追い詰められた落ちこぼれ騎士である、真田信繁。そんな彼の生きざまを描いたのが『盤上のアルファ』です。とうにプロ騎士の年齢制限をすぎた33歳の真田は、アルバイトもクビになってくすぶっていました。そんな彼が、どのようにしてプロ騎士という目標に近づいていくかが描かれています。 この記事では、そんな本作のあらすじから結末まで、詳しく解説させていただきます。ぜひ最後までご覧ください。
神戸新報社の県警本部担当記者という仕事に対してプライドを持っていた秋葉隼介は、いくら上司であろうと、間違っていることは間違っているとはっきり言う人間。そのため、仕事はできるのですが、社内では疎まれていました。そして、とうとうある日、上司に左遷を命じられてしまいます。
その後、彼の担当となったのが文化部将棋。タイトル戦の記事を命じられた彼は、慣れない仕事にストレスを溜めていました。
そんな時、彼は小料理屋「水明」で、ある男と最悪な出会いを果たします。その男の名前は、真田信繁。
- 著者
- 塩田 武士
- 出版日
- 2014-02-14
真田は、アルバイトをしながらプロ騎士を目指していました。秋葉と同じ33歳の彼はまさに崖っぷちの生活を送っており、家族もなく、バイトをクビになったばかりという落ちこぼれようです。
ストレスが溜まっていた秋葉は、「真田がプロ騎士になることができれば記者を辞める」と喧嘩を売ります。その言葉から2人の妙な勝負が始まってしまいましたが、真田はお金がなく、アパートも追い出されたため、なんと秋葉のマンションに転がりこむような形になるのです。
そして、あらためてプロ騎士を目指し始めるのでした。
彼らの共同生活は、どうなっていくのでしょうか。そして、真田は無事にプロ棋士になることができるのでしょうか。
『盤上のアルファ』は、2019年にNHKのBSプレミアムで、ドラマ化が決定。タイトルは「盤上のアルファ〜約束の将棋〜」で、キャストは玉木宏、比嘉愛未、上地雄輔らが出演します。ドラマの世界ではどう描かれるのか、乞うご期待ですね。
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作者の塩田武士は、1979年4月21日、兵庫県に生まれ。関西学院大学社会部を卒業しています。大学1年の19歳のときから創作活動を開始し、新人賞に応募し続けていましたが、なかなか芽が出ることはありませんでした。
大学卒業後は、神戸新聞社に入社。そこで将棋担当記者としての取材経験を生かし作成したのが、本作『盤上のアルファ』です。本作は小説現代長編新人賞を受賞し、2011年に同作で作家としてデビューを果たしました。
- 著者
- 塩田 武士
- 出版日
- 2017-08-31
記者の仕事をとおして、将棋の世界における勝負のアツさ、そして適度なマイナーさを感じた彼は、これを題材に小説を書こうと決意。その結果、本作で一躍有名作家となりました。
一般的に記者が主要人物で登場する小説は、内容がミステリーになることが多いのではないでしょうか。しかし本作に登場する記者は、文化部。ハラハラドキドキというスリル感は少ないですが、上記のとおり、作者自身の将棋担当記者としての経験が生きている内容です。記者として将棋を見てきたからこその、リアルな描写が多く見られます。
そんな本作の他の著書では、グリコ・森永事件をフィクションで推理する『罪の声』、本格ミステリー作品の『騙し絵の牙』、オーケストラを描いた『女神のタクト』などが有名。『騙し絵の牙』は映画化も決定しています。
『盤上のアルファ』に登場する人物を簡単にご紹介させていただきます。
・秋葉隼介
33歳の独身。32歳のときに、当時付き合っていた斎藤恵子から振られました。仕事にプライドがあり、上司に媚びへつらうことなく、自分の意見を押し通す傲慢さがあります。仕事はできますが、社内で疎まれている部分もあったため、文化部に左遷されました。
・真田信繁
33歳の独身で、秋葉と同い年。将棋界の年齢制限で26歳までに4段になることができなかった彼は、奨励会3段リーグ編入制度で、あらためてプロ騎士を目指します。常にタンクトップを着ているのが特徴。
・静
小料理屋「水明」の女将。真田と一緒に秋葉家で同居を始めます。
・遊佐加織
秋葉が始めて取材した、将棋タイトル戦に出場した女流騎士。
・斎藤恵子
淡路島で小学校教師をしています。秋葉の元カノ。
・真田進次郎
真田信繁の父。無職で、借金を重ね、借金取り立て人に拉致されます。
・林鋭生
借金取り立て人であり、真田信繁に将棋を教えた張本人。かつては「新世界の昇り竜」と言われたほどの、将棋の実力でした。
本作の魅力は、なんといっても鬼気迫る生きざまと、どこか間抜けな笑いです。
秋葉は仕事を左遷されており、プライドはズタズタ。しかし自分の性格を直そうとも思わず、仕事に不満をいいながら、将棋担当者として働いています。
そして真田信繁は、文字取りの崖っぷちです。33歳、無職でありながら、未だに棋士になる夢を諦めていません。
この設定は、書き方によればものすごく暗くなる部分ではなりますが、秋葉と真田の独特な掛け合いが、喧嘩腰ではあるものの彼らの自由な生きざまと、気の抜けるような笑いを提供してくれています。作者である塩田が、人を楽しませることが好きだったことから、高校時代に漫才コンビを組んでいた経験が生きているのかもしれません。
しかし一転、勝負の場面になると、一気に迫力が増します。登場人物たちの真剣さ、そして、その場の空気感が伝わってくるような対局シーンは、やはり作者自身の将棋記者担当の経験の賜物といえるでしょう。
『盤上のアルファ』は小説ではあるものの、まるで漫画を読んでいるかのように、軽快なテンポで話が進んでいきます。読者はそのテンポとスピードにどんどんのめり込み、最後まで読み続けたくなるような作品となっているのです。
真田のかつての師匠である林鋭生が、真田を探して秋葉宅に訪れました。
林も、真田にプロ騎士になってもらいたく、最後の特訓をつけにきたのです。2人は、何時間も何時間も将棋を指し続けます。
それが、かつての師匠からの、最後の贈り物でした。
- 著者
- 塩田 武士
- 出版日
- 2014-02-14
3段リーグ編入試験は全8局で、そのなかで6勝しなければいけません。1日に2局指し、奨励会の2段が相手となります。そんななか、真田は大事な初戦を負けてしまいました。もう後がありません。
2局目、3局目と勝ち星とつけていく真田。1局1局が、まるで命を削りながらの対局のようで、まるで生死を賭けた戦いのように、鬼気迫るものがあります。
彼の戦いの行方は、どうなるのでしょうか。
そして本作の結末には、この勝負とは関係のない意外なオチが待っています。勝負の迫力も笑いも楽しめるという、本作のよさを感じることができるでしょう。
その結末が気になる方は、ぜひ本編をご覧ください。
本作の後に出版された、スピンオフ的内容の小説。『盤上のアルファ』に登場した林鋭生に焦点を当てて描かれています。
主人公である蒼井明日香は、最愛だった母を亡くし、家族と呼べる人がいなくなってしまいました。そんななか、遺品を整理していたときに「林鋭生様」と書かれた封筒を見つけます。
いったい母とはどんな関係だったのか気になった彼女は、林鋭生を探しを始めるのです。
- 著者
- 塩田 武士
- 出版日
- 2014-03-25
その過程のなかで、彼女は未知なる将棋の世界に触れることとなります。彼女の母は、林鋭生とどんな関係だったのでしょうか。
金を賭けて将棋を指す、真剣師。そのなかで「新世界の昇り龍」と呼ばれるほどの林が、なぜその世界から消えてしまったのか。彼の過去が明らかになります。前作とは異なり、ミステリー、サスペンス的な魅力のある本作。対局までにさまざまな展開が用意され、よりその試合内容に引き込まれます。
その他にも、『盤上のアルファ』に登場した人物たちの、その後がわかる描写も。ぜひ2冊合わせて読んでいただきたい作品です。