好きな人のために歌手の夢を諦めきれない少女・満月。しかし彼女は喉に病気を患っていました。そんな彼女の前に、ある日2人組の死神が現れます。 命と、夢と、恋。この3つを主題にストーリーが進む『満月をさがして』。自分の夢のため、好きな人のため、まっすぐ進む少女たちの姿が眩しくて切ない本作の見所を紹介します。
喉に病気を患っている13歳の少女・神山満月。歌うことが好きな彼女は、手術で声を失うくらいなら、と治すことを拒み、寿命を待つ選択をしていました。
そんな彼女の前に、なんと2人組の死神がやってきます。その理由は、彼女が確実に1年後の死期を迎えられるよう、監視するためでした……。
満月をさがして 1 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
死神というと、大きな鎌を抱えた不気味なドクロを想像しますが、本作の死神は非常にかわいく現代的。死神っぽさがまったくといっていいほどありません。
満月のもとにやってきた死神コンビ「ねぎラーメン」の1人、めろこはうさ耳を持つ女の子、もう1人の男の子・タクトは猫耳をつけていて、背中には白い羽があります。
パッと見はただのコスプレイヤーですが、死神たち曰く小児科だからかわいくしているそう。きちんと死ぬ側のことを考えているあたり、なかなか律儀なものです。しかも、この2人はさらに甘く、病気で大きな声を出せない満月に、丈夫で少し大人の16歳の体を与えるのでした。
魂を狩りとり、死に導くはずの死神が、生きる希望になりかねない願いを叶えるというのは、なかなか矛盾していて面白いですね。
普段の満月もとてもかわいいですが、歌手「フルムーン」として歌を歌っている姿はとても楽しげで、よりかわいく、美しく見えます。作中には歌詞もきちんと記載されているので、歌唱シーンは見応えがありますよ。要注目です。
満月の魂を確実に手にするためやってきた「ねぎラーメン」ですが、そんな彼らが逆に彼女の夢を応援していることを知り、新たな死神コンビ「ヤミナベ」の青年・いずみと、人魂のようなジョナサンが、その夢を壊そうと暗躍します。
果たして、満月の運命は……。
満月をさがして 2 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
このいずみの登場により、恋愛模様に変化が加わります。本作は、「死期が近い少女の願いを死神が叶える」という大筋ではありますが、前提として「恋愛」がメインのお話になります。
満月には、外国に行ってしまった英知という想い人がおり、それを知っていながら、タクトは彼女にどんどん惹かれていくのです。そして彼が満月のことを気にしていること、満月が英知を好きなことを知りつつ、2人の仲を気にするめろこは、タクトのことが好きで……。
この時点ですでに三角関係は出来上がっていたのですが、いずみの登場により、めろこの好きな人が少しあやふやになっていきます。いずみはめろこのことが好きなようで、彼女も彼を強く拒否できないようなのです。
そして、めろこがいずみに惹かれているのには、彼らの過去に関係がありました。その関係とは?
タクトはタクトで、なんだかんだめろこのことも気にしていますし、ねぎラーメンコンビは互いに少々優柔不断ですね。現時点では自分の想いを貫いている満月が、死神たちの恋愛模様を見てどう変化していくのかが楽しみです。
満月の夢を邪魔しにきたはずのヤミナベコンビ。しかし、そんな彼らすらも、彼女は味方につけてしまいます。純粋であるがゆえ、多くの人がその優しい心とまっすぐさに、心癒されるよう。
しかし、死神たちはもともと、彼女の魂を回収するのが目的。彼らはほだされたなりに、行動を起こすのです。
満月をさがして 3 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
少々おばかで抜けているねぎラーメンコンビに、頭のよいいずみが加わったことで、彼らの仕事は少し前に進みます。満月の死を阻止しようとしているのは、英知ではないかという結論になるのです。
そもそもネギラーメンコンビは、彼女の死を阻止する相手と、彼女を出会わせないようにするのが目的でした。出会わせないようにするどころか、多くの人との縁を与えてきたあたり、だいぶ矛盾していますよね。満月より、ねぎラーメンコンビの今後が心配になります。
しかし、いずみの助言により、英知のことを探り出したタクトとめろこ。まずは満月の主治医である若王子にタクトが接触しますが、これがきっかけで、タクトは自身の過去を思い出すことになります。
なんと彼は生前、満月と出会っていたのです。そんな彼の過去では、いったいどんなことがあったのでしょうか。
この展開からタクトと満月に運命のようなものを感じてしまい、できることなら、このままうまくいってもらいたいとも思う読者は多いでしょう。しかし、ここで気になるのは満月の思いびとである英知の存在。今までは名前と過去の回想でしか登場しなかった彼の行方が、ついに判明するのです。
このことで、満月が死を恐れない理由、英知を絶対1番だと考える理由がわかるのですが、それは12歳の少女が抱えるにはなかなかに重いものでした。彼女の今までの気持ちを考えると、胸にくるものがあります。
英知の死を知ってから、その事実を自分の胸の内に押し込め、第三者からその名を聞くことのないように注意しながら生きてきた満月。しかし、そんななか、死神たちは彼の死を知ってしまいます。
彼女は英知の死が知られたことをさとり、彼らの前から姿を消すのでした。
満月をさがして 4 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
4巻の見所は、なぜ英知の死を黙っていたのか、なぜそこまで頑ななのかがわかる、満月とタクトの再会シーン。
今までどんなことがあっても明るかった満月が怒りの感情を全面に出したこのシーンは、押さえつけてきた彼女の思いが想像され、胸が締め付けられます。
積年の思いを吐き出した彼女が、再びタクトたちと一緒にいることを選んだのは、タクトのある言葉がきっかけでした。怒りが一瞬で鎮まるほどの強い説得力を持つその言葉は、読者にも「自分の人生をしっかり生きよう」と思わせてくれるでしょう。
満月の想い。英知の死。すべてを知ったタクトは、自分の気持ちを彼女に打ち明けます。意思の固い満月は、もちろんその想いを受け入れません。しかし彼女の気持ちに変化があったことは間違いないでしょう。
ただ、2人にとってはよい展開のように思えますが、めろこにとっては、薄々勘付いていたとはいえ辛い展開ですよね。さらに追い討ちをかけるように、彼女は自分が死んだ原因を思い出してしまうのです。しかも、その死には、満月の祖母・文月が関わっていたのでした。それは、ある悲恋の物語でした……。
1度は仲違いをしてしまった満月とめろこ。タクトのことを好きなめろこと、彼に好かれている満月は、それぞれの想いを知りながらも、素直にぶつかり合うことで互いの友情を再び確かめ合いました。
満月はもちろんですが、めろこも非常に素直でよい子です。自分の好きな相手が想っている子と仲良くするというのは、なかなか難しいものでしょう。
満月をさがして 5 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
めろこと満月の一件は落ち着き、ひと段落したようにも思えました。しかし、タクトたちの上司で部長の死神が、満月の魂回収を早めそうな動きが……。部長とマメに連絡を取っているいずみが、いったいどちらの味方になるのかが気になるところです。
しかし、なんだかんだ彼は、満月を1人の人間として気に入っている様子を見せるのです。決して恋愛感情ではなくても互いに情がある男女コンビというのは、見ていて心が温かくなりますね。
いずみの助言により満月が歌手として寿命をまっとうできるようになり、一件落着かと思いきや、今度は彼女ではなく、彼女の周りに不幸なことが起き始めます。しかし満月は自責の念にかられながらも、タクトに励まされ、障害に負けず自分が生きるための道を選択するのです。
そんななか、彼女の周りの人間を傷つけていた犯人が判明します。それはなんと、彼女のすぐそばにいた人物だったのです。ぜひ予想しながら、読んでみてください。
偶然、タクトの生前の恋人と会ってしまった満月。満月は、自分は英知が好きなのだと思いつつ、彼に彼女がいたことに少なからずショックを受けていました。
一方、自分の気持ちがまだいずみに残っている、めろこ。そのことに、タクトが気づいていることを知り、ショックを受けてしまうのです。
満月をさがして 6 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
ここにきて新たな女性キャラクターの登場です。タクトは罪な男ですね。彼を忘れられないと言う元カノ。彼の真っ直ぐな想いに翻弄される満月。そしてめろこも、彼の不器用な優しさに惹かれずにはいられない様子です。
タクトは、本作の男性キャラのなかでもとりわけ子どもっぽく、流されやすいところがあるなど、どうしようもないところが目立つキャラクターです。しかし、その素直な言葉が多くの女性を魅了してしまうようです。
そして元カノの登場をきっかけに、自分がタクトに惹かれつつあることに気づく満月。彼女の気持ちがタクトに向き始めるシーンは、読者にとって待ちに待った瞬間なのではないでしょうか。
しかし、やっと2人の関係が一歩進んだという喜びもつかの間、彼女は街中で倒れ、フルムーンであるとバレてしまうのでした。さらに死神の小児科部長・シェルダンに捕まってしまうという大問題も発生。彼女の魂は、このまま回収されてしまうのでしょうか。
ちなみに本巻では、サブキャラであるマネージャーと、主治医の恋も完結。ぜひ、この2人の恋路にも注目して読んでみてください。
シェルダンの力により、満月を陥れてしまったいずみ。満月のおかげで再び自分自身を取り戻せた彼は、彼女を守ることをあらためて誓います。二人が互いに抱く気持ちは、決して恋愛感情ではありません。しかし、ただの友情という言葉では片付けられない二人の強い絆が、読者の涙を誘います。
満月をさがして 7 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)
そして、冥界で総攻撃を受けていためろことタクトも駆けつけ、形勢が有利かと思った矢先、冥界の長であるデスマスターの槍が、タクトと満月に突き刺さりました。この攻撃により、満月は英知の魂の在り処を知ることができるように。
これが結果として、彼女が英知の後を追わなくなった1番の要因となったと考えられます。果たして、彼の魂の在り処とは、どこだったのでしょうか。
冥界での騒動の後、死亡予定者の帳簿から満月の名前は消え、彼女はあらためて自分の人生を歩んでいくこととなります。しかし、同じく攻撃を受けたタクトは、その後すぐ姿を消してしまったのでした。
最終回では、その3年後の未来が描かれています。そのとき、満月は16歳。フルムーンとして活動していたときと、同じ年齢です。
そんな彼女の心には、英知とともにタクトも存在していました。彼女はタクトに対する恋心を自覚したうえで、英知のことも忘れずにいました。タクトのことが好きになっても、英知はやはり特別で、大切な存在なのです。
最終回は大団円で終わるのですが、単純なハッピーエンドとはいえない結末をたどった英知のことを考えると、少々胸が苦しくなります。
好きな女の子に2度と好きとは言えない、触れることもできない。そんな悲しみを抱えながらも、彼女の幸せな姿を見てすべてをよしとする彼の愛の深さや、懐の大きさが、ラストの大海原のシーンに通じているのでしょう。英知にとって悲しい結末であるものの、それでも清々しさのようなものを感じます。
成長した彼女は、どんな人生を歩んでいるのでしょうか。その姿は、実際に本を手に取ってお確かめください。
過去に傷を負った人間の脆さや、恋をしている人間の強さが詰まった『満月をさがして』。多くの人の死が絡んだ本作は、人間の根本的な強さをあらためて感じさせてくれる作品です。
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