1776年に採択された「アメリカ独立宣言」は、アメリカだけでなく世界の民主主義に大きな影響を与える歴史上の転機となりました。この記事では、背景や内容、影響、そして関わりの深いリンカーン大統領についてわかりやすく解説していきます。あわせてもっと理解の深まるおすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
イギリスの植民地だった北米13州が、独立したことを宣言した文書を「アメリカ独立宣言」といいます。1776年7月4日に採択されました。まずは、なぜ13州が独立を目指すこととなったのか、その背景を説明していきます。
1492年にコロンブスが西インド諸島に到達してから、イギリスやフランスを中心としたヨーロッパ諸国による、アメリカ大陸への進出が始まりました。彼らは先住民族であるネイティブ・アメリカンを圧迫しながら勢力を拡大していきます。さらに、ヨーロッパの勢力争いが北米に波及し、「北米植民地戦争」と総称されるいくつもの戦争が発生しました。
一連の争いの結果、北米の支配権を獲得したのはイギリスです。しかし当のイギリスも戦争により疲弊していたため、1764年に「砂糖法」、1765年に「印紙法」を制定するなど、植民地に対する課税を強化していきます。
当時のアメリカに住んでいた人々は、イギリス本国の議会に議員を派遣することができませんでした。権利がないにも関わらず負担が増すことに対し、不満が強まっていきます。そんななか、1773年に「茶法」が制定、同年これに反発する「ボストン茶会事件」が発生、さらに近郊で「レキシントン・コンコードの戦い」が起き、事態は「アメリカ独立戦争」へと進展していきます。
このような動きのなかで植民地の人々は、各地の代表を集めた「大陸会議」を開催。結束を図ります。1775年から始まった「第二次大陸会議」における議論で、イギリスからの独立を目指すことが決定されました。
これを受けて1776年6月に「独立宣言起草委員会」が設立。トマス・ジェファーソンが起草、ベンジャミン・フランクリンとジョン・アダムズが修正したものが「アメリカ独立宣言」として採択されました。
アメリカ独立戦争のさなかに発表された「アメリカ独立宣言」。独立を正当化するために、いくつかの権利を提唱しました。冒頭には次のように記載されています。
われわれは、以下の事実を自明のことと信じる。すなわち、すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということ。
ちなみにここで述べられている権利は、「平等権」と呼ばれるもの。すべての人が平等な存在であり、平等に扱われることを保障する権利です。「平等権」が神によって等しく充てられたものであるという考え方は「天賦人権論」と呼ばれていて、さらに政府や法律が成立する以前にもともと人間がもっている自由と平等の権利を「自然権」といいます。
これらの考え方はその後、世界各地に大きな影響を与えることとなりました。
「アメリカ独立宣言」は、アメリカに暮らす人々もイギリス本国の人々と平等であるべきなのに、その権利が侵害されていると主張したのです。さらにこう続けました。
そのような政府を捨て去り、自らの将来の安全のために新たな保障の組織を作ることが、人民の権利であり義務である。
人々を圧迫する政府を捨てて新たな組織を作ることも、権利であると主張しているのです。ここで示されている権利は、今日では「革命権」と呼ばれています。
このように「アメリカ独立宣言」は、「天賦人権論」に沿って「平等権」と「革命権」をうたい、さらに革命権を行使する理由として、イギリス国王や本国の問題行動を列挙しています。そして実際に「革命権」を行使し、独立を宣言しているのです。
アメリカの独立を正当化するために発された「アメリカ独立宣言」ですが、その影響はヨーロッパ全域、そして世界へと広がることとなります。
「アメリカ独立戦争」にアメリカが勝利できた大きな要因として、イギリスと対立していたフランスが、アメリカを援助したことが挙げられます。
当時のフランスは「絶対王政」で、強固な身分制社会を形成していました。しかしアメリカを援助したことをきっかけに、「平等権」や「革命権」の考えがフランスにも流入していったのです。
その結果、フランス国内で王政への批判が高まり、1792年の「フランス革命」に繋がることとなります。フランスに流入した人権思想は「ナポレオン戦争」を経て、さらにヨーロッパ各地へと広がっていきました。
こうして「アメリカ独立宣言」の理念が世界中に広がり、日本でも福沢諭吉や植木枝盛(うえきえもり)によって「天賦人権論」などが紹介されるなど、政治思想に大きな影響を与えています。そして今日でも「平等権」は、「基本的人権」の根底をなすものとして重視されているのです。
ここまで述べてきたように、「アメリカ独立宣言」はその後の人権を考えるうえで大きな転機となりました。しかしその一方で、問題点がまったく無かったわけではありません。
「アメリカ独立宣言」には「すべての人間は生まれながらにして平等」であると記されていましたが、当時のアメリカには奴隷制度が存在していました。さらにネイティブ・アメリカンや女性の権利も抑圧。つまり、「アメリカ独立宣言」でうたわれていた権利の対象は、主に白人男性に限定されていたのです。
独立宣言の理念と実態のズレに対し、1960年代の「公民権運動」や「ウーマンリブ運動」など、今日まで格差是正のための運動が続けられています。
これらの運動の出発点といえるのが、エイブラハム・リンカーン大統領の発した「奴隷解放宣言」です。リンカーンは第16代アメリカ大統領を務めた人物で、その功績から歴代アメリカ大統領の人気ランキングでも、常に上位にランクインしています。
大統領在職中は、アメリカ国内で北部と南部の対立が深まっていて、1861年には「南北戦争」が勃発していました。そんななかリンカーンは、1863年1月1日に「奴隷解放宣言」を発布。「南北戦争」の戦争目的として、黒人奴隷の解放を掲げたのです。
「南北戦争」が終結した後、奴隷制は廃止され、多くの黒人が解放されました。その後も黒人への差別が完全になくなったわけではありませんが、リンカーンの発した「奴隷解放宣言」は、「アメリカ独立宣言」の理念を前進させる大きな役割を果たしたといえるでしょう。
アメリカ独立革命
2016年01月29日
本書は1760年代から1780年代までを対象に、「アメリカ独立戦争」にいたる過程を語り、1788年の「アメリカ合衆国憲法」までの流れをまとめた作品です。
本書の特徴として、トピックごとにテーマをまとめ、建国期のアメリカの全体像をわかりやすくまとめている点が挙げられます。共和主義思想がアメリカ独立に与えた影響についても指摘し、近年のアメリカ史研究にも大きな影響を与えました。
背景と影響を流れで理解したい方におすすめの一冊です。
- 著者
- 出版日
- 2016-02-09
コロンブス以後のヨーロッパ人の入植や、アメリカと関わりの深いフランスの動向などにも言及している作品です。何しろ漫画なので、ビジュアルで理解を深められる仕様。巻末には年表や用語解説もついているので、より深く知りたい方でも満足できるでしょう。
時代ごとのさまざまな出来事はもちろん、植民地政策が生み出した負の側面にも焦点を当て、多角的に理解できる一冊でしょう。