小説投稿サイト「Arcadia」に投稿されていた小説が、2013年に書籍化された本作。以降、漫画化・アニメ化と幅広くメディア展開され、2019年には劇場アニメも公開されています。 これからますます注目していきたい『幼女戦記』の魅力を、既刊分、一挙にご紹介します。
本作は、日本でサラリーマンとして働いていた主人公が、戦乱の世界に幼女として転生するという、異世界軍記ファンタジーです。
主人公は、とにかく合理主義で、会社のためならば平気で同僚をリストラにするという人物。そのため、周りに多くの敵がいました。そんな性格のせいで同僚から恨まれて、駅のホームに突き落とされて、死亡してしまったのでした。
性格をあらためさせるために別世界へと転生させられたのですが、幼女として転生した後も、その性格は健在。見た目は金髪碧眼のお人形のような幼女なのに、中身は徹底的な合理主義者という人間ができあがってしまったのでした。
- 著者
- カルロ・ゼン
- 出版日
- 2013-10-31
飛ばされた異世界では、性別や年齢による差別はあまりありません。主人公も幼いながら軍に入隊し、そこで隊を指揮することになるのです。
舞台は架空の世界で、魔法も存在しますが、雰囲気として現世の欧州に似ています。政治的、経済的、軍事的にも問題を抱える帝国に転生者として生まれた主人公が、戦場の最前線で戦い、やがて帝国の未来にも関わっていくという、壮大な物語です。
『幼女戦記』というタイトルから、幼女の萌え系小説をイメージされる方もいらっしゃるかもしれませんが、本作はガッツリ軍記ものです。
主人公であるターニャの中身は合理主義の30代男であることもあって、正直文章だけ見ていると、幼女だとうっかり忘れてしまいそうになるくらい。それでも幼女と軍人というギャップの面白さが、本作の魅力の1つであることには間違いありません。
ただ、もっと魅力なのが、その本格的な軍記物語。
主人公が転生者だったり魔法が存在したりと、根本的な世界観はファンタジーですが、外交問題や政治問題、周辺諸国との戦況、勝利を重ねる度に疲弊していく国と、その現状をわかっていないトップ政治家など、架空とは思えないほど作り込まれた設定や展開は、とても読みごたえがあります。
「幼女」を期待する方には少しイメージと違う内容かもしれませんが、本格的な軍記物語を読みたい方にとっては、迫力あるバトルも知略を巡らせた戦略も、思う存分楽しむことができるでしょう。
2013年の日本。
人事部で働く主人公は、その徹底的に合理的な性格で、容赦なくリストラを言い渡す男として知られていました。
ある日、自分がリストラを告げた相手にホームから突き落とされた彼は、そのまま死亡。そんな彼の前に現れたのは「創造主」を名乗る人物で……?
- 著者
- カルロ・ゼン
- 出版日
- 2013-10-31
合理的で自己中心的、上昇志向が強く、自分や会社のためならどんな相手でも容赦なく切り捨てる……そんな超のつく合理主義者であった主人公に恨みを持つ者は多かったようで、物語の冒頭で駅のホームから突き落とされて、早々に死んでしまいました。
そして、彼の目の前に現れた「創造主」と名乗る存在により、異世界へと転生させられることになったのです。
転生をさせられる際、主人公は自分の目の前に「創造主」がいるにも関わらず、神という存在は論理的に存在しないという考えを崩しません。そんな傲慢ともいえるような無信仰さに怒った「創造主」は、彼が神にすがりたくなるような場所・立場として、彼を戦乱の世の中に生まれた孤児の幼女へと転生させたのでした。
こうして、「幼女」による戦争ものが始まることになったのです。
転生した彼の名前は、ターニャ・デグレチャフ。物語が始まった時点では、まだ9歳の子供でした。現世での記憶を保持していること、また高い魔力を持っていることなどは、他の異世界転生ものと似たような設定です。
ただ「幼女」という、いかにも萌え要素のありそうなタイトルのイメージとは裏腹に、内容はガッツリとした軍記もの。この世界では性別や年齢による差別はあまりないらしく、ターニャは幼いながら、転生者としての記憶を武器に、軍のなかで頭角を表していきます。
もっとも彼女は、早く出世して安全な後方で生活するために合理的な手段を選んでいたのですが、それが優秀な軍人として評価されてしまい、どんどん前線へと送りこまれていくことに……。
シリーズの始まりである本巻は、最初から最後まで戦闘が盛りだくさん。ターニャは勲章を受けたり、途中で年上の部下ができたりと、本人の意思とは裏腹に華々しい活躍を見せていくのです。
また、物語のなかでも重要な立ち位置となっていくハンス・フォン・ゼートゥーアとの邂逅も描かれるなど、今後の展開を読んでいくうえで欠かせないエピソードも収録されています。
ターニャが作り上げた選りすぐりの精鋭部隊・第二〇三航空魔導大隊が、遂に出撃!迎え討つのは、隣国・ダキア大公国の軍隊です。60万もの敵の侵攻を前に帝国軍は頭を抱えますが、ターニャは、ダキア軍に脅威はないと考えていて……!?
- 著者
- カルロ・ゼン
- 出版日
- 2014-05-31
前巻でゼートゥーアと出会い、それをきっかけに魔導大隊を編成・指揮することになったターニャ。そんな彼女が作り上げた第二〇三航空魔導大隊が、侵攻してくるダキア軍を迎え討つことになります。
相手は60万を超える兵力を持っており、帝国軍はその力に内心ビビッていました。しかし実は、ダキア軍は兵士の数こそ多いのですが、大半を占めるのは歩兵部隊。それすらも半農の兵士であるため、航空隊を率いているターニャにとっては、恐るべきものでありません。
また、彼女にとっては、精鋭部隊とはいえ実戦経験のない第二〇三航空魔導隊にとっての、よい訓練くらいの戦いだったのです。
本巻では、そんなダキア国との戦いの他に、海軍と合同訓練をしたり、帝国の占領地で武装蜂起が起きたりと、とにかく次々に戦っています。ターニャが航空魔導隊を作ったこともあり、空での戦いが多いのもおもしろいところ。
また、この時点で少佐であるターニャですが、すでに参謀会議などにも混じっていて、その存在感は帝国軍のなかでも、ひと際目立っているようです。萌え要素が少なく、戦いに徹しているためか、ターニャが幼女であることを忘れてしまいそうになることもしばしば。
しかし本巻では、ターニャの容姿を活かしたエピソードが収録されていて、彼女が金髪碧眼のお人形のような少女であることを思い出させてくれます。どんなエピソードなのか、ぜひ本編を手に取って確認してみてください。
敵対している共和国との戦いが膠着するなか、その状態を打ち壊すため、ターニャ達第二〇三魔導大隊は共和国の司令部を破壊する作戦に出たのですが……!?
- 著者
- カルロ・ゼン
- 出版日
- 2014-11-29
ターニャはその合理的な戦略と活躍ぶりによって、周囲から「悪魔」「死神」と呼ばれ、前線へと送り込まれ続けることになります。
ターニャにしてみれば、ただ仕事を効率的かつ合理的に進めていただけなのですが、それが周りから見ると、隙のない冷酷な戦略に見えていたのです。
後方で安全に暮らしたいというターニャの思惑とは裏腹に、彼女は戦争の最前線で戦い続けることになってしまいます。
本巻では、ターニャが戦争を終わらせられないことに落ち込んだり、周りから意見を聞き入れてもらえないことに悔しい思いをしたりと、戦いそのものに対して向かい合っているような節が見受けられます。これから彼女の心境がどのように変わっていくのかも、気になるところでしょう。
特に、彼女にとっては後ろ盾的な存在であるゼートゥーアでさえ、戦争の終結を読み誤っていることに気付いた時のターニャの動揺ぶりは、読んでいて苦しくなるほどです。戦いに勝利して喜んでいるはずなのに、本当の意味で勝ったとはいえない一癖ある展開に、ますます目が離せません。
共和国との戦いに勝利するも戦争を終結することはできず、苦い思いをしたターニャ。彼女は帰還命令を受けて、久しぶりに帝都へ戻ってきました。
その目的は、休暇。帰還報告も済ませ、久々に羽を伸ばせると思っていたところ、思わぬ展開になっていって……?
- 著者
- カルロ・ゼン
- 出版日
- 2015-06-29
共和国との戦いでは縦横無尽の活躍を見せたターニャは、帰還命令を受けて、久しぶりに休めるとワクワクしていました。しかし、少し浮かれすぎたのか、上官達の口車に乗せられてしまい、結果、休みはどこへいってしまったのかあれよあれよという間に、軍事演習任務が言い渡されてしまうのです。
しかも演習というのは名ばかりで、進軍の恐れありとされる連邦の偵察をおこなうため、東部へと派遣されたのでした。
ここまでダキア国、協商連合、共和国と、戦いにこそ勝利しているものの、終わりのない戦争で、まさに四面楚歌状態。そんな状況にターニャもいささか辟易としているようです。だからこそ休暇を期待して、彼女らしくないうっかりした言動も出てしまったのかもしれません。
また、今回はターニャの宿敵となる人物、メアリー・スーとの戦いもあります。彼女は協商連合出身の少女で、父親を殺した帝国に深い憎しみを抱いている人物です。
本巻では、そんな彼女とターニャが初めて戦います。結果はターニャの圧勝でしたが、この戦いをきっかけに、メアリーはターニャに対して執拗な恨みを抱くようになります。この先、2人がどうなっていくのかも気になるところです。
東部の連邦との戦いを経て、念願だった後方勤務に就いたターニャ。しかし、日に日に暗雲の立ち込めてくる戦況のなか、彼女の書いた戦闘団結成についての論文がゼートゥーア達の目に留まります。
その結果、ターニャは新たな戦闘団「サラマンダー戦闘団」の指揮官に任命されてしまい……!?
- 著者
- カルロ・ゼン
- 出版日
- 2016-01-30
ようやく後方勤務に就いたと思いきや、ターニャは新たな戦闘団の設立と指揮官を任され、再び最前線へと赴くことになってしまいました。
新しい戦闘団の名前は、サラマンダー戦闘団。もともとターニャが率いていた第二〇三魔導をベースに作られたこの部隊は、まだ試験運用段階です。そのため、東部戦線で連邦相手に防衛陣を組むという運用テストをおこなうことになりました。
その戦力差は歴然で、サラマンダー戦闘団は、連邦相手に圧勝していきます。しかし、圧倒的な力を見せつけられているにも関わらず、連邦の攻撃は緩むことがありません。そのことを不審に思ったターニャは、連邦軍が何を目的として戦っているのか、その本当の意思を知ることになるのです。
相手の目的を知った途端に作戦を切り替えるなど、相変わらず合理的なターニャ。本巻では、そんな彼女が幼女という容姿を活かしたエピソードが描かれます。果たして彼女がおこなったこととは?
主人公が幼女というのは本シリーズの特徴の1つではありますが、戦いにおいては、その点はあまり関係がありません。だからこそたまに幼女エピソードが出てくると、そうだった!幼女だった!と思わず笑ってしまうこともあるでしょう。
また本巻では、前巻に引き続きメアリーが登場。父の仇をとるために戦っているらしい彼女と、それに関してまったく身に覚えのないターニャ。感情で戦っている者と、合理的に戦っている者の対比が面白く、今回も目が離せません。
1度解体して新しく作り直されたサラマンダー戦闘団を率い、東部戦線へと向かったターニャ。連邦からの夜襲を受けるも撃退し、村の要塞化を進めていきます。
しかし、そんな彼女を襲ったのは意外なもので……。
- 著者
- カルロ・ゼン
- 出版日
- 2016-07-30
新生サラマンダー戦闘団を率いて東部へと赴いてきたターニャ達でしたが、そこで彼女達を脅かしたのは、連邦軍ではなく雪でした。東部の冬は帝国のものとは比べ物にならない寒さで、帝国から補給される防寒具では役に立ちません。
さらに、寒さによって帝国の武器までもが動作不良を起こし始め、使い物にならなくなってきました。戦争の敵は、何も兵士だけではありません。物資はもちろんのこと、時には天候も敵となりうるのです。
こういったアクシデントにいかに対処するかも軍記ものの面白さです。本巻では人ではない敵と戦うターニャの姿に、いつもとは違う面白さを感じることができるかもしれません。
ここまでターニャ達前線部隊の活躍もあって、帝国は各戦線で連勝を続けています。しかし、そのことがしだいに帝国を疲弊させていることも、また事実でした。これまでにも終わらない戦争に疲弊していく様子は描かれていましたが、本巻では、それがより顕著になっていくのです。
勝利を収めても国は弱っていく……そんな戦争の不条理さを考えることができるのも、本シリーズの魅力の1つといえるのではないでしょうか。
東部戦線へ戻ってきたターニャ達。しかし、そこで待ち受けていたのは、連邦軍の激しい攻撃でした。連邦軍の猛攻に司令官が死亡。帝国軍はすっかり混乱に陥ってしまうのです。
そんな部隊の混乱に対して、ターニャが取った行動とは……!?
- 著者
- カルロ・ゼン
- 出版日
- 2016-12-28
東部へと戻ってきたターニャ達に、さっそく新たな試練が降りかかります。連邦軍の猛攻を受け、今にも部隊が壊滅してしまいそうななか、ターニャは部隊の指揮をとることになりました。
この戦いで彼女は、連邦の教会への攻撃を計画します。これには、友好国イルドアから観戦武官として派遣されたカランドロ大佐も忌避感を示します。しかし、ターニャはあくまで冷静かつ合理的に、教会への攻撃に踏み切るのです。
もちろん、だからといって民間人を殺すような国際法に違反することはしていません。しかしながら、国際法に違反しないからといって、感覚的に受け容れられるかどうかは人それぞれです。大佐を説得するターニャの言動だけを読んでいると、相変わらず幼女であることを忘れてしまいそうになります。
教会施設への攻撃は成功し勝利を収める彼女達でしたが、一方で帝国軍の疲弊は進む一方。連邦との戦いも、次第にギリギリなものへとなっていくのです。東部戦線の戦況がどうなっていくのか、ハラハラする展開を楽しむことができるでしょう。
さらに、前線と後方の考え方の食い違いも、さらに拍車がかかっているようです。戦いに勝利したことで戦争が終わると思っているターニャ達と、連勝に浮かれて帝国有利な方策を推し進めようとする最高統帥会議の面々……帝国がどうなっていくのか気になって仕方がありません。
戦争が終われば出世して、安全でのんびりした生活が送れると思っていたターニャ。しかし、そんな彼女の前に現れたのは、なんとゼートゥーアでした。
前線にいるわけがない彼が現れた理由とは……!?
- 著者
- カルロ・ゼン
- 出版日
- 2017-06-30
本来、後方勤務のはずのゼートゥーア中将。そんな彼が前線にいるターニャの前に現れ、彼女は驚きます。しかも現れた理由が、前線へ左遷されたというのですから、さらに驚愕です。
彼女にとっては、彼は直属の上司であると同時に、出世街道に乗るための重要な後ろ盾でもありました。そんな彼が左遷ともなれば、彼女の思惑も崩れます。
落胆するターニャでしたが、そんな彼女にゼートゥーアは無茶な要求をしてきます。ターニャも上官に逆らうことはできず、従うほかありません。
彼女に課せられたのは、アンドロメダ作戦における囮役。アンドロメダ作戦とは、連邦東部にある資源地帯を手に入れようとする作戦です。連勝に気を大きくしている帝国ですが、実際のところ資源は不足していました。不足する資源を補うためのこの作戦は、帝国にとってかなり重要なのです。
しかし、戦況はあまりよくありません。ターニャ達は囮役なので、わざと敵に囲まれたうえで防衛戦をくり広げますが、それもなかなか苦しそうな雰囲気。
これまでその圧倒的な力で相手を叩きのめすことも多かったターニャが、どのように囮役を務めるのかも見所の1つです。
アンドロメダ作戦は成功するのかどうか……結果はぜひ手に取って確認してみてください。
やっとの思いで前線を離れ、帝国へ帰還することになったターニャ達。
しかし、前線で実際に戦っている彼女達と、後方で戦争を眺めている最高統帥会議の考え方は、ますますかけ離れたものとなっていて……。
- 著者
- カルロ・ゼン
- 出版日
- 2018-01-12
久しぶりに帝都へと帰還したターニャ達。やっと休暇を取れるとホッとしたのも束の間、帝都に着いたばかりのターニャは、レルゲン大佐からとんでもない話を聞かされることになります。
このレルゲン大佐は、士官学校時代から彼女を知る青年で、ターニャにとっては気ごころの知れた存在。そんな彼は、勝利に酔いしれるばかりで現状を鑑みない最高統帥会議に対して、強い憤りを感じているようでした。
実際、ターニャ達はギリギリの状況で戦いを強いられているわけですが、世の中には、前線の兵士達は3度の食事がある快適な生活を送っていると伝えられていました。ターニャやレルゲンが憤るのも無理はありません。
そんななかレルゲンがターニャに告げたのは、敵に見せかけて帝都を空爆し、最高統帥会議を壊滅させるという、一歩間違えば反逆罪になりかねないとんでもない作戦でした。それほどまでに帝国が追い詰められているのも、また事実だったのです。
帝都でさえも物資は不足していて、毎日のようにおこなわれる葬儀のせいで、市民達の感覚はすっかり麻痺しています。それは何かのきっかけがあれば、すぐにでも暴発してしまいそうな状況です。
そんな現状を見たターニャ達は、帝国の未来のため、平和な戦後を得るため、戦争でうまく負けることを考え始めます。
このように、本巻では帝国の現状や問題点、ターニャ達の新たな目的など今後の物語を占う要素が描かれています。彼女達はこれまでと同じように戦い続けることになりますが、目的が変わったことで、物語は新たな方向へと進み始めることになります。
物語の大きな転換点となる本巻、要注目です。
戦争の目的は勝利そのもの……そんな帝国の在り方に危機感を覚えたターニャは、もしもの時は国を捨てる考えを持つようになっていました。
そんななか、レルゲン大佐は外務省の参事官と会談の場を設けることに成功して……!?
- 著者
- カルロ・ゼン
- 出版日
- 2018-09-29
帝国の現状をあらためて知ったターニャは、いざという時は亡命も辞さない考え方になっていました。もともと異世界の人間である彼女には愛国心がそれほどありません。なにより、合理的な彼女にとって、亡命は最善の選択肢ともいえたからです。しかし、いまは亡命のタイミングとしてふさわしくないようでした。
再び東部へと向かった彼女は、連邦で囮役を務めることに。さらにそれが終わると、今度は西方へと向かい、連合王国との戦いに身を投じることになりました。
西方では、連合王国からの防衛をおこなっています。しかし、ここの指揮を取っているロメール将軍は、防衛体制の強化という命令を拡大解釈し、連合王国への襲撃計画を立てていました。その計画に無謀さを感じたターニャは異を唱えますが、ロメール将軍の考えは変わりません。
説得をあきらめたターニャでしたが、逆にこの戦いを利用して、自分の将来のための実績にしようと発想を転換しました。結果、これがさらに彼女を面倒くさい事態へと追い込むことになるのです。
そんななかでも、追い詰められた状況をすべて自分の味方にしてしまおうとする彼女の考え方には、思わずうならされてしまう読者の方も多いのではないでしょうか。
また、ここまでの戦い1つ1つを見れば次々に勝利を収めているはずの帝国が、徐々に疲弊・衰退していく様子がまざまざと描かれ始めました。その様子には、ただバトルを楽しむだけではない、軍記ものとしての面白さがあります。
果たして帝国は生き残れるのでしょうか。
レルゲンは、講和派としてイルドアに向かい外交折衝を行いますが、折衝が失敗した時の「予備計画」を見据えてルーデルドルフとゼートゥーアが暗躍します。しかし、かつての盟友だったルーデルドルフとゼートゥーアが考える予備計画には、大きな溝がありました。そのすれ違いによって、ついにゼートゥーアはルーデルドルフの暗殺を計画するものの…!?
- 著者
- ["カルロ・ゼン", "篠月しのぶ"]
- 出版日
できるだけ被害を抑えながら帝国軍を敗北させようと苦悩していたゼートゥーア。彼の盟友ルーデルドルフも、同様に帝国軍の未来を危惧していました。
しかし、ルーデルドルフは、もはや帝国軍が勝利するにはクーデターを起こし、外交の不安定要素となっているイルドアを軍事制圧する強行策しかないと考え始めます。そんな彼の動きを危険視したゼートゥーアは、ターニャによるルーデルドルフの暗殺を計画します。
連合王国の介入もあり、本来の暗殺計画とは異なる形ではありましたが、ルーデルドルフは物語から退場することになりました。
自らの信念のために友を討つというゼートゥーアの覚悟、愛国心を持たないターニャが暗殺計画に対してどんな思いを抱くのか、ルーデルドルフはどんな最期を遂げるのか、など見どころに事欠かない一冊です。また、初登場時点では温厚な人柄だったゼートゥーアがついにここまで思い切った計画を企てるようになったことにも驚かされます。
これまで帝国の劣勢が丁寧に描かれてきましたが、11巻では物語が大きく動き出します。ルーデルドルフがいなくなった帝国がどのような敗北へと向かっていくのか、今後の展開に目が離せません。
戦場では勝利を重ねながらも、破滅の道を歩み続ける帝国。もはや栄光の勝利などないと悟ったゼートゥーアは、ルーデルドルフ亡き参謀本部で権力を掌握し、"最良の敗北"を目指して世界を相手に大立ち回りを演じます。
ターニャはそんなゼートゥーアの真意がどこにあるのか悩みながら、彼の優秀な駒としてまたしても戦場へと駆り出されることに……。
- 著者
- ["カルロ・ゼン", "篠月しのぶ"]
- 出版日
帝国の権力を掌握したゼートゥーアは、ルーデルドルフの存命時は反対していたイルドアへの侵攻を命じます。
帝国と敵国との仲裁者であるイルドアへ攻め込むことは、傍目には狂っているようにしか見えません。しかし、イルドアへの進行には、ゼートゥーアが"最良の敗北"を目指すうえで大切な意味が隠されていました。
ターニャはそんなゼートゥーアの真意を理解しようと努力しながら、イルドアへの攻撃に参加します。
ゼートゥーアはその巧みな戦略により、イルドアだけでなく、連合王国まで翻弄しながら帝国軍の強さが健在であることを世界に誇示します。実際には疲弊している帝国を、あたかも強大な征服者であるかのように世界に示す……。ゼートゥーアの狙いが徐々に明かされていきます。
指導者として覚醒したともいえるゼートゥーアは、悪辣な戦術を駆使して世界を翻弄していきます。敵だけでなく、味方からも「詐欺師」と評され、後世には「恐るべきゼートゥーア」と呼ばれることになる彼の活躍ぶりは必見です。
『幼女戦記』というタイトルでありながら、この巻ではゼートゥーアの活躍が目覚ましく、『ゼートゥーア戦記』とも呼べる内容になっています。ゼートゥーアは今後、どのようにして世界を欺いていくのか?もはや約束された帝国の破滅は、どのような結末を迎えるのか?今後の展開が不安であるのと同時に、楽しみでもあります。
いかがでしたか?タイトルから、萌え系の小説をイメージした方も多いかもしれません。しかし、『幼女戦記』は萌えどころか、主人公が幼女であることさえも忘れてしまうくらいハードな戦記モノです。
バトルだけではない軍記小説を読みたい方は、ぜひ読んでみてください。