コメンテーターとしてさまざまなテレビ番組に出演し、やや過激な発言などで話題になることも多い新進気鋭の社会学者、古市憲寿。単著、共著を含め多くの書籍を出版し、近年では小説も執筆して注目されています。この記事では、そんな彼の作品のなかから読んでおきたいおすすめのものをご紹介していきます。
1985年生まれ、東京都出身の社会学者である古市憲寿(ふるいちのりとし)。
慶應義塾大学環境情報学部を卒業した後、東京大学大学院で社会学を学びました。修士課程を修了した後は、慶應義塾大学SFC研究所の上席所員となり、社会学者として活躍しています。
大学院に在籍しているころ、知人から「ピースボート」に乗ることを誘われたことが、古市の転機となりました。「ピースボート」とは、国際交流と目的として設立されたNGO団体が主催している、船舶旅行のこと。帰国後に体験を論文にまとめたところ、そのユニークさに着目した教授が出版社に持ち込んだそうです。
こうして世に出ることとなった『希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想』が古市の最初の著作となりました。2011年の新書大賞で入賞するなど話題となり、社会学者として古市憲寿の名が広まることとなります。
以降、内閣主催のさまざまな会議や委員会のメンバーに選出されたり、コメンテーターとしてテレビ番組に出演するなど活動の幅を広げています。
2011年に同名の単行本が発表された時、古市憲寿は26歳でした。当時の自分が描いた若者像は正しかったのか、30歳になった彼が「答え合わせ」として約200の脚注を加えている作品です。
格差社会だと叫ばれている昨今、実は統計によると、20代の約80%が現状の生活に「満足している」と答えたそうです。若者は何に満足し、何に幸せを感じているのか。幸福の正体を探っていきます。
- 著者
- 古市 憲寿
- 出版日
- 2015-10-21
本書で古市憲寿は、過去の若者論を分析したうえでロジックを覆しています。「若者論」と一括りに定義はできないと、「若者」の当事者である古市が言っているのが興味深いでしょう。さまざまな著作を引用しつつ、現在の若者の姿を細かく語っているので、説得力があります。
また脚注がユニークなのも特徴。古市よりもずっと先輩である小熊英二や上野千鶴子にツッコミを入れていて、読んでいるこちらがドキッとすることもありますが、「脚注が本文」といわれるほど充実した内容です。
古市憲寿の代表作ともいえる作品なので、初めて彼の著作を読む方はぜひ本書から読んでみてください。
自身を「戦争を知らない平和ボケ」世代とし、古市憲寿が世界各地の戦争博物館や平和博物館を訪ねて紹介しつつ、それぞれの戦争の記録と記憶を考察していく作品です。
若いのだから知らないのは当たり前として、南京やアウシュビッツ、シンガポール、朝鮮半島38度線、そして沖縄や広島、関ヶ原を歩きます。
- 著者
- 古市 憲寿
- 出版日
- 2015-07-23
古市憲寿が世界の戦争博物館を訪れるようになったのは、アメリカの真珠湾にある博物館があまりにも日本の戦争のイメージとかけ離れていて、爽やかで楽しかったからだそう。アメリカにとって第二次世界大戦は、辛くて悲惨なものではなく、むしろ輝かしい勝利の記憶だからではないかと考えました。
そこからさまざまな国の戦争博物館を訪ねることで、国によって異なる記憶に対峙し、異なる理由を考察していきます。
注目すべきは、タイトルにもなっているとおり、「誰も戦争を教えられない」ということではないでしょうか。古市の文章を「ドライだ」という人もなかにはいますが、自分の足で各国の戦争を直接学ぼうとする姿勢はけっして冷たいものではないですし、その姿勢こそが重要だと感じるでしょう。
母親や子どもを救い、少子化対策に有効なだけでなく、社会全体のレベルが上がるだろうという「保育園の義務教育課」。良質な乳幼児教育を受けた子どもは、大人になってからの収入も高くなり、また犯罪率も低くなるそうです。
家庭内での孤立や育児の密室化を防ぐことから虐待対策にも有効で、子育て支援に予算を割くため景気も上昇。いいことづくしなのだそうです。
保育園義務教育化
2015年07月01日
古市憲寿が、保育園を義務教育化することで、日本が抱えているさまざまな問題を解決できると提言しています。
古市の持ち味である、これまで常識とされてきたことをバッサリと切り倒していく豪快さも健在です。たとえば「母性本能なんて学術用語でもなければ根拠もない」など。固定観念が実社会と合っていないと問題点を指摘しています。
その一方で、現状育児の大部分を担っている「お母さん」に対しては非常に優しい目線をもっているのも、本書の魅力のひとつです。90%以上のお母さんが子育てから逃げたいと思ったことがあるそうで、育児中の方が読むと救われる内容なのではないでしょうか。
メディアに露出している古市憲寿からは、やや冷たいような印象を受けている人もいるかもしれませんが、彼は社会学者として日本の未来を真剣に考え、熱い想いをもっている人だということがわかるでしょう。
「社会学」とは一体どのような学問なのか。何の役に立ち、誰のためにあるのか……。
若き社会学者である古市憲寿が、日本を代表する12人の社会学者の先輩たちに問います。それぞれの専門分野から異なる角度で今できることを考える、新しい形の社会学入門書です。
- 著者
- 古市 憲寿
- 出版日
- 2016-10-18
古市が問いを投げかけるのは、小熊英二、佐藤俊樹、上野千鶴子、仁平典宏、宮台真司、大澤真幸、山田昌弘、鈴木謙介、橋爪大三郎、吉川徹、本田由紀、開沼博の12人。
本書によると「社会学」というのは、政治学や経済学、法学などではまかないきれない、余剰項目を扱う分野なのだとか。つまり政治や経済、法律では答えの出ない問題を研究対象としているのです。
それはたとえば、「家族とは何か」というようなもの。これを研究すること、調べることが何の役に立つのか、誰のためになっているのかを読者にわかりやすく示してくれています。
専門的な知識はまったく必要なく読むことができるので、社会学の入門書としておすすめの一冊です。
福祉が充実していて、教育水準も高い国として知られているフィンランド。メディアでもたびたび「理想の国」として報じられています。しかし、本当にそうなのでしょうか。
本書は、古市憲寿と、学生時代を日本で過ごしたフィンランド出身の若手社会学者、トゥーッカ・トイボネンの共著です。フィンランド社会についての論文やデータを検証し、現地でフィールドワークをしたことで見えてきた現実を4つのポイントから読み解いていきます。
- 著者
- ["古市 憲寿", "トゥーッカ・トイボネン"]
- 出版日
- 2015-06-18
トゥーッカ・トイボネンがまずしたことは、フィンランド社会にあるジレンマを考察する論文を、フィンランド国内の研究者に執筆依頼したこと。それを日本語にしたものを古市と分析していきます。
「総論」「教育」「若者」「イノベーション」という4つの項目に大きく分類し、フィンランドの社会学者と日本の社会学者という異なる視点から実態に迫っていきます。
文章は平易なので、学術書というよりは読み物として楽しむことができるでしょう。「理想」といわれているフィンランドの問題点を知ることで、では日本はどうすればよいのかという課題も見えてきます。