村上春樹好きにおすすめの小説5選!文章で魅せる作家たち!

更新:2018.12.10 作成:2018.12.10

一段落読んだだけで彼の作品とわかる、独特の語り口が魅力の村上春樹。ストーリーだけでなく、その文章の虜になっている人も多いのではないでしょうか。この記事では、そんな村上春樹の作品が好きな人におすすめの、特徴的な文体と世界観のバランスが秀逸な作品を紹介していきます。

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「死」を感じさせる不思議な恋愛小説『FINE DAYS』

 

学生時代に村上春樹を愛読していたと語る本多孝好。表題作「FINE DAYS」を含めた4つの短編が収められています。

本作以前の本多孝好は、人間の生と死にスポットを当てたミステリー小説を得意としていました。本書は初の恋愛小説ですが、かつての作風も反映されていて、ホラーやSFなどさまざまな要素が絡みあい、単なる恋愛小説の枠組みに収まらない物語になっています。

 

FINE DAYS (祥伝社文庫)

2006年07月01日
本多 孝好
祥伝社

 

本作の登場人物はみな「恋愛小説」という甘い響きからはかけ離れたような重たい過去を抱えていて、どこか「死」の気配が漂っています。

「FINE DAYS」は高校が舞台で、主人公の男子生徒の前に突然現れた美しい転校生の少女と、彼女にまつわる噂に関するお話。思わず読み返してしまうような一文で締めくくられているのです。

作品全体にはどこかファンタジックな雰囲気もあり、現実にありそうでないような、ないようであるような不思議な世界観に入りこめるでしょう。文体はストレートで読みやすく、奇をてらった表現はしていません。だからこそ散りばめられたちょっとしたトリックが効いています。

非日常ながらどこか明日を感じられる、さわやかな読後感を得られるでしょう。

 

ひとりの少女の破壊と再生を描いた『阿修羅ガール』

 

舞城王太郎は、経歴非公開の作家です。文学賞の授賞式にも参加をしません。男なのか、女なのか、すでに活躍している人物が覆面作家として活動しているのか……その正体がたびたび話題になるミステリアスな人物です。

本作は、そんな舞城が初めて女性、しかも女子高生を主人公にした作品。主人公のアイコは、好意を寄せている少年がいるにもかかわらず「チンチンの小ささをカバーするテクニック」をもつと噂される同級生の佐野とセックスをしてしまいます。

しかしそのテクニックはまったく感じることができず、そのうえ顔射されそうになったため、ホテルに置き去りにしてきてしましました。

その後、佐野は行方不明になってしまい、さらにアイコの家がある調布は「アルマゲドン」状態に。混沌とした事件が折り重なるように展開していきます。

 

著者
舞城 王太郎
出版日
2005-04-24

 

本作は2003年に、純文学と呼ばれるに相応しい作品に与えられていた「三島由紀夫賞」を受賞しています。いわゆる「上品」とはかけ離れている登場人物、舞城王太郎特有のスラング混じりの文体などから、当時は賛否両論を巻き起こしました。

ただこの奇抜な文章と突き抜けた展開のバランスが心地よく、まるでエネルギーを制御できない10代のよう。駆け抜けるように読み進めることができます。

主人公のアイコの周りでは、いくつもの残酷な事件が起こります。まだ10代の少女の自己を肯定できない苦しさ、意識の希薄さに寄り添い、破壊と再生を描いた本作。途中目をそむけたくなるような描写もありますが、最後には彼女たちのことを愛しく思える作品です。

 

犬の野生に酔いしれる『ベルカ、吠えないのか?』

 

第二次世界大戦時、日本軍が占領していたアラスカ州キスカ島。常駐していた陸軍、海軍は軍用犬を飼育していましたが、撤退時に置き去りにしてしまったという事実があります。

本作は、取り残された4頭の軍用犬を中心に語られる、20世紀の歴史小説です。

 

著者
古川 日出男
出版日
2008-05-09

 

作者の古川日出男は、村上春樹の熱心なファンとしても知られ、自らが発起人となってトリビュート作品を発表するなどしている人物。そのほかガルシア=マルケスにも影響を受けたと公言していて、その文体は武骨でスピード感にあふれています。

無人の寒冷地のキスカ島という過酷な環境に置き去りにされた4頭は、アメリカ軍によって捕らえられ、繁殖。ショードッグになったり犬ぞり競技に出たり、アメリカ、ソ連、中国の軍用犬になったりして世界各地に散らばっていきました。

一見すると、人間の都合に振り回される動物たちの悲しい人生のようですが、本作に登場する犬たちは、生き残ることへの執念や子孫を残すことへの本能をもっていて、本来もっている「野生」が浮き彫りになっています。

複雑に絡みあう歴史のなかで強く生きる彼らの姿に、勇気をもらえるでしょう。

 

町田康の代表作『告白』

 

1997年のデビュー作『くっすん大黒』以来、小説のみならず詩の分野でもさまざまな賞を取り続けてきた町田康。

2005年に発表された本作は、これまで私小説の色合いが強い作品を送り出していた町田が、初めて実在する人物、城戸熊太郎を主人公にすえ、彼の犯した惨劇の顛末を描いたものです。熊太郎の幼年期から殺人犯となるまでの足跡を、河内弁混じりの軽やかな文体で表しています。

 

著者
町田 康
出版日

 

凄惨な殺人事件が起こると、人の道から外れたことをした犯人は生まれながらの悪人なのか、それとも環境によって悪人となったのかということが議論の対象になります。本作は、人はなぜ人を殺すのか、というテーマに正面から取り組んでいて、熊太郎をとおして読者も自身のなかに潜む「道を踏み外す側」になってしまう可能性に容赦なく直面させられるのです。

自分の考えていることが他者にうまく伝わらない時、伝える手段をもたない自分ではなく、理解してくれない他者が悪いのではないか……悩みをこじらせ、二度と戻れない所まで行ってしまう熊五郎。その不器用さにも思わず共感してしまいます。

「クズとしか言いようがないけれど憎めない奴」を描かせたら右に出るものはいないであろう町田康。 文学作品でありながら、まるで事件の起きた明治時代の大阪にタイムスリップしているかのような気分にもさせられる、不思議な魅力をもった作品です。

 

どこかに存在する人々の体温が感じられる『雪沼とその周辺』

 

作者は、2001年に『熊の敷石』で芥川賞を受賞した堀江敏幸です。本作は、雪沼という架空の町でひっそりと生きる人々の生活を、7つの短編にしています。

上品さを感じさせるスマートな文章で、雪沼で暮らす人々の実直な暮らしが胸に響く作品です。

 

著者
堀江 敏幸
出版日
2007-07-30

 

都会のような便利さはなく、かといって観光目的の人が集まるような魅力的な景観があるわけでもない……日本のどこかに実在していそうな平凡な田舎町、雪沼。人々は、現在の生活に不満があるわけではないけど満足しているわけでもない、なにか欠落したものを抱えながら、なんでもない顔をしてひっそりと生活をしています。

7つの物語内で、派手な展開や目を惹くような事件は起こりません。しかしどの話も主人公たちの今後に思いを馳せられるような余韻を残して終わっています。目を閉じれば、彼らの顔が浮かんでくるのではないでしょうか。

ひとつの町で個々の暮らしが少しずつ重なりあっている様子を感じられる、静かな名作です。