者
- 宮内 悠介
- 出版日
- 2016-08-29
コメディタッチのSF連作シリーズです。バディものに分類されるのでしょうか。最低上司なのに仕事が出来るユーセフに巻き込まれ、「ぼく」はいつもひどい目に合ってしまうのですが、ふたりのやり取りや展開は面白く、最高に楽しめます。
ビットコインのようなタイムリーなネタや選挙のエピソードは現実のパロディみたいですし、スマホゲームやネットのネタも登場します。SFながら現代と内包する悩みのようなものは同じなのだなと思いました。
ちょっとアニメテイストではあるものの、推理モノのような要素も含んでいて、作品の出来は高いのです。あらゆる方面から充分に楽しめると思います。
連作短編集です。戦災孤児の少年少女が、遺棄された日本企業の耐久試験場で何年も落下実験に耐え続けている日本製ロボット・DX9を捕獲しようと挑む姿を描いているのが、この表題作品になります。
- 著者
- 宮内悠介
- 出版日
- 2013-05-24
南アフリカ、アメリカ、アフガニスタン、イエメン、日本を舞台にし、紛争や民族対立という難しいテーマを描き、ロボットのDX9が狂言回しのように登場しています。連作形式をとっているものの、明確なつながりはこのDX9のみです。
ちなみに、このDX9は、ホビー用のロボット。楽器として流通しており、通称は歌姫。愛玩用として話し歌うのです。
SFながら、現代日本社会と重なるような「閉じられた空間」に生きる人間たちが描かれていて、生きる意味を考えずにはいられません。全体的なカラーはモノトーンという感じでしょうか。かなり重い作品です。
もしも手塚治虫や石ノ森章太郎の描いていた世界観を小説にしたら、こんなふうになるのではないかなと思う箇所もありますが、宮内独自の味付けもあって、他には類を見ない作品ですので、ぜひ読んでみていただきたいです。
「百匹目の猿」「超能力」「オーギトミー(ガンマナイフによるロボトミー)」「代替医療」「浄化する水」など、科学を越えた「超常現象」を通して、人間は「再発見」されていく……。
- 著者
- 宮内 悠介
- 出版日
- 2016-04-20
SFの枠を超えたエンターテインメント連作短編集です。語り手となる「わたし」は疑う側の人間として取材していきます。読者と同じ目線と言えるでしょう。
ですが、それぞれの背景や結果にだんだん影響され、否応なしに巻き込まれてしまいます。なにかを必要以上に覗けば、むこうも自分を見ているわけで、仕方がないのかもしれません…。
描写が生き生きとしていて、実によくできている作品ばかりです。最後に待ち受けるものが怖いような、覗きたいような、そんな好奇心を刺激する作品ばかりで、どきどきしつつも充分に楽しめます。好奇心いっぱいで読んでみてくださいね。
すべての精神疾患がコントロールされた近未来。舞台は、火星で唯一の精神病院である、丘の斜面に建てられた十棟からなるゾネンシュタイン病院です。青年医師・カズキは、亡くなった父親もかつて勤務していた、過酷な開拓地であり、薬もベッドもスタッフも不足している、この病院へ着任し……。
- 著者
- 宮内 悠介
- 出版日
- 2015-06-29
テーマは精神医療史で、宮内悠介初の書き下ろし長編。火星に暮らすひとびとが「エクソダス症候群」という謎の精神疾患を発症し、精神科医カズキが疾患と闘うという設定が新鮮で、ミステリー的な要素もあって一気に読ませてくれます。
濃厚になりそうな部分をあっさりと描いているので、読みやすく、アイデアもストーリーも一級品。火星の表現がノスタルジックで、精神医療とSFの絡め方がちょうどいいバランスになっています。
宮内悠介の長編が読みたかった読者はもちろん、これがはじめての宮内体験でも問題なく楽しめる1作です。
物語の舞台は、実在する塩湖アラル湖が干上がってできたとされる架空の国アラルスタンです。主人公の女の子は紛争で両親とはぐれ、アラルスタンで独自の教育を受け後宮として仲間と暮らしています。しかし、国は大統領が暗殺されたことを境に状況が一変するのです。大統領の代わりに国を守るべきはずの議員達は怖気づき全員逃げ出し、国を守る人がいなくなります。そこで、主人公である少女達が、自分達が国を守ろうと一致団結するのです。
しかし、そう簡単にいくはずもなく様々な問題に直面します。環境破壊、紛争、過激派部隊が攻めてくるなど次から次へと事件は起こっていくのです。誰が味方で敵なのか、少女達は国を守ることができるのか、ハラハラドキドキする展開が待っています。
- 著者
- 宮内 悠介
- 出版日
- 2017-04-21
作品の題材には中東国の宗教問題、内戦等難しい問題が絡んでいるので、事情に詳しくない人はしんどいと思う方もいるかもしれません。しかし、軽いテイストになっているのであっさりと読めるかと思います。また、主人公の少女の天真爛漫な性格や一生懸命に頑張る姿の描写が魅力の1つです。読後には、少女が口にする「やることはやった。後は野となれ」という台詞が響き、明日を生きる活力になるでしょう。
SFにあらゆる要素を織り交ぜて物語を作り上げていく宮内悠介の世界は一度はまったら抜け出せないものがあります。そんな「ぬかるみ」にも是非はまってみてください!