童話「アリとキリギリス」から読み取る解釈。3つの結末とともに考察!

更新:2021.11.16

イソップ童話の「アリとキリギリス」。皆さんが知っているあらすじだけでなく、実は結末が全部で3つあることをご存知でしたか?調べてみると、「幸せ」について考え直させてくれる深い物語だったことがわかります。この記事では3つの結末を紹介したうえで、物語から得られる教訓を考察していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。

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童話「アリとキリギリス」のあらすじを簡単に紹介

 

イソップ童話のひとつである「アリとキリギリス」。もともとは「アリとセミ」というタイトルでしたが、セミがヨーロッパの北部ではなじみのない昆虫だったため、翻訳しているうちにキリギリスに改変されていったそうです。

では、現在一般的に広まっているあらすじをご紹介しましょう。


ある夏の日、キリギリスはバイオリンを弾き、歌を歌って過ごしていました。その一方で、アリは来たる冬のために食料を一生懸命家に運んでいます。

キリギリスは「食料をわざわざ運ばなくても、たくさんあるじゃないか」と話しかけると、アリは「今はたくさんあるけど、冬になると食べ物はなくなってしまうよ」と答えました。しかしキリギリスは「まだ夏は始まったばかり。楽しく歌って過ごせばいいのに」とアリをからかい、再びバイオリンを弾き始めました。

やがて秋になっても、キリギリスは遊んで暮らしています。

そして、冬がやってきました。キリギリスは食料を探すものの、周りには何もありません。お腹がすいて困り果てたキリギリスは、アリが食料を集めていたことを思い出し、分けてもらおうとアリの家を訪ねました。

キリギリスは、夏の間に働いていたアリをからかってしまったことを思い出し、食料を分けてもらえないのではと思っていましたが、アリは「どうぞ食べてください。その代わり、キリギリスさんのバイオリンを聞かせてください」と言ってくれたのです。

キリギリスは涙を流して喜び、張り切ってバイオリンを弾きました。そして次の年の夏からは、真面目に働くようになったそうです。

 

「アリとキリギリス」の結末は3つある?原作を含めすべて紹介!

 

「アリとキリギリス」のあらすじをご紹介しましたが、一般的なものを含めて、実は結末が3つあるのです。日本ではあまり知られていない残りの2つを見ていきましょう。冬になってキリギリスがアリの家を訪ねた時の、アリの対応に注目していきます。

アリがキリギリスに食料を与えない

キリギリスが「食料を分けてほしい」とアリの家を訪ねると、アリは「夏は歌って過ごしていたのだから、冬は踊って過ごせばいいんじゃない?」と言い放ち、扉を閉めて追い返してしまいました。そしてキリギリスは、そのままアリの家の前で凍え死んでしまうのです。

夏に馬鹿にされたことを根にもっていたのか、皮肉でやり返したアリ。キリギリスはそのまま死んでしまうので子ども向けの童話としてはそぐわず、日本ではキリギリスが改心するストーリーに改変されています。

キリギリスが最期に自分の生きざまを語る

冬が来て食料が無くなり困っているキリギリスに、アリは「夏も歌って過ごしていたのだから、冬も歌えばいいんじゃない?」と言います。するとキリギリスはこう答えました。

「もう歌うべき歌はすべて歌った。君は僕の亡骸を食べて生き延びればいいよ」

後先を考えずに遊んでいるだけに見えたキリギリスでしたが、実はすべて見据えたうえで、生きている時間を命がけで楽しんでいたのでした。

もしかしたら意地を張って言った言葉かもしれませんが、いずれにせよ考えさせられる結末です。

 

「アリとキリギリス」の教訓は?解釈を考察

 

本作に込められた教訓は、それぞれの結末によって異なってくるでしょう。それを踏まえたうえで、どんなことが考えられるか考察していきます。

困った人を助ける優しい人になるべきである

キリギリスが助かる結末では、夏にからかわれたにも関わらずキリギリスに手を差し伸べることができるアリの優しさがわかります。特に日本で広まっている物語では、キリギリスが泣いて感謝をし翌年から勤勉に働くようになったことから、優しさが相手を変えることができるということも伝わってきます。

後先を考えずに過ごすと後で困る

夏に遊んで暮らしていたキリギリスは、結局冬に困ることになり、過去のおこないを後悔することになりました。目の前の楽しさに溺れ、先のことを考えないと、後で苦しむことがわかります。

これはどの結末でも共通していることですが、特にキリギリスが死んでしまう結末では強烈に伝わってくる教訓です。

幸せの尺度は人によって違う

「夏に遊んで暮らすと冬に苦しむ」ということだけを考えると、キリギリスは不幸な人生を送ることになったと考えられるかもしれません。しかしキリギリスにとっては、夏に遊んで暮らすことこそが人生にとって大切だった可能性もあるのです。冬に死んだとしても、夏を陽気に過ごせるほうが幸せなのかもしれません。

キリギリスがアリに対して「歌うべき歌はすべて歌った」と語る結末は、幸せの尺度は個人によって異なり、それぞれの生き方があることを示しているともいえるでしょう。

 

「アリとキリギリス」のおすすめ絵本

著者
["門野 真理子", "中脇 初枝", "椛島 義夫", "生野 裕子"]
出版日
2018-03-06

 

子ども向けに描かれたオーソドックスな絵本です。文字はひらがななので初めてのひとり読みにもぴったり。楽しくストーリーを追うことができます。

イラストは、「まんが日本昔ばなし」などを手掛けるアニメ制作会社が指揮をとり、子どもたちが親しみをもてるよう配慮されつつも本格的なもの。巻末には、児童文学者の西本鶏介による解説もついているので、読後に親子で考察を深めてみるのもよいでしょう。

 

キリギリス的な生き方とは

著者
細谷 功
出版日
2016-11-04

 

作者は、『地頭力を鍛える』など思考系のビジネス書を手掛けてきた細谷功という人物。本書では、「アリとキリギリス」が紀元前につくられた話だとし、ここから得られる教訓は今の時代にそぐわない、世の中を変えていくのはキリギリス的な生き方だと主張しています。

「アリとキリギリス」の物語では、アリは戦略的に食料を蓄える一方で、キリギリスは無計画に遊んでいたと捉えられがちです。しかし、もしキリギリスが無計画でなく、計画的に遊んで暮らしていたとしたら……本書を読むと、キリギリスへの見方が変わるかもしれません。

 

童話「アリとキリギリス」のイメージが一変!働かないアリの役目とは

著者
長谷川 英祐
出版日
2016-06-14

 

「アリとキリギリス」の物語では、アリはいつでも勤勉に働いているように描かれていますが、実際のアリは、なんと7割が働いておらず、また1割は一生のうちに1度も働くことがないそうです。しかし、彼らは無意味に怠けているわけではなく、働かない彼らがいるからこそアリの社会が成り立っているんだとか。

作者は、北海道大学大学院で進化生物学や動物生態学を専門に研究をしている人物。驚きの生態を面白おかしく解説してくれます。童話の「アリとキリギリス」で抱いたイメージを一変してくれる作品です。

 

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