ハードボイルドな男たちが活躍する小説で定評のある垣根涼介。デビュー作は、大賞と読者賞をダブル受賞。その後、1つの作品で3つの文学賞を受賞したことで話題になりました。今回は、垣根涼介のおすすめ作品5選を紹介します。
垣根涼介は、2000年にデビューした長崎県出身の作家。筑波大学を卒業し、リクルートから商社、旅行代理店と転職を重ね、作家になりました。
小説を読み始めたのは、小学校6年生の時だったそうです。仕事で、求人広告制作に携わったことをきっかけに、純文学も読むようになり、読書にはまり始めます。文章によって、圧倒的な個性を発揮したかったからだそうです。
28歳の時には、マンションをローンで購入。その後、バブル崩壊による景気の悪化や、転勤によってローンの支払いが困難となります。賞金を狙ってサントリーミステリー大賞に作品を応募し、大賞と読者賞をダブル受賞、作家としての道を歩み始めます。
サントリーミステリー大賞で、大賞と読者賞を受賞した筆者の処女作。垣根が、旅行代理店に勤めていた際に訪れて気に入ったというベトナム・ホーチミン市を舞台にした、冒険ミステリー。
- 著者
- 垣根 涼介
- 出版日
旅行会社に勤める長瀬は、ジュエリー会社社長の孫・慎一郎の添乗員として、ベトナムへ向かいます。慎一郎のベトナム旅行は、表向きは高校入学のお祝いということでしたが、真の目的はベトナムで死んだとされる父親を探すことでした。
父親の映ったTV番組を唯一の手がかりに、友人・源内も加えた3人は、ベトナムへ。数々の邪魔が入りますが、長瀬の機転で次々と乗り越えていきます。垣根作品で描かれる登場人物はかっこよく、長瀬もその一人と言えます。
また、本作では、ベトナムの雰囲気も楽しめることでしょう。垣根は、自身の公式サイトで「不潔だし、無秩序だけど、あれだけ独特のニュアンスの漂っている街は、そうザラにないと思うよ」とホーチミン市の魅力を語っています。
作者のホーチミン市への思いと、スリル満点の冒険活劇が詰まった作品です。
本作では、大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞のトリプル受賞を達成。ブラジルのアマゾンに移住した日本人が、日本政府に復讐を計画するというストーリーです。
- 著者
- 垣根 涼介
- 出版日
- 2009-10-28
1961年、日本政府はアマゾンへの移住者を募集します。要項によれば、移住予定地は既に開墾が終わっており、灌漑用水や家が完備され、入植する家族には、土地が与えられるということでした。しかし移住後、これらが偽りであったことがわかります。
移住者たちはアマゾンの密林の中、過酷な生活を強いられます。逃げ出そうとする者や、病死する者もいました。彼らは、日本政府からは「棄民」と呼ばれますが、毎日懸命に生きようとします。
「棄民政策」から40年後、3人の男が東京に降り立ちます。心の内には、日本政府への怒りがくすぶっていました。
結果的には偽りばかりだったアマゾンへの移民政策。主人公らのサバイバル生活の苛酷さと、政策への復讐劇に圧巻されます。驚くべきことは、本作が外務省の移民政策の事実に基づいて書かれた点でしょう。
ブラジルをはじめとする南米には、現在でも多くの「日系人」が居住します。彼らこそ『ワイルド・ソウル』で描かれる移民政策と闘い抜いた人たちなのです。
垣根ならではのエンターテインメント性もたっぷりと詰められた本作で、かつての外務省の移民政策の裏側を描いたリアリティと、主人公たちの懸命に生き抜く姿を、ぜひ読み取ってみてください。
筆者のサラリーマン時代の経験をもとに書かれた本作。それまでは冒険活劇を描いてきた垣根がサラリーマンを描く、ということで注目が集まりました。山本周五郎賞を受賞するなど、高い評価を受けています。
- 著者
- 垣根 涼介
- 出版日
- 2007-10-01
主人公・村上真介は、リストラ専門会社「日本ヒューマンリアクト」の社員。リストラ専門会社の仕事は、顧客会社の社員と面接を行い、希望退職に追い込むことです。有能社員の村上は、日々様々な人間と面接します。本作では、優秀な人材でさえも、会社維持のためにリストラされていきます。
「サラリーマンのバイブル」とされ、人気がある理由には、リストラによって新たな人生の一歩を踏み出そうとするサラリーマンの姿が描かれているからでしょう。「このままでは終われない」と一念発起する姿には、勇気づけられること間違いなしです。
映画化もされ、今でも根強い人気を誇る本作は、強盗、やくざ、ストリートギャングの、大金が絡んだ三つ巴(みつどもえ)を描くハードボイルド作品です。
- 著者
- 垣根 涼介
- 出版日
ストリートギャング・雅のメンバーのサトルとタケシが、大金を持って同じく雅のメンバーである、アキたちのもとへ転がり込みます。サトルとタケシは、ある男に殴られた腹いせに、男の店・松谷組というやくざが経営するカジノバーを襲い、金を持ち逃げしたのですが、あまりの大金に恐ろしくなり、アキたちのもとへやってきていたのです。
それとは別に、雅は、光栄商事の黒木という男にも目をつけられます。アキはそれを利用し、金を追う強盗たちとやくざを、どちらもつぶす計画を立てますが…。
最初から最後まで息もつかせぬ展開に、ページをめくる手が止まりません。ストリートギャング、やくざ、強盗犯たちの緊迫した圧倒的な頭脳戦。若者であるストリートギャングの若者ならではの葛藤や、やくざたちのえげつなさ。人間模様にどんどんと引きずり込まれていく作品です。
明智光秀の生き様と、本能寺の変の真相が、フィクションを交えて描かれます。本作以降、歴史小説も書くようになった垣根。彼の作風の幅を広げた1作ともいえるでしょう。
- 著者
- 垣根 涼介
- 出版日
- 2013-08-30
未だに謎の多い明智光秀を中心に据え、本作オリジナルキャラクターである剣士・新九郎と、坊主・愚息の視点から、光秀の生き様を語っていく構成。光秀は、貧窮時代に親友となった彼らとは、信長に召し抱えられてからも交流を続けていきます。
本作の1つの特徴は、明智光秀の一生を語るには外せないと思われる本能寺の変の描写が、同テーマの他作品と比べてあっさりとしていることでしょう。光秀が不遇時代から信長に召し抱えられ、出世していく部分に重きが置かれることによる明るさがあります。
タイトルにある「定理」とは、作中でも使用される確率論を指します。随所にちりばめられた、簡単なようで複雑な確率論が、独特な面白さを演出します。
冒険活劇から、サラリーマン、歴史など、徐々に作品の幅を広げる垣根涼介。今後もその作品展開から、目が離せません!