5分でわかる『星の王子さま』あらすじと解説:本当に大切なもの、王子さまの最後。

更新:2022.9.5

砂漠に不時着した飛空士が、宇宙のどこかの星からやってきた小さな王子さまと出会います。年は重ねても、どこか大人になりきれない部分を残した飛行士は、王子さまと過ごすうちに生きる上で大切なことを思い出します。しかし2人にも別れがやってきて……。 フランスの作家であり飛空士でもあったサン=テグジュペリによって書かれた『星の王子さま』。子ども向けに書かれた童話ですが、大人だからこそ響く生き方のエッセンスが詰まっている作品です。 この記事では、おすすめの翻訳版や名言の紹介はもちろん、王子さまにとってのバラの存在や、王子さまの最後の意味などを考察します。

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まずは、小説『星の王子さま』の概要、あらすじを簡単に紹介します

物語は、飛空士である「僕」が、サハラ砂漠に不時着する場面から始まります。

これまで心からわかり合える人には出会えないまま生きてきた「僕」。ある日、不時着した砂漠で小さな星からやってきた王子さまと出会いました。王子さまは、それまで誰にも理解されることのなかった「僕」の描いた「ゾウを飲み込んだウワバミ」の絵を一目で言い当て、さらに羊の絵を描いてほしいと言います。

飛行機の修理をしながら、王子さまが旅で訪れたさまざまな星の話を聞く「僕」。やがて、王子さまは「僕」にとってかけがえのない存在になります。しかし、地球にきて1年が経ったある日、王子さまはあることを決意します。

『星の王子さま』には、子どもだけでなく、大人をも惹き付ける魅力が満載です。テレビ番組『しくじり先生』で紹介されたほか、2015年には続編の物語がアニメ映画として公開もされました。

参考:『リトルプリンス 星の王子さまと私』公式サイト

本作は愛や絆といった普遍的なテーマを描いているからこそ、読者の心情によってまた別の表情を見せる作品でもあります。読んだことがない方はもちろん、すでに読んだことがある方もぜひもう一度読んでみてください。当時とはまた違った感想を抱くかもしれません。

著者
サン=テグジュペリ
出版日

作者・サン=テグジュペリについて

『星の王子さま』の作者であるサン=テグジュペリとはどんな人なのでしょうか?

彼はフランス人の貴族の子弟として1900年に誕生します。空軍での兵役を経て、航空会社の飛行士として空を飛び回り、その傍らで小説家としても活動していました。

主に実体験を基に書かれた著作の中で『夜間飛行』はフェミナ賞を受賞。その後も、飛行士であり小説家でもあるサン=テグジュペリは、自身の不時着体験をモデルに『星の王子さま』を執筆します。

ちなみに、『星の王子さま』と聞いてほとんどの人が思い浮かべるであろう表紙や挿絵のイラストは、なんとサン=テグジュペリ本人が描いたものです。

そんな『星の王子さま』ですが、小説の冒頭には「レオン・ヴォルトに」というメッセージが。「レオン」とは、サン=テグジュペリの生涯の友です。

サン=テグジュペリにも「僕」にとっての「王子さま」のような人がいたのですね。

 

『星の王子さま』翻訳者によってかわるイメージ

『星の王子さま』をネットで検索するとたくさんの翻訳版が出ていることがわかります。

サン=テグジュペリはフランス人ですから、原書はフランス語です。当然、日本語に翻訳される際には翻訳家の解釈が加わります。また、どのような人々に向けて翻訳されるかによっても、作品のイメージは変わってくるでしょう。

著者
Antoine de Saint Exup´ery
出版日
2005-08-26

たとえば、『講談社青い鳥文庫 星の王子さま』は子どもが読むことを前提としているため、やさしい言葉づかいで漢字にルビがふってあります。反対に、『集英社文庫 星の王子さま』は大人が読むことを想定されているため、人によっては難しいと感じるかもしれません。

そこでおすすめしたいのが『新潮文庫 星の王子さま』です。やさしい言葉づかいで丁寧に翻訳されており、大人も子どもも読みやすい1冊になっています。

他にもたくさんの翻訳版が出版されていますので、自分に合った一冊を探してみるのも楽しいですね。

 

『星の王子さま』考察:訪れた6つの星と、登場人物

ここからは、『星の王子さま』の内容を詳しく紹介していきます。

自分の星を離れた「王子さま」は地球で「僕」に出会うまでに6つの星を旅してきました。それぞれの星について見ていきましょう。

1つ目の星は、「王様」がたった一人で住んでいる星でした。王様は、王子さまを歓迎します。しかし王子さまは、自分の権威を守ることしか考えていない王様のことが理解できません。

2つ目の星では、「大物気どりの男(うぬぼれや)」が一人で住んでいました。男は、自分以外の人は「自分を称賛する存在」だと思っています。とにもかくにも褒めてほしがる男に、王子さまは肩をすくめ星をあとにします。

3つ目の星は、「酒びたりの男」が一人で住む星でした。男は自分が酒びたりになっていることを恥じていながらも、恥を忘れるために酒を飲んでいました。そんな酒びたりの男を見て、王子さまはただただ困惑するばかり。

4つ目の星は、「実業家」の星でした。彼は自分を有能だと信じ、星を「数え」、「所有する」ことだけを考えていました。彼と自分の考え方が違うことを告げると、王子さまは旅を続けます。

5つ目の星は、それまで王子さまが訪れた中で一番小さな星でした。その星には、1本のガス灯を守り続ける「点灯人」が一人住んでいました。誰かのためにガス灯を守る点灯人の性格は、それまでの4人とは違うと感じた王子さまでしたが、旅を続けることを決めます。

6つ目の大きな星には、「地理学者」のおじいさんが一人で住んでいました。自分では探検せず、報告をまとめるだけのおじいさんにがっかりする王子さま。しかし、話をする中で王子さまは自分の星と残してきたバラの事を考えるのでした。

そして、おじいさんに紹介してもらった地球を訪れることにします。

 

『星の王子さま』考察:王子さまとバラの切ない関係

王子さまが元々住んでいた星は、とても小さな星でした。彼はその星でしばしば生えるバオバブの木を、見つけては引っこ抜いていました。というのも、バオバブは育つと巨大になるため、たくさん生えてしまうと小さな星は破裂してしまうからです。

そんな日々のなかで出会ったのが、バラでした。どこからか種が飛んできて芽を出したそれを「またバオバブではないか」と注視していたところ、綺麗な花が咲いたのでした。

王子さまにとって、バラはどのような意味を持っていたのでしょうか?それは、彼らの別れからひも解く必要があります。

自分の星にひとりぼっちで住んでいた王子さまにとって、バラは大切な存在でした。しかし、バラの気まぐれな態度をだんだん信じられなくなった王子さまは、彼女を置いて自分の星を去ることにします。

別れの挨拶をしたとき、意外にもバラは王子さまを責めることはありませんでした。初めて見るバラのしおらしい態度と弱さに驚く王子さま。しかし、気持ちの整理がつかないままタイミングが来てしまい、旅に出たのです。

そして、旅をする中でバラに対する愛情や責任に気づいた王子さまは、自分の星に帰る方法を探します。このバラの存在は本作の大きなテーマのひとつです。しかし、彼のそんな思いは悲しい結末に結びつきます……。

 

『星の王子さま』考察:キツネが教えてくれたこと

地球に降り立った王子さまは、「僕」と出会うまで旅をしていました。その途中でキツネと出会います。

王子さまはキツネに遊ぼうと誘いますが、キツネはなついていない相手とは遊ばないと答えます。

その時、キツネが「もし自分が王子さまになつけば(=絆を結べば)、王子さまの髪と同じ色をしている麦畑からでも王子さまを感じることができるようになり、それは素晴らしいことだ」と話します。

キツネとのやりとりを重ねるうちに、王子さまは自分がバラと絆を結んでいたこと、同時にバラに対して責任があることを自覚します。

キツネは、絆と責任を王子さまに教える役割を持っていたのかもしれませんね。

 

『星の王子さま』考察:物語は悲しい結末へ。

飛行機の修理の目処が立ったある時、「僕」は王子さまがヘビと話をしている所を目撃します。

王子さまは重たい体を置いて、魂だけでかなたにある自分の星へ帰ろうとしていたのです。そこで、王子さまを体から解放したのが、強い毒を持つヘビでした。

ヘビの毒へ恐怖を感じながらも、バラへの責任を果たすため星に帰ることを決意した王子さま。地球に来てからちょうど1年が経つ日、王子さまは蛇に噛まれて帰っていきました。

そして、不思議なことに翌日には王子さまの体も消えてしまいました。

魂だけで愛する相手のもとへ帰ること、王子さまの体が消えていたことは何を意味するのでしょうか?

この結末については

  • 子どもから大人へと成長することのメタファーである
  • そもそも王子さまは「僕」の空想の人物だった

などの様々な議論がありますが、ここで結論を出してしまうのは、野暮というものではないでしょうか。

王子さまがキツネや「僕」と別れてまで、バラと過ごした日々に還った意味を考えることも、本作の魅力といえるでしょうから。

 

『星の王子さま』考察:テーマは戦争?作者の伝えたいこと

時代が変わっても多くの人に読み継がれている『星の王子さま』には、自分にとって大事な存在との「絆」や「責任」といった、どの時代にも当てはまるメッセージが込められています。

ところが、『星の王子さま』が生まれたのは第二次世界大戦中のこと。暴力に溢れ、世界が分断されていた「絆」や「責任」とはまるで対極にある時代でした。

そんな時代だったからこそ、サン=テグジュペリは「絆」や「責任」を世界に伝えたかったのではないでしょうか。

実は小説の巻頭でサン=テグジュペリがメッセージを送っていた「レオン」はユダヤ人でした。当時のナチスによるユダヤ人への迫害、それを理由としたユダヤ人の国外への亡命など、混乱する世界で辛い思いをしている友人に向けて、「それでも大切なことを忘れないでほしい」という気持ちを込めて『星の王子さま』を書いたのかもしれません。

 

深い言葉が沁みる『星の王子さま』の名言を解説!

著者
サン=テグジュペリ
出版日

最後に、『星の王子さま』の名言ベスト3を選んでみました。

ここで取り上げるほかにも、作品中にはたくさんの名言がありますので、ぜひ一度読んでみてください。

第3位

「おとなみたいな言い方だ」
(『星の王子さま』より引用)

飛行機の修理を「大事なこと」と言い、王子さまの質問をおざなりにした「僕」に王子さまがかけた言葉です。

本作は「大人と子ども」がテーマの一つです。「本当に大切なものが見えていない大人」が繰り返し描かれる中で放たれた鋭い言葉。私たちが「大事なこと」だと思っているものが本当に大事なのか、思わず考えてしまいますね。

第2位

「人間たちはもう時間がなくなりすぎて、
ほんとうには、なにも知ることができないでいる」
(『星の王子さま』より引用)

キツネが「絆」について話しているときのセリフです。仕事や暮らしに追われている現代人の私たちに、「ほんとう」を知るための心の余裕や時間を持つことの大切さを教えてくれているようです。

第1位

「大切なものは目に見えない」
(『星の王子さま』より引用)

本作といえば、やはりこの言葉でしょう。王子さまが星に帰るときに「僕」に伝えた言葉です。読むときの読者の心境によっても解釈がわかれそうですね。


『星の王子さま』は、いつの時代も大切にしたいテーマが詰まっている、子どもにも大人にも読んでほしい作品です。この記事を読んで、本作に興味を持っていただければ幸いです。

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