突如、異世界に飛ばされてしまった少女が、救世主として仲間達とともに世界を救う旅に出る物語。困っている人を助けずにはいられない少女と、そんな彼女に心惹かれた仲間達による、熱く感動的なストーリーが魅力の作品です。今回は、そんな王道ファンタジー漫画の魅力を、全巻ネタバレ紹介していきます。
「現代のナイチンゲール」と呼ばれる少女・春秋八千代(ひととせ やちよ)は、偶然乗った飛行機が事故に遭うという災難に見舞われます。
そして次に彼女が目を覚ました場所は、これまで見た事もない建造物に囲まれた異世界だったのです。
- 著者
- 沙雪
- 出版日
- 2017-01-27
自分を希望の神「サクヤ」の生まれ変わりと呼ぶ一族が住む「亥の国」に降り立った八千代は、困惑します。
ですが彼女は、「十二始」と呼ばれる神の力を分け与えられた人物を、自分が戦う力「涅槃転装(ニルヴァーナ)」として使い、人々と世界を救うための旅に出る事を決めたのでした。
本作は主人公の八千代と、彼女に付き従う十二始の面々が、主役陣として登場します。そして、彼ら1人1人の持つ特徴はしっかりと色分けされており、キャラクターごとのよさが描かれているのです。
主人公の八千代については、現代のナイチンゲールとも呼ばれているとおり、困った人を見逃せない性質を持っています。そのため、自分に優しくしてくれた亥の国の国民が脅威に晒された際には、迷うことなく敵「十悪業(ヴィカーズ)」に立ち向かいました。
しかし、そんな彼女もただ過度のお人好しというわけではなく、その行動の背景には、彼女の抱える辛く悲しい過去があったのです。
初めて十二始として彼女の仲間になるマルも、先代の十二始である兄を殺された悲しみを背負っています。そして、亥の国を救ってくれた八千代のために奮闘する、忠実な従者となるのです。
未だ幼く、精神的にも未熟であるマルは、無鉄砲で危なっかしいところがあります。しかし八千代に対する忠誠心だけは、他のどの十二始にも負けない強さを持っているのです。
このように、仲間達はみんながその生い立ちから仲間になるまで、そして仲間になってからもしっかりと人物像の掘り下げがおこなわれています。そのため、キャラクターごとの魅力が尽きる事なく、感情移入し続ける事が出来るのです。
王道ファンタジー作品である本作ですが、やはりバトル描写は欠かせません。涅槃転装して変身した姿「転装体(アヴァター)」となって敵と戦うシーンは、迫力ある画風も相まって重量感とスピード感溢れる描かれ方になっています。
そして、八千代達と対する十悪業側も一筋縄ではいかない相手ばかり。超常的な力同士がぶつかり合う戦闘シーンは、実に見応え抜群です。
さらに八千代が変身する転装体は、仲間である十二始の数だけ用意されており、その姿の数だけ振るう力も異なります。しかも、物語が進むにつれて十二始1人ずつの変身だけではなく、複数の十二始と同時に涅槃転装することが可能になっていくのです。
多種多様な形態でくり出す動きの数々は、読者を飽きさせることがなく、今後どのような形態が出てくるのかワクワクする展開に繋がります。
また、形態の数だけ八千代の性格も異なるため、実質的には別のキャラクターとして捉える事が出来ます。転装体ごとの性格がどのようになるのかも、気にしながら読み進めるとよいのではないでしょうか。
ここからは、単行本ごとの見所についてご紹介していきます。まずは八千代の世界救済の旅が始まる、第1巻です。本巻では八千代が世界を飛び越え、亥の国に降り立つところから始まります。
そして、亥の国が十悪業の襲撃を受けた際に、初の涅槃転装によって、亥の十二始であるマルとともに戦います。こうして、サクヤの生まれ変わりとして救世主となる事を決めた八千代は旅に出るのですが、その先で訪れた申の国・マハルでは、反逆者として捕らえられることに。
果たして、彼女達は無事に脱出することができるのでしょうか。
- 著者
- 沙雪
- 出版日
- 2017-01-27
そんな本巻の見所は、八千代の初の涅槃転装シーンでしょう。やはり、主人公の初の戦闘シーンというのは、バトル漫画における花形といえます。特に、仲間と融合して変身するヒーロー・ヒロインによる活躍は、王道中の王道です。
八千代の場合も、その例に漏れず、マルと合体して巨大なハンマーを振り回して戦う事になるのですが、実にパワフルで迫力抜群。十悪業の生み出した巨大な敵を強力な転装体の力で打ち砕く姿は、思わず興奮してしまいます。
旅の始まりを感じられる、よいファーストバトルといえるのではないでしょうか。
2人目の十二始を仲間に迎え、にぎやかになってきた八千代一行。そんななか次なる目的地に向かう途中の海上で、酉の十二始である男・ラークと出会います。
彼とともに海上で襲い掛かってくる敵を退けた八千代達でしたが、船が故障し、流れ着いた島でもう1人の救世主と呼ばれる青年・テンカと出会う事になるのです。
彼は、八千代を中途半端で力のない救世主と断じ、他の十二始を渡すよう要求してきます。実際、彼相手に手も足も出なかった八千代は、自分の無力を嘆き、自分が救世主になれるような存在ではないと、自分の過去を思い返しながら吐露するのです。
しかし、仲間達はそんな彼女を支えたいと願います。彼女はその願いに応えるように、複数の十二始とともに涅槃転装をおこなう事で、「暁」の転装体であるヴァマナへと姿を変えるのでした……。
- 著者
- 沙雪
- 出版日
- 2017-01-27
そんな本巻の見所は、八千代の過去が語られるエピソードでしょう。いつも他者を助けるために振舞ってきた彼女ですが、その内面には普段の彼女からは想像出来ない、暗く悲しい秘密が潜んでいたのです。
彼女は決して生まれついての聖人などではなく、本当は年齢通りの中学生の女の子であり、本来は守るよりも守られる側の弱さを持った少女でした。彼女の事実が語られる事で、単なる超人による救世譚ではなく、1人の少女の成長に繋がる物語なのだという実感が得られるでしょう。
主人公により深みを感じさせる内容であり、また彼女が自分の使命に対して吹っ切れて前向きになるためのエピソード。必見です。
ヴァマナとなった八千代と、テンカによるぶつかり合いから始まる本巻。
圧倒的な力を手に入れた八千代は、防戦一方だったそれまでとは違い、一転攻勢に出ます。しかし、テンカもただではやらません。両者の強大な力のぶつかり合いが続き、最後には八千代が、テンカを下す事となりました。
無事に旅を続けられるようになった一行には、新たにラークが加わることに。
彼らは技術大国「子の国」に赴きますが、そこでは現代の十二始が不在ということを聞きます。敵に対する自衛手段まで備えている子の国では、その技術を支える将来の技術者を輩出する学園があり、一行はそこで、技術者であるワッペン姉弟と出会うのです。
子供を笑顔にする発明を目指す2人ですが、その発明品の多くは悪戯品で、他人に迷惑をかけるような代物ばかり。そんな彼らは技術者としての功績の発表に向けて、発明品の完成を急いでいました。
しかし、その裏で、学園に少しずつ不穏な気配が迫っているようで……。
- 著者
- 沙雪
- 出版日
- 2017-07-27
そんな本巻の見所は、ヴァマナとテンカの戦いの決着です。
八千代とテンカはまったくタイプの異なる人間であり、かつ救世に対する考え方と覚悟も異なっています。ともに世界を救おうとする意志は同じはずなのに、譲れないところが異なっている事で、ぶつかり合ってしまう存在です。
しかし、そんな信念がある2人だからこそ、ライバル同士の戦いとしては盛り上がりを見せ、読者を興奮させるのです。
救世主同士の力のぶつかり合いという大迫力のバトルシーンは、作中屈指の力の入れよう。思わず胸が熱くなるような戦いの結末を、ぜひ見届けてください。
本巻では、子の十二始としてワッペン姉弟が覚醒し、雷の転装体であるイドラに変身して十悪業と戦う事になります。
学園に潜伏し、水面下で生徒達の身柄を悪用していた十悪業を、辛勝といった様子で倒す事が出来た八千代達。そんな一行はワッペン姉弟という騒がしい仲間を迎えて、次なる目的地へと向かいます。
しかし、その過程で、かつて戦ったもう1人の救世主・テンカと出会い、なぜか旅路をともにすることになるのです。
お互いを認め合った両陣営は、旅路の電車内で穏やかな時間を過ごしますが、その先で謎の十悪業の手により、男性陣だけが捕らえられてしまう事態に。
彼らを助け出すために八千代達は協力し、十悪業を倒すための新たなる形態である泡沫の転装体・トゥルサナに変身して戦うのでした。
果たして、彼らの戦いの行方は……。
- 著者
- 出版日
- 2018-03-27
そんな本巻の見所は、ワッペン姉弟との涅槃転装と、そこに至るまでの流れでしょう。
このワッペン姉弟ですが、作中でも屈指のトラブルメーカーとして描かれており、登場した当初などはその驚異的な自由奔放さで、八千代を振り回しています。
しかし物語が進むにつれて、他者をないがしろにしておこなう発明では本当に人を笑顔にすることなど出来ないのだ、と痛感する事になり、自分たちの不甲斐なさに涙すら見せるのです。
それまで他者に嫌われる事しかしてこなかった彼らが、真剣に人のためを想い、八千代を救い出すために奮闘します。
未熟で自分勝手だった彼らが、十二始として相応しい精神的成長を遂げ、八千代とともに戦う事を決める場面は、キャラクターの成長を感じる事が出来て感動もひとしおといったところではないでしょうか。