レトロな世界観に、鉱石や機械、美少年、SF要素などを宝石のようにちりばめた作品が数多くあります。宮沢賢治を思わせる文体や、独特の美学は、まさに大人のための童話で、一度はまってしまうとなかなか抜け出せません。
出身は、東京都。1959年に生まれ、女子美術大学芸術学部を卒業します。
1988年に『少年アリス』で第25回文藝賞、2015年には『冥途あり』で第43回泉鏡花文学賞、第68回野間文芸賞など、数多くの賞を受賞しています。
主人公は、二人の少年、アリスと蜜蜂。夏から秋に変化していく季節が舞台です。
- 著者
- 長野 まゆみ
- 出版日
- 2008-11-20
水連の開く音がする月夜、少年・アリスと友人の蜜蜂は、学校に忘れ物を取りに行きます。探し物はすぐに見つかり、螢星を入れた烏瓜を提灯に、夜の学校を探検することに。
おかしなことに理科室からは、誰かが授業している声——「秋の使者が落とした銀の実を食べると、飛べなくなって人の様になってしまう」——が聞こえてきます。こっそり聞いていることに気づかれたアリスと蜜蜂は、逃げ出します。しかし、アリスは捕まってしまいます。
アリスは、ひょんなことから仲間だと勘違いされ、月や星を夜空に縫い付ける作業を手伝うことになります。それでもやがて真実がわかり、アリスはクロツグミ(鳥の一種)に姿を変えられてしまうのです。
果たして蜜蜂は、アリスを救えるのでしょうか。続きは本編で。
主人公は、色白で活発な少年・水連と、友人の銅貨。ある日、水連は、博物館の展示物のひとつである「三日月少年」が盗まれたという秘密を教えてくれます。「三日月少年」は、充電式ニッカド電池で動く自動人形で、遠目にはまるで普通の少年です。
- 著者
- 長野 まゆみ
- 出版日
水連は、「三日月少年」は本当は、盗まれたのではなく、逃亡したのだと言います。こっそり家を抜け出し、始発電車に乗り込んで、三日月少年を探す冒険の始まりです。
百貨店の子供服売場、プラネタリウム、海洋展覧館にいる「三日月少年」たちに、こっそりニッカド電池を入れれば、埠頭の先の倉庫である月光舎に、三日月少年たちがみんな集まって、飛行船で飛んでいくに違いない。水連は、そこに、博物館から逃げ出した「三日月少年」もいるはずだと言います。
オムレツ、クリイムスープ、バタつき麵麭などの美味しそうな食べ物や、飲み物もたくさん出てきますので、そちらもお楽しみください。
主人公は、双子のミケシュとロビン。月の祭(ムーン・フェスタ)のお馴染みは、ムーンケーキや光る石を入れた特別の瓶入りソーダ水。寒い夜に寝台で飲むのは、マシュマロ入りショコラ。これを聞いただけで、なんだかワクワクしてきませんか?
- 著者
- 長野 まゆみ
- 出版日
バターカップ教授夫人が作り出したのは、信じられないくらいおいしい、粉砂糖がまぶされたシュークリーム。旅行鞄手を突っ込んで捕れるのは、星型の硝子。浜辺にいる人魚からもらった、素敵な飲み物。
アーネスト伯父さんに連れられて行ったサーカスでは、ジェット靴を履いた少年が玉を転がしながら、地上から100メートルも上昇し、側転や宙返りをします。いつの間にかロビンもサーカスに加わり、はしごから飛び出しますが…。果たしてロビンの運命やいかに。
二人だけの初めての旅行。どうも軽いロビンのトランク。中をのぞくと、空気を入れて使う大きなボートしか入っていません。怒ったミケシュでしたが、夜になると天から紅玉や檸檬色のドロップがたくさん降ってきて…。
ハーヴェストの祭りで買ったのは、真っ白い毛糸?それとも仔うさぎ?それでママが作ってくれた帽子をかぶって遊びに出かけると…。
時には喧嘩もする双子は、結局とても仲良しなのです。仲良し双子の、夢の中にいるかのような、ちょっと不思議で楽しい物語をお楽しみください。
天球儀文庫シリーズの第1冊目。河出文庫からも出版されていますが、鳩山郁が挿絵を描いた作品社版の文庫は絵本のような装丁で、収集心をくすぐられます。
- 著者
- ["長野 まゆみ", "鳩山 郁子"]
- 出版日
季節は、夏が終わりに近づく頃。同じクラスの宵里とアビが主人公です。シトロンソーダの瓶を開け、泡が収まるころに角砂糖を入れると、たくさんの泡が噴き出し、ぱちぱちと音を立てます。この音が似ている音は何の音?
屋上から聞こえた歌は、レコードか?見知らぬ少年の歌か?雑音とともに回るレコードと、屋上から飛び立つ一羽の白い鳩。
夏の終わりの物語を、遊び心溢れる挿絵とともにお楽しみください。お供には、瓶入りのソーダ水をお忘れのないように。
1026階の宿舎に住むアナナス。端末機以外の私物を所有することのないハイテクビルディングの集合体が、アナナスの住む世界です。
- 著者
- 長野 まゆみ
- 出版日
- 2016-04-06
同じ部屋の少年は、琥珀色の髪とすみれ色の眼を持つ、快活なイーイー。口にする水分は、ヴィオラという名前の精油だけ。
ドームにある海も風もすべて幻。テレヴィジョンに映される、ママダリアのいる碧い星に抱く憧れ。少しずつ壊れていく少年たち。全てを監視された、大人のいない世界。
身の周りに捨てるものがすべてなくなったとき、最後に捨てるのは心か体、どちらなのでしょうか。なぜ少年たちは、生かされているのでしょう。巨大なビルディングに、出口はあるのでしょうか。テレヴィジョンシネマに映る幸せそうな少年が、アナナスの世界を、より無機質に冷たいものに感じさせます。
少年たちが描く壮大なSFは、暗号解読などを含め、何度読んでも新たな発見があります。分厚い本ですが、心配はいりません。世界観や謎に引っ張られ、ぐいぐいと読み進められます。時間のあるときに、一気に読んでいただきたい一冊です。
以上、5作品をご紹介しました。この他にも、和風のお話や、より少年愛が強いものなど、バラエティに富む長野まゆみ。どの作品も、大人だからこそ楽しめる作品ばかり。少しレトロで美しい世界をどうぞお楽しみください。