花と遊び、小鳥とたわむれる小さな女の子「親指姫」。アンデルセン童話のひとつで、波乱万丈な人生が描かれていますが、よくよく読んでみると彼女の恐ろしいほどのしたたかさが見えてくるのです。この記事ではあらすじを説明したうえで、親指姫の処世術や物語から得られる教訓を考えていきます。あわせておすすめの絵本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
アンデルセン童話のひとつ「親指姫」。作者であるハンス・クリスチャン・アンデルセンの生まれ故郷、デンマークを舞台にした物語だといわれています。ではあらすじを簡単に紹介していきましょう。
あるところに、子宝に恵まれない女性がいました。どうしても子どもが欲しかった彼女が神様にお祈りをすると、一粒の種を受け取ります。その種を植え、咲いたチューリップの花の中から、なんと女の子が生まれました。
女の子はとても小さかったため、「親指姫」と名付けられ、とても大切に育てられます。体は小さいものの、花や歌を愛するとてもかわいい女の子に成長しました。
そんなある日、窓辺で寝ていた親指姫を見つけたヒキガエルが、「息子のお嫁さんに」とさらってしまいます。沼に連れて行かれ、スイレンの葉の上に乗せられた親指姫。ヒキガエルと結婚するのだと知らされ、絶望します。
「ヒキガエルのお嫁さんになるなんていや。沼で暮らすのもいやよ」しくしくと泣く親指姫を見た魚たち、そのかわいらしさに心を打たれ、スイレンの茎を噛み切って逃がしてやりました。通りかかった蝶に引っ張ってもらい、親指姫はどうにかヒキガエルのお嫁さんになるのを免れるのです。
しかし今度は、コガネムシに連れ去られてしまいます。コガネムシは親指姫のことを、最初はかわいいと気に入りますが、「足が2本しかない。触覚もない」と仲間から言われ、「やっぱり不細工だ」と手放してしまいました。
森の中でひとりぼっちになった親指姫。季節は冬になり寒くて耐えられなくなったので、野ねずみの家を訪ねます。とても優しいおばさんに迎え入れられ、楽しい日々を過ごしました。
ある日のこと、親指姫は、すっかり顔なじみになった隣人のモグラの家で、傷ついたツバメと出会います。毎日必死に看病をした結果、ツバメは元気を取り戻しました。親指姫はツバメから南の国へと誘われますが、野ネズミのおばさんが悲しむから行けないと、断わってしまいます。
数日後、親指姫に縁談が舞い込みました。それは隣人のモグラからで、すっかり彼女を気に入ってしまったようなのです。しかし花が大好きな親指姫。モグラのお嫁さんになって土中で暮らすことを考えると、耐えられません。
悩んでいると、そこへあの日のツバメがやってきます。「今度こそ、私と一緒に行きましょう」と声をかけると、親指姫はツバメの背に乗りこみました。たどり着いたのは花の国で、親指姫は花の王子様と結婚し、幸せに暮らしたということです。
あらためて物語の内容を振り返っていくと、親指姫がさまざまな困難に巻き込まれながらも、周囲の助けを受けて乗り越えていく様子が描かれていることがわかります。小さくてかわいい、という最大の魅力をいかして降りかかる困難を回避する処世術を感じることができるでしょう。
ヒキガエルにさらわれた彼女が涙を流す姿を見て、まず魚たちが心を奪われます。「こんなにかわいい女の子がヒキガエルと結婚するなんて」と魚たちが感じたことが、アンデルセンの原作にも描かれているのです。親指姫はそのかわいらしさで魚たちの心をとらえ、ヒキガエルのもとから解放してもらいました。
その後は、野ねずみのおばさんの助けを得て、隣人のモグラと結婚する話をもらいます。実はモグラはかなりの裕福な家庭で、これは玉の輿のチャンスでした。これもやはり、彼女がかわいいからこそ舞い込んだ話です。
さらに親指姫は、看病をしたツバメからも南の国へ行く話を持ちかけられます。きっとツバメも親指姫に恋をしていたのでしょう。1度は断られたものの、モグラとの縁談の話を聞いて再び迎えに来ました。
しかしようやく親指姫を連れ出すことに成功したものの、彼女は花の国の王子様と結婚をすることになるのです。誰よりも親指姫のことを真剣に想い、彼女のために行動していたのツバメが報われない、切なさを感じる展開です。
ヒキガエル、モグラ、そしてツバメと、自らに想いを寄せてくれる男たちを切り捨て、花の国で王子様と結ばれた親指姫。自分のもっている魅力でさまざまな生き物たちを虜にし、利用し、切り捨てて、幸せになった……そんなふうに考えると、この物語の見え方も変わってくるのではないでしょうか。
目先の損得にとらわれず、本当に自分が求めるものを追った方がよい
親指姫をお嫁さんとして迎え入れようとしたモグラ。本作では「お金持ち」として描かれています。つまり彼女には、玉の輿に乗るチャンスがめぐってきたのです。
現に、野ねずみのおばさんも、「モグラと結婚すれば一生安泰に暮らせる」と親指姫を諭していました。
しかし親指姫は、最終的にはツバメと一緒に南の国へ行くことを選びます。これは、彼女が自分の欲望に従った結果です。そして親指姫は、大好きな花の国の王子様と結婚するという素晴らしい幸せを手に入れました。
もしも悩んだり迷ったりした時は、目の前にある物事だけで判断するのではなく、本当に自分が求めているものは何なのかをよく考え、自分の気持ちに正直に生きることが、最終的にはよい結果をもらたすということがわかるでしょう。
- 著者
- ハンス・クリスチャン アンデルセン
- 出版日
- 1996-03-01
アンデルセンと同じくデンマーク出身の絵本作家、スベン・オットーが手掛けた作品です。
素朴ながらも美しくて優しい色彩で描かれたイラスト。小さな親指姫の目線から見た、大きな世界を楽しむことができます。
絵本というよりは児童書で、文章も長いため、小さなお子さんがひとりで読むのはやや難しいかもしれませんが、丁寧な言葉選びがされているのでじっくりと親子で読むのもよいでしょう。
- 著者
- H.C.アンデルセン
- 出版日
- 2005-06-15
イラストを手掛けているヨゼフ・パレチェクは、チェコの文化庁が選ぶ「最も美しい絵本賞」を何度も受賞している人物。「色彩の魔術師」と呼ばれるほどの鮮やかな色遣いが特徴で、鮮烈な印象を与えます。
特に「親指姫」には花がたくさん出てくるので、作者の持ち味を存分に堪能できます。読者を一気に童話の世界へと連れていってくれるでしょう。
画集としても楽しめるおすすめの一冊です。
- 著者
- ["今日マチ子", "やくしまるえつこ"]
- 出版日
- 2012-06-15
漫画家の今日マチ子が絵と文を担当し、音楽プロデュースやバンド活動で活躍しているやくしまるえつこが朗読をする、新感覚の絵本です。
淡くてやわらかい現代的なイラストと、瑞々しい感性に彩られた言葉たちが魅力的。やくしまるえつこの澄んだ声が花を添え、読者の想像力を掻き立ててくれます。
ちょっぴり新しい親指姫を堪能してください。