第二次世界大戦後期、終戦間近におけるドイツ軍のなかで、猟犬と呼ばれた女性達の戦いを描く戦争漫画、『シェイファー・ハウンド』。登場するのは可愛らしく、美しい女性キャラクターが中心となっており、彼女達の性的なシーンも多く描かれています。一方で、そんな彼女達が容赦なく戦渦に巻き込まれて命を落としていくという、戦争の厳しさを描いた作品でもあります。 今回はそんな本作の魅力を、全巻ご紹介。ネタバレ注意です。
本巻では、主人公であるユートの部隊配属から、対ソ連戦が中心の内容となっています。
女性のみで構成される部隊「シェイファー・ハウンド」。彼女達は自らを消耗品であると自称・自覚し、死ぬことを恐れないという性質を持っていました。事実、村を踏みにじり続けていたレジスタンスを排除するために、彼女達は日中の正面攻撃を実行するのですが、その代償として、戦車長を含めた三号突撃砲の隊員は全滅してしまいます。
隊員の死が、戦時下という事を鑑みても身近な部隊。そこに所属する彼女達に、新たに小隊長が配属される事となります。女性ばかりの部隊に配属されたのは、戦時下においては異端ともいえる「誰も死なせたくない」という甘い考えを抱いた青年、ユート・ツァイス上級曹長でした。
その思想から重要でない役職についていた彼でしたが、大学の先輩であるスコルツェニー少佐の命により、前線に投入される事に。小隊長代行として部隊を率いていたカヤ・クロイツ曹長は甘い考えの彼を見下します。犠牲を出さない戦いを説く彼に対し、「不良品」という烙印を捺したのです。
前途多難な彼の初任務は、疫病が発生した村にワクチンを届ける事。いつも通り正面突破で進めようとするカヤに対し、彼は安全策の回り道を命じ……。
さらに物語は、その一連の流れの中で人質をとられた一行が、ソ連からの人質奪還作戦へと突入していくという展開に進んでいきます。
- 著者
- かたやま まこと
- 出版日
- 2012-12-26
そんな本巻の見所は、ユートが配属されるまでのシェイファー・ハウンドの、レジスタンス討伐戦でしょう。
銃弾飛び交う戦いの最中は、女性ばかりの部隊といえど一切の容赦なく、平等に死が訪れます。うら若き少女達が、1発の銃弾にその身を引き裂かれて絶命してしまうシーンが随所に描かれ、戦争の容赦の無さがまざまざと表現されているのです。
また、戦いの終わりに、ある人物が死亡してしまうのですが、その原因が、レジスタンスの子供から受け取った物資に隠された爆弾によるものという点が、戦争の悲哀を感じさせます。そして、その物資を受け渡した子供も銃弾に撃ち抜かれて死んでしまうのです。一切の救いが見出せない厳しいシーンです。
女性キャラの魅力だけでなく、戦争をしっかり描いているのも、本作の魅力といえるでしょう。
無事にマイタを救出したシェイファー・ハウンドでしたが、その際にティーゲル戦車を操縦していた部隊員のミカが頭部を強打した事により、戦死してしまいます。悲しみに暮れる間もなく、新たに補充人員が配属され、舞台は西部戦線に移ります。
そして次なる相手は、アメリカ陸軍の特殊作戦小隊「グレイ・オックス」です。なんとこちらも女性ばかりが集う部隊であり、シェイファー・ハウンドに負けず劣らずの戦争のプロ集団。グレイ・オックスの部隊長であるキャナは、正義のための戦いを謳い、立ちはだかってきます。
彼女達との決着を前に、思想の違いをぶつけ合うユートとカヤですが、果たして隊の行く末はどうなっていくのでしょうか。
シェイファー・ハウンド 2 (ジェッツコミックス)
2013年08月29日
そんな本巻の見所は、ミカが戦死してしまうまでの一連の場面でしょう。
ユートとしては仲間を救おうと必死に足掻いた結果でしたが、結局部隊から戦死者を出してしまう事になってしまいました。確かに結果としてマイタは無事に救出されましたが、1人の兵士を救助するために隊全員を危険に晒した結果であるともいえ、諸手を挙げて完璧な判断だったとは言い難いでしょう。
ユートの想いを知りつつも、救い出されたマイタや、カヤによる厳しい言葉を聞くと、どちらの判断が正しかったのかと考えずにはいられません。そして、ユートの小隊長としての苦悩は、ますます募るのでした。
戦争が招く理不尽を感じずにはいられない、そんな展開であるといえるでしょう。
グレイ・オックスとの戦いに決着がつく、第3巻です。
自隊の戦力をすでに知られてしまっているため苦悩するユートでしたが、そんな彼に対し、カヤは強引に突破する方針でキャナの虚をつき、一気に攻め抜きます。そして、キャナ以外の隊員を全滅させたところで、ユートは降伏勧告をしようとするのです。
ですが、そんな彼を押しのけて、キャナと武人としての一騎打ちを申し出た、日本から留学に来ている佳織曹長。彼女によってキャナは打ち倒され、斬首されてしまうのでした。
これまでユートに対しさまざまな高説を述べてきたキャナの死に、やりきれなくなってしまう彼でしたが、これによりグレイ・オックスとの戦いは決着となったのです。
シェイファー・ハウンド 3 (ジェッツコミックス)
2014年02月28日
そんな本巻の見所は、ユートの戦いに対する葛藤でしょう。敵であっても正義の在り方を説こうとするキャナの存在は、少なからず彼に影響を与えました。また、彼女も甘っちょろい理想を語る彼を侮りながらも戦時下において人命を尊重する人間性を評価していました。
敵味方同士でありながら、人としての確かな親愛がそこにはあったといえるのではないでしょうか。その様子は、彼に対してアドバイスともいえる発言をくり返す、キャナの対応からもうかがい知ることができます。
そんな彼女と殺し合いをしなければならないという現状に苦悩する彼の様子に、少なからず考えさせられるものがあるのではないでしょうか。
本巻では、まさしく敵役という印象を受けるSAS(イギリス陸軍の特殊部隊)「アシッド・アウル」が登場します。自らの部隊でさえも駒としてしか考えていない、戦争を狩りのように楽しむ部隊です。
シェイファー・ハウンドの少女達3名も、そんな彼らになぶり殺しにされ、ユートは初めて殺意を露わにします。そんな彼に対しカヤは、ユートの殺意は「戦争」ではなく「人殺し」でしかないと一蹴するのでした。
戦争のプロとして動こうとするカヤと、あくまで人命を尊重するユートの葛藤は続きながら、アシッド・アウルとの決着の時は迫ります。
シェイファー・ハウンド 4 (ジェッツコミックス)
2014年09月29日
そんな本巻の見所は、ユートに対して戦争のあり方を説く、カヤのシーンでしょう。部隊の少女を殺された事で、これまで人命を尊重する発言をくり返してきたユートも、敵を殲滅するように指示しようとします。
しかし、意気込む彼を嘲笑うように、カヤは、個人的な感情を元に人を殺すのはアシッド・アウルと何も変わらないと、容赦なく一喝。彼女の発言は、戦争屋としての矜持を感じさせてくれます。未だ自身の戦争との向き合い方が定まっていないユートに対し、己すら兵器として考え、ただ戦うのみという彼女のプロとしての姿が、しっかりと描かれているのです。
彼女のカッコイイ生きざまに惚れてしまいそうな一幕といえるでしょう。
アシッド・アウルとの戦いに、ついに終止符が打たれます。これまでのゲリラ戦とは違い、戦車対戦車の戦いが中心です。
あくまで有利な立場からの狩りを楽しもうとするアシッド・アウルに対し、裏をかく形で逆転する事が出来たシェイファー・ハウンド。そして、戦時下における捕虜の扱いを盾に命乞いをしようとする敵の司令官を、容赦なく銃殺してしまうカヤの冷徹さが堪らない内容となっています。
ここから物語は地上から空へ、戦闘機を中心とした空中戦が描かれていく事になります。
- 著者
- 出版日
- 2015-02-27
そんな本巻の見所は、戦力差を作戦で上回り、シェイファー・ハウンドが形勢を立て直すシーンでしょう。
捕食者としての見方を崩さないアシッド・アウル。明らかに上位者として対象を狩る事しか考えていない彼らは、まさか自分たちが命を奪われる側になるとは思ってもいなかったのです。
当然ここに至るまでの間、命を弄ぶように殺してきたアシッド・アウルの所業に、読者も鬱憤が溜まっていた事でしょう。そんな彼らをまんまと出し抜いた場面は、なんともいえないワクワクを感じる事が出来るのではないでしょうか。
ドイツ空軍の天才パイロットであるフュカは、戦績は素晴らしいものの、仲間の戦機が必ず撃墜されてしまうという不吉なジンクスを持っていました。
そんな彼女のもとに、相棒ユイが配属されます。ユイは、フュカとともに戦ったなかで、唯一無事だった人物。しかし、ジンクスを打ち破ったと思ったのも束の間、2人はともども撃墜されてしまうのでした。
彼女達の救出に向かったのは、シェイファー・ハウンド。カヤは空に対して夢を抱くなと、冷たくフュカを一喝します。仲良くなった相棒を失ってしまった悲しみもあって、パイロットを辞めようとする彼女に歴戦のエースパイロット、ガーランドが檄を飛ばし、再び空へと誘うのでした。
そして本巻の後半では、シェイファー・ハウンドに、ある研究者の救出が命じられることになります。
- 著者
- 出版日
- 2015-08-28
そんな本巻の見所は、フュカの成長でしょう。
これまで空を飛ぶという事に対し、いつか見た「天使」の姿を追い求めていた彼女。しかし実際、戦闘機に乗って空を飛ぶときは、命を奪い合う時です。その事実をユイの死を経て痛感した彼女は、これまで憧れていた空を飛ぶことを、辞めようとしてしまいます。
そんな彼女を一喝したのが、ガーランドです。戦争における、戦闘機乗りのあり方を身をもって実践する彼女のおかげで、フュカは再び空へ飛び立つことが出来るようになったのでした。
ガーランドの頼れる年長者ぶりも光るこのエピソードは、戦争の厳しさと同時に、キャラクターの心の成長も見て取れる内容だといえるのではないでしょうか。
新たな任務を授かったシェイファー・ハウンドですが、その移動手段として必要になったのは、なんと潜水艦。移動の最中に襲撃を受けて、初の水中戦となるのです。
慣れない水中戦で沈没の危機に瀕する彼女達ですが、友軍の助けもあって、なんとか危機を脱する事に成功。しかし、その先で助けた、とある研究者が関わっていたのは、なんと世界を裏から操る組織「マーナ・ガルム」の計画でした。
「円卓」と呼ばれる、世界を操ろうとする各国のメンバーで構成された人員達に対し、一小隊であるシェイファー・ハウンドは、どう関わっていくことになるのでしょうか。
- 著者
- 出版日
- 2016-01-29
そんな本巻の見所は、潜水艦による水中戦と、その際の友軍とのやり取りでしょう。友軍の潜水艦の船長は女性なのですが、実に男前な性格をしています。戦況に対しては常に冷静な判断をおこない、自分の艦が沈むリスクに対しては、味方を置き去りにしてでも退避を命じるなど、冷徹な一面もあるようです。
その一方で、海の戦いに慣れていないシェイファー・ハウンドが身を呈して囮になり、彼女の艦を逃がそうとした際には、一転して敵の殲滅にあたるなど義理堅い面も見せました。
そんな彼女の、歴戦ゆえの迅速な指揮により、敵軍を一掃するシーンは爽快の一言。ぜひ一読して頂ければと思います。
秘密組織マーナ・ガルムが目指していたのは、なんと戦争時の大量虐殺でした。
彼らは大量の犠牲を持って、地球上の人民整理をおこない、未来における人類の生き残りを図ろうと考えていたのです。しかし、そんな彼らの思想を感づいて、裏からその計画を食い止めようとしている者たちがいました。
そして、シェイファー・ハウンドも彼らの計画を食い止めようと、独自の行動を取る事になります。果たして彼女達の未来は、どうなるのでしょうか。
そして戦いの果てに、ユートやカヤが辿り着く答えとは……。
- 著者
- 出版日
- 2016-08-29
そんな最終巻の見所は、国を超えた連合軍によるマーナ・ガルムへの進行戦です。これまで敵として登場したグレイ・オックスやソ連軍、そして自国のドイツ空軍や潜水艦部隊などが登場し、総出の一斉攻撃をおこないます。
物語の主要人物が一堂に会し、世界を守るために戦う姿は、戦争のなかにある一筋の希望を感じさせる展開です。読んでいて思わず、気分が高揚してしまうのではないでしょうか。
また、これまで一貫して、兵器として、猟犬としてのあり方を貫いてきたシェイファー・ハウンド。そんな彼女達に同調するように、味方が次々と集まってくるのです。彼女達の気高い生きざまに思わず共感してしまうのは、助っ人として現れた彼らだけではなく、読者もそうなのではないでしょうか。
実に、クライマックスにふさわしい最終戦。その結末は、ぜひご自身の目でお確かめください。