作画・行徒、行徒妹と、翻訳・河田雄志が担当した『北斗の拳 BBQ味』。かの有名なハードボイルドアクション『北斗の拳』のスピンオフ『北斗の拳 イチゴ味』を手がけたチームが挑んでいます。全編がほぼデタラメなカタカナ外国語という、ツッコミ不在のカオスなギャグ漫画……あなたはついて来られるでしょうか? この記事ではそんなヤバい魅力をご紹介!怖いもの見たさの方は、ぜひお試しください。
名作ハードボイルドアクション漫画『北斗の拳』をベースとした、スピンオフ作品の1つ、『北斗の拳 BBQ味』。正確にいえば、スピンオフのスピンオフに当たります。元となっているのは、原作をナンセンスギャグにアレンジした『北斗の拳 イチゴ味』です。
『北斗の拳 イチゴ味』は、原作の作画担当・武論尊の劇画調を無駄に再現してトレースしつつ、本編では絶対にあり得ないくだらないネタを(キャラだけは)大真面目にしたことで、絵柄とのギャップが面白いと好評を博しました。
北斗の拳 BBQ味 (ゼノンコミックス)
2018年09月20日
そんな「イチゴ味」のネタの1つに「インターナショナル」と称して、カタカナ英語のみで構成した話が作られました。そのしょうもなさがまたウケたため、新たに独立したスピンオフのスピンオフとして企画されたのが本作なのです。
「イチゴ味」の時点で公式に「著作権の無駄遣い」と宣言していましたが、「BBQ味」では武論尊による『北斗の拳』本編の原作絵を流用、もとい活用し、無駄遣い具合が斜め上にパワーアップしています。
「イチゴ味」はナンセンスな二次創作ですが、「BBQ味」はいわば再翻訳(日本語テキストを機械語翻訳で外国語に訳し、日本語に戻す遊び)です。『北斗の拳』をコメディに翻訳したのが「イチゴ味」で、それを原作寄りに再翻訳したのが「BBQ味」といえるでしょう。
基本的な展開は原作に準じるものの、台詞だけが全て滅茶苦茶になっているので、どことなく「イチゴ味」の雰囲気が感じられます。ニュアンスはわかるけれど、原形を留めていない。そういった意味で「BBQ味」は再翻訳なのです。シリアスな展開で交わされるデタラメなカタカナ外国語は、爆笑必至です。
ちなみに「イチゴ味」はスマホアプリで無料で読むことができるので、そちらもぜひご覧ください。
- 著者
- ["行徒妹", "河田 雄志", "原 哲夫", "武論尊", "行徒"]
- 出版日
『北斗の拳 BBQ味』のシュールすぎる外国語ネタの洗礼は、表紙から容赦なく襲いかかってきます。
「マイネームイズケン! シロウケン!!」
(『北斗の拳 BBQ味』より引用)
ご存知主人公のケンシロウが、なぜかシロウ・ケンと名乗っています。ケンシロウが名前のはずでは……?
絵柄と展開は、199X年の核戦争後に崩壊した世界のままです。ところがあらすじや枠外の解説を除いて、台詞はもちろんのこと、ナレーションの説明文すら、全てが外国語。しかも、カタカナです。
はっきりいって、読みにくいことこのうえありません。いっそアルファベットであってくれた方が、よっぽど読みやすかったことでしょう。しかし、この読みにくさこそが本作の特徴なのです。
どれだけシリアスな物語でも、カタカナ英語が雰囲気を台なしにし、本作がギャグ漫画であることをしつこいくらい、くり返し主張してくるのです。
一目見てわかるカオス。それが『北斗の拳 BBQ味』なのです。
注目すべきは、外国語を扱っているにも関わらず、翻訳しているのが英検3級保持者ということです。つまり、ずぶの素人。プロの監修をあえて挟まず、小中学生レベル(あるいはそれ未満)の、雑なのに勢いだけはある外国語が、奔流のように押し寄せてきます。そのさまは、まさに北斗百裂拳の如し。
「ユーアービフォアダイイング」
(『北斗の拳 BBQ味』より引用)
思わず頭を抱えたくなりますが、これが知らない人はいない、あの決め台詞「お前はもう死んでいる」の「BBQ味」版です。正しい英語訳はわからなくても、このカタカナ英語が間違いであることは一目瞭然でしょう。
なお、各話の最後にはちゃんと英語が出来る人による、『北斗の拳』でお馴染みの用語や台詞の、正しい英語訳が付記されています。こちらはきちんとした外国語となっているので、ご安心ください。
ただ、『北斗の拳』用語の英語を知ったところで、どこでどう使うのか、という問題が出てきますが。
有識者によるまともな英語は口直しです。メインディッシュは、あくまでもデタラメ外国語。そして、それを彩る見過ごせない小ネタとして、作中に登場する各国の(偏見に満ちた)代表的名物と、それに合致する『北斗の拳』キャラクターが紹介されます。
たとえばUSA編では、本編に登場した無頼の賞金稼ぎ・アインをモチーフとして、彼の好みそうなアメリカングルメ15選が紹介される、といった具合。その際に重視されるのは、あくまでも雰囲気。本当にキャラクターがそれを好きかどうかは関係ありません。
アインの場合ですと、ハンバーガーにホットドッグ辺りは納得出来ますが、その後、しれっと変な色のグミ、変な色のガム、変な色のドーナツと「変な色」シリーズのスイーツが続きます。
こういったアメリカあるあるの、ちょっとクスリとくるネタも仕込まれているのです。
カタカナ外国語の応酬で、読者がほどよく胸焼けしたころ、日本(というか日本語)に立ち戻るエピソードが挿入されます。
ただし、日本語は日本語でも古語、古文です。
北の方の七つ星
百の強き手
(『北斗の拳 BBQ味』より引用)
この絶妙にわかりづらい台詞、実は北斗神拳の技の1つである「北斗百裂拳」です。デタラメ外国語がそうであったように、台詞もナレーションも、そして効果音ですら、あらゆる言葉がこの調子で描かれています。
唯一の違いとしては、絵柄が『北斗の拳』準拠劇画ではなく、古い日本絵調ということ。一部だけ切り取れば、絵巻物のように見えなくもありません。その迫力皆無の絵が脱力感を誘い、さらなるカオスと出オチを演出してくれます。
『北斗の拳 BBQ味』は、最初から最後まで出オチで構成されて、出オチが詰め込まれた出オチ作品です。ここまでくどいほど続けられると、目新しいはずなのにマンネリズムすら漂います。
北斗の拳 BBQ味 (ゼノンコミックス)
2018年09月20日
そうして読者が慣れないオールカタカナ本編を読み終わった時、果てしない虚脱感以外に何も残らず、なんだったらどんな内容だったかも思い出せないのが凄いところ。
ここまでバカバカしいと、笑い飛ばすことしか出来ません。そして、それこそが本作の正しい楽しみ方なのです。
- 著者
- ["行徒妹", "河田 雄志", "原 哲夫", "武論尊", "行徒"]
- 出版日
いかがでしたか?気が休まる間もないとは、まさにこのこと。ノンストップ外国語ネタの洗礼を、ぜひ実際にご覧ください。