『なんで生きてるかわからない人 和泉澄25歳』はWebコミックサイト「コミックぜにょん」で連載されている、あぬの作品です。日々をなんとなく生活しているフリーター女性の目線に立って、日常のなんでもないことから落ち込んで、負のスパイラルに陥る様子を描いたネガティブなショート漫画となっています。 Twitter発で大きな話題となり、連載漫画になった本作の魅力をご紹介。ぜひご覧ください。
本作の主人公の名前は、和泉澄(いずみ すみ)。目標もなく、目的意識もなく、ただただ漫然と日々を送るうちに、25歳になってしまったフリーターです。
時間を浪費しているという自覚はあるのに、現状を改善する手立てもなく、また考えることも出来ません。よくないことと思いつつ、日々の生活にかまけて目を逸らし、ふとした瞬間に涙をこぼしてしまうのでした……。
- 著者
- あぬ
- 出版日
- 2018-10-20
この物語は、そんなどこにでもいる、誰もがそうなり得るフリーター女性の気持ちを、モノローグで語る漫画となっています。劇的なことは何も起こりません。毎日のちょっとした出来事から落ち込むショートストーリーとなっています。
和泉に限らず、読者の誰しもがどこかで経験し、共感出来るちょっとネガティブな不安感が語られているのです。
和泉は人よりネガティブ度合いが高め(深め?)で極端ですが、その分、内面で押し殺した不安がよくわかります。日常に不安を抱えている人にこそ、本作はおすすめです。
そのつらい感覚が自分だけのものではないとわかって、きっと気持ちが楽になることでしょう。
本作は、主人公の鬱々とした日々、ネガティブな思考が全編に渉ってくり広げられる1話完結のショート漫画です。時系列的には直接繋がっているようですが、毎回メインとなる話は独立しています。そして各話の終盤では、とりとめもないネガティブ思考が垂れ流しとなるのです。
たとえば人との会話、電話などの後で「ああ言えばよかった。こう言っておけばよかった」と後悔したことはありませんか?
この主人公の場合は、言動がおかしくなかったか?適当に相槌打っていたと思われなかっただろうか?とさらに突っ込んで落ち込んでいきますが、似たような経験はきっと誰にでもあるでしょう。
他にも同じことのくり返し、ルーチンワークと化した仕事に生き甲斐が見出せず、いっそ物言わぬ道具になれればと考えたり、不安感を押し殺して早めに寝床についたはいいものの、妙に目が冴えて、自傷行為に等しい自問自答に押し潰されそうになったりと、ネガティブエピソードには事欠きません。
現状に不満がある人、新しいことを始めようとする人には、このような話が身に染みることでしょう。
基本的に本作では、和泉の憂鬱な日常が淡々と描かれていきます。暗い面だけが見えるばかりでは、淀んだ気分が蓄積するネガティブ・スパイラルに落ち込みかねません。
しかし時折ネガティブななかに、ポジティブとはいえないまでも、気分の切り替えというか、ガス抜きのようなエピソードが差し挟まれます。それによって和泉も、彼女の気持ちを追体験する読者も、深く深く沈んだ気持ちが浮上していくのです。
現状は何も変わらないけれど、もう少し頑張ろうという気持ちにさせられるでしょう。
バイト先の同僚として、水野奏という女性が出てきます。ナチュラルにいい人なので、和泉は自分との落差に絶望して勝手に自己嫌悪したりもするのですが、水野の分け隔てのない姿勢が救いにもなるのです。
真面目一徹に生きていた過去の自分の幻影に励まされ(?)たり、見知らぬ子供の笑顔でほっとしたり、ちょっとした出来事で浮き沈みするのがとてもリアルで、ふさぎ込みがちな人ほど共感して笑ってしまうことでしょう。
ある日の朝、和泉はスマホのアラームで目覚めます。スヌーズ機能でせき立てられ、憂鬱ながらもなんとか起き出すと……激しい頭痛に気が付きました。我慢出来るのか治まるのか、微妙なラインのなか、刻々と出勤時間だけが迫ってきます。
結局、彼女は欠勤の連絡を入れて、その日は休むのでした。
この時の、彼女が心の中でおこなう葛藤がリアルです。いきなり休みを申請する罪悪感に襲われて、仮病だと思われなかっただろうか?と心配しながら挙動不審となります。
しかも彼女は、ギリギリまで粘って間に合わなくなってから、理由を補強して休みの連絡をしてしまいました。そして、しんどいことは事実なのに、自分の行動に計算高さを感じて自己嫌悪に陥るのです。
微妙な体調不良で学校や会社を休みたい瞬間は、誰にでもあるでしょう。場合によっては、同じようなことをした人もいるかもしれません。体が弱って心も弱くなる、まさに共感エピソードです。
連休最終日の和泉。まだ休日であるにも関わらず、朝から翌日の仕事がちらついて、頭から離れません。何をしていても「明日は仕事」という事実がのしかかってきて、存在感を増していきます。
やがて明日が来るという恐怖で、全身を絶望が覆っていくのです。そうなるともう、休みどころではありません。
こんなことになるなら、きちんと鋭気を養うために有意義な休日を過ごすべきだった、と後悔し始めます。だらだらしたことが重しとなって、どんどん気分が沈み込んでいくのです。
休みというのは、ゆっくりした分だけ反動が重く強くなって、またエンジンをかけ直して仕事モードに切り替えるのが大変になりがちではないでしょうか。誰でも毎週のように経験があると思います。
これは俗に「サザエさん症候群」と呼ばれる症状。日曜夕方でお馴染みの番組が終わるころ、休みの終わりを自覚していくことから、こう呼ばれているようです。世界的には「ブルーマンデー」ともいわれており、月曜日を憂鬱に感じるのは全世界共通の感覚だといえるでしょう。
最後には月曜日職場に行かなければいけないのに、行きたくないと感じる和泉の姿が描かれます。ここもまた、多くの人が共感するエピソードです。
お風呂上りの脱力感のなか。特別見たいわけじゃないけど、いつの間にか毎週見るのが習慣になっているドラマをみようとテレビをつけた和泉。
しかしその日はたまたま、スポーツ特番がやっていて……。
- 著者
- あぬ
- 出版日
- 2019-05-20
その番組には、なんと15歳の卓球選手が出演していました。
「15って…15歳ってこと?15回勝ってるとかじゃなくて?
だったらこの人10歳も年下じゃん」
(『なんで生きてるか分からない人 和泉澄25歳』2巻より引用)
自分より年下のスターと自分を比べてしまい、自己嫌悪に陥ってしまう……こんな経験、あなたにもありませんか?
できることなら昔に戻りたい。いまさらそんなこと考えても遅いというのは痛いほど分かるのですが、どうしてもそう考えてしまいますよね。
スポーツ特番を見ていられなくなり、逃げるようにチャンネルを変えた和泉。今度は自分より年上のマラソン選手が活躍している姿が映し出されていました。
自己嫌悪に陥っていたものの自分より年上の人が頑張っている姿に勇気をもらい、とりあえず簡単な筋トレから始めてみようと思い立ちます。しかし、またまた別の壁にぶち当たることになってしまうのです……。
気が付いたら思った以上に年齢が積み重なっていた……!そんな時間の流れにまつわる共感エピソードでした。
- 著者
- あぬ
- 出版日
- 2018-10-20
本作は、誰もが日常で感じるネガティブな思考や感想が、ショートストーリーに込められた漫画です。共感して、つられて少し落ち込み、元気をもらう。そんな不思議な感覚の作品となっています。
本作はスマホの漫画アプリでも連載されており、無料で読むことが出来ます。気になった方は、ぜひ一度読んでみてはいかがでしょうか?
いかがでしたか?いろいろ身につまされる話の多い作品です。少しでも琴線に触れた方は、一度ご覧になってみてください。