幕末といえば新選組が好き、という人も多いと思います。新選組の中で誰が好きかということも話題になるかもしれません。今回は新選組関連本の中でも、主要人物以外にスポットが当たっている本を中心に集めました。ぜひ新選組の新たな魅力を発見してください。
新選組は近藤勇を局長とする、浪士の武力団体です。江戸幕府の求めに応じて作られたもので、尊皇攘夷派、討幕派の弾圧のために働きました。1965年に隊士が130人を超えてからは、局長近藤勇、副長土方歳三の下に10番隊まで編成され、隊長の下に伍長2名という編成になっています。隊長には沖田総司、永倉新八、斎藤一、藤堂平助らがいました。
結成されたのは、1863年。幕府が上洛する徳川家茂の護衛を集めたのがきっかけです。これに応じて試衛館の近藤勇、土方歳三らも京へのぼります。主導していた清河八郎が尊攘派と通じたために、他の浪人たちは江戸へ帰されることとなりましたが、近藤勇らは京に残りたいと訴えました。そして京警護の役目を与えられ、壬生浪士組を結成したのです。
その後、八月十八日の政変での働きを評価され、新選組という名をもらいました。近藤勇と芹沢鴨の派閥争いから芹沢は暗殺され、近藤がトップとなる体制が整います。そして1864年の池田屋事件を始め、禁門の変などで新選組は活躍することとなりました。
しかし1867年徳川慶喜が大政奉還を行います。新選組は鳥羽・伏見の戦いに参加しますが、敗北。次々に隊士が離脱していったこともあり、戦力が低下します。近藤勇が捕らえられ処刑、沖田総司も病で亡くなるなど、新選組の中心人物も減っていく中、戦いの場は北へと移っていくことになりました。最後まで戦い続けた土方歳三が函館で戦死したことで、新選組は降伏することになったのです。
新選組隊士を主人公とした9編の短編小説からなる『新選組秘帖』。近藤勇や土方歳三、沖田総司らメジャーな人物ではなく、主役は加納惣三郎、松山幾之介、加藤愛之助、富山弥兵衛、沢忠助、島田魁、市村鉄之助、橋本皆助、相馬主計という9人です。好きな人もいれば名前も聞いたことがない人もいるのではないでしょうか。それぞれの生き方に心震える物語です。
- 著者
- 中村 彰彦
- 出版日
おすすめは土方歳三が亡くなってからの時代を描いた後半の4編です。特に市村鉄之助の『五稜郭の夕日』は切なくて涙がにじみます。鉄之助は歳三について函館まで行った少年隊士で、歳三の遺言や遺品を預かった人物です。歳三のいない世界に生きていても仕方がないというように生き急ぐ様に、読んでいて胸が痛くなります。
また橋本皆助の『明治四年黒谷の私闘』では、原田左之助生存説を取り入れた話となっています。維新後に、皆助と佐之助が果たしあうシーンは見事と言えます。生存説というのは、どんな人物でもわくわくするもの。この話だけはフィクションの要素が強いですが、面白く読み進めることでしょう。
どの話も実在の隊士が主役であり、史実に基づいて描かれています。今まで知らなかった人物について読むことで、さらに新選組を好きになること間違いありません。
『新選組始末記』は、作者の子母澤寛氏が各地に赴き、関係者の取材内容をまとめた書籍です。新選組の資料として定評があり、司馬遼太郎もこの本を参考にして物語を書き綴ったと言われています。取材当時はまだ新選組隊士が生きていたり、実際に新選組を知る関係者が存在する時代でした。彼らの話は実感が伴った話ばかり。そのため新選組の実像を浮かび上がらせることができる貴重な本となったのです。
- 著者
- 子母沢 寛
- 出版日
- 1996-12-18
本書には多くの資料ものせられていて、読み解こうと思うと大変です。出版された時代が昭和初期ということもあり、文章も読みにくいものです。しかし本当の歴史がこの中にあると思うとわくわくしてしまうことでしょう。作者はすべてが史実ではないと言っており、フィクションも含まれています。それも含めて物語としての面白さが出来上がっているといってよいでしょう。
近藤勇が主人公となっており、試衛館道場時代から亡くなるまでを網羅しています。清河八郎や芹沢鴨の暗殺、池田屋事件、天満屋騒動、勇の死についてなど、詳細に書かれており、目の前で戦いがくり広げられているようです。近藤勇の愛人美雪太夫から聞いた勇の女性関係や、芹沢暗殺時の八木家の証言など、リアルな話が多く紹介されています。この本を読まずに新選組は語れません。
新選組2番隊組長であり、明治維新後も生き延びた永倉新八を主人公とした『幕末新選組』をご紹介します。新八は幼い頃から剣術に励み、近藤勇と出会って一緒に京へのぼります。近藤を敬愛し、芹沢鴨からも可愛がられていた新八。芹沢が暗殺されたときには、胸を痛めました。島原の芸妓と結婚し、娘にも恵まれるものの、変貌する時代の波に翻弄されていくのです。結局妻にも先立たれ娘とも生き別れになりますが、明治維新を生き抜け、大正4年に亡くなるまでの生涯がいきいきと描かれています。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
- 2004-01-10
近藤勇、土方歳三から見た新選組というのはよく描かれますが、普段主役とはあまりならない人物からの新選組の衰退というのは、視点が変わって興味深く読めます。もともとはとても尊敬していた近藤勇が、隊が大きくなるにつれて態度が変わってきたことに対して、新八は不満に思います。原田左之助と近藤の悪口を言うシーンは、隊士たち全体の心を表していると感じられ、新選組の行く末を暗示させているようです。
新八の人柄が、さばさばとして爽やかなので全体的には清々しい物語です。恋愛話も面白く、恋敵であった藤堂平助とその後友情で結ばれるところも、新八の人のよさが表れています。しかし、平助と最終的には敵味方として戦わなければならないところは、この時代の悲しみといえるでしょう。維新後のおじいちゃんとなった新八も描かれ、ほのぼのとした雰囲気が漂います。読後感のよい、一気に読める作品です。
新選組の小説としてあまりに有名な司馬遼太郎作の『新選組血風録』。映画化やドラマ化もされ、多くの人に愛されている作品です。15編の連作短編集で、近藤勇、土方歳三、沖田総司、斎藤一ら中心人物はもちろんのこと、創作された人物を主人公とした話も含まれています。どれも彼らの心の内にスポットを当てた話で、その人間性に心惹かれること間違いありません。
- 著者
- 司馬 遼太郎
- 出版日
- 2003-11-22
沖田総司が好きな人には「菊一文字」「沖田総司の恋」がおすすめです。どちらも総司には死が近づいてきています。その中でどのようにいきるのか、死をどう覚悟していくのかということが胸に熱く迫ります。「菊一文字」ではやはり人斬りであった凄腕剣士の総司を改めて認識できますし、「沖田総司の恋」は血なまぐさい新選組の中のオアシスのような話です。恋の切なさは時代を問いません。
どの話にもそれぞれの味わいがあり、ますます新選組が好きになることでしょう。違う人から見ると、新選組もまた違った風に見えます。立場も考えも違う人たちの心に触れることで、新選組の実像が明らかになってくるようです。中学生でも読みやすい本なのですが、大人になって読むとまた違った感慨を覚えることもあります。何度も繰り返し読む人が多い、新選組小説の傑作です。
沖田総司が描かれた作品を紹介した<沖田総司(新撰組)の生涯。魅力が伝わる5冊の小説も紹介>の記事もおすすめです。気になる方はぜひご覧ください。
ある日の夜更け、足を引きずり孫の診察を頼みに来た一人の老人がいました。
満洲へ引っ越す荷造りの真最中であった大野医院の妻で小児科医のみつがその老人の頼みを聞き入れ診察する事になり、ある一人の男の生涯が明るみになります。
大野医院に飾られた1枚の写真に目を留めた老人。その写真には彼:斎藤一がかつて新撰組で共に戦った男、吉村寛一朗その人が写っていました。斎藤はみつに吉村の事を語り始めます。吉村寛一朗と出会った時の事、とてもセコイ侍でいけ好かない奴だった事、思いのほか腕が立つ男だった事。セコイ理由が故郷で待つ貧しい家族を支える為だった事。
しかし吉村の最期については知らずに過ごして来たと話しました。するとみつが吉村の最期について語り出しました。そう、みつは吉村の娘だったのです。
- 著者
- 浅田 次郎
- 出版日
語られた彼の最期はまさに、「義」の為に尽くし、「義」の為にこの世を去った武士そのものでした。吉村は裏切るつもりでは無かった、しかしそうせざるを得なかった時代。時代に翻弄されながらも、最後の時まで自身の生きた道に「おもさげながんす」と許しを請う吉村。それはあまりにも優しすぎ・不器用過ぎた男の最期でした。
真の男とはどうあるべきかを痛烈に吉村と言う男の生きざまを通じて思う深い1冊です。
『幕末の青嵐』では、新選組の歴史を章ごとに視点を変えながら追っていきます。2位でご紹介した『新選組血風録』のような短編集ではありません。時系列に話は進んでいきながら、主役となる人が変わっていくのです。それぞれの人から見た事件、出来事が臨場感いっぱいで面白く、ページをめくる手が止まらないことでしょう。
- 著者
- 木内 昇
- 出版日
- 2009-12-16
本書では事件の概要というよりも心情描写に重きがおかれています。その時その時の隊士たちの気持ちが描かれているのです。事件だけではなく、例えば近藤勇や土方歳三に対する印象もそれぞれ違うので、人物が多面的に見えてきます。人格者に見えたり無能に見えたりする近藤勇。実は誰からも認められている土方歳三というように実像が掴みやすいといえるでしょう。
主役が変わると読みにくそうですが、本作は全くそんなことはありません。激動の時代を駆け抜けた隊士たちの、まさに青嵐のような人生が身近に感じられます。次々と仲間が亡くなっていく後半は涙なしには読めません。
「あの男たちはただ武士に憧れて、自分の力で道を切り開いていっただけだ。損得を考えず、激しく移り変わる時勢の中で変節せず、これと信じた仕事をがむしゃらにやり遂げただけだった。」(『幕末の青嵐』より引用)
最終章の佐藤彦五郎による回想は切なく悲しいのですが、この彦五郎の言葉通り必死に生きた若者の清々しさに溢れた作品です。
多くの隊士を抱えていた新選組。それぞれに読みごたえのある人生がありますね。激動の時代を懸命に生きた彼らの魅力はつきません。