『1Q84』7つの謎について考察!宗教団体、リトル・ピープルなどを解説

更新:2018.9.24

村上春樹が書いた本作は、日本ではもちろん世界各国で翻訳され、大ベスト・セラーとなった小説です。3部作として発売された本書は、Book1とBook2の発売からたった1週間で96万部にものぼり、テレビニュースなどでも大きく取り上げられました。読者が増えていくに連れて、いろいろな謎が残されていることから、未だにその解釈は議論を呼んでいます。 現在では文庫本も発売されており、さらに読者を広げている本作。今回は、そんな本作の7つの謎に迫ります。ぜひご覧ください。

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『1Q84』あらすじを簡単に紹介!

10歳の小学生時代にたった1度だけ、手を握り合った青豆と天吾。大人になってからも互いを忘れることなく求め合い、20年後に再会を果たします。

予備校の講師を続けながら小説家を目指す天吾と、スポーツインストラクターをしながら、女性をDVなどによって苦しめる男性を次々と暗殺する青豆。そんな2人が主人公となって、物語は進んでいくのです。

著者
春樹, 村上
出版日

 

ある日2人は別々のタイミングで、自分たちが生きている1984年の世界から、1Q84と呼ばれる新しい世界に引き込まれてしまいます。その世界は1984年とほとんど同じであるものの、月が2つあったりと、明らかにおかしなところがあるのです。

そんな1Q84という世界で、深田絵里子(ふかえり)という謎の少女が描いた小説である『空気さなぎ』を鍵にしながら、青豆と天吾は再び接近していきます。

 

登場人物を紹介!

ここでは、本作の登場人物をご紹介します。

 

  • 天吾

    千葉県市川市生まれ。母親は、彼が生まれてすぐに病で死んでします。父はNHKの集金人として働きながら、再婚することなく彼を男手一つで育てました。彼は大学を卒業した後、予備校の数学講師をしながら小説を書いています。年上の人妻と不倫関係。

     
  • 青豆

    身長168cmという抜群のプロポーションに、卵型の顔立ち、濃い緑色のサングラスをしており、いびつなかたちの左耳が特徴の女性。広尾の高級スポーツクラブに勤務するインストラクターです。

    両親が、証人会という宗教団体の信者。キリスト教の分派で、子どもの頃は彼らに連れられて終末論を説きながら、布教活動を熱心におこなっていました。DVをくり返す男を秘密裏に暗殺することを、裏稼業としています。

     
  • 深田絵里子(ふかえり)

    本作に登場する小説『空気さなぎ』の作者であり、17歳の少女。両親とともに山梨にあるコミュニティ「さきがけ」内で育ちますが、10歳の時に逃亡して、父の友人・戎野のもとに身を寄せています。

    黒くて長い髪を持っており、とても美しい顔立ちです。ディスレクシア(読字障害)であるものの、長い物語や外国語の歌を丸ごと暗記できます。

     
  • 牛河

    元弁護士。宗教団体である「さきがけ」の表に出ない仕事の請負人です。埼玉県浦和市生まれ。顔が大きく、醜い容姿をしています。

    『空気さなぎ』を通じて天吾へと接近し、「さきがけ」のリーダーに会う前に青豆の身辺調査をおこない、リーダーの不審死の後も、姿を消した彼女をしつこく捜索します。しかし、そのことに気づかれてしまい……。

     

日本を代表する有名作家・村上春樹を紹介!『ノルウェイの森』などの作者

著者
村上 春樹
出版日
2004-09-15

 

いわずと知れた人気作家である、村上春樹。ジャズ喫茶を経営する傍らで書いた『風の歌を聴け』で講談社の群像新人文学賞を受賞して、小説家デビューを果たしました。その後、『羊をめぐる冒険』『ノルウェイの森』『ねじまき島クロニクル』『海辺のカフカ』などを発表し、大ベスト・セラーとなります。

他にも、サリンジャーが書いた『キャッチャー・イン・ザ・ライ』やフィッツジェラルドが書いた『グレート・ギャッツビー』、カポーティが書いた『ティファニーで朝食を』など、多数の翻訳も手がけました。

国内外で非常に高い評価を受けており、約50カ国で作品が翻訳され、出版されています。世界的に著名な賞である「フランツ・カフカ賞」「エルサレム賞」「カタルーニャ国際賞」を受賞するなど、数々の賞を受賞。さらにノーベル文学賞の候補者として、毎回注目を集めています。

『1Q84』の謎1:ジョージ・オーウェルの『1984年』と関係している?

 

村上春樹が書いた本作は、イギリスの作家であるジョージ・オーウェルが書いた『1984年』を連想させるものです。

実際、村上氏は『1984年』について、次のように言及しています。

最初はジョージ・オーウェルが近未来小説として書いた『1984年』があった。
僕はそれとは逆に、近過去小説として、
過去こうあったかもしれない姿ということで書きたいと思った。

このように言及しているように、『1Q84』は『1984年』を意識して描かれた作品だと考えられます。ただし、本作のなかでは、意識して書いている箇所はあるものの、直接的な言及はなされていません。

著者
ジョージ・オーウェル
出版日
2009-07-18

 

『1Q84』は、「過去にこのようなことがあったかもしれない」という近い過去に対して眼差しを向けた小説。それに対して『1984年』は「将来にこのようなことがあるかもしれない」という近い未来に対して眼差しを向けた小説です。

この2つの作品には共通したテーマがあります。たとえば、「宗教」や「政治」、「組織」など、なんらかの絶対的な「権力」に屈してしまった後で、人間はそれに逆って「自分らしさ」を発揮したり、「人間らしさ」を保つことができるのか、ということを問いかけているのです。

『1984年』では、独裁者である「ビッグ・ブラザー」が登場する一方で、『1Q84』では、「リトル・ピープル」が登場します。「ビッグブラザー」とは、「独裁者」を意味しており、リトル・ピープルとは、「無名の人たちによる、無数の悪意の集積」を意味するものです。

『1Q84』はオウム真理教が起こした事件を描いた作品であるともいわれており、悪の象徴として描かれているリトル・ピープルは、その隠喩だとも言われています。

ジョージ・オーウェルは、『1984年』で、将来現れるかもしれない独裁者に対して、人間はどのように自分らしさを発揮したり、人間らしさを保てるかを描きました。

一方で、村上春樹は『1Q84』で、過去に現れた「リトル・ピープル」に対して、人間はどのように自分らしさを発揮したり、人間らしさを保つことができたのかを描いているのです。

『1Q84』の謎2:ふかえりは何者?『空気さなぎ』の作者

黒くて長い髪を持ち、美しい顔立ちをしている謎の少女、深田絵里子。彼女はディスレクシア(読字障害)を患っていますが、長い物語や外国語の歌を、丸ごと暗記するという能力を持っています。

この、ふかえりという少女が生み出した『空気さなぎ』という物語を、天吾は文学作品として改作していきます。

彼女は両親とともに、山梨県のコロニーで集団生活をしていました。しかし10歳のあるとき、世話をしていたヤギを死なせてしまった罰として、狭い空間に閉じ込められます。何日か経過した後、ヤギの口が開いて、そこから突如としてリトル・ピープルと呼ばれる人びとが現れるのです。

彼らは、自分たちを再び世界に蘇らせてくれたとして、彼女に感謝します。彼らは空気の中から糸を紡ぎ出し、それを材料にして繭を作っていきます。その繭からは、彼女の心の影が生まれるのだというのです。

なぜ、リトル・ピープルを蘇らせることができたのでしょうか。彼女の謎は、深まるばかりです。

『1Q84』の謎3:リトル・ピープルとは何なのか?

リトル・ピープルは、人間のような実体を持つものとして描かれてはいません。実際、物語のなかで、

「リトル・ピープルは目に見えない存在だ。
それが善きものか悪しきものか、実体があるのかないのか、
それすら我々にはわからない。
しかしそいつは着実に我々の足元を掘り壊していくようだ」(『1Q84』より引用)

と言われています。

実際、村上春樹は、インタビューのなかで彼らについて、次のように語っているのです。

「神話的なアイコン(象徴)として昔からあるけれど、言語化できない。
非リアルな存在として捉えることも可能かもしれない。
神話というのは歴史、あるいは人々の集合的な記憶に組み込まれていて、
ある状況で突然、力を発揮し始める。
たとえば鳥インフルエンザのような、特殊な状況下で起動する、
目に見えないファクターでもある。
あるいはそれは単純に我々自身の中の何かかもしれない」

リトル・ピープルは、自分の背丈を必要に応じて自由に変えられる存在で、常に集団として存在しています。さらに作中で登場する「さきがけ」という組織のリーダーが、

我々は大昔から彼ら(リトル・ピープル)と共に生きてきた。
まだ善悪なんてものがろくに存在しなかった頃から。
人々の意識がまだ未明なものであったころから。
(『1Q84』より引用)

と言っているように、それは人間の意識がまだ発達していない頃から存在するもの。大昔から人間は彼らとともに生きてきたのです。リトル・ピープルとは、実体を持たない、いわば神などの信仰の対象のようなもの、だといえるかもしれません。

『1Q84』の謎4:2つの月が意味することとは?

 

1Q84は、2人の主人公である青豆と天吾が別々に生きてきたかのように見えた人生が、やがて深刻に交わって影響し合うようになった世界です。

青豆は、あるスポーツクラブのインストラクターを務めており、その裏で暗殺を稼業としています。一方で天吾は、ある予備校の講師でいながら、小説を書くことが得意な人物。

青豆は三軒茶屋にある首都高速道路の非常階段を降りると違和感が生じ、月が2つ見えるようになります。天吾は、ふかえりが書いた小説をリライトしてから、同じように月が2つ見えるようになるのです。

月が2つあるのは、2人が現実の世界とは異なる、1Q84の世界の中にいるから。そして彼らは、同じ世界のなかにいます。そのなかで2人は、再び出会うのです。パラレルワールドを象徴する存在として描かれる、2つの月。本作の世界観をより濃厚にしてくれる仕掛けです。

 

『1Q84』の謎5:宗教団体「さきがけ」のモデルはオウム!?時代背景から考察!

 

本作のなかでは、「さきがけ」と「あけぼの」という謎に包まれた集団が出てきます。「さきがけ」は新興のカルト集団ということになっており、「あけぼの」はそこから分派した左翼主義集団です。

物語を読めばわかるように、「さきがけ」はオウム真理教を連想させ、あけぼのが引き起こす事件は「あさま山荘事件」を思い起こさせます。それぞれ少しだけ現実と照らし合わせてみましょう。

確かに「さきがけ」という組織は、山梨県に本部があるという地域性がオウム真理教と類似しています。さらに信仰している者には学生運動から流れ込んだ高学歴者多いこと、そして宗教的なリーダーが存在しており、その教義は現実味がどこか欠落していながらも、理想を標榜しているところまでそっくりです。

実際1984年(昭和59年)とは、麻原彰晃が「オウムの会」を始めた年です。しかし本作のなかで描かれている「さきがけ」と「あけぼの」が、現実の世界の出来事であるオウム真理教、あさま山荘事件と、完全に対応しているわけではありません。

宗教が人々の心に与える影響を描く際に、モデルにしているものの、あくまで村上春樹の作品上である役割を持った固有の組織なのだと言えるでしょう。

 

『1Q84』の謎6:牛河という男の存在。その最後は……

実は、牛河は村上春樹が過去に書いた『ねじまき島クロニクル』にも登場する人物。『ねじまき島クロニクル』も本作と同じように、1984年から物語が始ります。彼を通じて、両作品の世界は繋がっているのです。

本作の世界のなかで、彼は弁護士をしています。しかし、その特異な風貌のために、表の世界の弁護士の仕事をするのではなく、暴力団などの、裏の世界のために働くことに。そして青豆にリーダーを殺害された「さきがけ」から、彼女を追うために探偵として雇われることになります。

最終的に、天吾を尾行している牛河という男が存在する、ということに青豆が気づき、彼女に隠れ家を提供している老婦人の執事・タマルによって殺害され、死を迎えることになりました。

『1Q84』の謎7:青豆が死んだと思ったら、死んでない!?

 

Book2の474ページ。青豆の最終章では、次のような描写がなされます。

「天吾君」と青豆は言った。
そして引き金にあてた指に力を入れた。
(『1Q84』より引用)

この描写から、彼女は死んだとする解釈があります。しかし、実際には引き金にあてた指に力を入れただけで、彼女が引き金を引いたのかどうかについては言及されていません。そのため、実は死んでいないのではないかという解釈も成り立つのです。

実際、彼女の死は、あくまでも天吾が作った架空の物語の中での話。実際に存在する彼女はまったく違う女性として、現実の世界のどこかで生きていると考えることもできます。そのため、青豆は生きているとも、死んでいるとも解釈することができるのです。

 

『1Q84』の謎8:青豆はなぜ妊娠した?

 

青豆は一夜の快楽のための男漁りをくり返しおこなっており、天吾は人妻との不倫関係にあるという設定です。そして、天吾がふかえりとセックスをすることによって、なぜか青豆が妊娠することになりました。1Q84という空想上の世界のなかではありますが、彼女はセックスをおこなわずに妊娠します。

しかも彼女は、自分の子宮の中に宿った小さな命が、自分の思い人である天吾の子であると直感するのです。そこには根拠がありません。しかし、それは啓示のようなものであって、唐突に与えられたものとして、彼女は受け入れるのです。

ドウタ(知覚するもの)が死ぬと、マザ(ふかえり)は心の影を失うと、リトル・ピープルは言いました。その言葉通り、青豆の妊娠後に、ふかえりは姿を消します。青豆の妊娠は、ある意味ふかえりの狙いであったといえるでしょう。

それでは、なぜ青豆は妊娠したのでしょうか?彼女が宿した小さな命はドウタであり、彼女は生ける空気さなぎであると考えられます。そのドウタは、ふかえりというドウタに代わって、新たなレシヴァ(受け入れるもの)になるように宿命づけられているのでした。

そういった役割を産み育てるために、彼女は妊娠したのです。

 

名言を紹介!深い?難解?

 

本作には多くの名言が登場します。そのいくつかをご紹介しましょう。

「ひとつ覚えておいていただきたいのですが、ものごとは見かけと違います」
(『1Q84』より引用)

この言葉は、青豆が乗ったタクシーの運転手に言われたものです。これをきっかけにして、彼女は1984年の世界から1Q84の世界へと引きずり込まれることになります。その世界は想像上の世界であるため、本物の1984年とは微妙に違いがあります。1Q84の世界では、ものごとは見かけとは違った世界なのです。

さらに、老婦人の執事をしているタマルも、次のような名言を残しています。

「人間にとって死に際というのは大事なんだよ。
生まれ方は選べないが、死に方は選べる」
(『1Q84』より引用)

 

 

人間は生まれ方を選ぶことはできません。人間ができることは、死に方を選ぶということだけなのです。

青豆も、次のような名言を言っています。

「自分に試せるだけのことは試してみたい。
もし駄目ならそこであきらめればいい。
でも最後の最後まで、やれるだけのことはやる。
それが私の生き方なのだ」
(『1Q84』より引用)

 

自分に試せることは何でもやってみることが、人生をより豊かにしてくれます。だからこそ最後の最後まで、やれるだけのことをすることが大切なのです。

『1Q84』の結末をネタバレ解説!

村上春樹が書いた本作は、先にも書いたようにジョージ・オーウェルの『1984年』という小説を意識したものです。そして、世界を揺るがせた大事件である地下鉄サリン事件や、9.11事件などにも、彼は影響を受けています。

特定の原理や主義による精神的な囲い込みの脅威に対抗するために、この物語は書かれているのです。

著者
村上 春樹
出版日
2012-05-28

 

青豆と天吾は、1Q84という世界に入り込んでしまいます。そんな世界がきっかけとなって、子どもの頃に出会った2人は、最終的に1984年の現実世界で出会います。

その後の2人の行末も気になるところではありますが、本書を読んだときにもっとも考えなければならないことは、特定の原理や主義による精神的な囲い込みという脅威に対して、人間はどのように対抗して生きることができるかということ。
 

一見、難解で非現実的な物語ですが、実は現実世界の脅威と深く関わっている本作。ぜひ、そういったことも考えながら読んでみてください。

 

ノーベル文学賞の候補にも選ばれるほどの作家である村上春樹が書いた作品のなかでも、長編小説となる『1Q84』 。本作は発売されるやいなや大変な人気を博し、大ベスト・セラーとなりました。

そんな本作が問いかけるのは、「生きるとは何か」という難しいものです。この小説を通して、作者がどのような解答を出したのか、ぜひ読み込んでみてくださいね。