ミステリーからサスペンス、さらにはコメディなど、多彩な極上エンターテインメント小説で私たちを楽しませてくれる東野圭吾。映像化された作品も多数あり、映画やドラマから原作小説に入ったという方も少なくありません。そこでこの記事では、そんな東野圭吾好きの方におすすめのエンタメミステリ小説をご紹介していきます。
主人公は、怪我をして休職中の刑事、本間俊介。ある日、亡くなった妻の親戚である和也から、婚約者の関根彰子が失踪したので探してほしいと頼まれました。
なんでも、クレジットカードを作る過程で彰子が実は自己破産者だとわかり、和也が問い詰めたところ翌日には家からも職場からも姿を消していたとのこと。
休職中のため警察手帳を使えない本間は、素性を偽りながら独自に行方を追うのですが、やがて和也の婚約者である彰子と、自己破産をした彰子は別人なのではないかと疑いはじめます。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
- 1998-01-30
宮部みゆきの代表作『火車』。2人の女性の入れ替わりと消費者金融の闇を描いた作品です。状況証拠のみが積み重なっていくタイプのミステリーで、遺体も出なければ物的証拠もありません。さらにいえば、休職中の刑事が親戚の依頼で調べているだけで、事件ですらないのです。
はっきりとわかっているのは、1人の女性が行方不明になっていること、そして彼女に成り代わっていたもう1人の女性がいるという2点のみ。本作では、すべてを捨てて他人に成り代わる理由として、「恋愛のため、男のためではない」とし、「ではなぜ?」と読者に問いかけてきます。ここに社会の闇があるのです。
タイトルの『火車』は、使うためではなく、借金を返すために借金をする多重債務の様子を表しています。初版が発表されたのは1992年で、作中には携帯電話も出てきませんが、不思議と古さは感じません。薄皮を剥がすように徐々に明らかになっていく真相は、現代にも十分通用する恐ろしさがあります。
主人公は、22歳で無職の手塚道郎という青年。ある日友人の西嶋雅人が、ヤクザにはめられて1260万円の借金を作ってしまいました。返済する方法として、偽札を作ることを思いつきます。
2人は、パソコンや機械に詳しいという特技をいかし、ATMの機能を攻略。ATMにのみ通用する偽札を作りあげることに成功するのですが……。
さまざまなアイディアと、アツい男同士の友情を描いた長編小説になっています。「山本周五郎賞」と「日本推理作家協会賞」を受賞しました。
- 著者
- 真保 裕一
- 出版日
- 1999-05-14
ATMを攻略するところから始まった偽札作り。しだいに技術をあげていき、銀行員をも騙せる精巧なものへと形を変えていきます。その姿は職人といっても過言ではないでしょう。
印刷など偽札を作る工程が非常に細かく描かれているのも特徴です。読者のなかにこれらの専門的な知識をもっている人はほとんどいないと思いますが、まるで手に取るようにわかります。
偽札作りと並行して、彼らの高い技術に目を付けたヤクザたちとの攻防も描かれ、こちらも見どころ抜群。ハラハラとドキドキが連続するクライムサスペンスになっています。
直木賞に何度もノミネートされている貫井徳郎のデビュー作。いわゆる「映像化不可能」といわれている作品のひとつで、50万部を超える大ヒットとなりました。
物語は、連続幼女誘拐事件の捜査をしている捜査一課の佐伯と、娘を亡くした悲しみから新興宗教にはまっていく松本という2人の視点で交互に描かれていきます。やがて2つの物語の時間軸が重なり、佐伯が追う事件で殺された子どもは……。
- 著者
- 貫井 徳郎
- 出版日
いわゆる叙述トリックが用いられている作品です。作中にはヒントが散りばめられているものの、どれが仕掛けなのかわからないまま読み進める方も多いよう。最後に驚く結末が待っています。
ただ本書の魅力はトリックだけでなく、登場人物の内面をかなり緻密に描いているところでしょう。喪失感や孤独、やりきれなさなど、心の暗い部分を表す描写が秀逸です。
タイトルの「慟哭」は「声をあげて激しく泣く」という意味。さて物語とどのようにリンクしているのでしょうか。
百貨店で働いている直美と、彼女の学生時代からの友人で、専業主婦をしている加奈子の2人が主人公です。
ある日直美は、加奈子が夫の達郎から暴力を受けていることを知りました。2人は共謀して達郎の殺害計画をたてます。知恵を絞って完全犯罪を目指すものの、まったくの素人。しだいに綻びが生じてきて……女2人の友情に最後まで注目です。
- 著者
- 奥田 英朗
- 出版日
- 2017-04-11
「達郎を殺さなければ、殺されていた。あるいは一生、奴隷のように扱われた。仕方がないじゃない――。」(『ナオミとカナコ』より引用)
本作の見どころは、普通の女性だった2人がどんどんと強く、たくましくなっていくところ。自分たちの力で人生を切り拓こうとする意欲が感じられます。
胸に希望を抱いて犯行の計画をたてる無邪気な前半と、綻びがわかり状況が一変してからの後半のギャップがすさまじく、物語はラストまでスピードを落とすことなく進んでいきます。刑事や、達郎の妹から追い詰められる切迫感はたまりません。読者は、犯罪者であるはずの2人におもわず感情移入し、どうか逃げ切れるようにと願わずにはいられないでしょう。
果たして2人は、幸せな未来を掴みとることができるのでしょうか。
森博嗣のデビュー作で、「S&M」シリーズの第1作に当たります。漫画化、テレビドラマ化、テレビアニメ化、ゲーム化と多方面に展開する大ヒット作となりました。
物語は、とある事件をきっかけに少女時代から孤島の研究所で幽閉生活を送っていた、天才工学博士・真賀田四季が殺されるところから動きだします。研究所を訪れていた犀川創平と、犀川の恩師の娘である西之園萌絵が、孤島の地下室という密室での殺人事件の謎に迫っていきます。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 1998-12-11
「『日本では、一緒に遊ぶとき、混ぜてくれって言いますよね』犀川は突然話し出した。『混ぜるという動詞は、英語ではミックスです。これは、もともと液体を一緒にするときの言葉です。外国、特に欧米では、人間は、仲間に入れてほしいとき、ジョインするんです。混ざるのではなくて、つながるだけ……。つまり、日本は、液体の社会で、欧米は固体の社会なんですよ。日本人って、個人がリキッドなのです。流動的で、渾然一体になりたいという欲求を社会本能的に持っている。欧米では、個人はソリッドだから、けっして混ざりません。どんなに集まっても、必ずパーツとして独立している……。ちょうど、土壁の日本建築と、煉瓦の西洋建築のようです』」(『すべてがFになる』より引用)
本作の魅力は、ミステリーとしての高い完成度やストーリー展開ももちろんですが、なんといっても登場人物のキャラクターではないでしょうか。
常に冷静で、抜群の頭脳をもっている理系の犀川。過去にトラウマを抱えてはいるものの活発で明るく、驚異的な記憶力と計算能力をもっている萌絵。徹底してロジカルな犀川と、美少女の萌絵のラブコメチックな掛けあいで、どんどん読み進めることができるでしょう。
一方で殺されていた真賀田四季は、子どもの時に殺人を犯したことから、研究所に幽閉されていました。その頭脳は世界最高峰といわれ、研究所のトップとして君臨していたのです。
本作は「理系エンタメ」と評されることもあり、コンピュータに詳しい方が読むと、また違った見方ができるんだとか。さて事件の真相は?
東野圭吾の小説に勝るとも劣らないエンタメミステリー作品を紹介しました。未読のものがあれば、ぜひお手に取ってみてください。