ヒップホップに魂を捧げる、少年少女達の熱い青春を描いた物語、『ライミングマン』。ラップについての専門的な用語を交えつつも、知らない人にもわかりやすいストーリー展開によって、物語に引き込まれてしまうのが魅力です。 また、青春を全力で駆け抜ける少年少女達の熱い人間ドラマにも注目したい内容です!今回はそんな本作の魅力を、全巻ご紹介していきます。ネタバレ注意です。
過去の栄光を捨てきれない売れないラッパー「シャカキング」を父に持つ少年、院田踏男(いんだふみお)。彼は思春期の訪れとともに、父が売れないラッパーであるという事を恥ずかしく思うようになり、同時にラップそのものにも抵抗を持つようになってしまいました。
そんなある日、父がケガでラップの大会に出場できなくなってしまうというアクシデントに見舞われてしまいます。そんな父の対戦相手はなんと、踏男の通う高校の、いけ好かない先輩。複雑な心境のなか、踏男は心の中に眠るヒップホップへの想いを捨てきれず、父の代理出場者「ライミングマン」として、ステージに上がる決心をしたのでした。
これをきっかけに、彼のラッパーとしての活動が本格的に始まる事となるのです。
- 著者
- 若杉公徳
- 出版日
- 2017-11-29
本作の主人公である踏男は、美形というわけでもなければ、人間的に優れた面を持っているわけでもなく、どこにでもいる普通の少年です。むしろ、どちらかといえば地味で、目立たない人物であるといえるでしょう。
ですが、そんな彼は、父親の英才教育とその才覚により、ステージに上がった経験が無いにも関わらず、すでにラッパーとしての実力はかなりのもの。
しかし、当の本人はといえば、思春期を迎えた事でラッパーというものに対して恥ずかしさと抵抗を感じるようになってしまい、その才能を発揮する事はなかったのです。
本作は、そんな彼が感じているようなラッパーに対する気恥ずかしさと、ヒップホップが持つ熱さがうまく同居し、描かれた作品であるといえるでしょう。
いわば踏男は、そんなラッパーとしての生きざまを表現するに相応しい人物だといえるのです。そもそも、ラップをよく知らない人にとっては、ラッパーという生き方は、とても理解しづらい対象ではないでしょうか。
相手を口汚く「ディス(罵る)」ったり、それを思い思いの「ライム(韻を踏む)」や「フロウ(歌い方)」で表現するといったやり取りは、知らない人から見ると、異様な光景に見えるかもしれません。
しかし、こうした一般的にはある種、下劣と捉えられかねない言葉のぶつかり合いにこそ、ヒップホップとしての意味があるともいえるのです。
ヒップホップは、自分の中にある感情や想いを、包み隠すことなく相手にぶつけていくもの。そして、自分が心の中に抱く想いを、いかにリズムに乗せて、テンポよく言葉として紡ぐことが出来るかを問われるもの。
つまりラッパーは、自らの生きざまを歌詞に乗せてさらけ出していく事が求められるミュージシャンといえるのです。
踏男は、普段の引っ込み思案な自分を、ラッパーとして生きていく事で、全力で表現する事が出来る人物。そんな彼だからこそ、読者はカッコ悪さに気恥ずかしさを感じながらも、その生きざまを魅力的に感じる事が出来るのでしょう。
ヒップホップを題材として扱う作品という事で、人によってはその時点で少し抵抗を感じてしまう事もあるかもしれません。しかし、本作はこれまでラップに触れた事がない人であっても、その面白さを感じる事が出来る表現に満ちています。
本作における序盤の登場人物達は、全員が全員ヒップホップに明るいわけではなく、踏男や、その他のラッパーによって、ヒップホップの世界に引き込まれるといった描写が随所にあります。
そのため、ストーリーの流れのなかで、ラップの進め方や専門的な用語、ヒップホップのために必要なものなどが自然に説明されていくのです。
また、本作はラッパー同士のバトルについて、しっかりと迫力ある描かれ方がされており、これまでまったく知識がなかった人であっても、その勢いに飲み込まれてしまうことでしょう。ヒップホップの入門書としても使えるような作品なのです。
ラッパー同士の熱いヒップホップバトルももちろんですが、本作はそんな彼らと周囲の人達を取り巻く人間ドラマにも注目です。
まず主人公の踏男については、父であるシャカキングとのギクシャクした関係から、少しずつヒップホップに対する情熱に素直になっていき、理解しあっていく様子が描かれています。
そんな踏男(正しくは、ライミングマンとしての踏男)の情熱にあてられて、踏男が恋心を抱いている同級生の女子・峰岸や、一流のバイオリニストとして期待されている上流家庭の生まれのハルキ、そしてこれまでヒップホップにはまったく興味のなかった友人の山根といった人物達が、それぞれのヒップホップに対する思いを胸に、踏男の周りに集まってくるのです。
彼らが紡ぐ青春の1ページ1ページに、なんとも胸を熱くさせられます。ラッパーとして覚醒した後の踏男と仲間達が、今後どのような活躍を見せるのか、必見です。
ライミングマンが世に初めて姿を現す、第1巻です。
踏男は父であるシャカキングに反発を続けてきましたが、同じ高校の先輩であるビガーに対する対抗意識から、父が欠場した大会にシャカキングの後継ラッパー「ライミングマン」として出場することにします。
- 著者
- 若杉公徳
- 出版日
- 2017-11-29
そして、その圧倒的なヒップホップセンスでビガーを下した踏男は、天才バイオリニストとして名声を欲しいままにしているハルキと出会うのです。
彼は上流家庭の出身でありながら、実はシャカキングに憧れ、ヒップホップを続けるラッパーでした。そんな彼と出会った踏男は、父に対する反抗心から、ヒップホップとシャカキングを馬鹿にする発言をしてしまいます。
それに対しハルキは、親の七光りで、中途半端で、覚悟がなくラップをやっていると痛烈なディスを彼に飛ばします。踏男は何も言い返す事が出来ませんでした。
しかし、それをきっかけにヒップホップに向き合おうとする自分自身の真摯な魂に気付き、彼は「自分のヒップホップ」を胸に、ハルキのもとへリベンジに向かうのでした。
そんな本巻の見所は、ライミングマンとしての初ステージ、ビガーとのバトルです。父以外とは初のバトルだった踏男は、戸惑いながらの初ステージということで、その空気に飲まれかけてしまいます。
しかし、そこから逆転のアンサーによって、ビガーを完膚なきまでに叩きのめすのです。その爽快感は、ヒップホップという文化に魅力を感じさせてくれるには十分なものといえるでしょう。
ハルキとの再戦から始まる第2巻です。ヒップホップに対する熱い想いをそれぞれぶつけ合う踏男とハルキでしたが、リベンジマッチのはずが、いつしか意気投合。同志のような関係になります。
ハルキはライミングマンの実力を見込んで、2人で手を組み活動しようと持ち掛けてきました。そんな彼の申し出を受け、初の公開ライブの場として自校の学園祭を選んだ踏男ですが……。
- 著者
- 若杉公徳
- 出版日
- 2018-04-27
なんと手違いで、学園祭の出演者としてエントリーし漏れてしまうのでした。しかし、学内で発言力のあるビガーの力を借りることで、なんとか飛び入り枠で参戦する事が可能に。ところがさらにそこに待ったをかけてくる人物たちが。それはなんと峰岸も参加している女子ラップグループでした。
果たして、踏男達は彼女達を退けて、無事に初ライブを勝ち取る事が出来るのでしょうか。
そんな本巻の見所は、やはり女子達とのラップバトルです。個人戦ではなく、3対3のチーム戦ということで、それぞれの特色が表れたラップが披露されます。
踏男の独壇場ではなく、それぞれの活躍が光る、熱いバトル描写であるといえるでしょう。