童話「赤い靴」は怖くない!あらすじと教訓、靴が何を象徴しているのか考察

更新:2021.11.16

アンデルセン童話の「赤い靴」。少女が死ぬまで踊り続ける呪いをかけられ、足を切断するという怖い展開の印象が強いですが、実はハッピーエンドなのをご存知でしょうか。この記事ではあらすじを紹介したうえで、教訓やキリスト教的解釈などを解説していきます。あわせておすすめの絵本も紹介するので、ぜひご覧ください。

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童話「赤い靴」の概要とあらすじ

 

「赤い靴」は、デンマークの童話作家として知られるアンデルセンが発表した作品です。まずはあらすじを簡単に紹介しましょう。


あるところに病気の母親と2人きりで暮らしているカーレンという少女がいました。家は貧しく、カーレンは裸足で過ごしています。ある日足を怪我してしまったところ、靴屋を営む女性に助けられ、赤い靴を作ってもらいました。

そんな折、必死の看病も実らずに母親が亡くなってしまいます。ボロボロの赤い靴を履いて葬儀に参列する孤児になったカーレンの姿を見て、とある老婦人が同情し、養女にしてくれることになりました。

それからしばらく経ち、カーレンは町で1番といえるほどの美貌をもつ女性に成長します。ある日靴屋で赤い靴を見つけ、その美しさに心を奪われてしまい、老婦人の目を盗んで購入しました。

それからというものカーレンは、本来は色のついた靴を履いていってはいけない教会にも赤い靴を履いて行きます。老婦人から注意をされてもやめません。やがて老婦人が病気にかかっても看病をせず、赤い靴を履いて舞踏会へ出かけるようになりました。

すると不思議なことに、呪いをかけられてしまいます。赤い靴を履いたカーレンの足は勝手に踊り続け、靴を脱ぐことができません。朝から晩まで踊り続け、ついには亡くなってしまった老婦人の葬儀に参列することもできませんでした。

そこでカーレンは、首切り役人のもとへ行き、足を切断するようお願いをします。両足首から切られた足は、踊りながらどこかへ去っていきました。

その後義足を手に入れたカーレンは、これまでの自分の身勝手な行動を恥じ、教会で慈善活動をするようになります。しかし教会の中へ入ろうとすると、そこに自分の切った足が踊り続けているのが見え、罪は赦されていないのだと中へ入ることができずにいたのです。それでも彼女は慈善活動を続け、老婦人へ懺悔の祈りを捧げます。

ある日も祈りを捧げていると、突然これまで入ることができなかった教会へと場所が変わりました。目の前には天使が現れ、罪を赦されたと知ったカーレンは天へと導かれていくのでした。

童話「赤い靴」の教訓は?

 

「赤い靴」の物語には、どのような教訓が含まれているのでしょうか。

過去に過ちを犯してしまったとしても、反省をし、悔いあらためて生きればよい

呪いをかけられてしまったカーレンは、罪深い自身の両足を切り落とします。その後は教会で慈善活動を続け、正しい心を取り戻すことができました。深く反省し、日々懺悔の祈りを捧げることで、最終的には赦されることができたのです。

人は誰しも過ちを犯してしまうものですが、悔いあらため続ければその想いが報われる時がくるということが示されています。

周囲の人から受けた恩を忘れるような傲慢な生き方をしてはならない

カーレンを養女に迎え入れてくれた老婦人は、孤児となってしまった彼女を救ってくれた命の恩人でもあります。

しかし赤い靴の美しさに魅了されたカーレンは、いつしかその恩を忘れてしまうのです。その結果呪いをかけられてしまいました。

自分のことばかりを優先し、周囲の人から受けた恩を忘れた傲慢な生き方をしてはいけないということがわかるでしょう。

童話「赤い靴」は怖くない!キリスト教的には大団円

 

読者のなかには、「赤い靴」を怖い話だと認識している人も多いのではないでしょうか。カーレンが受ける罰のインパクトが強いのがその要因でしょう。たしかにカーレンが呪いをかけられてしまったり、両足を切断したりという描写は、童話としてはやや恐ろしいものです。

彼女が犯した罪は、キリスト教における「傲慢の罪」というもの。「七つの大罪」と呼ばれるもののひとつです。

そしてカーレンは呪いをかけられてしまいますが、毎日懺悔の祈りをささげることで最終的に罪を赦され、天に召されていきます。

つまり本作は、キリスト教の視点で考えると、カーレンの魂が救われているためハッピーエンドなのです。「赤い靴」は、罪を犯した少女が罰を受ける話ではなく、罪を犯してしまった少女が赦された話として認識するのが正しいでしょう。

ちなみに作者のアンデルセンは、厳格なキリスト教信者として知られています。本作は、彼が自身の生い立ちを振り返りながら、信仰の心を物語に表したものなのだそうです。

童話「赤い靴」で、赤い靴は何を象徴しているのか

 

本作のタイトルにもなっている「赤い靴」。印象的なモチーフですが、これは物語のなかで何を象徴しているのでしょうか。

カーレンは、作中でふたつの「赤い靴」を手にします。ひとつは幼い頃、裸足で過ごしている姿に同情されて靴屋の女性に作ってもらったもの。そしてもうひとつは、美しさに心を奪われてしまい自ら購入したものです。

このことから「赤い靴」は、人間の生々しい感情の象徴だと考えることができるのではないでしょうか。

ひとつ目の「赤い靴」は、靴屋の女性の愛情がつまったものでした。その結果、母親は亡くなってしまったものの、老婦人が養女として迎え入れてくれる幸運をもたらします。一方でふたつ目の「赤い靴」は、カーレンの傲慢な心がつまったもの。その靴を手に入れて以降は不幸がもたらされているのです。

物語の後半では、カーレンが老婦人の看病をしなければならないなかでも「赤い靴」の美しさのことばかりを考え、舞踏会に出かけてしまいます。靴という身に着けるものを使って、感情に支配されて行動してしまう人間の未熟さが表れていると考えられるでしょう。

いわさきちひろの絵がマッチした作品

著者
["アンデルセン", "神沢 利子"]
出版日
1968-08-01

 

人気絵本作家のいわさきちひろが手掛けた作品です。淡い水彩画が物語の世界観にマッチしていて、物悲しさを堪能できるでしょう。カーレンが思わず心を奪われてしまった「赤い靴」の美しさも印象的です。

また、文章も情景が目に浮かぶよう。あとがきに読み聞かせの際のポイントが書いてあるので、ぜひ参考にしてみてください。

童話「赤い靴」をポップなイラストで読む絵本

著者
岩崎 京子
出版日

 

身近な人が亡くなったり、カーレンが足を切断したりと、衝撃が強い「赤い靴」。本作は、少し怖い印象を受けるストーリーとは打って変わったポップで鮮やかなイラストが特徴です。カーレンが人形劇のマリオネットのように描かれているので、「赤い靴」にとらわれて踊らずにはいられない様子がよくわかるでしょう。

文章に使われている言葉もシンプルでわかりやすいもの。不気味さが緩和され、小さなお子さんでも読むことができるでしょう。

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