同じ時間を繰り返すループものはアニメやゲームなど、様々な物語で使われている設定です。小説でも同じで、ミステリーやSFライトノベルなど様々なジャンルで使われています。 そんな繰り返しの中で差異を描いている、ループものを5作品ピックアップしたいと思います。
西澤保彦『七回死んだ男』講談社文庫
自分の意思とは関係なく、時間のループに巻き込まれてしまう主人公を描いたミステリー小説です。
きっかけもなく反復の落とし穴に入り込んでしまう体質を持つ主人公、大庭久太郎。彼とその家族は、一流企業の会長である祖父、渕上零次郎のものに集まります。叔父叔母、いとこなどが集まる中で、祖父は跡継ぎを発表すると言い出しました。それぞれ左遷や退職となった夫を持つ家庭は祖父に取り入ろうと必死にアピールしていくのです。
そんな中、祖父が遺体で発見されます。そして久太郎はループの落とし穴に入り込んでしまいました。祖父を救うため、彼は画策していきます。
- 著者
- 西澤 保彦
- 出版日
- 1998-10-07
ある日突然、同じ1日を9回繰り返してしまう主人公が各人の動きを調べていきます。正月、零次郎のもとに集まっているのは13名。彼、彼女らの行動を調査し、祖父の亡くなった理由を調査していきました。繰り返しをうまく使った試行錯誤はよって可能性を削っていくようなミステリーです。前のループで推測したことが今回のループによって否定されたりと、事件の様相をころころと変え、面白い作品になっております。
また9回という規則には未来に繋がらない今日が8つあるということです。その虚しさから自暴自棄、ハチャメチャな結末など、様々な1日ができました。1つの行動を変えることで、大きく様相を変える差異は時に時に切ない1日を、時に面白い1日を作り出していくのです。
規則正しい繰り返しの中で、暴かれていく人間模様が魅力的な作品です。ぜひお手に取ってみてください。
鮎川歩『クイックセーブ&ロード』ガガガ文庫
本作はループすることができる主人公が友人の自殺理由を探り、彼女を救おうとする作品です。現状をセーブしたいと思うだけで、死んだ後その地点に戻れる能力を持つ主人公、榊潔人。意識的にやり直すことができる榊は簡単な理由で、セーブと自殺を繰り返していました。今回もせっかくの誕生日なのに不運なことが続いたという理由で自殺しようとします。ビルから飛び降りると、同じタイミングで落ちている女子中学生に気付きました。落下しながら、彼女が親しい友人の梓由衣であると気づくのです。
- 著者
- 鮎川 歩
- 出版日
- 2009-08-18
榊は意識することで、脳のどこかを針で刺したような感覚とともにセーブができるのです。そんな能力は便利であると同時に、彼の人生が味気ないものと感じさせています。
“針を打ち込んでは抜き取り、また打ち込んでいく。そんな繰り返しの果てに蜂の巣状態になった頭から、大事な何かが次々とこぼれていくような感覚。むなしさだけが強くなり、僕の心はどんどんと淀み、濁っていった。”
「クイックセーブ&ロード、ガガガ文庫、25P L9~L11より引用」
本文では上記のように説明されています。針のような感覚とそこから蜂の巣のような脳、こぼれていくという表現。主人公の能力に合わせた表現が作品のディティールを高め、彼の思いが重く伝わってくるのです。
そして彼はループの中で、自殺直前の梓に「助けて、ほしかったかも」と告げられます。その言葉によって彼は彼女の自殺理由を探っていくのです。
繰り返しの中で、自殺していく梓の本心を探っていく青春小説です。彼女の抱える問題とそこに挑戦していく主人公の奮闘をぜひ読んでみてください。
静月遠火『R&R』メディアワークス文庫
本作は繰り返しをする男性と話を聞く女性を描いた青春小説です。主人公、廻谷千瀬はゴールデンウィークの最終日である5月6日にループに陥ってしまいます。抜け出せない毎日の中、自暴自棄になりかけながらも彼は新海百音と出会うのでした。話を聞いてくれた彼女にすがり、摩訶不思議な現象から抜け出そうとする廻谷。しかし繰り返しをしている彼とは異なり、普通の時間を過ごしている彼女は彼の話が受け入れられないのです。
- 著者
- 静月 遠火
- 出版日
- 2012-07-25
本作は繰り返しをしていない新海の視点で語られる作品です。繰り返しをしているのだという廻谷は不自然で奇妙な人間として登場しました。ループしている人がそのことを他の人に理解してもらう難しさがコミカルに描かれています。揚げ足を取る新海と受け入れてもらうために画策する廻谷のやり取りは軽快で、楽しい作品になっています。
しかし同じ1日の中での交流は翌日には繋がりません。廻谷は新海との会話によって気づきを得ていきますが、新海は廻谷のことを忘れてしまうのです。その差異は廻谷を苦しめていきました。どんなに積み上げても崩れていく関係に自暴自棄になってきます。
ループの中で気付く真実と2人の関係。ミステリー風味な青春小説をぜひお手に取ってみてください。
入間人間『強くないままニューゲーム』電撃文庫
本作はコンティニューの繰り返しの中で、何者かにより仕掛けられたゲームの攻略を目指す作品です。
主人公、アリッサ藤が授業を受けていると、視界の端に“Ver.1に更新しました”という文字が表示されました。不思議に思っていると、カウントダウンが始まり、彼は崩れた校舎に潰されて亡くなってしまいます。そこでコンティニューの画面が現れ、崩れる前の教室に戻されるのです。そして調べていくうちに校舎を破壊しているのが怪獣であること、隣のクラスの敷島弓子も記憶を保持していることを知るのでした。
- 著者
- 入間人間
- 出版日
- 2013-05-10
本作はバージョンやコンティニューなど、ゲームのような繰り返しを描いている作品です。また怪獣が現れ、それを倒すことがループから抜け出す条件だと藤、敷島は気付きました。2人は協力をしながら怪獣の対処法を探っていきます。考えの違いから軽口をたたきながら楽しく、けれど緊張感のある攻略をしていくのです。
また本作は藤のパートと、敷島のパートが分かれています。作中で藤が“良いやつ”、敷島が“悪いやつ”と役割分担をしています。その考え方の違いから怪獣の攻略方法も異なりました。“良いやつ”の倒し方と“悪いやつ”の倒し方、その違いも必見です。そして倒し方によって分岐していくストーリーの行く末をぜひ楽しんでいただきたいと思います。
森見登美彦『四畳半神話大系』角川文庫
本作は「私」がもし違うサークルに入っていたらというパラレルワールドを4つの短編で描いている作品です。
主人公、私は冴えない大学3回生。思い人である明石さんとお近づきになりたい昨今ですが、師匠の樋口に無理な要求をされ、奔走する毎日を過ごしていました。私は後悔し、違うサークルに入っていればと切に願うのです。
- 著者
- 森見 登美彦
- 出版日
- 2008-03-25
パラレルワールドものですが、ループしているかのような構成であるため、ピックアップさせていただきました。
それぞれ映画サークル「みそぎ」に入る場合、樋口に弟子入りした場合、ソフトボールサークルに入った場合、秘密組織「福猫飯店」に入った場合とそれぞれ描かれています。癖のある登場人物とともに、それぞれの世界での生活がコミカルに語られていました。まじめな説明と尖った私の心情のコントラストは不思議な印象を与えます。
そして平行世界が描かれる理由も明かされます。京都を舞台にした作品らしい結末に驚きと面白さを感じてしまいます。魅力的なキャラクターと平行世界の差異をぜひ楽しんでみてください。
以上、5作品をピックアップさせていただきました。それぞれ原因不明のループ、意識的なループ、ループしているものいないものの交流、選択による違う結末、平行世界の作品のご紹介いたしました。
本5作品以外にも、多彩なループもの作品がございます。ぜひ本紹介をきっかけに読んでいただければ幸いです。