ある25歳の青年と、30歳の女性の恋を描いた物語。恋模様を描いているのですが、裏には人の生き死にがテーマとして隠されていて、非常に奥深い作品です。2018年9月には、実写映画化もしました。この記事では、そんな本作のあらすじから結末まで詳しく解説。ぜひ最後までご覧ください。
『きらきら眼鏡』は、主人公である、サラリーマンとして働く1人の青年の純愛を描いた物語です。彼の名前は立花明海(あけみ)。仕事で営業をしているものの、とても向いてるとは思えない、優しくおっとりした青年でした。明海という名前のとおり誰にでも優しく、どんなことでも受け入れる広い広い心を持っていたのです。
彼は3人からなる営業チームに所属しています。1つ上の先輩が松原弥生さん、上司が本田宗一さんという男性でした。
明海は、弥生に好意を抱かれており、それとなくアプローチをくり返します。彼女は仕事もでき、容姿もよく、営業のマドンナ的存在。彼は嬉しくは感じるものの、どこか彼女の気持ちに答えられません。実は、彼は以前、忘れられない運命的な出会いをしていたのです。
きっかけとなったのは、一冊の古本でした。その本のタイトルは『死を輝かせる生き方』。普段、小説やエッセイばかり読んでいる明海は、偶然、その自己啓発本を手に取りました。そして、その古本には、売った人物のものと思われる名刺が挟まれていました。
その名刺の人物が、大滝あかねです。彼女はフリーのライターをしている、5つ年上の女性。後に、明海が好意を抱く人物です。
名刺の連絡先を見てドキドキしながらメールを打ってみると、彼女から返信が。そこには、『死を輝かせる生き方』は間違って売ってしまった本のため、できれば返してほしいと書いてあるのです。明海はすでに読み終わってしまっていたため、その要望に応じ、本を返すことを約束します。
そして、2人は喫茶店で初めての会うことになりました。ここから、彼の恋物語が始まるのです。
- 著者
- 森沢 明夫
- 出版日
- 2015-11-18
本作は文庫も出版されており、2018年9月には映画化もされました。金井浩人や、安藤政信らが出演しています。『きらきら男子』の舞台である千葉県船橋市内や北習志野がロケ地であり、撮影がおこなわれました。
本作の映画化には、きらきら眼鏡プロジェクトの存在が大きく関わっています。これは、本作を映画化し、世間に広めていこうという内容で、決起会もおこなわれました。
プロジェクトの主催は、NPO法人船橋宿場町再生協議会。映画の撮影にあたっては、船橋市民の協力のもと、滞りなく撮影がおこなわれたようです。
本作の世界観が映像ではどのようになっているのか、非常に楽しみですね。
本作に登場する人物を、簡単にご紹介させていただきます。
- 著者
- 森沢 明夫
- 出版日
- 2014-01-04
『きらきら眼鏡』の作者である森沢明夫は、千葉県船橋市生まれの作家です。早稲田大学を卒業後、出版社に勤務した後、フリーとなっています。
2006年には、『ラストサムライ 片目のチャンピオン武田幸三』でミズノスポーツライター賞を受賞しました。
代表作には、『青森ドロップキッカーズ』や『夏美のホタル』といった作品があり、小説、絵本、エッセイ、ノンフィクションなど幅広く活躍されています。
恋が大きなテーマの1つでありますが、その裏では「死」も大きなテーマとして扱われている本作。
明海が飼っている猫が死んでしまうシーンから、この物語はスタートします。悲しい気持ちを背負い、その時に出会ったのが運命の『死を輝かせる生き方』という本でした。
この本のヒロインでもある、あかねは、恋人である裕二が余命を宣告されています。死を背負った人間同士が一冊の本をきっかけに出会い、そして恋に落ちていく物語なのです。
この作品では、「死」というものを意識して生きるからこそ、世の中がもっと素敵に見えてくると伝えたかったのではないかと考察することができます。あかねもこの本のタイトルである「きらきら眼鏡」をかけていました。
「きらきら眼鏡」は実在する眼鏡のことではなく、前向きに生きていこうとする考え方の象徴として、彼女が名付けたものです。これは、裕二の死に直面したからこそ身につけた考え方でした。
明海も彼女のきらきらした考え方を魅力に感じ、徐々に惹かれていったのです。
本作は小説はもちろん、その他に漫画版もおすすめです。
優しい絵柄は、まるで小説の世界観をそのまま絵に表したように、イメージにぴったり。彼らの儚い恋が絵で表現されることによって、余計に切なく感じられることでしょう。
作画は天沼琴未。『虹の岬の喫茶店』に引き続き、森沢明夫の原作を漫画化しました。
- 著者
- 天沼 琴未
- 出版日
- 2018-08-20
また漫画版の本作には、胸に突き刺さる名言も数多く登場します。ここでは、その一部をご紹介。
人間の中には、自動的に立ち直れるようなプログラムがある気がするっていうか。
時間が経つと、いろんなことが薄れていくでしょ?
よかった記憶も、つらかった記憶も。
だから、自動的に立ち直りながら、
少しずつでも前に進むしかないんだなって。
(『きらきら眼鏡』より引用)
忘れるという行為は、人間にとって生きていく術であり、とても必要なことであるというのを伝えたかったのではないでしょうか。
人の死も、失恋も、いつまでも覚えて悲しんでいては、前に進むことはできません。忘れることは悪いことではなく、人が前向きになるための1つの手段であるといいたかったのかもしれませんね。
人生の価値を決めるのは、その人に起こった事象ではなくて、
その人が抱いた感情なのだ
(『きらきら眼鏡』より引用)
これは、人生の価値とは結果とは関係なく、その人は感じたことによって決まるというのを表しているのではないでしょうか。たとえ、ある事象の結果がよくなくても、自分自身にとって満足であれば、それは価値のあることなのかもしれません。
人生を花束でいうなら、「幸運」は派手なバラで、
「不幸」は地味なかすみ草なのよ。
両方を合わせた花束は、いっそう「幸福」のバラが引き立って、
とても愛すべき存在になるんだから
(『きらきら眼鏡』より引用)
不幸があるからこそ、人は幸運を感じることができると伝えたかったのではないでしょうか。そのため、不幸ばかりであっても、幸運ばかりであっても、それは決していいことではないと考察することができます。
- 著者
- 森沢 明夫
- 出版日
- 2018-07-11
話せば話すほど、会えば会うほど、明海はあかねに惚れていきます。彼女には裕二という恋人がいると分かったときでも、彼女を想う気持ちに変わりはありませんでした。今までの優しい明海には、考えられないことです。
一方彼女も、裕二がいるものの、明海に魅力を感じていました。彼と一緒にいるのは、居心地がよかったのです。しかし彼女には、裕二を裏切って、彼のもとにいく気持ちはありませんでした。そんな薄情な人ではないからこそ、明海も惹かれていたのでしょう。
そんなある日、裕二がとうとう亡くなってしまいます。それを知った明海は、どういった行動に出たのでしょうか。
本作は、自分の人生をきらきらした眼差しで見ること、それを愛することがテーマとして描かれています。そして最後まで優しく美しい世界観で読者を楽しませてくれる内容です。具体的な結末は、ぜひご自身でご覧ください。