真っ白な体をしている鳥「ユリカモメ」。都民の鳥に指定され、臨海エリアを走る列車の名前にもなっています。この記事では、そんな彼らの生態や日本への飛来時期、夏の姿などを解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
チドリ目カモメ科カモメ属に分類される鳥類です。「ユリカモメ」という名前の由来は、入り江にいることが多いことから「入り」が転じて「ユリ」となった説や、百合の花のように美しいからなど諸説あります。
高緯度の寒い地域を好み、ユーラシア大陸の北部を中心に、イギリスやアイスランドなどに分布しています。冬になると南下をし、ヨーロッパをはじめアフリカやインド、日本にもやってくるのです。
全長は40cmほどで、カモメ科のなかでは小柄でしょう。全身は白い羽毛で覆われていて、くちばしと足が赤いのが特徴です。
魚や甲殻類を好んで食べますが、雑食性なので基本的にはなんでも捕食します。昆虫や植物の種子などを食べることもあるようです。
鳴き声は「ギィー」というしゃがれたようなもの。あまりかわいいものではなく、恐竜みたいだと例えられることもあります。
日本には10~11月頃に集団で飛来してくる渡り鳥です。ロシアのカムチャッカ半島からやってくる個体が多く、なんと3000kmもの距離を移動してくるそうです。国内では北海道から南西諸島まで広い範囲で姿を見ることができます。
特に京都の鴨川は、ユリカモメが見られる場所として有名です。日が暮れると、寝床にしている琵琶湖へ向かって大群で飛んでいき、その美しい姿で人々を楽しませています。
また平安時代初期に成立した歌物語『伊勢物語』には、次のような歌が収録されています。
「名にし負はば いざこと問はむ都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと」
在原業平が読んだ歌で、教科書などで見たことがある人も多いかもしれません。隅田川にいた鳥が「都鳥(みやこどり)」という名前だと聞き、「都」という名前をもっているのであれば、私が都に残してきた想い人は元気でいるのか、さあ訪ねよう、と思いをはせた歌です。
この「都鳥」に関しては、直前に「白き鳥の嘴と脚と赤き、しぎの大きさなる、水の上に遊びつつ魚を食ふ」と特徴が記してあり、ユリカモメではないかと考えられているのです。それほど昔から日本に飛来していたことがわかります。
現在は東京都の「都民の鳥」に指定されているほか、静岡県や埼玉県、福井県などの一部の自治体で「自治体の鳥」に定められています。
日本で見られるユリカモメは真っ白な羽毛をしていますが、実は夏場の彼らはまったく違う姿をしています。
黒褐色の頭巾をかぶったように、頭部だけ真っ黒になるのです。目の周りには白い色が残っているので、冬の優雅な美しさとは異なり、ややユーモラスな印象を受けるかもしれません。
頭部が黒くなっていくのは4月頃ですが、あたたかくなるこの時期はすでに日本を離れ、夏場の繁殖地へと旅立っているので、国内で黒い頭のユリカモメを見るのはなかなか難しいでしょう。
渡りをする鳥は、成長のスピードが速いという特徴があります。ユリカモメも、春に営巣地で生まれたばかりの雛がその年の秋には巣立ちをし、日本へと渡ってきます。そして春になり、生まれた故郷へ帰る頃には、繁殖が可能な成鳥になっているのです。
繁殖をする営巣地でも、渡りでやってくる飛来地でも、ユリカモメは基本的に群れで行動する習性があります。生息地は水辺の近くで、夜が近づいて大群になるさまは圧巻です。また数十羽が群れを成して渡りをする姿も非常に迫力があります。
群れで行動する大きな理由は、天敵を寄せ付けないようにするためです。ただユリカモメは身を守るためだけなく、他の鳥が捕まえた魚などの獲物を集団で襲って奪うこともあり、美しい姿とは裏腹に「海の盗賊」という異名も付けられています。
- 著者
- 中村 司
- 出版日
- 2012-01-25
ユリカモメなど「渡り鳥」にフォーカスした1冊です。作者は国際鳥学会の名誉会長を務める人物です。
渡り鳥の習性はいまだに謎が多く、いまもなお多くの研究者がそのメカニズムの解明に挑んでいます。長距離を移動するにも関わらず、自分が生まれた場所をきちんと覚えていられるなど、その能力に興味をそそられるでしょう。
本書には、さまざまな実験とその結果が収録されていて、それにともなう研究者たちのドラマを読むことができます。「渡り」という専門性の高い分野ですが、予備知識なく読むことができるので、ユリカモメをはじめ渡り鳥の生態に興味のある方はぜひ手にとってみてください。
- 著者
- 樋口 広芳
- 出版日
- 2016-02-19
200日間休まず飛び続ける鳥、地球と月を2往復できる距離を飛ぶ鳥、極寒に耐えられる羽毛をもつ鳥、驚異的な頭脳をもつ鳥……私たちの生活にも身近な鳥たちですが、実は驚くような能力をもった種が多く存在するのです。
鳥類学の第一人者といわれている作者がエピソードを解説し、気になる彼らの秘密を教えてくれます。タイトルからもわかるとおり、文章は平易でわかりやすいので、楽しく読み進めることができるでしょう。
おもわず「すごい!」と言ってしまいたくなること間違いなし。きっと鳥を好きになってしまうはずです。