1本のわらしべから大きな財産を手に入れた若者のサクセスストーリー「わらしべ長者」。単なるおとぎ話ではなく、現代を生きる我々にさまざまなことを教えてくれる作品です。この記事では、あらすじを簡単に説明したうえで、物語から学べる教訓や現代のお金の使い方を考察していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひごチェックしてみてください。
おとぎ話の「わらしべ長者」。日本では『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』に原作がみられますが、世界中に似かよった物語が存在しています。
ここでは日本に伝わる物語のあらすじを紹介していきましょう。
あるところに、真面目なものの運がなく、貧乏な若者がいました。信心深い彼は、観音様に「お金持ちになれますように」とお願いをします。すると観音様から「ここを出てはじめに手につかんだものが、おまえをお金持ちにしてくれるだろう」というお告げをもらいました。
帰り道でつまづいてしまった若者は、転んだ拍子に1本のわらしべに触りました。観音様が言っていたのはこのことかと、若者はわらしべを手に歩みを進めます。
しばらくすると、彼の周りを1匹のアブが飛びまわります。若者はアブを捕まえ、わらしべの先に結びつけました。
すると、傍を通っていた子どもが、アブが結ばれているわらしべを欲しがるのです。若者がわらしべを差し出すと、子どもの母親がお礼にと蜜柑をくれました。
ここでまず最初の交換、わらしべが蜜柑になります。
若者が蜜柑を持ち歩いていると、ひとりの娘が喉の渇きに苦しんでいます。水が欲しいと言う娘に、若者は蜜柑をあげました。娘はお礼に美しい布をくれました。
ここで蜜柑が布へと変わります。
さらに歩いていくと、若者は弱った馬を連れた侍に出会いました。侍は馬が病気になってしまったが先を急いでいるため馬を見捨てなくてはならないと言います。若者は、布と馬の交換を申し出ました。
ここで布が馬へと変わります。
弱っていた馬は、水を飲ませて一晩介抱してやると、たちまち元気になりました。
若者が馬に乗って道を進んでいくと、大きな屋敷に住んでいる主人と出会いました。主人はちょうど旅に出ようとしていたところで、若者の連れていた馬を気に入ったため借りたいと申し出ました。そして自分が出掛けている間、屋敷の留守を頼みたいと言います。さらに、もしも3年以内に自分が戻ってこなければ、屋敷を含め財産もすべて与えると言ってきたのです。
若者は主人の言葉に従い、屋敷に住み始めました。その後、待てど暮らせど主人が帰ってくることはなく、若者は大金持ちになったそうです。
観音様のお告げを聞いて拾ったわらしべは、最後には大きな屋敷と財産に変わりました。
「わらしべ長者」を読むと、モノの価値は人それぞれで、だからこそどんなモノも大切にしなければいけないと気付かされるのではないでしょうか。
アブが結ばれているわらしべを欲しがる子どもがいたり、他人に留守を任せて旅から帰ってこない大金持ちがいたり……世の中にはいろんな人がいるもので、モノに対する価値観も千差万別なのです。誰かにとっていらないものは、誰かにとって必要なもの。
世界の在り方と、モノを大切にしなければいけないという教訓が読み取れるでしょう。
また「わらしべ長者」の主人公である若者は、貧しくても観音様への信心を捨てることなく、熱心にお祈りをしていました。そんな彼だからこそ、観音様もチャンスをくれたと考えることもできるでしょう。
もしも主人公の若者が物々交換をしていなかったら。彼はきっとお金持ちになることはなく、それまでと同じような貧しい生活をしていたでしょう。
1本のわらしべが蜜柑となっただけでも儲けものですが、その後も彼は道行く人と交換をくり返し、最終的には大きな屋敷と財産を手に入れることとなりました。
つまり、手にしていたモノをただ持っていただけでは、世界は変わらなかったということ。交換する=使うことで、他のモノを得ることができたのです。
これは、現代の経済活動にも同じことがいえるのではないでしょうか。手にしたお金を使わずに貯めることももちろん大事ではありますが、置いておくだけでお金が増えるわけではないですし、使わなければモノを得ることはできません。
そもそもお金は、かつて物々交換をしていた時代に、便利になるためのツールとして導入されたものです。モノを手に入れるためのツールなわけだから、使わなくては意味がありません。使う、つまり「わらしべ長者」でいう交換することをしなければ、ずっとわらを持ち続けているのと同じことなのです。
「わらしべ長者」の物語をきっかけに、お金を使い、より価値のあるものを手に入れてみてはいかがでしょうか。
- 著者
- カイル・マクドナルド
- 出版日
- 2009-01-22
ここまで紹介してきた「わらしべ長者」はフィクションのおとぎ話ですが、この夢みたいな話を現実のものとした人が存在します。
彼の名は、カイル・マクドナルド。「このクリップで、家を手に入れる」と宣言し、インターネット上の物々交換サイトに赤いクリップを出品しました。そして次々と交換をくり返し、最終的には本当に家を手にしてしまったのです。
本書は、その過程が綴られたノンフィクションの「わらしべ長者」物語。いったいどのような戦略でクリップを家に変えたのか、ぜひ読んでみてください。
- 著者
- ["石崎 洋司", "西村 敏雄"]
- 出版日
- 2012-05-24
「わらしべ長者」の主人公の若者は、とても優しい青年です。相手から強引に物を奪うことはなく、むしろ困っている人を助けながら交換を続けてきました。自分の持ち物を相手のために差し出し、それが結果的に幸運に繋がったとも考えられます。
本書は、そんな優しさが存分に表現された絵本です。あたたかいイラストが魅力的。文章もわかりやすいため、小さなお子さんへの読み聞かせにぴったりでしょう。
本書を読むと、モノの大切さを知るとともに、人助けをすれば自分によいことが返ってくることも学ぶことができます。
- 著者
- 出版日
- 2017-09-23
鎌倉時代前記に成立したとされる『宇治拾遺物語』。仏教から民間伝承にいたるまで、さまざまな説話が収録された作品です。
「わらしべ長者」をはじめ、「こぶとりじいさん」や「舌切り雀」などおなじみの昔話の原典を読むことができます。
原文と現代語訳が載っているとともに、わかりやすい解説がついているのもポイント。現代に伝わっている話と比較しながら読むのも楽しいでしょう。